ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 柳田国男著 「昔話と文学」(角川ソフィア文庫 2013年8月)

2018年01月15日 | 書評
昔話と説話文学の接点から、物語の変遷を読む 第9回

7) うつぼ舟の王女

この章はバシレの「五日物語(ペンタメロウ)」にベルヴォントという醜い男の子と王様の娘ヴステラの話を契機として起こした一文である。ベルヴォントは薪を切りに行ったが、途中三人の魔女の子が野原で昼寝をしているところを日影を作ってやって、そのやさしさに感謝した魔女の子はベルヴォントに願い事は何でも叶う約束をした。薪を馬に変え町へ行ったベルヴォントはお姫様ヴステラにその醜さを笑われ、腹を立てて「わしの子を孕め」という願いをすると姫は二人の男の子を生んだ。子供が7歳になった時王様はその子の父親を見つけさせたが子供は醜いベルヴォントを父だといった。怒った王様はベルヴォンと母親ヴステラと二人の子の四名をうつぼ舟に押し込めて流した。ヴステラはベルヴォンを恨んで理由を問うと、ベルヴォンはこれまでのいきさつを語った。そこでベルヴォンの願い事は何でも叶う力があるならうつぼ舟を陸に付けさせた。そして希望通りのお城を建てさせ、最後にベルヴォンを美青年に変えて、四人仲良く御殿に住んだという話です。王様と再会した四人は一切を説明し王国と城を継いだという事です。西欧の説話研究者は300年前にできたこの話の起源を探ったが、大体この話には八つの奇抜な話の為を持っている。①貧しくとも醜くともある霊の力添えがあれば出世できる、②非凡な如意の力、③処女受胎、④うつぼ舟に入れて流すこと、⑤子童の英明霊智の力、⑥父親発見の手法、⑦幸運の本人が妻に促されるまで自分の力の使い方を知らなかったこと、⑧わずかな人の知恵でもって世界を推し量ることはできないということである。高貴な姫君(妃)が殿さまの怒りに触れ、うつぼ舟に乗せて流される話、またその船が流れ着いたという説話が伝えられている土地は、二、三にはとどまらない。茨城県蚕影山縁起にも、うつぼ舟で流されてきた女性のことがあり、熊野には天竺から流されてきた王女ののことを伝える話がある。次にこの話の主人公である男は不思議な力を持っていながら女房に言われるまで気が付かないか、その力を行使しなかったということである。これは我国には「炭焼長者」の話として残っている。黄金の石の存在に気が付かなくて、貧しい炭焼きをしてきた男が、女房にその価値を教えられて億万長者になった。沖縄に分布する話では、殿の前であくびをしたり屁をひったために流され、流れ着いた土地で殿の子どもを産み、その子が成長して殿の居城に行き、屁をひらぬ女が作った茄子を売りに行く。殿は屁をひらぬ女がどこにいると大笑いをするところで、母の話をして父の殿をやり込め、親子三人が再会を果たすという物語である。

(つづく)