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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

不思議な国の同一労働同一賃金

2018年01月29日 13時04分35秒 | 労働
不思議な国の同一労働同一賃金
 外国から見れば、日本は不思議な国のようです。どこの家にも神棚と仏壇があったり、国を挙げて侵略戦争をしたかと思ったら、平和主義になったり、オイルショックで一番困るかと思ったらジャパンアズナンバーワンになったり、ところがその直後から20年以上も不況が続きジャパンシンドロームと言われたり、世界一の個人貯蓄を持ちながら、政府は世界一の借金政府だったり、どの国でも大問題の若年失業率は世界も驚く低さだったり・・・。

 世界では当たり前の同一労働同一賃金が、改めて政策目標になり、今国会で成立させようと安倍政権が頑張るという景色も、欧米から見れば不思議でしょう。
 マーケットが適切に機能するようにすれば自然と同一労働同一賃金になるはずなのに日本ではそうなりません。

 その日本で、法律で同一労働同一賃金をやろうというのですから、これは大変でしょう。もともと出来ないようになっているのです。
 ということで、今回の法律で、先ず諦めたのが、正社員の中では、同一労働同一賃金でなくても構わないという点です。正社員間では触れないことにしたようです。

 結果的に、同一労働同一賃金は、「正社員と非正社員」の間だけの問題になりました。
 同じ職場で正社員と非正社員が同じ仕事をしていたら均等待遇にしましょう。同じような仕事をしていたら均衡待遇にしましょう、という事だそうです。
 同じ職場というのは、事業場ではなく同じ企業という事だそうです。

 現実には、正社員は、新卒一括採用で入るのが一般的で(もちろん中途採用もかなりありますが)、仕事は何をするか決まっていない採用(人材採用)です。入社後、仕事は社内異動で変わりますが、賃金は職能資格制度などで仕事の内容とは別で(属人給)、毎年の定期昇給や考課査定で決まります。

 一方、非正規社員は、「これこれの仕事をする方求めます」という求人広告に応募し採用になります。もともと職務給で、賃金水準は地域のマーケットで決まっています。

 ところが、偶々採用された会社が賃金の高い会社で、同じような仕事の正社員の賃金が高いと、多分その高い賃金に合わせないといけない事になるのでしょう。逆に低い賃金の会社に入ると、同じ仕事をしていても、地域の相場のままという事でしょうか。
 同じ非正社員でも、入った会社の賃金水準によって、賃金は変わってきます。

 正社員の賃金は、マーケットではなく、その企業の賃金制度で決まりますから、企業ごとに格差があります。多分、非正社員の賃金も、企業間の格差に合わせて格差が生まれるのでしょう。これは同一労働同一賃金ではなくて、非正社員にも企業別の賃金格差を認めるという仕組みです。

 これから、国会でもいろいろな議論があって、最後にどう纏まるのか解りませんが、外国から見ると、また不思議な国の要素が一つ増えるのではないでしょうか。
 賃金の決定方法や、その結果生じる格差をより合理的なものにするというのであれば、もっと違った合理的な方法があるように思うのですが。

2018春闘:冷静な労使の対応

2018年01月26日 15時16分21秒 | 労働
2018春闘:冷静な労使の対応
 昨日アメリカの通貨政策について微妙に変化と書きましたが、トランプ大統領は、ムニューシン発言に対し、即座にコメントを入れ、アメリカは「長期的にはドル高」を目指すと念を押してきました。

 それは結構ですが、この発言にしても、年3回の金利引き上げを前提にすれば、ドルの独歩高の可能性は経済原則でしょうから、本音は、なるべくドル高は回避という事なのでしょう。

 日本の政府経済見通しは、2018年度の円レートは、$1=¥112.6と、この3年来僅かな円安傾向を想定していますが、これも、アメリカの金利政策を読んでの事でしょう。
 アメリカは本音は、金利引き上げをしても、ドル高は最低限にとどめたいと考えているでしょうから、予断は許しません。

 アメリカのドル政策は当然当面する日本の2018春闘にも影響していきます。今春闘では政府がインフレ2%、名目成長3%を目指して(インフレで名目成長率が高い方が財政再建がやり易い)賃上げに減税の特典まで付けて介入してきていますが、春闘の当事者である労使の対応は、(双方の解説を聞く機会がありましたが)より冷静のようです。

 経営側・経団連の対応は、国際情勢も含めて見通しには慎重で、昨年より高い総額人件費の上昇を検討するにしても、当該企業の判断を重視し、賞与の増額、非正規従業員の正規化も含め、多様な方法を考慮すべきというのが指向するところのようです。
 一方、いわゆる非正規問題についても今年は特に積極的な改善策が提唱されています。

 労働側の連合の方は、ベア2%定昇2%相当という事で、4%程度を要求として掲げています。しかし同時に特筆すべきは、格差の縮小に例年より重点を置き、例年のサプライチェーン全体に均等な配分という言葉に「バリューチェーン」と書き加え、付加価値の均等は配分、それによる賃金の低い部門の底上げを強調しています。
 非正規問題については春闘の「ど真ん中に置く」と重視の姿勢です。

 こうした問題は本来、政府が政策の中心に置くべき問題で、これこそが日本の労組が労働サイドだけではなく、日本経済社会全体のバランスの良い成長を考えて行動するという外国労組にはない特徴を色濃く打ち出していという特徴点でしょう。

 順調にいけば、今年は、消費需要も少しは動き、安定成長路線に一歩前進することが十分期待できる環境でしょう。企業・消費者の「円高・景気失速」といった不安は、アメリカの不安定もあり、民間の手ではどうにも払拭できないところですが、これに対する政府の対策は、「日銀の異次元緩和の継続」しかありません。結果オーライを祈る所です。

