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tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日経平均の下落は何処で止まる(こんな見方も?)

2024年04月18日 15時19分32秒 | 経済

この所の日経平均の下落続きにはびっくりしている人も多いのではないでしょうか。

3月下旬は40000円を維持して、これからどこまで行くかと楽しみにしていた人も多かったようです。

それが4月に入って、何だか様子がおかしくなって、朝は高いのにだらだら下がって見たり、朝は安かったけれど引けまでにかなり挽回したりといった様子になりました。

何か、誰かが上げようとしても、上げさせまいとして売る人がいたり、下げたい人が仕掛けても午後からそうはさせないと買いを入れて終値で挽回とか、そんな争いを誰かがやっているのではないかというストーリーでもできそうな動きが続きました。

そして先週半ばぐらいで上げたい方は頑張ってもダメかと観念したのでしょうか、売り方の勝利で、37000円台まで日経平均は下がってしまいました。

株価の動きを現実の実体経済の動きで説明しようとしても、長期の動きであれば出来そうだという見方もありますが、短期では、特別の事でもない限り説明は難しいようです。

この所の日経平均の下落についても、株価関係のコメントは毎日いろいろ出ていますが、「ああ、そういう事ですか」と納得できるような解説は見られないような気がします。

現状でいえば日米の株価の動きに大きな影響を与えるのはFRBの金利政策でしょう。今年の初め辺りは、FRBは今年中にはインフレは終息と見て、今年は0.25%の政策金利の引き下げを3回やる方向という意見だったようです。

それが次第に変わり、どうもインフレ基調が収まらないという事で、金利の引き下げは先延ばし、当分利下げはしないという雰囲気になって来たようです。

利下げを期待していたアメリカ経済は拍子抜けで、金利は高いままならば、もう少し我慢という事になり、NYダウも上がらないという事になったようです。

日本の方は、アメリカが金利を下げたら、日米金利差は縮小し円高になると考えていた所、金利が下がらないのならば、未だ円安が続くという見通しに変わり、その通り円安はじりじり進み、154円台まで進み、鈴木財務大臣は、円安が心配になって、これ以上の円安には万全の対策を検討するなどとか言っています。

しかし輸出関連企業の差益やインバウンド増加の様子から見れば、円安は日本企業にも日本経済にも好影響が大いいわけで、これならもう少し日経平均も上があると思った人も多かったでしょう。

しかし4月に入って、の日経平均の動きはご承知の通りです。最初はNYが下げれば東京も下げるといった解説もありましたが、それではあまり納得性がないので、最近は「なぜ日経平均が下がっているのか」という解説を探しても見つかりません。

という事で、こんな「ジョーク」の解説を考えてみました。

NYダウも日経平均も「40000」という数字を目指して上げてきました。ところがNYより先に東京が40000を達成し、更に、その先を狙おうという勢いになりました。一方、NYは「39807」まで行き、もう一息で「40000」ですが届きません。

同じ「40000」と言っても、「NY」と「東京」の原単位には150倍以上の差があるのですが、$と¥の差はあっても「40000」という数字に先に円が達していたのではカッコ悪いと思う国際投機資本筋(?)が、NYが40000に行くまで東京には少し待ってもらおうと考えた結果が現状になったという事です。

以上が「ジョーク」の解説ですが、これで行きますと、今日あたりでNYと東京は並ぶようですから、この辺が当面の日経平均の底という事になるはずです。

(こんなジョークに、最後までお付き合い頂いて有難うございました)


米国経済と米巨大企業の盛衰

2024年04月15日 20時33分15秒 | 経済

日本製鉄がUSスチールを買収するという、昔なら驚天動地の現実が進行しているというのが、このところ日米で共に問題になっています。

ご承知のように、USスチールは アメリカでは石油王ロックフェラーと並ぶ鉄鋼王アンドリュー・カーネギーがつくって、嘗ては世界最大の鉄鋼会社で、カーネギーホールとともにで世界にその名を知られているところです。

企業の吸収や合併は私企業同士の契約で行われるものですから、USスチールと日本製鉄が合意すればそれで進むというのが法律的な決まりなのでしょうが、現実社会はそうはいきません。

アメリカが第二次大戦後世界の覇権を握り、基軸通貨国としての地位を確立、今日に至るまでその地位を維持している背景には、USスチールをはじめとしたアメリカの大企業の発展によりアメリカ経済を強大にしたからと言えるでしょう。

ところが、今、アメリカの産業経済発展のシンボルでもあったUSスチールが、経済不振に悩む日本の日本製鉄に買収されるという事になっているのです。アメリカ人の中に「許せない」といった感覚があっても当然かもしれません。

という事で、この問題は、国民感情という問題に発展し、ひいてはアメリカの労働運動、更には今回の大統領選挙にまで影響しかねない状況に発展しているようです。

このブログでは今までもコダックと富士フイルムの経営比較GMやGEの蹉跌とアメリカ経済などアメリカの超大企業の盛衰を取り上げてきました。今回はUSスチールの日本製鉄による買収云うという事態の発生です。

というのもUSスチールには昔日の面影はなく、アメリカ経済を支えた嘗ての力も失われると状態になりつつあるからという事でしょう。

世界のトップ企業だったUSスチールの粗鋼生産量は、今や1449万トン、日本製鉄は4437万トン、トップは日本が指導した中国の宝山、いまは宝武鉄鋼集団で1億3264万トンです。日本製鉄は4位、USスチールは27位(世界鉄鋼協会)とのことのようです。

