「日経ヨクヨム◯◯になる」(◯◯内の文字は(*1)を参照)というフレーズを聞くようになったのは経済評論家の某氏が言い始めてからだが、実際に日経新聞には的はずれな記事や偏向的な記事が掲載される事が多く、その実態が社会に周知されるようになってから自然に広がったようである。今回は、この日本経済新聞の「程度」について数量政策学者の高橋洋一氏の解説をベースに記してゆく事にする。
日本経済新聞が2022年2月20日に次の記事を掲載した。
「円の実力、なぜ50年ぶり低水準に 再浮上はあるか」
有料記事だが、日経はここで
『通貨の実力は「実質実効為替レート」と呼ぶ指標で測る。』
と記しており、この難しそうな指標をベースに「円の実力が低水準に落ちている」という趣旨で記事を展開している。
高橋氏はこの記事について「日経クォリティの典型」と言う。ここで掲げられた「実質実効為替レート」という言葉・・・。この言葉を知る人は実はほとんどいないのである。マーケットの人間に聞いても恐らく誰も知らないであろう、という言葉なのだ。
なぜか。
こんな言葉は使わないからである。(笑)
ここで日経がやろうとしたのは「最初にちょっとむずかしい言葉を提示して読者を怯ませる、または煙に巻く」…である。読者はこんな言葉を知らないのだから日経としてはいかようにも記事を展開できるのだ。
実はこの手法は官僚がメディアの記者に説明をする時にもよく使われるものなのである。高橋氏も財務省官僚だった時には使ったそうだ。(*2)
まずはちょっと小難しい話を記者に投げかける。記者は全然理解できず頭の中が真っ白になってしまうので「なんですか?」「それは何なのですか?」ばかりになってしまう。そこを教えてあげてレクチャーする側が優位に立つのである。その後の記者たちは全部言う通りに受け止めて、その通りに記事を書くことになるのだ。これが狙いであり、日経もまたその手法を使った、ということだ。
日経が「実質実効為替レート」という言葉を使い、それを聞いた人がマーケットの人に「これって何ですか?」と聞いてまわれば、それがどのような言葉であるかはすぐに判る。誰も答えられないからである。(笑)普段、そんな言葉は誰も使ってないのだ。さらに言えば、世界のマーケットでもこんな言葉は使わないのである。実質実効為替レートが上がった下がったでどうのこうのという議論が記されたマスコミ記事は無い。
「実質実効為替レート」という言葉があるのは事実であり、そういう概念も存在する。(*3)
各国の中央銀行の集まりのような組織で国際決済銀行(BIS)というのがあるが、そこでこのレートの統計を作っているのも事実である。
・・・しかし、「だから何なの?」というレベルの話なのだ。
どういうことか?
その指標をマスコミは「その国の通貨の実力」として紹介するのだが、実は「誰もそんなものを頼りにしていない」のだし、「そんな指標を意識していない」のである。これが実態だ。
説明しよう。
為替レートで、円高になると「100円でどれだけ買えるか」という時に、現在は120円だが、これが円高になると100円で1ドルが買える。従って、円高になるということはより多くのドルが得られるという意味であり、そこは間違いない。
ただ、「より多くのドルが得られるか」という事と「通貨の実力が高いか低いか」は全然別の話である。
どういうことか。
輸入業者から見れば円高はありがたいことである。しかし輸出業者から見れば円高は困る事態である。つまりこれは「どちらもある」ということなのだ。通貨が動いたからと言って実力とは関係ない話なのだ。←この認識がベースになっていなければならない。ここが基本である。
このような実質実効為替レートで円高になろうが円安になろうが「円の実力」と言ったところで輸入業者にとってはありがたいことだが、輸出業者にとっては全然逆なので、その意味ではあまり関係ない指標なのである。繰り返すがこの認識がベースになるのだ。
・・・にも関わらず、日経は「円の実力」という表現をすることによって「なんとなく円高が良いように思わせる」という一種の印象操作をしている…ということだ。それだけのことなのである。これによって「良い」と思うのは輸入業者だけであり輸出業者にとっては全く違う、ということになる。
それだけで終わる事をわざわざ「実力」という仰々しい言葉を使うことで「為替が安くなったのは悪いこと」であるかのように説明したいだけ、なのである。本当にその程度の記事なのである。
日経は「円の実力」と言ってBISの記事を引用しているのだが、実はBISの統計は25~26ヶ国の1960年以降のデータが蓄積されている。そのデータの日本以外の各国のデータを見れば一目瞭然なのだ。日経は「日本は50年ぶりぐらいに円安になって低水準だ」という言い方をするのだが、その50年間で同じ変化で他の国を調べればどうなっているかすぐに判る。
BIS資料より(クリックで拡大画像表示)
上記画像のグラフを見ると、イギリス、スウェーデン、フィンランド、フランス、メキシコなどは日本よりもはるかに通貨安になっている。しかし、それらの国で「これが大変だ」とする記事など全く無いのである。
