ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート  辛淑玉著 「悪あがきのすすめ」 岩波新書

2008年03月15日 | 書評
強者・権力の論理に立ち向かうには、「開かれた道理」で闘う  第二回

現代の日本社会で悪とされるものは、「フェミナチ(ジェンダー)女性解放運動」、「反日」、「左翼」、「人権派・リベラル派」、「弱者」などは皆悪とされ非難される。弱者に対しては「あれは弱者ではなく無能力者だ、弱い者に味方することは悪いことだ」とか「人権派・リベラル派」に対しては「民族や国家を弱体化させようとする陰謀に加担している」といった倒錯した論理が権力側から発せられる。こうして強者は善人のふりをして、弱者は悪人とされてゆく。「小さな政府」、「美しい日本」とか強者は勝ち組の論理をふりかざすのである。そんな世の中に抗って意思を貫き闘争とすれば、それは「悪人」がじたばたした「悪あがき」になるのだ。07年参議院選挙で勝った薬害エイズの原告川田龍平氏の父は「悪あがき」が出来ず世間体が悪いといって、離婚して妻(この女性も一期だけだが参議院議員に当選した)と川田龍平氏から去っていった。この世間体が悪いという心情が「悪あがき」を躊躇させ、願望に挑戦する意思を挫いている。その結果「不正義」、「不平等」、「不公正」が温存されるのである。

親鸞が生きた中世鎌倉時代では支配者(荘園・領主)は虫一つ殺さず富を搾取する時代で、殺生は最下層の人間にやらせるのである。そして浄土教の教えでは自分は善人だから極楽へ行けると言っていた。親鸞はこれをひっくり返し収奪する側の犯罪性を指摘したのだ。「悪人正機説」の「悪人なおもて往生す、況や善人おや?」生きてゆくことが悪だとすれば救われるべきは悪人である。「開かれた善」、「開かれた道理」の実現を一番希望しているのは、差別され虐げられた弱者すなわち親鸞が言うところの「悪人」である。

読書ノート 前田哲夫著 「自衛隊 変容のゆくえ」 岩波新書

2008年03月15日 | 書評
「専守防衛」を捨て去り、自衛隊は海を渡り米軍とともに「戦う軍隊」へ 第5回

戦う自衛隊

たしかに1995年までは「防衛計画大綱」(95大綱)では「専守防衛」と「基盤的防衛力構想」の立場に立っていた。「基盤的防衛力構想」とは脅威の量に比例した軍拡競争はしないというものである。ところが04大綱では新ガイドラインは自衛隊の部隊編成と作戦計画に埋め込まれていった。

新防衛省の自衛隊のキーワードは「統合運用」である。「基盤的防衛力構想」では脅威を測らないとして「仮想敵国」を定義しなかったが、新ガイドラインは中国と北朝鮮を「仮想敵国」として明確に位置づけた。そのため米軍の一元的作戦機能の要求に迫られ、自衛隊も04大綱で「統合幕僚監部」の創設を行った。統幕長が陸海空の司令官に直接の指揮命令権を行使できる。2007年は防衛省と統合運用の幕開けである。安倍首相が言う「戦後レジームの脱却」は戦前への回帰だったのかそれとも対米従属の美化だったのか。2007年「自衛隊式通信システム隊」や「中央即応集団」といういわゆる米軍海兵隊式組織が4000人規模で創設された。またゲリラ・コマンド対処のための「方面総監直結連隊」660人が組織された。このように自衛隊は戦う組織への改編が進められた。「特殊作戦群」、「日米共同市街地戦闘訓練」、「KC767機による空中給油訓練」など実践に即した訓練も強化されたといわれる。2006年2月自衛官の個人パソコンから流出した「平成15年海上自衛隊演習」という文書によると、北朝鮮の脅威を想定した日米の警戒警備体制と活動で臨検や弾道ミサイル対処が演習されたようだ。

戦力整備面でも急速に自衛隊は「近代化」された。高性能コンピュータ装備イージス艦(一隻1300億円)を5隻も保有し、米軍も太平洋地域配備イージス艦10隻のうち6隻まで横須賀を母港としている。「ヘリ搭載護衛艦」という準空母16DDH(自衛隊用語には空母はなく、すべて護衛艦という)も配備された。2007年度の防衛関係費は4兆7944億円に達する。恩給年金を入れれば5兆6000億円にもなり、いまや世界の5番以内の軍事大国になった。

