いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

蝶になるとき 47編

2005年08月17日 07時58分52秒 | 娘のエッセイ
 少女が女性へと成長し、美しくなった時のことを『サナギから蝶になった』と形
容することがある。

 学校を卒業した後、偶然に同級生の男の子に会い、情報交換をした時など、そ
の会話の中に「あいつ化粧もちやんとして、綺麗になっていたぞ」なんていう台詞
によく出会ったものだった。

 数年前、同じ教室で試験の点を競い合い、遊び、先生にビンタをくらったアイツ
が、化粧をしてお洒落な服に身を包み、ハイヒールを履いて、ほのかに甘い香水
の香りなどを振りまいている。

そんな女の子の大変身を目の当たりにした男の子は、きっとほんの一滴の蜂蜜
を垂らしたレモンを食べた時のように、甘い感傷と、すっぱい後悔の念を密かに
胸に抱いていたに違いない。

 『アイツ、綺麗になっていたぞ』という言葉の命は短い。ほんの一瞬である。
その時期を過ぎてしまえば、『綺麗』の意味はまた変わってしまうからだ。

 ところで、今の女の子達。通学時にも、随分と自由に様々なことを楽しんでい
る。ピアスや指輪などの装飾品も自由、髪型自由、鞄もコートも好きなものでい
いらしい。

その上、色つきリップなどという可愛らしいものではなく、しっかりと口紅を塗っ
ている女の子もよくいる。私達の頃(十年程前)と比べれば雲泥の差で、今の子
の方がお洒落で綺麗だ。

 でも……と思う。彼女達は、学校を卒業して面倒な制約がなくなった後も、きっ
とあまり変わらないのだろうな、と。

 今から中途半端に羽を広げてしまっている彼女達は、一瞬にして大変身をする
感動に満ちた機械を失ってしまったのではないか? 女の子と女性との僅かな隙
間に発生する綺麗と言われる瞬間を。

 もったいないなぁ……。あまり若いうちから綺麗の無駄遣いはしないほうがいい
のにな、と彼女達の耳元に光るピアスを見ながら、そんな思いがふと、頭をよぎっ
ていった。
コメント (1)
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