量的の問題は、それぞれの国の事情があるとして(中国の巨大さ)、企業としての体質を最も良く表すと考えられる自己資本比率を古い資料からも拾ってみますと下のようです。

<自己資本比率>  1962年   2023年

USスチール     66.9%    54.5%  

日本製鉄      33.5%        43.7% 

 資料:1962年通産省「世界の企業の経営分析」、2023年「各企業B/S」

国際的に見れば、力を失うUSスチール、何とか踏ん張る日本製鉄、アジア系の鉄鋼企業に挟まれるような立場の両社は技術力が生きる道でしょう。

頼るのは技術力のシナジー効果ではないでしょうか。その点で気になるのは、USスチールの労働組合が反対している事です。

日本的経営から言えば、企業活動は、経営者と従業員で成り立っているのですから、従業員は経営者と同じように現状を理解なければならないのです。

その点の努力、従業員が将来に期待を持てる事、そうした条件を日本製鉄側は、本気で大切にしているのでしょうか。

株主総会で賛成を得る時には、労働組合も、同様に賛成の意思表示をするような共に働く人間を大事にする日本企業の「心」を示してほしかったと思うところです。

それが、最終的な成功を支えるのではないでしょうか。


円安進行、アメリカはインフレ基調、日本の対策は?

2024年04月12日 14時24分29秒 | 経済

円安が進行しています。鈴木財務大臣は「あらゆる手段で為替の安定を」と言っていますが、マスコミはこの種の発言もあまり効果がないなどと言っているようです。

元々の原因はアメリカの景気が結構強く、雇用も増加し、賃金も上昇、インフレ再燃の危惧もあるような状態で、FRBも予定通りの利下げが考えられないようだという事でしょう。これでは当面日米金利差縮小は無いと国際投機資本は読むことになります。

円安は当面の日本経済にとっては輸出企業の収益やインバウンドの増加など、色々な面で好都合で、沈滞している日本経済の活性化に役立ってくれるという効果もあるわけです。

アメリカ経済がFRBの目的にそってインフレ率が2%水準に低下し、政策金利が順次引き下げられ、そのたびに円高が進むという状況が順調に進捗する方が、本音を言えば、日本経済には恐ろしいという事ではないでしょうか。

日銀短観には、調査対象企業の今期、来期(先行き1年)の円レートの予測の平均が載っていますが、最近の短観では今年度の上期・下期は共に141円台という見通しでじり高という事になっています。

今の日本企業の高収益の原因として150円前後の円レートはかなり大きな寄与をしているはずですし(今日の新聞にも「ファーストリテイリング(ユニクロ)最高益」とか、人流回復でコンビニが好調といった記事が見られます)、バブルではないかなどと言われる株価にも大きく寄与していると思われます。

3円ほどの円安でインフレ傾向を心配するという事も大事ではありますが、企業が軒並み10円ほどの円高を予想している事が現実になった時の日本経済の受ける負のインパクトを本気で心配しなければならないという事の方が、考えてみればもっと大事ではないかという気もします。

アメリカの雇用、賃金物価の状況を見ますと、雇用の1か月間の増加ペースが昨年3月14万6千人で、今年の3月は30万3千人ペースになっているようで、賃金は、この3月が前年比4.2%の伸び、消費者物価は3月で前年比3.5%、エネルギー関連は下がり気味ですが、「食料とエネルギーを除く総合」、いわゆるコアコアは3.8%の上昇という形で賃金インフレの気配です。

もともとアメリカはインフレ体質の国ですから2%インフレ目標というのはかなり無理といった感じですが、3%台のインフレで経済が元気というのは、ある意味では羨ましいという事ででもありましょう。

基本的に、日本経済は、アメリカの動きに大きく影響されざるを得ないようで、プラザ合意やリーマンショックで円高、今回はアメリカのインフレ退治のための金利引上げで円安といった事になってしまうのです。

そうした経験の中で見れば、今の円安は過去の円高に較べれば、逆に日本にとっては、経済活性化のチャンスと言えるような状態ではないでしょうか。

3円の円安を心配するよりも、この避けられない状態をチャンスと捉え、円安を適切に活用し、早期に日本経済の体質強化にいかし、世界の中で、ここまで堕ちた日本経済の本格的な再生に、役立つような上手な政策を確り考えていく事が大事なのではないかといった感じもします。

財務省や日銀が、どんな秘策を編み出してくれるかと期待したいところですが、これからどんな政策が出て来るのでしょうか。国民みんなで注視しましょう。


実質賃金プラス転換の可能性は?

2024年04月06日 16時15分39秒 | 経済

春闘の結果が昨年よりだいぶ高い水準になりそうな気配です。

連合が要求基準を昨年の5%から「5%以上」とし、経団連の十倉会長も昨年以上の賃上げが望ましいと明言するような、今までにない春闘情勢ですから、かなり高めになるだろうとは大方の予測でした。

大手は集中回答日に満額妥結が続出、連合の集計結果は5.28%でしたか、その後も大企業の集計は5.24と高止まりのままの様です。

関心はいま中小企業に移って来ていますが、中小企業も4%越えは確実で、現時点では4.42%。連合では、更に高まる事を期待しているようです。

何れにしても昨年の平均3.6%より大幅な上昇で、これでアベノミクス以来長かった低賃金デフレ」型の消費不振による低成長経済を脱出が望まれるところです。

一昨年から今年にかけての22カ月連続で実質賃金が前年割れといった不名誉な記録を作った異常な日本経済にも転機が来たとの期待は大きいでしょう。

この不名誉な記録は、一昨年から昨年にかけての不況下のインフレという奇妙な事態によるものですが、この状態も昨秋から次第に正常化してきているので、実質賃金の前年比プラスという正常な状態も近づいていると言えそうです。

ただ、統計資料から実情を見ていきますと、物価上昇率よりも賃金上昇率の方が高く経済性緒がそれを支えるという健全で正常な日本経済が定着するのには、未だ努力しないければならない問題があるようです。