2005年は日本の防衛にとって(憲法九条にとって)重大な事件が集中した年であった。一つは「米国原子力空母ワシントンを2008年以降、横須賀米軍基地に配備」、二つは「自民党新憲法草案」発表であり、「自衛軍の創設」、「集団的自衛権行使の容認」が明記された。九条の戦争放棄はなくなり安全保障と書き換えられた。三つは「在日米軍基地再編」合意文書決定である。基地の共同使用、自衛隊の司令部を米軍基地内に置くとか「日米共同司令部」を設置するとか、再編費用は全て日本が負担する(3兆円)といったおよそ独立国とは思えない米軍一元支配下の「米軍・自衛隊一体化」が謳われている。日本は1945年以来軍事的には一度も独立していないのだった。

文芸散歩  「今昔物語 」 福永武彦訳 ちくま文庫

2008年03月15日 | 書評
平安末期の説話文学の宝庫 さあー都大路へタイムスリップ 第32回

百四十六話 「僧の稚児さんが黄金を生む話」
比叡山の学僧はすこぶる貧乏で後に雲林院に住んだ。僧は鞍馬寺に参拝し帰り道、出雲路で年の頃は十七八で美しい少年に出会った。僧は雲林院につれて帰り稚児(僧の男色相手)にした。ところがその稚児は女だったようで間もなく子供を生んだ。お産の直後稚児は消え去り、残ったのは金色の塊であった。これは僧を助けようとする鞍馬寺の毘沙門天の功徳であると云う話。

百四十七話 「東宮の蔵人宗正が出家する話」
東宮の蔵人宗正の妻があえ無く亡くなり、葬式の前に棺を覗いた宗正が出家遁世の心を深く持ち多武の峰の増賀聖人の弟子となった。修行を積んで世にも稀な道心の人となったと云う話。

百四十八話 「銅の煮え湯を飲まされる娘の話」
大和大安寺の社務の別当の娘に宮中の蔵人が婿に入っていた。あるとき昼寝をしたら夢を見た。家中でがやがや騒がしく、皆で銅の煮え湯を飲んでいる。男にも煮え湯が注がれるところで夢から覚めた。社務の別当と云うのは寺の実入りを勝手に懐にしまいこんでがつがつ生活している、なさけない夢であったと云う話。現代の官僚の収賄事件みたいな話。

百四十九話 「密造した酒の中に蛇がいる話」
比叡山で修行した僧がうだつが上がらないので、山を去って摂津の国の里に住みついた。葬儀や供養などを生業としていたのでお供え物や貰い物が多くある。僧の妻はカビの生えたもちで酒を作ろうとした。大きな壺で醸造して、いいころに妻が蓋を開けると中に蛇がうじゃうじゃいる。びっくりした妻は僧と相談して野原に捨てた。少し過ぎて三人連れが野を歩いていてその甕を見つけた。蓋を開けるといい匂いのする酒が入っていた。そして皆で飲んだ。このことを僧に話すと、僧は深く反省し、勝手に仏の供物を独り占めしてはいけない、人々に分け与えるべきだと悟ったと云う話。

百五十話 「木の梢に現れ給う仏の話」
醍醐天皇の御世に、五条の道祖神の傍の実のならない柿の木があった。この柿の木の梢に仏様が花弁を散らして現れると云う噂が立った。光の大臣はこれを疑い、外道の仕業なら七日は持たないといって、七日目に出かけた。金色の光を放って梢に仏様が現れたが、大臣はじっと睨みつけること二時間、するとどさっと鳶が落ちてきたという話。

自作漢詩 「春日江村」

2008年03月15日 | 漢詩・自由詩


細雨霏霏長野     細雨霏霏と 野芹長ず

江汀漠漠水雲     江汀漠漠 水雲雲

鴛鴦春浦随波泛     鴛鴦春浦 波に随って泛び

鶯語高低隔柳     鶯語高低 柳を隔て聞く


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(赤い字は韻:十二文 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD  今日の一枚 「イタリアバロック・ヴァイオリンソナタ集」

2008年03月15日 | 音楽
ニコラ・マチス 「イタリアバロック・ヴァイオリンソナタ集」
ニコラス・マクゲガン指揮アルカディアン・アカデミー ヴァイオリン:キャサリーン・ブルーメンストック 
DDD 2001 ハーモニア・ムンディ

ニコラ・マチス(1640-1714 )に関して情報がない。恐らくボローニア楽派の作曲家でコレルリ、トレルリの時代になる。組曲4曲とソナタ2曲が収録されている。