 それでも恐らく今春闘では、昨年以上の賃上げになるのではないでしょうか。安倍総理はアベノミクスの成果と胸を張るでしょう。しかし、安倍総理が何も言わなくても、同様の結果が多分出るのでしょう。
 
 日本の労使ほど、賃金、物価、経済、雇用などに共通の理解をもっている労使関係は他には見られません。
政府は自分の都合で春闘に介入するのではなく、労使を信頼して任せ、安心していてもいいと思うのですが。

度が過ぎる総理の春闘介入

2018年01月23日 11時47分57秒 | 労働
度が過ぎる総理の春闘介入
 通常国会が開幕し、安倍首相の施政方針演説がありました。
 決める政治を標榜する安倍総理ですが、どうも安倍さんの決めたいことと、日本が今やらなければならない事とは、必ずしも一致しないようで、このまま決める政治に無理をしていくと、昨年と同じように、またいろいろと困った問題が起きる可能性があるような気がして心配です。

 財政問題、防衛問題、憲法問題、いろいろあるようですが、このブログでずっと気にしているのは産業社会における人間に関わるの問題です。
 特にヒトとカネの問題の接点、企業では賃金問題ですが、そうした問題には素人の安倍総理が、ここまで春闘に介入していいものか、その辺りの認識のないままに、突き進んでいるように感じます。

 当面の話題の中心は、春闘賃上げ率ですが、早くから3%賃上げに固執し、経団連も3%という数字を「経労委報告」に書かなければならなくなったようです。

 安倍さんは、賃上げ率を高めれば、消費が増えて日本経済は良くなると信じているようですが、これまで毎年「賃上げ、賃上げ」と言っても効果がなかった理由を考えてみますと、種々の認識不足に原因があるようです。

 第一の認識不足は、賃金決定は労使の専管事項で、政府はあくまでも第三者でしかないことです。決める政治とっても安倍さんには決める権限はないのです。はっきり言えば、労使が迷惑がるだけです。

 第二の認識不足は、今の消費不振の最大の原因は、賃上げが少ないことではなく、消費性向が下がっていることの理解が不足していることです。そして、消費性向の低下の原因は将来不安、国民がこの国の将来、その中での自分の生活がどうなるに不安を持っているからです。
 こちらの改善は政府の責任です。しかし昨年からの国会の論議を見ても、国民が「こんな政府に将来を任せてもいいのかな」「税金は正しく使ってくれるのかな?」と感じることが多すぎます。

 第三の認識不足は、3%賃上げした企業には税金を負けるといった場合、3%の計算はどのようにするのかという点です。税金を使うのですから、不公平は許されないでしょう。何が3%増えたら対象になるのか、専門家でもその点は多分回答不能でしょう。

 さらに言えば、3%出せるのは一部の高収益企業でしょうから(トヨタが3%出してくれればいいそうですが)、賃上げの補助金は高収益企業に行くことになります。高収益企業は補助金が無くても自分で出すでしょう。

(その他、同一労働・同一賃金、成果給指向、賃上げとインフレの関係など、認識不足の問題はいろいろありますがここでは触れません)

 政府の仕事の本質である、国民の将来不安の解消には手つかずだったり、先送りだったり、トランプさんとともに、国民の不安を煽るようなことをやったり、今回の施政方針演説でも、よく考えれば、国民にとって不安なことが沢山あります。

 最後に一言付け加えれば、森友や加計の問題のように、国民の過半に疑惑を持たせるような、忖度行動も含めた政府不信の問題があります。
 3%賃上げ推奨ではなく国民の不安と不信を出来るだけ少なくすることが何よりも優先されなければならないのではないでしょうか。

人間と資本の関係:人間の分け前、資本の分け前

2018年01月17日 13時08分28秒 | 労働
人間と資本の関係:人間の分け前、資本の分け前
 昨日、日本経団連が2018春闘政策を盛った「経労委報告」を出しました。マスコミによれば、目玉は、安倍総理の意向を忖度した「賃上げ3%の提言」のようです。
私もどこかのセミナーで、説明を聞いてこようと思っていますが、これは賃金という労働者の分け前を3%増やすべきだという事で、労働者の分け前を増やせば、その分資本の分け前(利益)は減りますから、これは労働と資本の分け前に関わる提言です。

 労組の2%ベア要求、経団連の3%賃上げ要請という問題については、過日「 経団連会長3%賃上げを呼びかけ」で触れましたが、また改めて、労使の話を聞いてから取り上げます。

 今回は人間と資本の関係の本質論ですから、本論に帰りますが、「労働と資本の分け前(賃金と利益の分け方)」という場合、基本は「何を分けるのか」です。
 ここを確りしておかないといけません。分ける対象は「付加価値」(このブログの主要テーマ)です。 付加価値は、国で言えば「GDP-減価償却費=国民所得 」です。これは雇用者報酬と営業余剰、つまり賃金と利益に分けられています。

 最近、賃金は上がらなくて、企業の利益への分配が多く、企業の内部留保が増えている、労働分配率が低下しているといわれますが、労働分配率というのは付加価値に占める労働への分配の割合です。

 実は経済問題の大半はこの労働分配率の在り方に関わるものです。資本への分配が多すぎるという事から共産主義思想が生まれました。労働への分配が多すぎると1980年代の欧米の様に、インフレから スタグフレーション になって、経済成長が止まります。

 では誰が配分を決めるのかというと、身近なところで、経営者(と労働組合の交渉)が決めるのです。
 今の日本では決め方が巧くないという理由で、安倍総理が「3%賃上げしなさい」などと分配の是正(イレギュラー発言)を言っています。

 労・使・政府と役割分担で分業しているので、どうしても自分達の都合のいいように決めたがることが多いのですが、全部一人でやる場合は、1人で両方考えなければなりません。
 例えば、米を10俵収穫して、何俵まで食べて(賃金相当)、あと何俵は来年の種籾などにするか(利益相当)、を一人で決めなければなりません。

