ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 丸川知雄著 「現代中国の産業ー中国産業の強さと脆さ」  中公新書

2008年05月11日 | 書評
中国を代表する家電、パソコン、自動車産業の低コストの秘密 第8回

第三章 パソコン産業ー同質化の行き着く先
 日本産業は「閉じられた垂直分裂」や「統合型インテグラル」製品を志向するのに比べて、中国企業は「オープンな垂直分裂」や「モジュラー型」製品を志向する。1981年IBMは自分のパソコンの仕様を公開してソフト開発会社の自由な参入をねらった。そしてIBMはアメリカでトップシェアーを獲得したが、同時にIBM互換機が次々に登場した。1988年にはIBMの世界シェアーは四分の一に低下した。1984年中国のレノボはIBM互換機に差し込んで中国語入力できるソフトを開発した。1990年にはいって中国はIBM規格を受け入れパソコンの生産をj始めた。大学のベンチャー企業が参入し、マザーボードからHDD、デイスプレー、メモリーなど部品を組み立てるキット式のブランドなし(兼用機)のパソコン生産であった。そしてソフトは違法コピーが重要な競争手段である。基本ソフト料がただなので安く出来るわけである。兼用機はブランド品に比べて二から三割安い。中国国産パソコンは1990年には30%に過ぎなかったが1999年には50%を占めた。つまり中国のパソコンは全部海賊版ソフトを前提としているので、国際特許法上から極めて遺憾な状態である。中国の四社のパソコンメーカーの利益率は3%以下で赤字のメーカーも多く、開発投資ゼロの企業は薄利多売に苦しんでいる。パソコン販売店の四分の三が組み立てサービスを行っている。キット式で買った人が組み立てるのではなく、販売店が組み立てて無料の違法コピーソフトを入れてくれる仕掛けになっている。中国パソコン市場には卸と小売の区別は明確ではない。勿論日本のような系列店はない。製品価格はすべて市場で決まるのである。日本の大手パソコンメーカーは小型化、画質、テレビやオーデイオ、電話など機能を付加することで差別化を図って来たが、中国の兼用機では組み立てに便利なデスクトップ型が85%を占める。中国のパソコン業界は価格競争で農村向け低価格製品に流れる一方、IBMの買収にみるようにブランド化も志向しているようだ。

文芸散歩 「平家物語」 高橋貞一校注 講談社文庫 

2008年05月11日 | 書評
日本文学史上最大の叙事詩 勃興する武士、躍動する文章 第44回
平家物語 卷第七

主上都落
七月十四日肥後守貞能は鎮西の源氏の謀反を平定して都に駆けつけたが、六波羅では騒動が著しかった。木曽殿が五万余騎で攻め上がり東坂本に集結し、大夫坊覚明が山門の衆徒三千人が決起するよう促した。七月二十二日、このような情勢で知盛を大将軍とする平家軍は宇治を固め、忠度らは淀を固めたが、木曽殿の叔父蔵人行長が数千騎で宇治を攻めると、突然平家軍は退却命令を出し主上都落となった。七月二十四日、後白河法皇は雲隠れし、摂政基通も北山から吉野へ逃走した。形勢平家に不利と見るや全く公家は逃げ足が速い。

維盛都落
小松三位中将維盛卿の北の方は、鹿谷の変で死んだ新大納言成親卿の娘で、六代御前と云う十歳の若君と八歳の姫君が居た。西国へ落ちる維盛は妻子を都に残す決心で、最後の別れをしたのに綿々と親子の情に引かれて別れが出来ないで出発が遅れた。出発を催促する息子たち中将資盛、左中将清経、少将有盛、侍従忠房に引き裂かれ、六代御前を残してゆくかどうかでハムレットのように維盛は苦しんだ。最後には、斉藤五・斉藤六の声に促されて都落ちとなった。平家は六波羅、池殿、小松殿、八条、西八条以下弐拾余箇所に火を掛けて、京の民家四・五万家を焼き払った。平家物語はこのような涙物語が好きなようで、平家も落ちるときに人間性が評価されているとは皮肉な話である。

自作漢詩 「餞 春」

2008年05月11日 | 漢詩・自由詩


五月江城緑已     五月江城 緑已に斉い

翩翩雙燕啄春     翩翩と雙燕 春泥を啄む

随風国艶空花落     風に随い国艶 空しく花落ち
   
閣閣蛙聲雨裡     閣閣と蛙聲 雨裡に啼く

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(赤い字は韻:八斉 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 オケゲム「ミサ・プロラツィオーヌム、モテツゥス」

2008年05月11日 | 音楽
オケゲム「ミサ・プロラツィオーヌムとモテツゥス」
合唱:ヒリアード・アンサンブル 指揮:ポール・ヒリアー 
DDD 1988 EMI

ヨハンネス・オケゲム(1410-1497)はフランスルネッサンス音楽フランドル楽派の大家である。フランス王朝シャルル7世、ルイ11世、シャルル8世の三代に仕えて王室礼拝堂聖歌隊長を務めた。生涯の作曲数は少なく、ミサ曲10曲、モテツゥス9曲、シャンソン22曲である。本CDはカウント・テナー、テノール、バリトン、バスの4声を各パート2名の合計8名で謳うとか、各1名の4名で謳う。ヒリアードアンサンブルはイギリス男性アンサンブルでは、タリス・スコラーズやザ・シックスティーンと並ぶ三璧である。しっとりとした伸びのある声を聞かせてくれる。