ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート D・ヒルベルト著 中村幸四郎訳 「幾何学基礎論」 ちくま学芸文庫(2005年12月)

2015年10月26日 | 書評
20世紀現代数学の夜明けを告げる公理論主義の記念碑的著書 第3回

第1章 五つの公理群

幾何学の構成要素として、①点、②直線、③平面の3つを考え、点を直線幾何学の構成要素、点と直線を平面幾何学の構成要素、点、直線、および平面を立体幾何学の構成要素という。(構成要素にはなぜか円や曲線や球体、楕円体などがが入っていない、解析幾何学に任せたのか)
そして幾何学の公理を次の5群に分かつ。Ⅰ1-8(結合の公理)、Ⅱ1-4(順序の公理)、Ⅲ1-5(合同の公理)、Ⅳ(平行の公理)、Ⅴ1-2(連続の公理)

公理群Ⅰ:結合の公理
Ⅰ1: 2点A,Bに対し、これらの2点の各々と結合する少なくとも一つの直線が常に存在する。
Ⅰ2: 2点A,Bに対し、これらの2点の各々と結合する直線はひとつよりは多くは存在しない。
Ⅰ3: 1直線上にはつねに少なくとも2点が存在する。1直線上にない少なくとも3点が存在する。(直線は2点で規定される)
Ⅰ4: 同一直線上にない任意の3点A,B,Cに対し、その各点と結合する1平面αが存在する。任意の平面に対しこれと結合する1点が常に存在する。(Aはαの点である)
Ⅰ5: 同一直線上にない任意の3点A,B,Cに対し、3点A,B,Cの各々と結合する平面は1つ以上は存在しない。
Ⅰ6: 1直線aの上にある2点A,Bが平面α上に在れば、aのすべての点は平面αの上にある。(直線aは平面αの上にある)
Ⅰ7: 2平面α、βが1点を共有すれば、これらの平面はさらにもう1点を共有する。
Ⅰ8: 同一平面上にない少なくとも4点が存在する。(平面は3点で規定される)

公理群Ⅱ:順序の公理(間の定義)
Ⅱ1: 点Bが点Aと点Cとの間にあれば、A,B,Cは1直線上の相異なる3点であって、かつBはCとAの間にある。
Ⅱ2: 2点AとCとに対して直線AC上に少なくとも1点Bが存在して、CがAとBとの間にある。
Ⅱ3: 1直線上にある任意の3点のうちで、他の2点の間に在り得るものは1点より多くはない。
Ⅱ4: A,B,Cを1直線上にない3点、直線aを平面ABC上にあってA,B,Cのいずれをも通らない直線とする。直線aが線分ABの点を通ればこれはまた線分ACもしくは線分BCの点を通る。パッシュの公理ともいう。(直線aは3角形ABCの2辺を横切ることができる)

公理群Ⅲ:合同の公理
Ⅲ1: A,Bを1直線aの上の2点とし、さらにA'を同じ直線または他の直線a'上の点とするとき、直線a'のA'に関して与えられた側に常に少なくとも1点B'を見出し、線分ABが線分A'B'に合同または相等しくなるようにすることができる。記号でAB≡A'B'
Ⅲ2: 線分A'B'および線分A"B"が同一の線分ABに合同なら、線分A'B'は線分A"B"に合同である。(各線分が第3の線分に合同なら、各々は合同である)
Ⅲ3: ABおよびA'B'を直線a上の共通点のない2線分、さらにA'B'およびB'C'を同じ直線または他の直線a'上にあって同様に共通をもたないとすると、AB≡A'B'かつBC≡B'C'ならば、つねにAC≡A'C'である。(加法の可能という)
Ⅲ4: 平面α内に角∠(h,k)が与えられ、平面α'内に1直線aおよびa'に関する一つの側が指定されているならば、h'を点O'から出る直線a'に属する半直線とすると角∠(h,k)≡角∠(h',k')なる半直線k'がただ一つに限って存在する。(角を移すことができる)
Ⅲ5: 二つの3角形ABCおよびA'B'C'において合同関係AB≡A'B'、AC≡A'C'、∠ABC≡∠A'B'C'が成り立てば、∠ABC≡∠A'B'C、∠ACB≡∠A'C'B''となる。(3角形の合同関係)

公理群Ⅳ:平行の公理
Ⅳ: (ユークリッドの公理) aを任意の直線、Aをa外の1点とすると、aとAが定める平面においてAを通りaに交わらない直線はたかだかひとつ存在する。

公理群Ⅴ:連続の公理
Ⅴ1: (計測の公理、アルキメデスの公理) AB及びBCを任意の線分とし、直線ABをAn-1An≡CD=aなる単位線分aで分割するとBがAとAnの間にあるようにすることができる。a×(n-1)<AB<a×n(直線の公理)
Ⅴ2:(1次元の完全公理) 1直線上にある点は、線状定理、合同公理Ⅲ1、およびアルキメデスの公理を保つ限りでは(すなわちⅠ1-2、Ⅱ、Ⅲ1、Ⅴ1)もはやこれ以上拡大不可能な点の集まりである。

公理群Ⅰ-Ⅴまでを上述したが、本書には公理から証明される結論としてその一部を定理として紹介している。公理群Ⅰ(結合)より定理1、定理2を、公理群Ⅱ(順序)より定理3-10を、公理群Ⅲ(合同)より定理11-29を、公理群Ⅳ(平行)より定理30-31を、公理群Ⅴ(連続)より定理32を挙げるにとどめる。各定理はすべて証明がついているので容易に確認できる。ここまではユークリッドの原論とさしてかわらない。ただ注意してみると入口の条件である公理の選択は極めて重要で、重複を避け、できるだけ少ない数の公理に整理し、独立関係を見直し、何を自明とするかは時代によって変遷するので、ヒルベルトの慧眼に敬服するばかりであるが、これも約束事で絶対的真理ではないので数多くの幾何学が存在しうることは肝に銘じなければならない。だから幾何学は面白い。

(つづく)