 食べない分は、種籾、土壌改良、農機具の購入などの資金に充てる分ですから「利益、貯蓄、投資など」つまり来年以降のより良い収穫のための配分、つまり「より良い将来」への配分を全部自分で決めるわけです。
 役割分担が無ければこうして自分で考えて納得がいくように分け前を決めますが、役割分担の世界では、往々「配分闘争、分捕り合戦」という事になってしまいます。

 J.バーナムの「 経営者革命」、P.ドラッカーの経営学の教科書などでは、経営者が「役割分担」を超えて、適正な分け前を合理的に決める機能を果たすべきだという思想に立っていると考えますが、欧米の経営スタイルは「経営者は資本の代弁者だ」という考え方が強いようです。

 翻って、日本の場合を考えますと、経営者も適正な配分を指向し、 労働組合も経済・経営に整合した配分指向を持ち 、世界に稀な労使関係、付加価値配分理論を確立してきています。
 
 近年経営者側には、長年の不況のせいで、過度に防衛的・保守的になっている様子が見られますが、労働側の極めて冷静、合理的な対応が目立っています。
 経済・経営を運営するのは人間です。人間として知恵と力を合わせて、「役割分担を超え」より良い将来のための配分を考えるというのが本来の在り方でしょう。

2018春闘、奇妙な展開になりそうですが?

2017年12月22日 15時09分37秒 | 労働
2018春闘、奇妙な展開になりそうですが?
 マスコミによれば、経団連が2018春闘で、参加企業に3%賃上げを呼びかけるという事のようです。
 経団連の「経労委報告」は、1月になって出されるのが通例ですから、マスコミ報道はスクープなのか、それとも経団連が意図的に漏らしたものかわかりませんが、政府の「賃上げした企業には法人税を負ける」という発言と、平仄があっているので、「フェイク」ではないかななどと納得しています。

 政府が春闘に介入するのも異常ですが、経営サイドが賃上げのガイドラインを数字で示すというのは、日本でも滅多にないことで、昭和50年春闘で、当時の日経連が15%以下という数字を示して以来2回目です。

その時は、第一次オイルショック(昭和48年秋)のあとゼロ成長だった昭和49年春闘で32.6%の賃上げが行われ、日本経済が年率22%にインフレになり、一部にパニック状態が起きた時で、インフレ抑制が目的でした。

 今回は日本経済はほぼ順調で、しかし、消費不振が経済成長の足枷になっており、政府の掲げたインフレ目標の2%まで物価を上げるために、先ず賃上げ率を高めようという事のようです。

 一方、労働側の連合は「ベースアップ2%」という要求で、数字だけ並べれば、組合に要求が低く、経営者側の回答方針の方が高いという、逆立ち賃金交渉になっています。
 連合に言わせれば、ベースアップは2%だが、定期昇給2%相当があるので合計4%という事で、しかし定期昇給はすでに賃金制度・賃金協約などで決まっているものですから、要求はしないという事でしょう。

 政府はこの辺りの細かいことは多分解っていないので、毎年発表になる「春闘賃上げ率」(ベースアップ+定昇)を3パーセントに引き上げて、インフレ・ターゲットに繋げたいという事でしょうが、「なぜ」ターゲットが2%なのかこれは誰も知りません。

 2%ターゲット決めた経緯から言えば、アメリカのFRBがゼロ金利政策をとる際2%と決めたのをそのまま借用、という事のようですが、インフレ率とか失業率というのは、国によって正常とする水準が違うのが普通です。日本やドイツなどはインフレ率が低い国、アメリカやイタリア、フランスなどは高くなりやすい国というのが常識です。

 マスコミに出る専門家が、「インフレ率2%は国際標準」などと言っていますが、どこの経済学にも、そんなものはありません。
 失業率ならば、アメリカは5%台なら完全雇用状態、日本では2%台で完全雇用常態というのが常識でしょう。

 問題はいろいろありますが、一番解らないのは、3%賃上げをした企業に税金を負けるとした場合の3%とは何かという問題です。

 経団連の3%の背後には、安倍さんの3%賃上げがあるのでしょうが、政府からすれば、経済成長促進のために賃上げを奨励しているのでしょう。ならば、企業の払う人件費が増えなければ効果がありません。
 残業代が減ったから3%賃上げしました。賃金の高い高齢者の退職が多かったので3%賃上げの原資が出ました。人減らしをして3%賃上げしましたでは効果はありまあせん。
 逆に、賃上げは3%に届きませんでしたが、採用を増やしたので人件費は5%増えましたといった場合は、経済成長には貢献大でしょう。

 賃上げした企業には税金を負けるというのでしたら、賃上げに税金の補助金を出すという事ですから、誰もが納得する基準が必要でしょう。
 多分、各産業・各社各様の労使交渉に、政府が介入するからこうしたことになるのでしょう。

 賃金決定は労使の専管事項というのが「国際標準」と言えば、多分異議はないはずです。と言う事で政府は労交渉などに介入しないというのが、世界の常識なのではないでしょうか。 政府の仕事は別にあるように思います。

金属労協議長、脱官製春闘を主張

2017年12月07日 11時24分13秒 | 労働
金属労協議長、脱官製春闘を主張
 金属労協議長の高倉氏(日産労組出身)は6日の記者会見で5年目に入ろうとしているいわゆる「官製春闘」に疑義を呈したことが報道されました。

 金属労協はゼンセンUAなどとともに、連合の中核組織ですが、国際金属労連の日本委員会として日本の金属労働者を糾合した、国際的かつ先進的な自由で民主的な労働組合組織として出発した経緯もあり、歴史的にも、日本の組合運動を主導してきた組織です。