春闘賃上げが4~5%以上で、消費者物価の上昇は3%程度なのだから、実質賃金上昇は確実とは言えないのです。(春闘賃上げ率は定期昇給も含んでいます)

    賃金関連指標の対前年上昇率(%)

              資料:毎月勤労統計、家計調査

上のグラフの様に、毎月勤労統計の名目賃金指数の上昇(青)は、昨年の3.6%の賃上げ率よりかなり低く、家計調査の勤労者世帯の名目実収入(赤)は前年比マイナスの月の方が多いのです。賃金上昇が中小から零細、更に多様な勤労者全体に行き渡るのは簡単ではないようです。

賃金の問題に加えて物価の問題もあります。この所物価を押し上げていた食料品や日用品(いわゆるコアコア物価)の上昇率はまだ3%台です。さらに、ガソリンや電気・ガスの補助金もいずれ止める日が来るでしょう。これらは概算で1%以上消費者物価を引き上げるでしょう。

更に、今春闘では賃上げ分の価格転嫁を公的に認めました。すでに4月から値上げという話も少なくありません(きちんと計算すれば賃金コスト転嫁で賃金より物価が上がることはありません)。問題は便乗値上げです

もう1つ付け加えれば、国際関係があります。原油などの値上がりや、円安の進行といった問題です。これは国内ではどうにもなしません。

 

そして最後に、経済成長率の問題があります。今年度の実質経済成長率(≒日本経済の生産性上昇率)は昨年度より下がって1.3%(昨年度は1.6%)というのが政府の見通しです。

生産性が上がって、その分物価は上がらなくて済むというのがベストの状態です。

何か、意地悪い事ばかりを並べたようですが、一度歪んでしまった経済を正常に戻すという事は、そう簡単なことではないのです。かなりの努力が必要になるのでしょう。

その中で、最も重要なことは、何といっても「生産性の向上」なのです

昔からの諺でいえば、「稼ぐに追いつく貧乏なし」でしょう。今年は日本、日本人の実力が問われる年になるのではないでしょうか。


消費性向上昇、消費支出の活発化に期待する

2024年04月05日 16時20分01秒 | 経済

今日総務省統計局から2月の家計調査・家計収支編が発表になりました。

1月の消費支出は何故か緊縮型だったので、2月はどうかと心配していましたが、2人以上勤労者世帯の平均消費性向は回復し、前年同月比1.7ポイントの上昇となりました。

春闘開始の時期でもあり、賃上げの要求水準の高いところが多くなっていたので、少し気分が変わってきたのも知れません。

   平均消費性向の推移(2人以上勤労者世帯:%)

     資料:総務省統計局「家計調査」

より広範のデータである「2人以上全所帯」の消費支出を見ますと、マスコミの見出しのように、昨年3月からずっと対前年比の実質値は物価上昇のせいでマイナスです。マイナス幅が2~6%(1月)と大幅でしたが2月は0.5%で比較的順調だった昨年2月に少しは追い付こうといった感じです。

    2人以上全世帯の実質消費支出

       資料:上に同じ

消費者物価の上昇に負けている感じの消費支出ですが、家計の財布により実感のある2人以上全所帯の「名目」消費支出の推移を見ますと、23年の2月までは、頑張って来たが、それ以降は物価に負けて節約志向で、やっとここへ来て増加に転じる兆しが見えたのではないかともみられます。

    2人以上全世帯の名目消費支出

          資料:上に同じ

状況はこんなところです。これから、賃金の上昇もあるのでしょうと期待するところです。

これからの動きですが、消費支出の伸びが日本経済の成長を支えるようになるのか、賃上げによる物価上昇もあって消費不振が続くのか、前者の方向を期待するのですが、まだ不安も残る感じではないかと消費支出増にはまだ心配が続きそうです。


日銀短観(2024/3月)で企業の現況を見る

2024年04月02日 12時34分02秒 | 経済

昨日、日本銀行から2024年3月時点の「短観」、正式には「全国企業短期経済観測」が発表になりました。

マスコミでは、日本の景気を引っ張っているとみられる製造業の大企業の景況判断が4期ぶりに(短観は四半期調査)悪化したことを見出しにしていますので、一寸気になるところですが、記事などの中身を見て頂けば分かりますように原因は一部自動車メーカーの出荷停止という事態があったことの影響で、日本経済全体の状態に問題があってのことではないようです。

大企業製造業の景況は昨年3月を底に3四半期順調に伸びてきました。円安による輸出大企業の収益向上が大きかったようで、その意味では、先行きが気になるところですのでその辺を中心に見てみましょう。

先ず調査対象企業が、今後の円レートをどう見ているかですが、2024年の上期も下期も141円台で、現状より10円の円高とみている点は大事なポイントでしょう。

製造業大企業の悪化というのはDIが12月の13から3月は11になったという程度ですが、先行き(ほぼ3か月後)は10という予測で、堅めに予測し、改善とは見ていません。

同じDIは中堅企業では6-6-5、中小企業は2-▲1-0で大きな動きはなく中小企業が今季はないナス1ですが、今後は0(良い企業と悪い企業が同数)と多少の改善を見込んでします。これは、公取が、コスト上昇の価格転嫁を公式に認めたことと関係がありそうです。

非製造業は好調が続いているので、同じく規模別にDIの動きを見ますと大企業は32-34-27、中堅企業は19-20-15、中小企業は14-13-8で、インバウンドなどの盛況を映し、好況を維持しそうです。

DIは企業としての感覚ですが、もう少し具体的な数字という事で、売上高経常利益率の計画値の動きを見てみますと下の図のようになります。

    業種別・規模別企業の経常利益率計画(左が製造業、右が非製造業:%)

 