すなわち、日経の記事は全く意味がない、ということだ。こうした記事を掲載する時に、あたかも日本だけが酷かったかのように書くのだが、BISデータを見るならば、25~26ヶ国全部のデータがあるので、他国のデータと比較すれば問題ない事が自ずと判るのである。
日本はこの50年間を見ると上がったり下がったりはあったが、BISのデータに依れば50年前と比較して円安でも円高でもないのである。これが事実だ。逆に言えば、上述の各国ははるかに自国通貨安になっているのである。それ以外の国も半分くらいはあるのだ。日本は、と言えば中間くらいの水準である。
つまり・・・
これは別に大した話ではないのだ。にも関わらず、日経はさも大きな問題であるかのように何ページにも渡って書き連ねるのである。(笑)高橋氏は「(このネタで)よく何ページも書けるね」と呆れている。記者の頭の中の創作のような話になっているから…である。
日経はなぜ「円高に誘導したい記事」を書いたのだろうか?
それは今までそういう趣旨の記事を書きまくってきたからである。
実を言えば政府も「円高は悪くなかった。良かった」というイメージを若干は言っていたのだ。新聞はずっとその方向で報道をしてきたのでこうなってしまったのかもしれない。
BISのデータを見てみると、これの日本の数字だけにスポットを当てると見えてくるものがある。1960年代から70年代は円安だったのだが、その後はずっと1990年代まで高くなっているのだ。それはちょうど成長と軌を一にしているように見えるのである。そして、その後でまた円安になっているので「日本経済新聞はなんとなく成長と円高が一緒であるかのように勘違いしている」ということが読み取れるのである。これははっきり言うと「たまたまそうなった」だけなのだが。(笑)為替と経済成長は関係ないのである。為替が高くなったら輸入業者は良いが輸出業者は不利になる…それだけの話しなのだ。
では、どうして高度成長の時代に円高になったのだろうか?
それは簡単な話である。
その昔、固定相場だった時代には1ドルは360円だった。あのレートは実は適当に決めた数字なのだ。(笑)本当のところは1ドル150円くらいにするべきだったのだが、360円に決めてしまったので、戦後はだんだんあるべき数字(1ドル150円くらい)に収束していくような過程になったのである。そこに近づいていくというモーメントばかりだったので、それで円高になっているのである。ただそれだけなのだ。
ちなみになぜ最初に1ドル360円に決まったのだろうか?
実は適当な経緯があった。
どういうことか。
360円という数字。「(丸い)円」というのは360度だから360円にした…という、そういう説もあるくらいに適当に決めてしまった、というのが本当のところなのだ。本来のあるべきレートで言うなら百数十円程度にすべきところを非常に円安になるよう有利に決めてもらった…というのが実態である。だから当時の輸出産業はとても儲かったのである。それに依って高度成長が決まってきたという側面もあるのだ。
とても変わった為替レートにしてそれに意味をもたせる場合というのはあるのだが、今や変動相場制になっているので実はそれほど為替レートに意味はないのである。意味はないのだが、変な水準に決めて、それをキャッチアップする過程で高度成長が一緒に起こったという経緯から「円高が良い」と思い込んでしまったのだろう、日経は。はっきり言えばそれは違うのだが・・・。
円高と円安。立場に依って良かったり悪かったりするものである。立場に依って異なるのだから「全部に良い」というものはなかなか無いのが実情だ。これが真実である。
要するに日本経済新聞はこれが未だに理解できていないのである。だからこんな記事を書いてしまうのだ。
だから・・・日経ヨクヨム◯◯になる…のである。
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(*1)
1つ目の◯には動物の「馬」が該当する。そして、2つ目の◯には同じく動物の「鹿」が当てはまる。
(*2)
政策には様々なものがあり、たまには一般に馴染みのない言葉を出すことがある。それは仕方がない。
(*3)
「実質実効為替レート」は通貨本来の強さを表す指標。 この指標は約60カ国・地域の通貨を比較し、各々の国の物価や貿易量を加味した上で算出したものである。 ドル円やユーロ円のような2国間のレートよりも、通貨の総合力が分かる、とされるのが実質実効為替レートである。
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日本経済新聞が2022年2月20日に次の記事を掲載した。
「円の実力、なぜ50年ぶり低水準に 再浮上はあるか」
有料記事だが、日経はここで
『通貨の実力は「実質実効為替レート」と呼ぶ指標で測る。』
と記しており、この難しそうな指標をベースに「円の実力が低水準に落ちている」という趣旨で記事を展開している。
高橋氏はこの記事について「日経クォリティの典型」と言う。ここで掲げられた「実質実効為替レート」という言葉・・・。この言葉を知る人は実はほとんどいないのである。マーケットの人間に聞いても恐らく誰も知らないであろう、という言葉なのだ。
