tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

賃上げと円高の共通点と相違点:その1

2010年10月09日 13時29分42秒 | 国際経済
賃上げと円高の共通点と相違点:その1
 前回、国際的なコスト水準の比較においては、賃上げをしても円高になっても、結果は同じ事で、ただ、円高のほうが徹底した形になるという事を書きました。
 そのあとの詳しい説明を省いてしまったので、ここできっちり説明しておきたいと思います。

 賃上げの時はどうなるかといいますと、労働組合の要求や、政府の最低賃金に引き上げ方針などで賃金が上がります。
 これは企業にとっては、コストアップですから、企業は何とか対応策を講じて、上がった賃金によるコストアップを防がなければなりません。

 そうした時、企業のやることは大きく2つあります。
 1つは、5S、カイゼン、QC活動、技術革新など始め、あらゆる合理化策を動員して生産性を上げ、人件費コスト増を吸収する努力です。これは「賃上げ吸収策」と言うものです。
 賃金を10パーセント上げても生産性が5パーセント上がれば、賃上げのコスト圧力は半分の5パーセントに減ります。

 もう1つは、製品価格を引き上げることです。しかし、競争相手があることですから、これは簡単ではありません。インフレムードでみんなが賃上げをして、賃上げコストアップで困っていれば、さみだれ式に物価が上がり「 賃金コストプッシュインフレ」になります。みんなが示し合わせて一緒に上げれば、談合、カルテルで捕まります。

 外国の物価が安く、それが入ってくれば、物価引き上げは困難です。前述の残りの5パーセント分の賃金コストアップをカバーしようと思っても、2パーセント分しか物価が上げられなければ、残りのコスト3パーセント分は利益が減ることになります。

 こうして、毎年の賃金の上昇が生産性向上でも、製品価格引き上げでもカバーし切れない状況が続くと、物価は毎年だらだらと上がるので、インフレ傾向ですが、企業利益も毎年減って不況になります。
 これが「 スタグフレーション」で、かつて、1980年代、イギリス病、フランス病、ドイツ病などといわれたものです。

 サッチャー首相は、労働組合対策で、高すぎた賃上げを抑え、サッチャー改革を成功させました。大陸諸国は労働組合が強く(というより行動が合理性を欠き)常にコストアップに呻吟し続けてきましたが、今回思わざる幸運、ギリシャのソブリンリスクによる「ユーロ安」で救われたというのが本音でしょう。
本来は、無理な賃上げはやめて、自主的に経済のバランスを取る努力で解決すべき問題です。為替レートでの解決は安易な逃げ道でしかありません。

 生産性の向上を超える賃上げは必ず「インフレ」か「スタグフレーション」(グローバル化の中で競争相手国がいるとき)をもたらすことになります。グローバル経済の中では、それぞれの国の「賃金水準と、生産性水準のバランス」が国際経済関係の太宗を決することになります。

 無理な賃上げで、経済運営に失敗し、国際競争力が失われるといった問題の責任は、それぞれの国の労使(あるいは政府)にあるわけで、本来は自国の努力で是正すべき問題です。
 競争力の強い国の通貨を切り上げさせて、問題を解決しようとするのは、自らの失敗の責任を他人に転嫁して済まそうとする、大変にずるい方法です。

 次回はこうした視点で、今の中国のケースを見てみましょう。