            資料:日銀全国企業短期経済観測

この図で見ますと、円高があまり急激に進まない限り、企業は製造業、非製造業ともに当面順調な推移を予測しているようです。

アメリカは現状ではドル高を善しとしているようにいもわれますが、今後の日米の政策金利の動きが決定的に重要なようです。


「適正賃金」(第6回)、円高、円安と適正賃金の関係

2024年04月01日 14時39分44秒 | 経済

このシリーズの最後に、円高や円安の場合に適正賃金はどうなるのかという問題を考えてみましょう。

これは典型的には、プラザ合意による円高、異次元金融緩和による円安に対し賃金をどうすべきだったのかという事で、日本がやってしまった失敗の反省という事になります。

先ず賃金決定の面から見た円高、円安の意味を定義して、続いて実情や問題点をしるし、そのあと纏めて対応策を考えるという形にします。

<円高>円高というのは、円高の分だけ日本の賃金・物価がドル建てで高くなるという事です。プラザ合意(1985年)の場合は、日本の合意後2年で為替レートが240円から120円になりました。これは、国際価格、つまりドル建てでは2年間に2倍の賃上げをして物価も2倍になったという事です。結果は国際競争力全面的喪失という状態です。

対応策としては、2倍の賃上げに追いつくように生産性の向上に全力を尽くすことと、平均賃金を二分の一に向かって抑える努力をして、国際競争力の回復に全力を挙げる以外に方法はありません。

真面目な日本人は、この両方を徹底的にやり2001~2年には一部の産業は国際際競争力を回復、じりじりとその分野を広げたのが「好況感無き上昇」の時期です。

所がリーマンショック(2008年)で、アメリカがゼロ金利政策を取り、円レートは75円~80円になり日本は力尽きて2012年まで、我慢だけの耐乏の4年間を過ごしました。

<円安>2013~14年日本は黒田日銀がアメリカに倣いゼロ金利政策(異次元金融緩和)を取り、円レートは80円から120円という円安が実現しました。

円安は、ドル建てで日本の賃金と物価が円安分だけ下がるという事です。日本の物価も賃金もドル建てで3割下がったという事です。日本経済は一気に国際競争力を回復しました。

輸出は順調に伸び始め、経済成長率も回復して来ました。問題は円安で輸入物価が上昇、消費者物価も国際価格に向かって上昇を始めた事でしょう。

賃金水準が国際比較(ドル建て)で3割下がったのですから円高の時の逆で国際競争力の面では賃上げの余裕は有ったのですが、日本の労使は、長い不況の意識が消えず、賃上げに消極的でした。これが黒田日銀の「2年で2%インフレ目標達成」が不成功に終わった原因です。

結果的に物価は上がり、賃金は上昇せず、消費不振で経済成長が止まり「低賃金デフレ」状態になっています。そしてこの状態が昨年まで続いてしまったのです。

さて、この経験から我々は何を学ぶべきでしょうか。

円高の時は、徹底した賃金抑制と生産性向上をしなければなりません。日本人は真面目にそれをやってきました。しかし、もともと2倍の円高の克服などは無理なことです。窮余の策だった非正規労働者の多用は、ロストジェネレーションなど日本社会に大きなひずみを残しました。因みに、中国はアメリカの人民元切り上げ要求を断っています。

良く考えれば、真の対策は、そんな円高を受け入れない経済外交でしょう。

円安の場合は、ドル建てでは貧しくなりますが、円建てでは余裕(為替差益など)が出ます。この余裕は賃金にも確り配分しないと「低賃金デフレ」を起こすことに注意すべきでしょう。円安の場合には「適正賃金」の水準は円安の分だけ上がるのです。

大幅な円高・円安は日本経済に歪みを齎します。日銀の言う為替レートは出来るだけ安定が望ましいと言うのは正しいでしょう。

但し、基軸通貨国アメリカが、為替レートを経済戦略に使うために、変動相場制を導入したのです。固定相場制には戻らないでしょうから、政府の経済外交、日銀の金融政策で、経済防衛力を強め、為替レート変動を最小限にし、「為替レートと適正賃金」などという問題で、労使が苦労しないようにするのが一番望ましいのですが、政府は経済防衛力よりミサイル防衛力の方が優先のようです。(このシリーズ終わり)


「適正賃金」(第5回)、賃金インフレ・賃金デフレを避ける

2024年03月30日 14時48分04秒 | 経済

「適正賃金」を考える場合、伝統的に重視されているのは「賃金インフレ」を避けることです。今回の欧米の8~10%を上回るインフレを金利に引き上げで抑えようというのも、「金利引き上げ→経済活動の抑制→雇用逼迫の緩和→賃金上昇の抑制→インフレの抑制」を狙ったものです。

インフレについての経験的常識というのは、「原油など輸入価格の高騰→国内物価上昇→物価上昇を超える賃上げ→賃金インフレ発生」というプロセスです。

「賃金インフレ」は、正式にはWage-cost-push inflation で、海外物価の上昇で輸入インフレが起き、それが大幅賃上げの原因となって賃金インフレが起きるというパターンです。

日本でも1973年の石油ショックで消費者物価が20%上がり74年春闘で33%の賃上げが行われています。

その結果、消費者物価の上昇は26%ぐらいまで行きましたが、日本の労使はこんな事をやっていたら日本は国際競争力がなくなって、日本経済は立ち行かないと危機感を強め、数年かけて賃上げ率を正常に戻しました。

それまでの日本は「賃上げ圧力の強い社会」でしたが、石油ショックへの対応を労使で模索する中で、その後は大きく変わりました。

その結果日本が経験したのは、賃上げ圧力の低い社会は、消費不足の「低賃金デフレ」社会になり、経済成長が損なわれるという近代社会ではほとんど例を見ない経済でした。これがアベノミクス以降の11年ですが、余り例がないせいか「賃金インフレ」の反対の「低賃金デフレ」といった概念も言葉も近代経済学ではあまり一般的ではないようです。

