tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

途上国が通貨安を恐れるわけ

2013年09月10日 10時43分34秒 | 経済
途上国が通貨安を恐れるわけ
 日本では、アベノミクスで20円の円安になって、日本経済は元気になり、安倍さんの評価が上がったのですが、途上国では、アメリカの出口作戦の結果、投資資金が引揚げられて、自国通貨が安くなることを恐れる声が強いようです。
そのうえ、原油をはじめ、天然資源の国際価格が上がって、ダブルパンチでインフレが高進することを心配するからです。

 もともと、資源が不足すれば、ある程度の資源価格の高騰は経済の正常な現象ですが、それが投機資金の膨張と、経済のマネーゲーム化で価格の振幅が増幅され、正常な範囲を超える高騰になり、輸入国のインフレを大きく押し上げるといったことが現実に起こっています。加えて自国通貨安でインフレになると国民の不満が大きくなるというわけです。

 輸入依存度が大きければ大きいほど、資源価格上昇や自国通貨安による輸入インフレの幅は大きくなります。もともと自家製インフレの傾向が強い状態ですからインフレを恐れることになります。
 経済計算では、輸入インフレは、交易条件の変化で、輸入国の実質GDPが輸出国に移転するという現象ですから、輸入国としては対応策はありません。

 二度のオイルショックの時この議論は日本でも真剣にされたところですが、結局は、原油値上がりでGDPの一部を産油国に献上したのだから、その分国内が貧しくなることは不可避で、対抗策はない、ということになり、労働側も物価上昇分を賃上げで取り返すことを諦め、国民経済の負担は国民全体で甘受するという合意が出来ました。

 しかしこうした合意は、労使の相互理解や信頼が十分でない途上国では容易でなく、「物価上昇分は賃上げで補填せよ」ということになって、輸入インフレは国内インフレ(賃金コストプッシュインフレ)に転嫁され、インフレは昂進し労使関係は勿論、政治体制も不安定になり、政治、経済共に混乱という結果になることが世の常です。

 今、多くの途上国がそれを心配している様子が見受けられます。これもアメリカの超金融緩和、経済のマネーゲーム化、金融工学、といったアメリカが主導した近年の経済政策のあり方の負の側面でしょう。

 今日の日本でも、賃金が上がらず物価が上がるインフレは「悪いインフレ」だから、早く賃上げをしなければいけないなどという学者や政治家がいますが、オイルショックを知らないか、あるいは知っていても経験から何も学ばなかった人たちということになります。

 賃金は要素費用(生産要素に支払われる費用)ですから、生産が増えて(経済成長して)その分け前としての賃金が増加するのが経済の自然です。円安で物価が上がったら、円安を利用して経済成長をプラスにし、その結果賃金が上昇するという形でないと、それこそインフレを作り出すだけの「悪い賃金上昇」になってしまいます。

 アメリカの経済政策があちこちに迷惑をかけているわけですが、こういう時日本が、アメリカには反省を求め、途上国には最も適切な対応策を提案するといった、本当に世界経済の安定に役に立つような行動が出来れば素晴らしいと思います。