 かつては、オイルショックで一時は日本経済がパニック状態となり、ゼロ成長の中で、32パーセントもの賃上げが行われ、労使が真剣に日本経済の先行きを危ぶんだ中で、宮田義二議長の下「経済整合性理論」を展開、当時の日経連とともに、日本経済の正常化に大きな役割を果たしたことは、知る人ぞ知る輝ける歴史です。

 その意味では、一部からはおとなし過ぎる等と言われる連合の中で、脱官製春闘の主張の皮切り役を果たすのは、けだし当然かもしれません。

 高倉議長は「政府は賃上げが出来るような中・長期的な政策を打ち出すのが本来の役割」と政府の役割を明確にし、最近マスコミでも頻繁に取り上げられている「賃上げをした企業に減税を」などと言う手法については「アメとムチの短期的施策」と断じたとのことです。

 このブログでは繰り返し取り上げていますが、近年の連合の春闘に対する姿勢は経済整合性から見ても、また、近年大きな課題になっている格差社会化の阻止・是正の面から見ても、極めて理にかない、かつ、次第に実績を上げてきているものです。

 連合白書では、例年サプライチェーンの全体に、バランスの取れた付加価値の成果配分をすべきだと主張して、下請け企業との公正な取引といった、経営の問題にまで具体的に踏み込んで、提言をし、活動を展開しています。
 そして、昨年の春闘では、中小の賃上げ率の向上、非正規労働者の賃金上昇率などを確認できたことを成果として表明していることはご承知の通りです。

 一方政府の方は、恐らく、当面の経済成長率が少しでも高まり、消費者物価上昇率も上がればいいという事でしょうか、高めの賃上げを奨励、高めの賃上げをした企業には、税金をまけるという形の補助金を出すといった政策ですから、賃上げのできないような企業には恩恵がありません。

 賃上げを多くしたかどうかの基準を公正に決めるなどは本当に確りやろうとすれば至難の技で、まさに場当たり的な人気取り、賃上げが出来る企業が有利という、格差拡大に貢献する、ごく近視眼的な政策と言わざるを得ません。何か「志」に違いがあるような気がします。

 高倉議長の発言ではありませんが、政府は中・長期的な政策、例えば、賃上げが出来ないような企業を出来るだけ減らしていくような、企業も、従業員も、国民も、みんなが喜べるような、格差社会化を是正しつつ、一応総活躍が、一億総ハッピーにつながるような基本構想に実現のための本格的な政策を考えて頂きたいと、このブログからもお願いするところです。

労使関係の現場力の強化が必要では

2017年12月04日 14時52分10秒 | 労働
労使関係の現場力の強化が必要では
 今年も師走に入ってしまいました。 あれあれと言っているうちに大晦日になりそうです。
 労使関係の場から見れば、労使ともに、2018春闘への政策のまとめの最終段階で、大変な時期でしょう。

 政府はすでに3%賃上げをと言って2018春闘でも主導権を取りたいようです。すでに、10月ベア2%を打ち出した連合は、定期昇給分と合わせ、計4%程度を要求するという説明もしているようです。

 政府の3%の計算の中身は解りませんが、定期昇給というのは企業の賃金体系の中で本来決まっているものですから、賃金体系を変更しない限り、すでに約束されているものでしょう。連合はいつもながら、現実を見極めた真面目な(真面目過ぎる?)要求態度です。

 賃上げについての労使の真剣な論議は来春に期待するところですが、この何年か気になっているのは、労使関係における現場力の低下(?)の問題です。
 これは労使共にみられるようで、労働組合でも、ストの打ち方が解らないなどという話もありました。経営側でも、何が不当労働行為になるのか知らない経営者や労務担当者が結構いたりするようです。

 ストなど不要な労使関係はある意味では理想でしょうが、不当労働行為はいけません。
 最近は、長期間労働の問題で、36協定も良くマスコミに登場するので、知られてきましたが、36協定を知らいない労使の担当者が結構多いなどという調査も出たりしました。

 矢張り労働三法は、労使関係をより良いものにするためにあるわけですから、経営者、管理者をはじめ、労使関係の担当者は、先ずはその基本的精神をしっかりと理解すべきではないでしょうか。

 労働法制も最近は「働き方改革」などで、目まぐるしく変わるようで、追いつくのも大変かもしれませんが、法律は最低限を規定するものですから、本当に大事なのは、現場の労使関係を、労使双方が喜べるような良いものにすることでしょうか。

 労働組合のサイドでいえば、労働組合活動を通じて、企業をより良いものにするという視点も重要でしょう。労働組合の委員や役員になることによって、事業所や企業のトップの人たちと、直接経営の核心に触れるような議論が出来るというのは、ある意味では素晴らしいことでしょう。

 労使交渉では、直接労使の利害に関わる問題が中心になることが多いかもしれませんが、かつてその成果を誇った「労使懇談会」とか「労使協議会」といった、広範な問題を議題にした労使協議の場は、労使双方の、労使関係の現場力の成長、労使の信頼関係の形成に大きく貢献したと言えるのではないでしょうか。

 労使関係がオープンで、労使間の風通しの良い企業では、不祥事などは起こり得ないなどと言われたこともありましたが、草の根からの健全な労使関係を改めて見直すことも必要な時期ではないかと考えるところです。

金融機関の整理統合と人員削減

2017年11月13日 23時22分22秒 | 労働
金融機関の整理統合と人員削減
 史上最高水準と言われる有効求人倍率が続く中で、金融機関の整理統合、雇用人員削減のニュースがマスコミに取り上げられています。

 嘗ては、銀行の数も多く、都市のメインストリートの四つ角の三方は銀行が当たり前、などと言われた時代もありました。
 しかし、今ではメガバンクは3行に集約され、地方銀行、中小金融機関も統合再編の真っ最中です。

