田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

キタナミイソアシナガバエ

2009-11-29 | ハエ目(双翅目)
キタナミイソアシナガバエが暮らす河口
キタナミイソアシナガバエ Conchopus borealis Takagiが暮らす海岸

ここは紀伊半島の東海岸、海は伊勢湾の湾央部。海のかなたに湾口がある。周辺の海岸は砂浜。

三重県津市の豊津海岸に海浜岩礁性アシナガバエのキタナミイソアシナガバエが他の数種のナミイソアシナガバエ属の仲間や他のハエたちと混生して暮らしている。
小さな川の河口にコンクリートのテトラポットや大きな石が置かれている。石にはフジツボ類やムラサキイガイが付着し、アオサ類も生えている。
干潮時にこの堤防の先端あたりまで歩いていくと、何種類ものハエたちが飛び交う。ムラサキイガイに脚を挟まれているヤマトイソユスリカも見かけたことがある。雄の翅端に暗褐色紋があるツマグロイソハナバエもいる。岩礁で生活するニセミギワバエ科CanacidaeのProcanaceニセミギワバエ属の1種もいる。
数種のナミイソアシナガバエ属の仲間とは、C. poseidoniusにきわめて近縁な未記載種と四国から記録されたクロスジクチナガイソアシナガバエC. convergens Takagi(写真撮影のみで捕獲できていない)である。

新訂原色昆虫大図鑑Ⅲによると、キタナミイソアシナガバエは「♂:口吻は複眼の高さより短い;第3触角節は短く,その長さは幅の1.5倍;翅は単純,ただし中室前縁脈とこれに続くM1+2脈は肥大する;中脛節と第1付小節には長い刺毛が直立して生じる。体長4.2~5.5㎜,翅長4.2~5.5mm。♀:体長4~5.5㎜,翅長4.6~5.8mm。分布:北海道・本州北半部;北アメリカ西海岸・メキシコ湾。」

また、同書には「日本原産のキタナミイソアシナガバエ C. borealis は北アメリカ太平洋岸からメキシコ湾岸へと分布を拡大しているが、これは人為的な移入と考えられる。」との記載もある。

同書のナミイソアシナガバエ属Conchopusの種の検索表には、キタナミイソアシナガバエは「♂の中脛節と中付節第1付小節は前面に節の径の3~4倍長の直立した長毛を列生する;♀の翅長は4.6~5.8mm(北海道・本州北部太平洋岸)」とある。

さらに同書の「海浜岩礁性アシナガバエの属の検索表」を見ると、ナミイソアシナガバエ属は「背側剛毛は2本,後方の背側剛毛がある;小顎鬚は頭蓋と関節する;♂の胸背の斑紋,特に白斑は極めて明瞭;側背板に刺毛を持つもの(rectus群)と持たないものがある」

参考文献を見ると、九州の鹿児島県でも採集されているようだが、なぜか同文献の分布図には載せていない。図鑑に書かれている分布にも九州は入っていない。

キタナミイソアシナガバエの三重県内の記録は、1995年7月中旬に伊勢湾口の神島においてその生息が確認されている。

ヤマトイソユスリカ以外のハエたちの同定は三枝豊平博士によるものである。博士からは「Cochopusナミイソアシナガバエ属の種は雌ですと画像ではなかなか正確な同定がしがたいものです。」とのコメントもいただいている。

クチナガイソアシナガバエの仲間

参考文献
Kazuhiro Masunaga, Toyohei Saigusa and Norman E. Woodley: 1999, A Remarkable Disjunct Introduction of Conchopus borealis Takagi to the New World (Diptera : Dolichopodidae).Entomological science , 2(3), pp. 399-404,日本昆虫学会.
平嶋義宏・森本 桂(監修),2008.新訂原色昆虫大図鑑第Ⅲ巻.北隆館,東京.

キタナミイソアシナガバエ
2009.5.15 キタナミイソアシナガバエ雌雄 ♂の胸背の斑紋,特に白斑は極めて明瞭

キタナミイソアシナガバエ
2009.5.15 キタナミイソアシナガバエ雌雄

キタナミイソアシナガバエ

キタナミイソアシナガバエ