(前回からの続き)
前述のように、アメリカの経済社会は、鉄鋼、自動車、精密機械類、はては鉄道車両といったモノ(財)の多くを外国品に依存せざるを得ない構造になっており、これらの流入を関税障壁でブロックし、その分を自国企業に作らせるというドナルド・トランプ政権の戦略はたいへんな手間と何十年分もの時間がかかる・・・というより、はっきりいって不可能といえるでしょう。アメリカのモノ作り産業の大半はとっくの昔に国際競争力を失って衰退、ヒドイ場合は消滅し、それ以降いままでの間に必要な設備、技術、人財などなどの基盤がなくなっているはずです。これらを支えるべき教育機関における研究開発や後継者育成等も同様でしょう。したがって、「Make America great again!」基づいて、かりに産業再生を図ろうというのであれば、産学ともに創業的出直しの覚悟で、他国の企業や研究者や技能を有する人たち等に教えを乞う―――たとえば中国メーカーにお願いして地下鉄の作り方をABCから教えてもらう―――くらいの謙虚さ(?)が必要でしょう。けれどこのあたりも非常に難しいでしょう。ステイツの国民はプライドが高く、外国人に頭を下げることがなかなかできないでしょうからね・・・(?)
といったようにアメリカは、外国とのモノのやりとり(貿易)に関しては、前稿で述べた「何もない」国である英国・・・ほど極端ではないにしろ、実質的には同国と同じようにモノを広く大量に外国から買ってくるしかなく、その結果が本稿冒頭でご紹介した巨額の貿易赤字となっています。そんな国、通常なら破綻、具体的には激しいインフレ(=通貨安)で市民生活が破壊されていてもおかしくはありません・・・
・・・が、にもかかわらずアメリカが成り立っているのは、いうまでもなくドル≒基軸通貨(本ブログの定義では「石油交換券」)のおかげです。米ドルを差し出せば外国はこれを対価として喜んで受け取り、モノをアメリカに売るわけです。そしてドルを得た各国もまた、石油をはじめとするあらゆるモノの決済通貨としてこれを使ったり、準備通貨として蓄えたりしています。このあたり、アメリカそして同国の貿易相手国(とくに中国)の双方ともに満足・・・しているように思えます、あくまでもいまのところは(?)。
こう考えると、アメリカがモノの多くを他国に頼りっきりになってしまったのはドルのせい、という見方もできるでしょう。つまり同国は、ドルがあれば何でもヨソから買えるから、何も苦労して自国産業を振興・育成などしなくてもいいや、とついついサボってしまいがちになり、これが積もりに積もっていまに至る、といった感じ。それは、天然資源に恵まれた国が、それを売りさえすれば何でも手に入るから、という理由で成長等を怠るのと同じです。これを「資源の呪い」といいますが、これになぞらえるとアメリカは「ドルの呪い」に陥っているといえますね・・・