アラビア数字は位取り計算を容易にし、連続の概念は微積分を用意した 第3回
1) 零の発見ーアラビア数字の由来(その2)
インド記数法がヨーロッパにおいて一般に普及し始めたのはルネッサンスのころであるという。その前に11世紀末から13世紀にかけて十字軍の遠征が契機となって(十字軍の意図は政治的軍事的に失敗したが)、イスラムの学問や文化の輸入、ギリシャ文化の逆輸入が盛んとなったことがあげられる。そしてヴェニス、ジェノアなどのイタリアの商業都市がルネッサンス運動の中心となった。ピサのフィボナチ(漸化式というフィボナチの数列で有名)は1202年「ソロバンの書(計算の書)」を表し、インド計数法や商業計算をイタリアに紹介した。13世紀も末になってようやくインド式計数法が普及したようであった。グーテンベルグの印刷術の発明した15世紀には出版物文化が盛んになり、インド式記数法もこれに乗って普及していった。印刷文化はまた紙の発明がなくてはならない。エジプトのパピルス、ヨーロッパの獣皮紙は高価で、中国後漢時代にできた楮・綿からなる製紙術は唐時代にトキスタンからアラビアに伝わり、イスラムからヨーロッパにもたらされた。11世紀にはスペインのトレド、バレンシアに製紙工場が設けられた。その後イタリアで製紙業ができ、だいぶ遅れてドイツでは14世紀、イギリスでは15世紀の末に製紙業ができ、紙の普及に連動してイタリアからソロバンが消え筆算に替わったのが15世紀のことである。イギリスからソロバンが消えたのは17世紀である。l位取り記数法は16世紀末にいたって、少数記法が発明されて完成した。歴史的には大きさの比である分数はエジプトやギリシャの時代から知られていたが、少数は比較的最近の発明である。ところが現在では数の延長としての整数を埋める数の小数が普遍的で、分数はむしろ変な割り算の表記法とみなされている。分数を少数に直すとほとんどが割り切れない数で、割り切れる数はまれである(1/4=0.25)。いわゆる有限小数は分数を略記したものである。ところが分母整数の数より小さい整数が余りとして残ると何回も繰り返すと必ず循環する。その典型が1/3=0.333・・・あるいは5/7=0.714285714285714285・・・などを循環無限小数と呼ぶ。これを整数と併せて有理数と分類する。従って有理数とは循環無限小数で表される数、無理数とは循環しない無限小数で表される数である。有理数と無理数を合わせて実数という。例えば円周率πは3.141592853589・・・・・は無限小数で現在コンピューターで数時間の計算で10万桁まで知られている。πは無理数の仲間であるが実は「超越数」(n次代数方程式の根にならない数のこと、根は「代数的数」という)と言われる。三角関数、対数、ネイピア数もそうである。なおπの求め方や超越数については、ペートル・ベックマン著「πの歴史」(ちくま学芸文庫)に詳しい。無限小数0.99999・・・・は9/10 (1+1/10+1/100+1/1000・・・・)であるから9/10を係数a、公比を1/10とする無限等比級数の和である。その和の公式Σ=a/(1-r)=9/10/9/10=1である。近似的に0.9999999・・・・=1ということは何を意味するのだろうか。公比のn乗はnが無限大になるときゼロに近づくということすなわち収束することが条件である。和を持たない無限級数もある。分数に対する少数の便宜性とは大小関係が直ちにわかることである。5/7と28/39 は意見してどちらが大であるかはわからない。少数に直してはじめてわかる。以上のことは近代解析学の基礎であり、微分積分学の入り口になる。
(つづく)
1) 零の発見ーアラビア数字の由来(その2)
インド記数法がヨーロッパにおいて一般に普及し始めたのはルネッサンスのころであるという。その前に11世紀末から13世紀にかけて十字軍の遠征が契機となって(十字軍の意図は政治的軍事的に失敗したが)、イスラムの学問や文化の輸入、ギリシャ文化の逆輸入が盛んとなったことがあげられる。そしてヴェニス、ジェノアなどのイタリアの商業都市がルネッサンス運動の中心となった。ピサのフィボナチ(漸化式というフィボナチの数列で有名)は1202年「ソロバンの書(計算の書)」を表し、インド計数法や商業計算をイタリアに紹介した。13世紀も末になってようやくインド式計数法が普及したようであった。グーテンベルグの印刷術の発明した15世紀には出版物文化が盛んになり、インド式記数法もこれに乗って普及していった。印刷文化はまた紙の発明がなくてはならない。エジプトのパピルス、ヨーロッパの獣皮紙は高価で、中国後漢時代にできた楮・綿からなる製紙術は唐時代にトキスタンからアラビアに伝わり、イスラムからヨーロッパにもたらされた。11世紀にはスペインのトレド、バレンシアに製紙工場が設けられた。その後イタリアで製紙業ができ、だいぶ遅れてドイツでは14世紀、イギリスでは15世紀の末に製紙業ができ、紙の普及に連動してイタリアからソロバンが消え筆算に替わったのが15世紀のことである。イギリスからソロバンが消えたのは17世紀である。l位取り記数法は16世紀末にいたって、少数記法が発明されて完成した。歴史的には大きさの比である分数はエジプトやギリシャの時代から知られていたが、少数は比較的最近の発明である。ところが現在では数の延長としての整数を埋める数の小数が普遍的で、分数はむしろ変な割り算の表記法とみなされている。分数を少数に直すとほとんどが割り切れない数で、割り切れる数はまれである(1/4=0.25)。いわゆる有限小数は分数を略記したものである。ところが分母整数の数より小さい整数が余りとして残ると何回も繰り返すと必ず循環する。その典型が1/3=0.333・・・あるいは5/7=0.714285714285714285・・・などを循環無限小数と呼ぶ。これを整数と併せて有理数と分類する。従って有理数とは循環無限小数で表される数、無理数とは循環しない無限小数で表される数である。有理数と無理数を合わせて実数という。例えば円周率πは3.141592853589・・・・・は無限小数で現在コンピューターで数時間の計算で10万桁まで知られている。πは無理数の仲間であるが実は「超越数」(n次代数方程式の根にならない数のこと、根は「代数的数」という)と言われる。三角関数、対数、ネイピア数もそうである。なおπの求め方や超越数については、ペートル・ベックマン著「πの歴史」(ちくま学芸文庫)に詳しい。無限小数0.99999・・・・は9/10 (1+1/10+1/100+1/1000・・・・)であるから9/10を係数a、公比を1/10とする無限等比級数の和である。その和の公式Σ=a/(1-r)=9/10/9/10=1である。近似的に0.9999999・・・・=1ということは何を意味するのだろうか。公比のn乗はnが無限大になるときゼロに近づくということすなわち収束することが条件である。和を持たない無限級数もある。分数に対する少数の便宜性とは大小関係が直ちにわかることである。5/7と28/39 は意見してどちらが大であるかはわからない。少数に直してはじめてわかる。以上のことは近代解析学の基礎であり、微分積分学の入り口になる。
(つづく)