この経緯は「賃上げ圧力の強い社会、賃上げ圧力の弱い社会」で詳述したところです。

今年の春闘は、日本人の経済認識を変えるための試金石という事なのかもしれません。

ところで、経済理論では、一国の労働生産性の上昇率以上に賃金水準が上昇すれば、その差(賃金上昇率-生産性上昇率)がインフレ率になるという事になっています。

日本では、労働力人口は年々そんなに変わらないので、実質経済成長率が生産性上昇率と考えてもいいようです。

そうしますと、日本の平均賃金の上昇率が経済成長率を超えるとその分が賃金インフレになるという事です。

ところで、政府・日銀はインフレ目標2%と言っています。という事は政府・日銀は実質経済成長率よりも平均賃金の上昇率の方が2%高くなって、賃金インフレが2%ぐらいが、国民が暮らしやすい経済状態だと考えているという事です。言い換えれば、実質経済成長率プラス2%が適正賃金上昇率の上限という事です。     

いま日本の消費者物価は年率3%近く上がっていますが、これはコロナ禍の時期を含む消費不況の時期に輸入原材料などのコストを価格転嫁出来なかった分を取り返すという生活必需品部門の3年遅れの価格転嫁といった感じが強く、そろそろ終了の気配です。

日銀の植田総裁はその辺を読んで、そうした過去の積み残しの値上げが終わる時期だから、賃金上昇と物価上層の関係が「2%インフレターゲット」に収斂すると予測し、金融の正常化の準備を始めたという事なのでしょう。

今春闘が契機になり、新たに「適正賃金」を労使が模索する様になれば、日本経済のデフレは消え、消費、投資の両輪が回り、日本経済は漸次成長路線に戻るでしょう。

最後に1つ残った問題は、「為替レートと適正賃金」という問題です。

日本政府は、対外経済対策、経済外交が、どうも上手でないような気がしていて心配ですが、次回為替レートと適正賃金の問題を考えてみたいと思います。

 

 

 


「適正賃金」(第4回)、GDPの2大要素「消費支出」と「企業設備」

2024年03月29日 15時45分42秒 | 経済

経済成長の予測や計画には本格的に言えば、日本経済のマクロモデルが必要なのでしょう。しかし現実の世界ではGDPの大部分を占める「民間最終消費費支出」と「民間企業設備」を見ていけば、経済成長の予想や計画はおおむね見当がつくという事のようです。

その他民間需要では民間住宅があり、高度成長の頃はこれが経済成長の指標のようだったこともありますが、今は湾岸にマンションが沢山出来てもそれほどの影響はないようです。

民間以外は「政府支出」(政府がどのくらい金を使ってくれるか)と「純輸出」(輸出-輸入)ですが、政府の支出は財源が限られていますし、輸出入は外国の事情で動きますから日本だけで計画するわけにはいきません。

結局、日本経済の計画を立てるとすれば、民間の消費支出と企業設備をどうするかという事が決定的な要素になってくるという事でしょう。

<民間消費支出>

これは決定的に賃金決定の影響を受けるものです。年金や生活補助、地代・家賃・利息・配当などのいわゆる不労所得は日本では少額ですし、GDPに影響するような変化はありません。

最近は株価上昇でキャピタルゲインが増えていますが、株式は売らなければカネは使えないし、売り時を間違えれば株価は下がります。

つまり、年々の賃金上昇がどのくらいあるかで、民間消費支出は枠が決まります。しかし賃金上昇はそのまま消費支出にはつながりません。これは日本特有なのかもしれませんが、「平均消費性向」が曲者なのです。

平均消費性向は長期には低下傾向ですが、コロナ禍で大きく下げ、2022年度の実質経済成長率マイナス3.9%の元凶になっています。その後回復上昇中ですので、その勢いを利用すれば、賃金上昇がより効果的に経済成長を支えるでしょう。

平均消費性向が趨勢的に下がって来ているのは、年金財政問題からの老後不安、賃金が上がらない事から若年層にまで波及した将来不安に備える貯蓄指向の高まりでしょう。今後は年々賃金が上がるという情況が生れれば低下は止まり上昇の可能性も出て来るのではないかというのが過去のトレンドから推定されます。

<民間企業設備>

紙数が限られるので民間企業設備については、これから日本は本格的に頑張るだろうという所にとどめますが、企業の投資資金は賃金上昇との裏腹の関係です。幸い今年の場合は賃上げで投資資金に支障がないから「満額回答」が続出したのでしょう。今後は適正な賃金上昇と企業の設備投資資金の充実の関係は、労使間の最大の問題になるでしょう。

これからの賃金決定の規範は、労使が共に望む経済成長率(数値目標)の実現に最適な労使の分配関係、望ましい経済成長率(目標)実現を可能にする労使のwin=winの関係に立つ春闘の「適正賃金」決定でしょう。

政府は必要に応じて補完の役割を果すことが重要です。そのための国家予算を、不要不急なものに無駄遣いしない事を願うところです。

今回では終わりになりませんでしたので、賃金決定とインフレの関係、さらに為替レートの変化と賃金決定の関係を整理して終わりたいと思っています。


「適正賃金」(第3回)、目標達成計画が無ければ

2024年03月28日 15時52分05秒 | 経済

企業の場合ですと3年計画とか5年計画で、成長目標が決まれば、その達成に必要な経営数値の計画を立てます。売上高から始まって、計画各年次のBS、PL、利益処分などの計画値を積み上げ、その中で総額人件費の枠が計画され、計画従業員数で割ったものが平均賃金になります。

企業でも付加価値分析の手法で総額人件費の策定が出来ますが、国民経済計算の場合は、付加価値であるGDPが基本の計画値ですから、付加価値の構成要素を積み上げることで、例えば「政府経済見通し」は出来ています。