なぜか。
こんな言葉は使わないからである。(笑)
ここで日経がやろうとしたのは「最初にちょっとむずかしい言葉を提示して読者を怯ませる、または煙に巻く」…である。読者はこんな言葉を知らないのだから日経としてはいかようにも記事を展開できるのだ。
実はこの手法は官僚がメディアの記者に説明をする時にもよく使われるものなのである。高橋氏も財務省官僚だった時には使ったそうだ。(*2)
まずはちょっと小難しい話を記者に投げかける。記者は全然理解できず頭の中が真っ白になってしまうので「なんですか?」「それは何なのですか?」ばかりになってしまう。そこを教えてあげてレクチャーする側が優位に立つのである。その後の記者たちは全部言う通りに受け止めて、その通りに記事を書くことになるのだ。これが狙いであり、日経もまたその手法を使った、ということだ。
日経が「実質実効為替レート」という言葉を使い、それを聞いた人がマーケットの人に「これって何ですか?」と聞いてまわれば、それがどのような言葉であるかはすぐに判る。誰も答えられないからである。(笑)普段、そんな言葉は誰も使ってないのだ。さらに言えば、世界のマーケットでもこんな言葉は使わないのである。実質実効為替レートが上がった下がったでどうのこうのという議論が記されたマスコミ記事は無い。
「実質実効為替レート」という言葉があるのは事実であり、そういう概念も存在する。(*3)
各国の中央銀行の集まりのような組織で国際決済銀行(BIS)というのがあるが、そこでこのレートの統計を作っているのも事実である。
・・・しかし、「だから何なの?」というレベルの話なのだ。
どういうことか?
その指標をマスコミは「その国の通貨の実力」として紹介するのだが、実は「誰もそんなものを頼りにしていない」のだし、「そんな指標を意識していない」のである。これが実態だ。
説明しよう。
為替レートで、円高になると「100円でどれだけ買えるか」という時に、現在は120円だが、これが円高になると100円で1ドルが買える。従って、円高になるということはより多くのドルが得られるという意味であり、そこは間違いない。
ただ、「より多くのドルが得られるか」という事と「通貨の実力が高いか低いか」は全然別の話である。
どういうことか。
輸入業者から見れば円高はありがたいことである。しかし輸出業者から見れば円高は困る事態である。つまりこれは「どちらもある」ということなのだ。通貨が動いたからと言って実力とは関係ない話なのだ。←この認識がベースになっていなければならない。ここが基本である。
このような実質実効為替レートで円高になろうが円安になろうが「円の実力」と言ったところで輸入業者にとってはありがたいことだが、輸出業者にとっては全然逆なので、その意味ではあまり関係ない指標なのである。繰り返すがこの認識がベースになるのだ。
・・・にも関わらず、日経は「円の実力」という表現をすることによって「なんとなく円高が良いように思わせる」という一種の印象操作をしている…ということだ。それだけのことなのである。これによって「良い」と思うのは輸入業者だけであり輸出業者にとっては全く違う、ということになる。
それだけで終わる事をわざわざ「実力」という仰々しい言葉を使うことで「為替が安くなったのは悪いこと」であるかのように説明したいだけ、なのである。本当にその程度の記事なのである。
日経は「円の実力」と言ってBISの記事を引用しているのだが、実はBISの統計は25~26ヶ国の1960年以降のデータが蓄積されている。そのデータの日本以外の各国のデータを見れば一目瞭然なのだ。日経は「日本は50年ぶりぐらいに円安になって低水準だ」という言い方をするのだが、その50年間で同じ変化で他の国を調べればどうなっているかすぐに判る。
BIS資料より(クリックで拡大画像表示)
上記画像のグラフを見ると、イギリス、スウェーデン、フィンランド、フランス、メキシコなどは日本よりもはるかに通貨安になっている。しかし、それらの国で「これが大変だ」とする記事など全く無いのである。
すなわち、日経の記事は全く意味がない、ということだ。こうした記事を掲載する時に、あたかも日本だけが酷かったかのように書くのだが、BISデータを見るならば、25~26ヶ国全部のデータがあるので、他国のデータと比較すれば問題ない事が自ずと判るのである。
日本はこの50年間を見ると上がったり下がったりはあったが、BISのデータに依れば50年前と比較して円安でも円高でもないのである。これが事実だ。逆に言えば、上述の各国ははるかに自国通貨安になっているのである。それ以外の国も半分くらいはあるのだ。日本は、と言えば中間くらいの水準である。
つまり・・・
これは別に大した話ではないのだ。にも関わらず、日経はさも大きな問題であるかのように何ページにも渡って書き連ねるのである。(笑)高橋氏は「(このネタで)よく何ページも書けるね」と呆れている。記者の頭の中の創作のような話になっているから…である。
日経はなぜ「円高に誘導したい記事」を書いたのだろうか?