 そうした中で、メガバンクの人員削減計画のニュースが飛び込んできました。
 さきに三菱UFJが10年ほどかけて1万人の削減と報道されましたが、今度はみずほも数年かけて1.9万人削減と報道されています。

 ゼロ・マイナス金利、の長期化で、銀行の収益は逓減傾向にあり、銀行だけが、デフレの後遺症から抜けられないような状態(「 デフレ3悪」参照)が続く中で、銀行としても苦渋の決断でしょう。

 しかし、問題は金利だけではないようです。金融は益々ネットの世界の仕事になり、金利に代わる収入源の手数料収入も減ることが確実視されています。まさにネットが人間に代わって仕事をこなすフィンテックの時代に入りつつあるのです。

 前書きが長くなりましたが、ここで論じようとしたのは「雇用問題」です。
 こうした産業構造の変化による雇用問題は、かつてもありました、典型的なのは「石炭から石油へ」の転換の時でした。

 産炭地の急激な衰退、炭鉱労働者の離職、この問題対応のため政府は雇用促進事業団を作り雇用の安定、労働移動のための雇用促進住宅を始め多様な対策をしています。
 当時は日本経済の高度成長期だったことが幸いし、「炭鉱からガソリンスタンドへ来たけれど、こちらの方が仕事は楽でいい」などと言う話もあったようです。

 雇用促進事業団の活動は今も雇用保険2事業として残っていますし、同時にその後労使の発案により「失業無き労働移動」を目的に「産業雇用安定センター」も設立され活動しています。

 金融機関は従来から取引先企業との関連が密で、そうしてところへの人材供給が多くみられますし、今回の人員削減も、メガバンクでは、退職者不補充などで、直接の人員削減しない方針とのことです。今は高度成長期ではありませんが、幸運なことに、人手不足の時期です。

 金融機関の自助能力に加えて、こうした政府、労使の用意した「失業なき労働移動を促進する機関」との協力も加え、もともと優れた人材を集めている金融機関です、日本の雇用配置のより高度化に役立つような、人材供給に巧くつなげていってほしいものだと思うところです。

労働時間短縮、浮いた残業代の行く方は?

2017年11月02日 10時26分58秒 | 労働
労働時間短縮、浮いた残業代の行く方は?
 政府の働き方改革の2つの目玉「労働時間短縮」と「同一労働・同一賃金」について、このブログでは労働時間短縮大賛成、同一労働・同一賃金は日本企業・社会では出来ないと述べてきています。

 今回は労働時間短縮の問題です。この問題は当然、残業時間の削減が大きな課題になるわけですが、最近話題になっているのが、「成果が上がって、残業時間が減れば、企業としてはその分残業代のコストが浮く。さてそれをどうする」という問題です。
 サラーリーマン社会では「残業代が減ったら、生活どうする」という話も昔から言われていました。

 素早い企業では、すでに、残業代削減分は賃金に上乗せするといった解決策を打ち出しているところもあるようですが、これは大変結構な話です。

 残業減には色々な効果があります。まずは、従業員個人の自由時間が拡大することで、これが個人の人生・生き方にとっては最大の意義でしょう。

 企業社会から見れば、当然、経済的意義が問われるわけですが、
ケース1:従業員の意識が変わって、時間内に仕事を片付ける努力をすることになり、職場が引き締まった。
ケース2:仕事の量は変わらないので、納期が遅れたり、員数を増やさなければならなくなった。
ケース3:サービス残業が多かったので、残業が減ってもコストは変わらない。
などなどいろいろでしょう。

 ケース3は論外ですが、多くの企業では、ケース1とケース2が混在するという事になるのではないでしょうか。

 これを生産性の見地から見てみれば、ケース1は、従業員の意識が変わって、労働時間短縮分だけ生産性が上がったという事です。以前私の働いていた職場で、仲間達が作った「いろは歌留多」の中に、「う:うすのろの残業」というのがありましたが、古き良き時代の話です。

 ケース2は、生産性の上がりにくい職場でしょう。機械のスピードに関わる仕事、対個人の仕事(販売、サービスなど)、相手のペースに合わせなければならない仕事、などなどです。それでも生産性向上の余地は必ずあります。

 日本企業はこうしたもろもろの条件に合わせて、それなりの生産性向上の活動をしてきました。労働生産性と言えば「1人当たりの生産額(量)」ですが、厳密には、1人時間当たり」という事でしょう。

 伝統的に「5S」「「QCサークル」「カイゼン」「TQM」などなど、「7つ道具」や「動線管理」「職場レイアウト」「職務管理(仕事の与え方、こなし方)」・・・といったいろいろなものを使って、きめ細かい生産性向上努力を積み上げてきました。

 成功した企業、あまり成功できなかった企業、いろいろあったでしょう。どちらにしてもそれは「個々人の意識」「職場の在り方」「企業の経営姿勢」などによって決まるようです。

 畢竟、労働時間短縮は「生産性向上」によってはじめて可能になるのです。
 多くの職場が存在する企業において、労働時間短縮の目標のもとに生産性が上がり、残業時間が削減されたら、それは生産性向上の成果として、従業員に配分されてしかるべきものでしょう。
 そして、配分の仕方は、それぞれの企業で、労使が十分話し合って、納得のいくものにすることが大変重要です。

2018春闘も政府主導?