ですから、政府が「日本株式会社」の経営者としますと、経営計画の数値は政府が毎年発表している「政府経済見通し」のような形になるわけです。

ただ、これは単なる「見通し」で、多くの経済研究機関が出す「来年度経済見通し」の1つという事になっています。

しかし時に、2020年度の「政府経済見通し」のように、経済成長率が民間より1段高く、希望する「目標数値」のような場合もあったりします。

今年度の「政府経済見通し」実質成長率1.3%についてはどうでしょうか。昨年度の成長率実績見込みは1.6%(同)でした。今年度は落ち込むというのは、目標とか計画ではなく単なる予測のようですね。

こうした一貫性のない事を政府自体がやっているのでは、前回書きましたように、目標が決まらなければ適正賃金などは決めようがないのです。

現実の社会では日本株式会社の経営者の意識がその程度なので、民間がそれぞれに考えてやるしかないのでしょう。今年は労使が春闘で少し余計に賃金を上げようと協力していますが、これはGDPの最大の構成要素である消費支出を増やし、GDPの底上げをしようという民間にも出来る目的意識を持った行動でしょう。

勿論、個々の企業がGDPの目標値を決めることはできませんが、企業がそろって高めの目標に向かって努力すれば、企業の創出する付加価値の総合計であるGDPは増加、つまり経済成長達成となるわけです。個別企業では数値目標があっても国全体としては「今年より高い成長率」というアナログ目標です。したがって、経団連、連合もアナログです。

ところで、今年度の「政府経済見通し」では、民間消費支出が名目3.5%実質1.2%増え、民間企業設備が名目4.7%実質3.3%増えGDP実質成長1.3%の大部分を支えるという「投資に支えられた経済成長ですが、多分現実には賃上げの積極化で民間消費支出が成長を引っ張って、もう少し高い成長率を達成しようというのが民間労使の春闘の目標でしょう。

国民もそうした日本経済の新しい成長路線を期待しているのでしょうが、日本株式会社の経営者(政府)は「去年より成長率は落ちるが仕方ない」という見方です。

政府見通しの中の「雇用者報酬」は、名目で前年度は3.1%伸びましたが今年度は2.7%にとどまるという見通しです。これでは消費の伸びは期待できません。

国民の望む目標も計画もなく、責任のない見通しの数字が並んでいる様では、国民は元気が出ないでしょう。社員に元気のない会社は、業績にも元気がないでしょう。

企業では経営目標があり、経営計画があって初めて適正賃金が算出されます。今の日本政府には、国民に訴える目標もなく計画もありません。従がって、国としての適正賃金は算定不能という事になるようです。

次回は、若し、国としての目標が明確になれば、どんなふうに計画が作られるだろうか、そして、そこから適正賃金の決定が可能になるという考え方の道筋だけでも整理しておきたいと思っています。


「適正賃金」(第2回)、「適正」の判断基準は?

2024年03月27日 21時02分41秒 | 経済

賃金は企業や国民経済が生み出した付加価値、の中から支払われます。経済学でいえば付加価値の生産要素は人間と資本ですから、付加価値は人件費と資本費に分配されます。ここで賃金と言っているのは厳密には社会保険料や教育訓練費なども含めた人件費で、資本費は利益(営業余剰)です。

付加価値の中の何%を人件費支払うかは「労働分配率」ですから、適正賃金の判断は「適正労働分配率」の判断と同じことです。そして残りは資本費(利益)ですから資本分配率も同時に適正でなければならないのです。

労働分配率が低いという事は人材の確保が困難になることを意味します。資本分配率が低いという事は、設備の高度化や技術開発力の低下を意味します。

与えられた付加価値の中で人材の確保と企業設備の高度化にどう配分するかというのが企業や国の成長、発展のための基本的課題なのです。

ここまで考えてきますとお解りのように、適正賃金と適正利益は両立しなければならないもので、何のために両立させるのかと言えば、それは企業や国を成長発展させようとするからだという事になります。

企業や国がどうなってもいいという事であれば「適正賃金」も「適正利益」も存在しないのです。

という事で「適正賃金」かどうかを判断する基準は企業や経済の発展に最適な形の分配という事になるのです。

ここで考えなければならないのは、企業も国も、人間と資本の組み合わせで経済成長していくのですが、ここで議論している適正賃金や適正利益は「必要条件」ではありますが、決して十分条件ではないという事です。

ですから日本の経済を成長させえるには、適正賃金、適正利益といった基礎条件、いわば舞台装置をきちんとする事が必要で、その上に、その舞台装置を上手に使うという人間の能力や意欲の向上(いわゆる熟練や動機づけなど)の役割も極めて重要という事も付け加えておきたいと思います。

これは人員や設備は同じでも、生産性は同じではないという職場の現実でもあります。通常、生産性は人数や資本装備率(金額)で測定しますが全要素生産性は人間の態度や意思に大きく影響されます。そこではリーダーの能力が大きな役割を果たします。

経済成長というのは国民一人ひとりの生産性が高まり、その結果、国民一人あたりのGDPが増え生活が豊かで快適なるという事ですが日本の場合を考えてみますと、ジャパンアズナンバーワンと言われた頃の1人当たりGDPは世界ランキングで5位前後だったと記憶しますが、2022年は32位だそいうです(IMF統計)。

まあよく落ちたものだと思いますが、この原因というのは、バブル期、バブル崩壊期、円高進行期、円安進行期のそれぞれで、成長目標の誤算、資本と労働の分配の歪み、加えてリーダ采配の不適切が重なった結果という事が出来るでしょう。


