司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

株券発行会社であるが株券を発行していない株式会社の株式を取得した者による株主名簿の名義書換請求の可否

2019-07-26 18:16:11 | 会社法(改正商法等)
 旬刊商事法務2019年7月25日号に,髙橋陽一「平成30年度会社法関係重要判例分析(上)」があり,標記に関して,東京高裁平成30年7月11日判決(金判1554号8頁)が紹介されている。

 原審である東京地裁平成30年2月14日判決(金判1554号14頁)が,「Y社は株券発行会社であるが,その設立以来株券は発行されておらず,既に株券発行に必要な合理的期間を優に経過していることからすれば,株式の取得者は,株券の交付なくして株式の取得をY社に主張でき,株券を提示しなくても,実質的権利を証明することにより名義書換を請求することができるものと解される」と判示し,東京高裁も原判決を引用し,是認しているそうだ。

 筆者である髙橋陽一京都大学准教授は,最高裁判例(最大判昭和47年11月8日民集26巻9号1489頁)の考え方から導くことができる,とされている。


cf. 最高裁昭和47年11月8日大法廷判決
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52625

【判示事項】
株式会社が株券の発行を遅滞している場合における意思表示のみによる株式譲渡の効力

【裁判要旨】
株式会社が株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らして、株式譲渡の効力を否定するのを相当としない状況に至つたときは、株券発行前であつても、株主は、意思表示のみにより、会社に対する関係においても有効に株式を譲渡することができる。


 ところで,株券発行会社の株式の譲渡は,当該株式に係る株券を交付しなければ,その効力を生じない(会社法第128条第1項本文)のであり,株券の発行前にした譲渡は,株券発行会社に対し,その効力を生じない(同条第2項)ものとされている。

 この点,上記最高裁判決も,

「以上述べたところから商法二〇四条二項の法意を考えてみると、それは、株式会社が株券を遅滞なく発行することを前提とし、その発行が円滑かつ正確に行なわれるようにするために、会社に対する関係において株券発行前における株式譲渡の効力を否定する趣旨と解すべきであつて、右の前提を欠く場合についてまで、一律に株券発行前の株式譲渡の効力を否定することは、かえつて、右立法の趣旨にもとるものといわなければならない。もつとも、安易に右規定の適用を否定することは、株主の地位に関する法律関係を不明確かつ不安定ならしめるおそれがあるから、これを慎しむべきであるが、少なくとも、会社が右規定の趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するを相当としない状況に立ちいたつた場合においては、株主は、意思表示のみによつて有効に株式を譲渡でき、会社は、もはや、株券発行前であることを理由としてその効力を否定することができず、譲受人を株主として遇しなければならないものと解するのが相当である。この点に関し、最高裁昭和三〇年(オ)第四二六号同三三年一〇月二四日第二小法廷判決・民集一二巻一四号三一九四頁において当裁判所が示した見解は、右の限度において、変更されるべきものである。」

と述べているところである。

 最高裁は,

「安易に右規定の適用を否定することは、株主の地位に関する法律関係を不明確かつ不安定ならしめるおそれがあるから、これを慎しむべきである」

としているのであって,

「少なくとも、会社が右規定の趣旨に反して株券の発行を不当に遅滞し、信義則に照らしても株式譲渡の効力を否定するを相当としない状況に立ちいたつた場合」

に限定して,株式の取得者が救済されるとしたものである。



 なお,株券発行会社において,株券を現実に発行していない場合としては,

① 公開会社でない株式会社において,株主から請求がないために発行していない。
② 公開会社でない株式会社において,株主全員から不所持申出を受けた。
③ 公開会社において,株主全員から不所持申出を受けた。
④ 公開会社において,違法に株券を発行していない。

という4つのケースが考えられる。

 上記東京高裁判決の事案は,おそらく④のケースであると思われ,そうであれば,最高裁判決の事案と類似するものである。最高裁判決の事案の当時は,他の3つのケースは存せず,①は平成16年商法改正により,②及び③は昭和41年商法改正により許容されることになったものである。

 しかし,現行の会社法下において,④のケースを他の3つのケースと殊更に区別して,株券の発行の請求をしなくてもよい,とする合理性はないと思われる(請求するのは,容易である。)。


 したがって,上記東京高裁判決の事案のように,株主が株式会社に対して株券の発行を請求することをせずにした株式の譲渡の場合の株式の取得者が,上記「最高裁判決の考え方」から救済されると考えるのは,甚だ疑問である。
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成年年齢の引下げにより,「成年に達するまで」支払う養育費は?

