sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:きみは行く先を知らない

2023-09-17 | 映画


映画のハシゴは基本同じ映画館でするんだけど、これはわざわざ移動する甲斐があった!
もうね、ちょっとね、あんまり良すぎて、パンフレット買わない派のわたしが買ってしまった。
パンフレットは多分映画50本に一回くらいしか買わないんだけど、この映画がその1本となりました。

イラン映画の巨匠で「人生タクシー」のジャファル・パナヒ監督の息子の長篇デビュー作とのことだけど
なんというかすっかり手練れで、知らなかったらベテラン監督の映画と思ったかも。
まず冒頭の導入が好き。
バックに流れるクラシックピアノの音に合わせてギプスに描いた鍵盤を押さえる子供の小さな指。
ロードムービーで多分全体の6-7割は車内の会話でできているのに、全然退屈する暇がない。
ユーモアの絶妙な間やちょっとした皮肉な笑い、常にどこかにある緊迫感。
室内劇映画でたまに、これ映画より舞台の方が向いてるんじゃない?と思うものがあるけど、
これは室内より狭い車内なのにもかかわらず映画の楽しさを存分に味わわせてくれるのです。
狭い空間をより狭くする父親役のギプスの足や、
小さな子供の落ち着かない動きが舞台では出せないものですしね。

一方で車外のイランの風景もまた素晴らしい。
この小さい横長のパンフレットの表紙、この草一本生えない茶色い荒地と
薄い空の間をクルマが横切るシーンを予告編で見た時に、わたしはこの映画を見ようと思ったのだけど
ツルツルした岩肌の山や、羊のいる高原や、星いっぱいの夜空を眺めるところや、
どのシーンも美しく見応えがある。
その美しさは、明るい話ではなく、むしろ不安や閉塞感を常に抱えたこの映画にとてもよく合ってる。

登場人物はほぼ4人(父と母、20歳の長男とまだ幼い次男)と犬だけで、
みんな素晴らしいけどとにかくこのちびっ子がすごーい!(興奮!!)
少し前に見た是枝監督の「怪物」の子役もだいぶ誉めたけど、それより100倍すごいわ。
天真爛漫でお調子者の次男坊をこんなに自然に演じられるなんて、もう見てる間ずっと驚いてました。
長いセリフも歌もやんちゃな動きも何もかもすごい。
わたしの子役オブザイヤー決定!

お話は、長男をどこかに連れて行く一家、という以外はどこへ行くのか何をするのか
ずっと謎のまま進み最後まではっきりしたことは描かれないんだけど、パンフレットを見ると
イランの状況から推察して考えられる通りのことのようでした。
そういうところはお父さん監督譲り、というかイランで映画を取るということはそういうことなのか。
とにかくどんな状況でも良い映画を作りたい、命をかけても作りたいという
父の血を受け継いでいることは良くわかって、そこにわたしは感慨と感動を持ったけど、
でも、そういう背景に関係なく見ても、映画を見る喜びをひしひしと感じさせてくれる作品。
たった90分ちょっとで、ほぼ車の中と荒野が舞台で、予算も多分多くはない制約の中、
これだけ充実した傑作ができるなんて、映画って何て素晴らしいんだろう。
こういう映画にたまに当たるので、ほんと映画見るのは最高。

ちなみに英題は「Hit The Road」でこれもいいけど邦題も悪くないかな。覚えにくいけどね。

お父さんの作った映画「人生タクシー」の感想

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