(前回からの続き)
前回、いまのアメリカにとって原油価格のゴルディロックスな(ほどよい)範囲は1バレル100ドル程度以上だろう、とする個人的な想定を綴りました。で、この100ドルですが、テキト~な数字ではなく、こちらの記事等で書いた、いわゆる「逆オイルショック」突入前の、つまり2014年夏頃までの価格になります。当時は産油国も米シェール業者も、先述した資金繰り不安などとは無縁だったはず。そしてだからこそこれらの国債とか社債は高値で(低利回りで)取引され、市場モードもリスクオンでした。なぜなら、100ドル・・・を上回る高い水準だったからです、原油価格が。
では、あのころ100ドル超もの高値となっていた最大の理由は?ですが、米経済が絶好調だったから、でも、中国が高度経済成長を続けていたから、でも、中東地域で大きな武力紛争があったから、でもなく、超緩和的な金融政策すなわちFRBの量的緩和策(QE)が行われていたから、にほかなりません。そのあたりはQE終了(同年10月)直前の同年の秋口あたりから原油価格が急落していったことから容易に推察できるというものです。つまり「FRBはQEを止めて金融引き締めに移る気だ。であれば今後は超低金利マネーが市場から回収されていくだろう」と予想した投資家が同時期から原油取引を手じまった、ということです。
となると、原油1バレル100ドル再現の決め手は、自ずとFRBの金融緩和アゲインになってくる感じです。そして実際、FRBは再び緩和方向に舵を切っているのはご存知のとおりで、4回目のQEに踏み出すのも間もなくでしょう(?)。したがって(米一般国民は猛反発するでしょうが)市場が待ち望む100ドル超えもまた、そう遠くない時期に達成されるかも・・・
・・・って、ところがコトはそう単純ではない、のではないでしょうか。たしかに、FRBの金融緩和によって市場は活気づきます。現に、先月末のFOMCでの利下げ決定(FF金利誘導レンジがそれまでより0.25%引き下げられて1.5~1.75%に設定)を受けて、株式市場ではダウ平均が史上最高値!付近に達するなど、リスクオン・モードが高まっている印象です(って、何度も指摘しますが、米株価は米中貿易交渉の進展期待などで上がっているのではありません)。けれど肝心の?原油価格の方は現時点(日本時間6日)で1バレル56ドル(WTI)程度と、FOMC前とほとんど変化はありません。
もっとも、利下げされたとはいえ、まだ「ゼロ」までには相当な金利差があるわけで、これがゼロそして以前のようにQE(実質マイナス金利)が始まれば、利息の付かない原油投資の妙味が増すからその価格は上昇に向かうだろう、といった見方もできるかも。ですがその局面では、高値を待ちわびていた米シェール会社や各産油国が売り物を大量に市場に出すでしょうから、どうしても上値は抑えられ、そのために投機熱も冷めて、やがては価格低下へ、となっていきそうです・・・
かくして、決め手であったはずのQEでも原油価格は期待したように―――1バレル100ドル超の水準に―――上がっていってくれない・・・ということになるのではないか。これQE再発動後の、つまり一見、リスクが遠のいたと思われたアメリカの金融経済にとって非常にマズい状況となるでしょう。というのも、いくらQEで株価とか不動産価格を押し上げたところで、原油価格がこうも低迷したままでは、シェール業者のデフォルト等を端緒とした金利上昇リスクを封じ込めることができないからです・・・