それは今までそういう趣旨の記事を書きまくってきたからである。
実を言えば政府も「円高は悪くなかった。良かった」というイメージを若干は言っていたのだ。新聞はずっとその方向で報道をしてきたのでこうなってしまったのかもしれない。
BISのデータを見てみると、これの日本の数字だけにスポットを当てると見えてくるものがある。1960年代から70年代は円安だったのだが、その後はずっと1990年代まで高くなっているのだ。それはちょうど成長と軌を一にしているように見えるのである。そして、その後でまた円安になっているので「日本経済新聞はなんとなく成長と円高が一緒であるかのように勘違いしている」ということが読み取れるのである。これははっきり言うと「たまたまそうなった」だけなのだが。(笑)為替と経済成長は関係ないのである。為替が高くなったら輸入業者は良いが輸出業者は不利になる…それだけの話しなのだ。
では、どうして高度成長の時代に円高になったのだろうか?
それは簡単な話である。
その昔、固定相場だった時代には1ドルは360円だった。あのレートは実は適当に決めた数字なのだ。(笑)本当のところは1ドル150円くらいにするべきだったのだが、360円に決めてしまったので、戦後はだんだんあるべき数字(1ドル150円くらい)に収束していくような過程になったのである。そこに近づいていくというモーメントばかりだったので、それで円高になっているのである。ただそれだけなのだ。
ちなみになぜ最初に1ドル360円に決まったのだろうか?
実は適当な経緯があった。
どういうことか。
360円という数字。「(丸い)円」というのは360度だから360円にした…という、そういう説もあるくらいに適当に決めてしまった、というのが本当のところなのだ。本来のあるべきレートで言うなら百数十円程度にすべきところを非常に円安になるよう有利に決めてもらった…というのが実態である。だから当時の輸出産業はとても儲かったのである。それに依って高度成長が決まってきたという側面もあるのだ。
とても変わった為替レートにしてそれに意味をもたせる場合というのはあるのだが、今や変動相場制になっているので実はそれほど為替レートに意味はないのである。意味はないのだが、変な水準に決めて、それをキャッチアップする過程で高度成長が一緒に起こったという経緯から「円高が良い」と思い込んでしまったのだろう、日経は。はっきり言えばそれは違うのだが・・・。
円高と円安。立場に依って良かったり悪かったりするものである。立場に依って異なるのだから「全部に良い」というものはなかなか無いのが実情だ。これが真実である。
要するに日本経済新聞はこれが未だに理解できていないのである。だからこんな記事を書いてしまうのだ。
だから・・・日経ヨクヨム◯◯になる…のである。
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(*1)
1つ目の◯には動物の「馬」が該当する。そして、2つ目の◯には同じく動物の「鹿」が当てはまる。
(*2)
政策には様々なものがあり、たまには一般に馴染みのない言葉を出すことがある。それは仕方がない。
(*3)
「実質実効為替レート」は通貨本来の強さを表す指標。 この指標は約60カ国・地域の通貨を比較し、各々の国の物価や貿易量を加味した上で算出したものである。 ドル円やユーロ円のような2国間のレートよりも、通貨の総合力が分かる、とされるのが実質実効為替レートである。
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