tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

生産性、付加価値分配、雇用

2009年08月30日 16時20分48秒 | 社会
生産性、付加価値分配、雇用
 三題噺のようですが、この3つのバランスがひとつの問題、雇用の安定と個人個人の生活へのアプローチになると考えています。

 第一の生産性ですが、ここでは先ず実質労働生産性を指します。1人の人間が働いて、どれだけの生産物あるいは実質付加価値(通常の場合、従業員1人当たり鉄鋼何トン、自動車何台、輸送何キロトンなどで、値上がり分は含まない)を生み出すかです。世の中には労働生産性が「どんどん上がる部門」と「ほとんど上がらない部門」があります。ただし、全体の平均の生産性が上がれば、その分だけ、人びとの生活水準は上がることが可能になります。

 例えば、製造業とか運輸業 などは、新鋭の設備を入れたりすれば、生産性はどんどん上がります。しかし、介護の仕事などは、なかなか生産性は上がりません。
 ですから、実質生産性の上昇によって賃金が上がると考えれば、製造業の賃金はどんどん上がって、介護の賃金はいつまでたっても上がらないことになります。

 第二の付加価値配分ですが、鉄鋼や自動車は「売れてなんぼ」ですから、配分されるときは売れて得られた金額、(名目)付加価値生産性が基準になります。
 介護や家庭教師などの対個人サービスの多くは、実質生産性は上がりませんが、料金値上がりで、名目生産性は上がりますから、現実には所得が増えます。これは価格機構の働きで、生産性の上がったところから生産性の上がらないところに付加価値配分が移転することです。

 第三の雇用については、こうした価格機構の働きで、生産性の上がる部門と上がらない部門があっても同じような仕事なら同じような賃金が支払われ、生産性上昇の違うそれぞれの部門でもそれぞれに雇用が維持されるということになります。

 価格機構が十分うまく働けば、こうした三者の関係はうまくバランスするのですが、マーケットは必ずしもうまく働かない(談合、カルテル、為替政策、投機などで)こともあります。それなら介護料金のように政府が決めればといっても、これも必ずしもうまくいっていません。

 世の中をよくしようと、一方では自由経済のメカニズム重視、価格機構、市場原理の重要性をいう意見があり、もう一方では、市場の欠陥を指摘し、政府の手による福祉政策を重視する意見があります。その両方を適切に生かすのであれば、その両者をバランスさせる何らかの「ベース」が必要です。
 アダムスミスもレッセフェールと同時に、道徳情操論を書いていますが、日本人は日本人なりの 伝統的なバランス感覚の文化(和の精神、全体と自分のバランスを考える精神構造)を持っていました。
 
 最後の決め手は人間自身です。生産と生活の両面を担う一人ひとりの人間が、他人任せ出なく、常に個々人としても主体的に全体とのバランス (大きくは、人間社会、地球環境との調和)を考えて行動するような、「生活者としての基本的な精神構造」があって、はじめてそうした機能や政策が生きてくるのではないでしょうか。