「適正賃金」とは何かを考えてみましょう 1

2024年03月26日 22時02分53秒 | 経済

過日「適正賃金決定の重要性」を書きました。ならば「適正賃金とは何か」というテーマが当然生まれてきます。

あの日の指摘は、これまでの賃金決定が低過ぎたのではないかということになっていますが、その場合も「何が適正か?」という疑問があるわけでその種の示唆も頂きました。

これは正に大事なことなので、この際、少しきちんと検討しておくべきではないかと思っています。

適正賃金には企業内の賃金の体系・制度、あるいは、個人別賃金が適正かどうかといった場合もありますが、ここでは賃金総額あるいは平均賃金が適正かという、厳密に言えば「人件費決定」の意味である事を先ずお断りしておきたいと思います。

民主主義の国では、労働組合が認められており、賃金決定は労使の交渉に任せられているというのが基本でしょう。労働組合の組織は産業ベルや職種別、日本では企業別など国によって違いますが、高い賃金を望む労働組合と利益を増やしたい経営者/経営者団体が創出した付加価値を賃金と利益に分けるのが賃金決定(労働分配率の決定)という事になります。

一般的に考えますと、賃金を上げたい労働組合と賃金を抑えて利益を増やしたい経営側との主張の「真理は中間にあり」でその真理(適正賃金)は、労使が合意した(妥協した)ところだろうという理屈です。

此処では解り易く日本の場合で考えますが、こうした付加価値をめぐる分配論争、労使交渉は、身近な企業レベルの論争と、大きく国全体の在り方の2つの段階で論じられることになるのが毎年の春闘です。

具体的に言えば、経団連の「経営労働委員会報告」と「連合白書」が代表する国レベルの論争、企業の経営資料を使った論争は企業別の賃金交渉という事ですが、このマクロとミクロの分配論争、労使交渉は密接に絡まり合っているというのが現実です。

実はこのブログではもうだいぶ以前2017年2月ですが、「企業における人件費支払能力測定の実務シリーズ」という事で数回にわたって、企業別の労使交渉の参考資料として、労使が共に納得できる個別企業の「人件費支払い能力の限度」についての検討をやっています

此処ではそれを、「日本株式会社」に応用するような形で、日本株式会社(GDP)がどのくらいの賃金(雇用者報酬)を払うのが良いかという形で「適正賃金」の在り方を考えるというのはどうかなと思っています。

但し、企業レベルの場合は、付加価値の源になる売上高は顧客が決めてくれるのですが、GDPの場合は、その大きさは殆ど日本の企業と家計が使う金によって決まるわけで(輸出やインバウンドの購入もありますが)、企業と家計が懐に入った金をどうするかという自己循環が極めて重要になります。この点も確り考えないといけないように思うところです。

さてどんなことになるか、順次検討していってみたいと思っています。


株価は好調、実体経済は消費支出の積極化で

2024年03月25日 16時36分17秒 | 経済

日銀植田総裁の発言が優しかったせいか、投機資本は余り慌てることなくその後も日

経平均は上がり続けましたが、今日は神田財務官の発言で下げています。円高の動きは小さいので、解説では利食い先行とかダウ平均が下げたからといっているようです。

この分ではダウ平均が上れば日系平均も追随といった今迄とあまり変わらないのかといった感じがもどってきているようです。

政府は株価下落は心配でしょうし、投機筋も、実体経済が追い付いて来てくれることを望みながら、順調な推移を望んでいるのはないでしょうか。

しかし多くの庶民は実体経済で生きていますから、実体経済の順調な回復が問題です。経済成長率が1%から2%、3%、4%と上がり賃金もそれに従って上って行くようになってほしいと考えているわけです。

1990年代までは、日本経済は高度成長から安定成長に変わっても経済は成長し賃金は上がって当たり前の日本でした。しかしバブル破裂以降は「大幅円高」に苦しんでコストカットばかり、企業もコストカット、家計も生活費も小遣いもカットカットでした。

その習慣が身について黒田日銀による円レートの正常化(円安の実現)後も緊縮が企業や家計の習慣になってしまったようでした。

企業は円安で利益が回復したから元気になりましたが、家計は賃金が上がらない上に政府の少子高齢化で年金が危ないというアナウンスもあり、1億皆将来不安、老後不安で貯蓄に励み、10年程も消費が増えない経済が続きました。

このブログの「平均消費性向の長期推移を見る」でも明らかですし、4半期GDP統計を追いかける度に「企業設備中心の片肺飛行」という説明を繰り返しましたが、アベノミクスの失敗の原因の最大のものは「国民に消費を増やせる環境を作れなかった」という事でしょう。

政府はその中で国民の貯蓄を国債発行で借り、借りたお金で国民に補助金など出し、選挙で票を稼いでいたのかもしれませんが、補助金はいつの世でも貧窮援助だけで、経済成長には繋がらないのです。

こうした政策の失敗がやっと解って来た今年の春闘ですが、今度はこれを生かして、国民が自力で消費を積極化し日本経済を「投資と消費のバランスの取れた形」に持っていくような政策が今の政府に取れるでしょうか心配です。

春闘の賃上げ率が5%台になったから多分大丈夫などと考えていたら多分危ういでしょう。

政府は「NISA」で株を買いましょうではなくて、「皆様の積極的な消費が日本経済の立て直しに必要です」といった「メッセージ」でしょう。

野党や国民は「消費税や所得税の減税」をと言うでしょう。出来れば結構、出来ないのであれば、後は、時限的に生前贈与の大幅緩和なども検討の要ありで、企業には時限的な償却率の大幅引き上げで賃上げ原資を支援するぐらいの配慮、証券バブルでの税収増の還元で身銭を切る覚悟など、政府の消費増の徹底支援が必要ではないでしょうか。