2017年10月27日 14時22分01秒 | 労働
2018春闘も政府主導?
 先週、連合が中央執行委員会で 2018春闘の要求を2%と決めたことは書きましたが、また今年のそれを追いかけるように、政府が3%の賃上げを目指すべきだと言いだしています。

 安倍さんは、これからは「謙虚に」などといっていますが、政府が賃上げに介入するのは謙虚どころか、まさに 「越境発言」です。
 本来、賃金問題は労使の専権事項で、歴史的に見ても、アメリカで嘗てケネディ大統領が鉄鋼労組の無理な賃上げ要求に対し、経済安定のために介入し、世界中で話題になった例ぐらいしかありません。

 賃金を上げろというのだから「みんな喜ぶだろう」と思っての発言なのでしょうが、それなら、勝手に言うのではなくて、政労使の懇談会などを作って、当事者の意見を十分聞き、その上で意見が一致するようにお膳立てをするのが政府の役割でしょう。

 そもそも賃金引き上げが可能になる条件は何かといえば、生産性の上昇です。それも、為替レートの安定を必要条件として、生産性上昇によって産業企業で増えた付加価値(その合計が経済成長)を、それぞれの企業の労使が、分け合った結果が賃上げなのです。

 付加価値は労使が交渉して、賃金と利益に分けるのですが、それを賃金の上げ方だけを政府が勝手に発言するのですから、全く理屈も常識も通らない行動です。

 政府にしてみれば、このところ、見ていると利益の方が増え過ぎているから、もっと賃金を上げろと言ってもいいだろうという事なのでしょうが、それなら去年の様に利益が下がった時は賃金をあまり上げるなというのかと思うとそうではありません。

 多分、賃金を上げれば消費が増えて、景気が良くなるし、物価上昇も2%になるだろうという思惑の結果の発言でしょう。
 しかし、この所の日本経済を見ても、賃上げで消費が増えた形跡はありませんし( 平均消費性向は下がっています)、 物価が2%も上がったら年金生活者も、サラリーマン家庭も困るでしょう。

 今の経済情勢(世界も日本も)を見ていきますと、消費不振の原因は別の所にあるようです。お金があっても、賃金が上がっても、消費者が消費を控えて、貯蓄を増やす原因を、政府は解っていないのでしょうか。

 消費不振の最大の原因は、将来不安でしょう。結婚して子育て不安、年金生活者の年金実質目減り不安、 ゼロ金利で貯蓄が全く増えない現実。その背後には、日本の格差社会化があります。格差社会化は歴史的に見ても消費不振につながっています。

 こうした原因に、国民が納得するような根本政策がなく(今度発表するそうですが、結果は今迄の繰返しでしょう)、その時々の人気取りのパッチワークばかりが目立ちます。

 政府のやるべきことは、こうした日本経済の構造問題を、国民に分かるように「丁寧」に説明して、例え今日苦い薬を飲んでも、明日は日本経済が一層の健康体になるというような本格的な処方箋を、書くことでしょう。

 まあ、政府が出来なくても、今迄の実績を見れば、労使が真面目な努力で、日本経済を健全な方向に育てて来ています。
 政府は自分のやるべきことが出来ないのなら、余計な世話など焼かない方が、民間経済は健全な方向に動くような気がしています。

長時間労働是正に必要なこと2つ

2017年10月21日 23時08分36秒 | 労働
長時間労働是正に必要なこと2つ 
 連合も、来年度春闘方針で「長時間労働の是正」を、賃上げと共に二大テーマに上げています。長時間労働の是正は経営側も政府も言っています。
 もう何年もこうしたことをやってきていますが、現実はなかなか進みません。

 かねてから私は大きな理由が2つあるように感じています。私のサラリーマン経験(労働組合活動も含め)から振り返れば、政府や労組・会社のトップが言っても進まない原因は「現場」にあるという事でしょう。

 現場というのは、上司と部下(複数)が、如何に仕事をこなすかを課題に「人間関係」で動いています。長時間労働の原因は大抵ここにあります。
 日本人は子供のころから「働くことは良いこと」「働かないのは良くないこと」と教わっています。

 ですから、よく働く人だということを上司や仲間に理解してもらう事で、現場の人間集団の信頼関係を築こうとします。結果はともあれ、一生懸命やったという事が評価される雰囲気はどこにもあります。
 実はこれが長時間労働を是とする基本的な原因でしょう。

 ということになると、先ず一つ大きな問題は、仕事を「こなす」ことについての「新しい、別の概念」を確立する必要があります。それは「効率」という概念でしょう。これは単位時間当たりの生産性で、長時間労働とは逆の概念です。

 最近流行りの言葉で言えば、カタカナになりますが「スマート」という概念といったほうが受けるでしょうか。
 使い始めはスマートグリッド(多様な電源と多様な電力消費者を巧くつなぐ回路)あたりでしょうか、今ではスマートフォン(スマホ)、スマートハウス、スマートシティ、スマートキッチン、スマートドア、などなど、カッコ良くて使い勝手がよく、誰もが使いたくなるようなものは皆「スマート」がついているようです。

 つまり、スマートな働き方、という概念を、働く人一人一人が、従来の「真面目に一生懸命」と同様に重視するという職場の雰囲気を作ることです。
 という事で両方を合体すれば、「スマートな働き方を真面目に一生懸命追求するのが良い働き方」という事にしなければ、長時間労働問題は解決しないという事です。

 次にもう1つ大きな問題は、現場では主任、係長、班長、課長代理、課長といった管理監督職が労働時間管理のカギを握っています。
 部下への仕事の与え方、任せ方、指導の仕方で現場の労働時間は大きく変わります。何回でもやり直させ「これもOJTだ」と言っていては、長時間労働問題は解決しません。

 管理監督職が、スマートな指導をせずに、余計な仕事を部下にさせ、長時間労働を作り出していることもよく見られます。部下は通常、それに反論できません。
 管理監督者は、スマートグリッドのような思考回路を持って、仕事の采配をしなければならないのです。
 これには、スマートな管理監督法を管理監督者に十分訓練しなければならないでしょう。

 つまりは、長時間労働は働く人たちの意識改革がなければできないという事でしょう。「法律で結婚を幸せにすることはできない」といいますが、労働時間短縮も似たようなものではないでしょうか。