2019-07-26 17:34:10 | 民法改正
日経記事(有料会員限定)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO47777060V20C19A7KNTP00/

「従前どおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられる」(後掲法務省Q&A)

 そこまで支払が継続すればよいのであるが。


cf. 民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について by 法務省
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00218.html

Q6 養育費はどうなるのですか?

A 子の養育費について,「子が成年に達するまで養育費を支払う」との取決めがされていることがあります。成年年齢が引き下げられた場合にこのような取決めがどうなるか心配になるかもしれませんが,取決めがされた時点では成年年齢が20歳であったことからしますと,成年年齢が引き下げられたとしても,従前どおり20歳まで養育費の支払義務を負うことになると考えられます。
 また,養育費は,子が未成熟であって経済的に自立することを期待することができない場合に支払われるものなので,子が成年に達したとしても,経済的に未成熟である場合には,養育費を支払う義務を負うことになります。このため,成年年齢が引き下げられたからといって,養育費の支払期間が当然に「18歳に達するまで」ということになるわけではありません。例えば,子が大学に進学している場合には,大学を卒業するまで養育費の支払義務を負うことも多いと考えられます。
 なお,今後,新たに養育費に関する取決めをする場合には,「22歳に達した後の3月まで」といった形で,明確に支払期間の終期を定めることが望ましいと考えられます。
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遺言執行者の権利義務と経過措置

2019-07-26 16:52:06 | 民法改正
 原則施行日(令和元年7月1日)以後に開始した相続に関して,同日前にされた遺言があり,当該遺言に係る遺言執行者の権利義務は如何。


1.遺贈について
 改正により,遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができるものとされた(民法第1012条第2項)。

 この点に関しては,経過措置があり,「新民法第1012条の規定は,施行日前に開始した相続に関し,施行日以後に遺言執行者となる者にも,適用する」(附則第8条第1項)ものとされている。

 したがって,設示の事例においては,当然に新法が適用され,改正前のように,共同相続人全員が登記義務者となって申請することはできない。

 遺言執行者に指定されていた者が既に死亡していた場合や就職を承諾しなかった場合は,「遺言執行者がある場合」に当たらないとして,共同相続人全員が登記義務者となって申請することができる(敢えて家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをする必要はない。)とも考えられる。

 しかし,遺言執行者のありやなしやで,対抗関係にも大きな影響がある(原則施行日(令和元年7月1日)以後に開始した相続に関しては,同日前にされた遺言があっても,新法主義である。)ことを考えると,遺言執行者の指定がされていた場合に,同人が既に死亡していたときや就職を承諾しなかったときは,家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立てをした上で,選任された遺言執行者が遺贈の履行を行うべきであると考えるべきであろう。


2.特定財産承継遺言による財産の承継について
 改正により,遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言があったときは,遺言執行者は,当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる(民法第1014条第2項)ものとされた。

 すなわち,遺言執行者は,いわゆる「相続させる遺言」において,受益相続人のために,相続登記を申請することができることとなったものである。

 この点に関しては,経過措置があり,「新民法第1014条第2項から第4項までの規定は、施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しない」(附則第8条第2項)ものとされている。

 したがって,設示の事例においては,旧法が適用され,遺言執行者は,相続登記を申請することはできない。



民法
 (遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

改正附則
 (遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)
第8条 新民法第1007条第2項及び第1012条の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に遺言執行者となる者にも、適用する。
2 新民法第1014条第2項から第4項までの規定は、施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しない。
3 施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については、新民法第1016条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
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8月3日は「司法書士の日」!高校生向け「一日司法書士」体験を実施

2019-07-26 09:35:23 | 司法書士(改正不動産登記法等)
8月3日は「司法書士の日」!高校生向け「一日司法書士」体験を実施
https://www.sankeibiz.jp/business/news/190725/prl1907251025017-n1.htm?fbclid=IwAR3vy0OGn7uWA0cVTT7w-CqJAb1yKBHsrCwkevaIWhC1FCrKf9VcB-Gof-I

「日本司法書士会連合会(所在地:東京都新宿区、会長:今川 嘉典)は、8月3日が「司法書士の日」であることを記念し、全国14府県の司法書士会で高校生のための「一日司法書士」体験を実施します。」
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