次第に落ち着く消費者物価、日銀を支援

2024年03月22日 12時19分01秒 | 経済

今月は、先に東京都区部の消費者物価の速報を、全国の動きの先行指標という意味で取り上げました。今日発表になった全国の消費者物価の動きもやはり同様な動きです。

一昨日、日本銀行が金融政策の変更を発表しましたが、その背景には、マスコミが報じていますように今春闘の賃上げが高めになることがはっきりしたことと同時に、昨年秋からの消費者物価の上昇がゆっくりながら沈静傾向を示している事があることも明らかです。

いつもどおり消費者物価指数の主要3指標のグラフで大きな動きを見ますと下のようです。

   消費者物価すよう3指数の推移(原数値)                   資料:総務省「消費者物価指数」

昨年6月以降は3指数ともほとんど横這いで、「生鮮食品とエネルギーを除く総合」だけが前月より0.1ポイントの上昇で、このままいけば、来年の今頃はせいぜい1%の上昇ぐらいに収まるという事になります。

春闘の賃上げ率が高めで、多少の賃金インフレがあっても、日銀のインフレターゲット2%より大きく上ズレすることはないというのが日銀の判断でしょう。

という事で、これも例月通りの「対前年同月上昇率」を見てみますと。下のグラフです。

     消費者物価3指標の対前年上昇率(%)      資料:上に同じ

前年同月比の数字は、東京都区部の時に触れましたように、1年前に電気・ガスの補助金が始まり、0.6か0.8程度消費者物価の上昇率が下がっていたのですが、2月になそのギャップが消えたせいです。グラフで昨年2月に下がった分が消えたことで対前年同月上昇率が補助金の無い通常の上昇率に戻ったという事です。グラフで見ればこの分が凹んでいるのが解ります。

補助金に関係ない緑の「生鮮とエネを除く総合(いわゆるココア指数)は、はっきりと下っています。3本の線が2%前後に集まって来ましたが、これが実勢という事です。

消費者物価の内訳の10大費目では、加工食品や家具家事品などコアコア指数の中にまだ年5%を超えるものが多く、特に教養娯楽の中では宿泊料が33%の上昇です。

加工食品や家事用品などの生活費需品はコロナ禍の中での消費停滞による値下げ一方の反動で、一昨年から昨年にかけて、波状的に一斉値上げされた分がありますが、今後は沈静化するでしょう。一方、宿泊料は、インバウンドの盛況を考えれば、下がりにくいでしょう。何せ、円安で日本の宿泊料の安さが目立つようですから難しいところです。

大勢としては物価は安定傾向、経済も金融政策も、何とか正常な状態の戻っていくように思われます。

電気・ガスの補助金が終わる時は多少の上昇があるでしょうが、当該企業の適切な対応を期待するところです。


適正賃金決定の重要性を考える

2024年03月21日 20時23分20秒 | 経済

一昨日、植田さんの日銀が、黒田さんが11年前に打ち出した異次元金融緩和との決別を表明し、日本の金融政策は経済成長に即応した正常な政策に戻りました。

この政策転換の契機になったのは、植田さんが繰り返し発言していますように、今春闘での賃上げの結果でした。

今回は多少繰り言の様になりますが、何故黒田さんの時代には出来なくて、漸く今になって可能になったかという問題です。

植田さんも、黒田日銀の異次元金融緩和政策からの脱出という重責を担って日銀総裁に就任しながら、昨年の春闘の際には、行方を注視するだけで、政策変更への行動もなく、巷では「なんだ、これでは今迄と同じじゃないか」などと言う声も聞かれたところですが、今年は全く違って、極めて明確に積極的に異次元金融緩和からの脱出を宣言しました。

問題は、この違いは何処から来たかという事で、植田さんの言葉を借りれば「賃金上昇を伴う物価上昇2%の実現の可能性」ということになります。

そして今年は、春闘の集中回答を受けての連合の賃上げ集計の第一報が5.28%と昨年を大幅に超えるものとなり、更に、地方中小での賃上げの状況が、日銀の支店長会議などからも広く収集された結果もあっての事でしょう。

昨年の場合は、最終集計が3.26%でしたが、毎月勤労統計の平均賃金は1~2%台の上昇で、家計調査の勤労者世帯の実収入は名目で前年比マイナスの月の方が多いといった状況でした。結果的に毎月勤労統計の実質賃金は22カ月連続マイナスという惨状で、これで金融緩和を終了するとはとても言えないといった状況でした。

振り返れば黒田日銀の出発は、円高からの脱出に始まりました、1ドル80円の円レートが120円にまで円安になり、円高不況は終了と思われたのです。黒田さんも、政府と共に掲げた2%インフレターゲットは2年程度で達成と楽観的でした。

これは、企業労使が、円高のために大幅に下げてきた賃金(非正規多用も含め)を円安になったから今度は大幅に上げるだろうと考えていたからでしょう。

もしあの時、企業が非正規の正規化と賃上げの加速をしていれば、賃金水準は上昇し、2%のインフレターゲットは賃金インフレという形ですぐに実現し(多くの国で見られる形)、今植田さんの開始した金融政策の見直しは当然実施せざるをえなくなっていたでしょう。

何故それが出来なかったのかという事ですが、「出来なかった」というより「やらなかった」という事なのかもしれません。

多分最大の理由は、企業労使の頭に、それ以前の20年以上にわたる、「コストカットだけが生き残る道」といった強迫観念が染みついていたことのように思われます。(労使関係にも「慣性の法則」があるようですね)

その後11年の経験を経て、円安になったら賃上げをしたほうが経済合理性にかなっているということに気付いた日本の労使です。

前回最後に「適正賃金の決定」を指摘しましたが、賃金は日本経済の最大のコストであると同時に、国内需要というGDPの最大要素の源泉で、経済の安定した発展のための最重要の研究テーマなのです。にも拘らず、気付くまでにずいぶん時間がかかった事は誠に残念だったと思っています。