 こうした職場、現場の意識改革を具体的に促進する手段もあります。それは、日本の工場などでかつてからやってきたQC、TQMといった小グループ活動を上手に使う事です。 
 上手に使うカギは、現場の管理監督者の態度にあります。「このほうがよりスマート」、つまり効率的であるという事を素直に認め、受け入れるマネジメント能力です。

 長期不況で忘れられたこうした職場の活動をうまくやれるような管理監督者を、早く大量に育てる事がまずは必要なようです。

18年春闘、連合はベア2%要求へ

2017年10月20日 14時28分10秒 | 労働
18年春闘、連合はベア2%要求へ
 連合は、10月19日の中央執行委員会で、来春の18年春闘で2%のベースアップ要求を決めました。

 通常、企業では平均2%近い定期昇給があります。今春の賃上げは連合傘下の企業でベア、定昇合計で1.98%(前年は2.0%)と発表されていまして、ほとんどが定昇部分、ベア部分はせいぜい0.5%前後のようです。ちなみに厚労省の発表では今春の賃上げは2.11%(前年2.14%)です。

 連合の神津里季生会長は、記者会見で、「賃上げと長時間労働の是正」が最大の課題としていますが、賃上げについては「賃上げは毎年あるもの」という意識を定着させたいという事のようです。

 確かにプラザ合意やリーマンショックで円高不況に苦しんでいた時期とは違って、何とか安定成長路線を着実に進もうとしている日本経済ですから、経済成長の成果が毎年賃上げの形で従業員に配分されるというのは当然で、毎年賃上げ期待はあって当然でしょう。

 2%要求についても、政府も2%を超える経済成長をめざし、日銀は2%インフレを目指しているのですから、それが実現した暁には労働組合としては、4%のベア要求をして当然という計算になるわけです。

 連合は同時に、今春闘では、サプライチェーン全体に、賃上げが均霑するようにという主張をし、労働組合サイドから「格差社会化の阻止」に取り組み、大企業と下請けの関係にも配慮すべきと言い、今春闘ではその成果が出始めたので、それを是非来年にも繋げたい」としています。(日本の労働組合は立派ですね)

 世界中、いろいろ問題や紛争はありますが、世界経済はリーマンショックによる金融の混乱から立ち直り、アメリカ、EUの中央銀行の政策にも見られますように、世界経済は成長を取り戻し、日本経済も為替レートの正常化と企業の自助努力の結果、安定成長路線への復帰が見通されています。

 連合の要求に対し、経営側が如何なる対応をするかは年末にならないと解らないのが例年です。政府の態度は、選挙が終わってみないと全くわかりません。
 しかし、漸く安定成長路線に入るかという日本経済です。政労使の三者が、その知恵を十分発揮し、春闘という年一回の付加価値(GDP)の配分論議の中で、日本経済の将来のためにより良い配分を、実現してほしいものです。
 経済・経営の 将来を決めるのは、今日の配分の在り方如何なのですから。

日本的経営と同一労働・同一賃金 -蛇足-

2017年09月16日 11時03分15秒 | 労働
日本的経営と同一労働・同一賃金 -蛇足-
 昨日は多くの方にお読みいただいて有難うございました。もうご理解いただいていると思いますが、改めて蛇足をつけさせていただきます。

 正規社員の賃金は企業内の労使の賃金協定やその企業の就業規則で決まっています。それは賃金体系として初任給から定年再雇用まで一体の体系として決めています(そして毎年それを春闘で改定する)。

 一方、非正規の賃金は職種と地域のマーケットで決まります。単純な仕事の賃金は低く、技能労働力なら高く、高度専門職の契約社員などでは、役員クラスのレベルにもにもなります。

 こうした二種類の賃金システムに属するものを、偶々今やっている仕事が同じようなものだから、その時点で賃金を同じにしろと言っても、それでは、それぞれの賃金体系や賃金システムが成り立ちません。
 もともと正社員同士で、同じ仕事をしていても、入社年次で差が出ることは、賃金協定、就業規則で決められているのです。

 ですから、以前から日本では「今働いている職場での、同一労働・同一賃金は成り立たない」というのが、ほとんどの労働経済専門家共通の意見です。
 例えは些か問題ですが、例えば、「人の価値は棺を覆いて定まる」といいますが、日本の正社員の賃金は、その人が定年まで仕事をして、その間の会社への貢献の総量に対する報酬として(退職金も含めて)、その会社での職業生活を終えて、その時点で(同一貢献・同一報酬)として定まるようになっているのです。

 勿論現実にきちんとそうなっているかどうかはわかりません、しかし、正社員を希望する人は、そうした「規範」を納得して受け入れて、正社員を希望して入社し、仕事をしているのです。これが「人間中心」の日本的経営の現実です。

 日本的経営に関しては、このブログでも、いろいろな面から書いてきていますが、現政権は「日本的経営」についての本格的な理解は殆ど無いようで、欧米流が優れているという「舶来崇拝」を脱せず、見当違いの政策を多く出しているので、産業界全体、また労使関係の中でのトラブルを多発させそうで、また、ひいては日本企業、日本経済の成長力にもマイナスの影響が出るのではないかと心配している方も多いのではないかと思います。
 
「 日本的経営と国会論議」
「大卒就活ルール:大問題の日本、問題にならない欧米」などでも、日本的経営の無理解が目立つように思います。

日本的経営と矛盾する同一労働・同一賃金

2017年09月15日 15時11分15秒 | 労働
日本的経営と矛盾する同一労働・同一賃金
 ―政府はどこまで固執するのか―
 日本郵政の契約社員3人が、正社員との手当や休暇制度の格差の是正を求めて合計738万円の支払いを日本郵政に求めていた訴訟で、東京地裁から92万円の支払いを命じる判決が出されました。

