ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 押谷仁、虫明英樹著 「新型インフルエンザはなぜ恐ろしいか」 NHK出版 生活人新書

2010年05月17日 | 書評
感染者数の爆発的増大が医療・社会経済活動の崩壊となる 第3回

 季節風インフルエンザによる致死率は0.05-0.1%であるのに対して、新型インフルエンザの致死率は0.1-0.5%であり季節風インフルエンザに較べれば高い致死率といわざるを得ない。もちろん鳥インフルエンザ(H5N1型)の60%に較べれば格段に低い。問題はこのわずかな致死率の差も母数が大きくなれば、死亡者の数もまた大きくなるということである。ただ21世紀に住む我々は抗ウイルス剤やワクチンなどウイルスと戦い手段を持っており、対策を行えば状況は過去の例とはぜんぜん違ったものになるのである。季節風インフルエンザで死亡者の大半を占めていた高齢者の一部に免疫があるというのも、死亡者を増やさないために非常に有利である。7月中旬までの医療機関へのアクセス状況からすると、ウイルスの感染スピードは今年秋の10月始めから11月初めに日本は最初の大きな流行のピークを迎えるという。今年春から初夏の流行は前硝戦であった。それによって医療機関に大きな負担がかかり医療現場の混乱を招くことが容易に予測される。医療体制を整えて早期に抗ウイルス薬投与などをおこなえば、感染者の増加を抑え医療機関への短期集中を緩和することが出来る。季節性インフルエンザでは毎年1万人の人が死亡しているが、これは「超過死亡」という間接的インフルエンザ関連死である。高齢者で重い心臓病や脳梗塞の患者や、がん患者などの体力の弱っている人が死亡する数を表すものである。インフルエンザの流行した年に死亡した人の総数を、通年度の年の死亡者数で引いた値であらわす。ところが新型インフルエンザに死亡者の中で目立つのは、20代から50代の基礎疾患者が多い。その社会的損失は大きい。まだ日本では感染者の数も志望者の数も、アメリカに比べると桁違いに少ない。それだけ対策の時間的余裕があるといえる。何が対策の要点になるのかを考え適切な手をうつことこそ、日本の損害を最少に押さえる知恵となり、世界の範になることであろう。インフルエンザ対策を検証する前に、これまでのインフルエンザ流行の教訓を検証しておこう。
(つづく)

読書ノート 石井淳蔵著 「ビジネス・インサイトー創造の知とは何か」 岩波新書

2010年05月17日 | 書評
新しいビジネスモデルが生まれるとき、創造的知が働く 第4回

1)実証主義経営の検証と問題点 (2)

 実証主義が抱える問題(限界)は、①状況依存ないしは一般化の罠、②状況の定義の問題、③見えない物を見通す力の軽視である。まず社会法則は状況しだいで、一般化するとんでもない間違いを犯すことだ。自然科学のように条件をあわせれば誰がやっても同じ結果が出ることというわけではない。社会法則は目に見えない条件の違いによって同じようなことをやっても結果が全く違うこともあるのだ。たとえば「低コスト参入者は上位企業の市場を侵食する」という命題があるが、高炉製鉄メーカと電炉製鉄メーカの関係は米国では安物市場(鉄筋、棒鋼、線材)市場から高炉メーカを追いだしたが、日本ではすでに高炉メーカーが垂直統合を成し遂げて高効率生産体制をしき、多種の鋼材市場に圧倒的な力を持っていたため、電炉メーカの方が撤退するハメとなった。この命題は市場が成長期にあれば成立するが、新規低コストメーカが市場に進出することによって、市場はコストダウンによる成熟期(停滞期)に入り込み、いわゆる共倒れの形勢でいずれのメーカも利益が出ないというジレンマになる。これを「一般化の逆説」という。次に「製品を作り始めてからの累積生産量がその企業の経験となり、経験の深さがその製品のコストを決める」という命題がある。これは半導体生産で定式化までされた。したがって競争の焦点は利益ではなくシェア争いの変わる。「戦略市場計画」に「事業ポートフォリア」という考えがある。市場の成長率とシェアーも二軸で製品の位置づけを行い、競争戦略と社内の資源配分を議論する者である。その時に問題なのが場の定義である。商品の捉え方である。ヤマハなど鍵盤楽器メーカーでピアノ事業、エレクトーン事業(電子ピアノ事業)をどう捉えるかによって、ピアノメーカーからエレクトロニクスメーカに変貌できるのである。どちらを選択するかは社内の政治問題である。また市場の定義の問題もある。米国の鉄道会社を例にして、鉄道会社と見るか運送会社と見るかによって、トラック運送、航空運送まで発展するという。日本でも私鉄会社は乗客の生活圏設計という観点で、百貨店など小売業、沿線宅地開発会社、旅行社、イベント業、美術館遊園地、環境開発、土建建設業まで幅広い市場を実現し、本来の鉄道業務は赤字でもいいという体制である。マーケットを近視眼で見るとビジネスチャンスを逃すが、間^ケットを遠視眼でみると焦点がぼやけて投資が増えすぎる。論理主義実証経営学が築いた知の伝統を「明示的な知識」と呼ぶと、先を読む目や「知の暗黙の次元」が盲点になっている。ここにスポットを当てるの経営学が、ビジネスインサイトである。
(つづく)

月次自作漢詩 「送春有感」

2010年05月17日 | 漢詩・自由詩
何情和雨妬花風     何の情ぞ雨に和し 花を妬む風

春尽新泥遂落紅     春尽きて新泥に 落花を遂う

為惜薫憂詩有債     為に薫憂を惜んで 詩に債有り
 
誰知惆恨酒無功     誰か惆恨を知らん 酒に功無し

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(韻:一東 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD今日の一枚 リスト 「ピアノソナタ、伝説より」

2010年05月17日 | 音楽
リスト 「ピアノソナタ、伝説より」
①「ピアノソナタ ロ短調」1853 ②伝説より 「聖フランシス1,2」1863、「悲しみのゴンドラ1,2」1882
ピアノ:アルフレッド・ブレンデル
DDD 1981 PHILIPS

ピアノソナタロ短調は楽章に分かれておらず、主要な主題が全曲にわたって用いられるいわゆる循環形式である。伝説より「悲しみのゴンドラ」はワーグナーの死去に関連しているといわれる。