(前回からの続き)
前回、米ジョー・バイデン政権は、高まる一方のインフレ圧力を少しでも和らげるべく、近いうち、米国民の日常生活に不可欠の中華輸入品に対する「トランプ関税」の撤廃(あるいは大幅な引き下げ)に動く・・・というより、そうせざるを得ないだろう、という個人的な見通しをご紹介しました。何度も強調しますが、本来のインフレ退治は金融政策(量的緩和停止そして利上げ等の引き締め)で行うべきところ、(今度はこれで生じる金利上昇に借金まみれの米国民&米金融システムが耐えきれないので)アメリカ(FRB)にはこれができません。よって、金融政策以外のインフレ抑制策でちょっぴりでも効果がありそうなのは・・・って、それくらいしかないだろう、ってことで・・・
まあそれほどに米国民はメイド・イン・チャイナに依存し切っているはずです。よってこれを代替する製品を自分たちで作る能力なんてありません。だからこそ、前述のように、対中関税が課された期間に当たる昨年もアメリカの貿易赤字は過去最大を記録し、相手国別では中国に対する赤字が相手国中で第1位になったわけです。であれば、貿易不均衡是正なんてできもしない(実際、できなかった)目標はさっさと取り下げ、米バイデン政権は、国民益の観点から同撤廃等を決断し、人々が中国からの輸入品を少しでも安く手に入れられるようにしたほうがよいと思いますけれどね・・・
・・・ってなれば、中国にとっては「しめたもの」です。上記のとおり、ただでさえ対米輸出は順調なところ、トランプ関税がなくなれば、その黒字(アメリカにとっては貿易赤字)がいっそう増えるのは明らかでしょう。もちろん中国は、トランプ氏らよりもずっとしたたかですから、アメリカがこうして「敗北」(同関税撤廃)しても「ほ~ら、いわんこっちゃない、どのみち貿易戦争に勝つのはわれわれ中国だ!」なんて本心は胸の内にとどめ、けっして口にしません。利益が増えればそれでいいのですからね・・・
そして中国にも、こうしてドルをもっと稼がないとならない切実な事情があります。同国としては、ドルの利回りが実質マイナス圏に没入しているため、その単位当たりの価値の目減りを補うべく、ドルをもっとたくさん獲得しなければならなくなった、ということです。本稿一回目でご紹介したように、アメリカの「紙おむつ」代は昨年から8.7%も値上がりしていますから、これに沿っていえば、昨年1ドルの売り上げがあったとしたら今年は1.1ドル弱でトントン、同じ1ドルでは実質減益・・・みたいな感じでしょうか・・・
こちらの記事に書いたように、中国という国は、共産主義・・・などではなく、米ドルに基づいてできています。したがって、その土台であるドルのインフレ化は、自身の存立が揺らぐことを意味します。これを食い止める策としては、上記のとおり、ドルの「質」の劣化をその「量」のいっそうの確保で補って総額での価値を維持することくらいしかないと思われます。かの国に、いまさら依って立つところをドルに代わる何か他の資産にチェンジするなんて無理でしょうからね。もっとも、米FRBの金融政策が実質的に制御不能に陥っている(金融引き締めができなくなっている)なか、ドル劣化は今後いっそう速まるでしょうから(?)、そんな綱渡りみたいなこと、できてもせいぜい数年くらいのような気が・・・