 日本郵政では、公務員時代の名残りでしょうか、いろいろな手当てがあるようですが、判決では年末年始勤務手当と住居手当、それに夏季冬季休暇、病気休暇について、それらが契約社員に与えられないことは不合理としたようです。

 一方、3人の契約社員が正社員と同じ地位にあることを前提にした格差の是正については否定されたようですが、原告側は控訴の意向のようで、今後、政府の同一労働・同一賃金との整合性が問われる場面も出てくるのかもしれません。

 ところで、このブログでは、一貫して、日本社会の伝統文化の中で仕事をしている日本企業においては、欧米の文化の中で仕事をしている欧米企業とは、大きく異なる「仕事と人間の関係」が成立してきており、それに対する理解がないままに、形式的な同一労働・同一賃金を合理的だとしようとしても、現実問題として混乱を主すだけと指摘してきています。

 根本的な点を1つ指摘すれば、それは、日本企業は「企業を形成するのは人間で、人間が仕事を分担する」と考えているのに対し、欧米企業は「企業は職務の集合体で、その職務に適した人間を採用する」と考えているのです。

 つまりは、日本の経営は人間中心で、欧米の経営は職務中心なのです。日本的経営では人間は「多能」であると考え、欧米では「単能」で良いのです。
 したがって、日本企業では、技術革新などで、仕事がなくなれば、従業員には新しい仕事についてもらいます。欧米では、その仕事をしている従業員は解雇し、新しい仕事の出来る従業員を採用します。

 具体的にイメージしにくいという事であれば、欧米型経営と同様な部分が日本企業の中にもあります。その雇用形態、賃金制度を考えてください。
 それが「非正規社員」です。その仕事のできる人を雇う、仕事がなくなれば解雇、待遇は仕事で決まっている。どの企業をみても、待遇の差は殆どない。時間と技能の切り売りの世界です。

 日本の正社員は、「企業にそのメンバーとして参加」して、その企業とともに苦しみ、ともに喜ぶという「人間集団」の世界です。正社員は企業の血肉、企業そのものの一部なのです。

 日本と欧米のこの違いを理解しないと日本の人事制度、日本的経営は構築できません。しかし、欧米型の、企業と自分は、常にドライな関係がいいという日本人も、次第に増えてきています。

 ですからこのブログでは、正社員がいいと思う方は、企業は原則正社員になってもらいましょう、非正規希望の方は非正規でどうぞです。 
 正社員の待遇は個々の企業の雇用、人事、賃金制度で決めます。非正規希望の方については、待遇は、基本的に地域のマーケットで決まりますから、欧米流の「求人広告」でご覧ください、というのが、基本原則になるような形が最もいいのではないかと考えている次第です。

日本的労使関係で現状打開を:労使関係の現場力の重要性

2017年09月14日 14時50分38秒 | 労働
日本的労使関係で現状打開を:労使関係の現場力の重要性
 今日も北朝鮮は無音のようです。どんな行動に出るのか、北朝鮮の知恵が問われています。おそらく水面下ではいろいろな事があるのでしょう。平穏を願うばかりです。

 健全さを取り戻しつつある世界経済の先行きのためにも平穏が最高の贈り物ですが、同じことが日本経済にも言えるでしょう。
 余計なことを気にせず、日本の経済や経営について考え行動していけることが望ましいと思いながら、この所の企業労使と政府の姿勢について、特に、動き始めた「働き方改革」の問題を論じなければならないと思っています。

 この問題は、「人間と仕事」という大変大きな問題ですから、広範な視点で、時間をかけて、当事者である「労使」が自主的に論じなければならない問題だと考えていますが、現状、残念ながら、ほとんど政府主導で進められようとしています。

 政府は連合が提起しその後撤回した意見の内容をそのまま取り入れ、政府案としているようですが、働き方改革を実際にやるのは労使です。労使が十分に意見を出し合い、問題を論じつくして、合意したものが法律制度に反映されるというのが、こうした問題のスジでしょう。

 いくら政府が「決める政治」と頑張っても、当事者の合意も無視して勝手に決めたのでは、結果が出ないことは目に見えています。「決める」というのは、それが現実に役に立ち、効果を発揮する内容のものを決めて、初めて本当に「決めた」ことになるのです。

 折りしも世の中は人手不足で、産業・企業の現場は大変です。こういう時ほど、労使が合理的に協力し合わないと成果は上がってこないでしょう。
 企業は従業員が働きやすい環境や条件を考えようと努力し、従業員は積極的に自分たちのより良い働き方についての意見を経営側に伝え、十分に論議し、納得して協力する体制を作ることが、そのための原点でしょう。

 戦後の日本の労使関係は、政府が出来るだけ口を出さず、労使紛争においても、労使の自主的な決定に持っていくように仕向けることで、世界に冠たる労使の信頼関係、いわゆる日本的労使関係へと成熟して来たことは、多くの研究が指摘している通りです。

 残念ながら、「失われた20余年」の中で、それまでの経験と学習が労使双方で途切れ、潤滑油が切れた様な労使関係が目立つようになったのが現象的には「ブラック企業」といった形で表れたという事ではないでしょうか。

 これは、言い方を変えれば、「労使関係における労使の現場力が低下した結果」ということが出来るように思われます。労使関係は、昔からよく夫婦関係に例えられますが、、基盤をなすのは相互の信頼関係という点が共通だからでしょう。

 「現場力」の低下の問題は生産現場、作業現場、労務管理の現場等々だけではなく、労使関係の現場でも十分留意される必要があるように感じられます。
 労使双方の「労使関係における現場力の再構築」が無ければ、いくら働き方改革で政府が旗を振っても、成果に辿りつくのは難しいように思うのですが、どうでしょうか。