ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 国貞克則著 「財務三表一体理解法」  朝日新書

2008年05月30日 | 書評
損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書のつながり 第2回

 そもそも決算書は何のためにあるかと言うと、会社の状況を資本家や債権者などのステークホルダーに正しく伝達することが目的である。正しく決算書を書かないと鐘紡のような粉飾決算となり株式市場から追放されるのである。すべての会社は「お金を集めて」、「そのお金を何かに投資し」、「利益を上げる」という三つの活動をする。この会社の三つの活動を数値で表したのが決算書です。大手の企業では毎日の金の動きを「毎日決算」として経営幹部に共有している。

 中でも「財務三表」といわれる、「損益決算書PL」、「貸借対照表BS」、「キャッシュフロー計算書CS」が基本になる。そして重要なことはこの三表はつながっているのである。図で示すとわかりやすいが、残念なことにHTMLソフトでは図は書けない。PDFソフトでは図を書いてホームページに添付できるがブログではすべて言葉で表現するしかない。お金を集める行為は、貸借対照表の右側の負債の部で借りた金を記入し、自分のお金は純資産の部に記入する。その集めたお金を元手に原料を買ったり設備に投資する行為は大社対照表の右側の資産の部に記入する。右の資産の合計と左の負債・純資産の合計は一致する。純資産の部の繰越利益剰余金は損益計算書で計算された結果の当期純利益に同じである。(CSで計算した当期純利益がBSの右の資産の部の繰越利益剰余金に入るという)CSには直接法と間接法があるが、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つを合計するのである。CSの動きで会社の経営の実態が反映されるので(何に苦労しているか、何をしようとしているか)重要な経営分析資料である。

 現実に決算書を作る経理部門の人には仕分けのルールが必要だが、決算書が読めればいい人には財務三表が一つ一つの取引・行為でつながっている事が理解できればいいとするのが本書の特徴である。事業計画書に添付される数値計画が単なる収支計算書でなく財務三表の変化として理解できるのである。

読書ノート 江崎保男著 「生態系ってなに?」 中公新書

2008年05月30日 | 書評
世界の生態系は病んでいる しかし生態系ってよく分らない 第7回

生物間相互作用 (2)

 弱肉強食を考える上で、スミスによる「タカ・ハトゲーム」という思考ゲームがある。スミスの扱ったのは、凶暴な個体がかならずしも生き残れるわけではないので「共存」というメカニズムを主張するものであった。ゲームはある種の動物の個体群にタカ派とハト派がいるとして住み家や餌をめぐって資源競争をしていると仮定する。資源をとれば50点、敗者は0点、闘争で傷つく(死ぬ)ことはマイナス100点、ハト派がにらみ合う駆け引きにはマイナス10としてポイントを計算する。全員がハト派ならにらみ合いだけなので勝者は50-10=40、敗者は-10となります。ハト派社会のポイントは平均(40-10)÷2=15となる。タカ派が1匹ハト派社会に紛れ込むと、タカ派のポイントは50、ハト派は15以下になる。タカ派が断然有利である。次に全員がタカ派である時、勝者は50だが敗者は-100なので、社会全体で(50-100)÷2=-25となります。タカ派社会は失うものが多くて望ましいものではないといえます。次にはタカ派とハト派が共存する割合をhとして安定的に存在するには両者の点数が等しいとすれば、-25h+50(1-h)=0×h+15(1-h)を解くとh=7/12となります。ハト派が5/12を占めタカ派が7/12を占める時子の個体群は安定します。この時の平均ポイントは6.2点です。資源の価値によって比率は変わりますが、スミスは「進化的に安定した戦略」となずけました。このような戦略が本当にあるかどうかは問わないで置きましょう。ゲームなんですから。おとなしい社会に君臨する暴君が一番有利になるとは、今の人間社会のようです。

 生態系の中の生物間のつながりで重要なものは食物連鎖=捕食に代表される相互作用です。種間では捕食以外に、餌などの資源をめぐる競争は重要なものです。アカゲラ、コゲラ、コガラの3種で「自然樹洞」、「鳥類製樹洞」の住み家をめぐる争いは有名です。自分で巣を掘れない樹洞性鳥類では、自分より大きな鳥が入れないように小さな巣穴をめぐって争っています。近縁種間では餌や住みかなどの資源を違える、すなわち競争を避ける「棲み分け理論」があります。子育てを他の鳥にやらせるカッコウ・ツツトリ・ジュウイチ・ホトトギスの「託卵」も有名な話です。

文芸散歩 「平家物語」 佐藤謙三校註 角川古典文庫

2008年05月30日 | 書評
日本文学史上最大の叙事詩 勃興する武士、躍動する文章 第53回

平家物語 卷第九

三草勢揃

 一月二十九日範頼・義経は平家追討を奏上する。二月四日平家側では福原にて故入道相国の忌日を執り行い、平中納言教盛卿を正二位大納言に昇らせるが、教盛卿これを受けなかった。源氏側は四日、軍を西へ移動し、七日、一の谷の東西の木戸口にて源平矢合わせと定めた。源氏の陣は
大手の大将軍:蒲御曹司範頼 武田太朗信義、加賀美次郎遠光、小次郎長清、山名次郎教義、三郎儀行、 侍大将:梶原平三景時、源太郎景季、次郎平次景高、三郎景家、稲毛三郎重成、榛谷四郎重朝、五郎行重、小山四郎朝政、中沼五郎宗政、結城七郎朝光、佐貫四郎大夫広綱、小野寺禅師太朗道綱、曽我太朗資信、中村太郎時経、江戸四郎重春、玉井四郎資景、大河津太朗広行、庄次郎忠家、四郎高家、勝大八郎行平、久下次郎重光、河原太朗高直、次郎盛直、藤田三郎大夫行泰     都合五万余騎    摂津国毘陽野に陣を取る
搦め手の大将軍:九郎御曹司義経 安田三郎義貞、大内太朗惟義、村上判官代泰国、田代冠者信綱、 侍大将:土肥次郎実平、弥太郎遠平、三浦介義澄、平六義村、畠山庄司郎重忠、長野三郎重清、佐原十郎義連、和田小次郎義盛、次郎義茂、三郎宗実、佐々木四郎高綱、、五郎義清、熊谷次郎直実、小次郎直家、平山武者所季重、天野次郎直経、小河次郎資能、原三郎清益、多々羅五郎義春、太朗光義、渡柳弥五郎清忠、別府小太郎清重、金子十郎家忠、興一親範、源八広綱、片岡太朗経春、伊勢三郎義盛、佐藤三郎嗣信、四郎忠信、江田源三、熊井太朗、武蔵房弁慶   都合一万余騎   三草山の東の小野原に陣をとる。
一方平家の陣は
大将軍:小松の新三位中将資盛、少将有盛、丹後侍従忠房  侍大将:伊賀平内兵衛清家、海老次郎盛方  都合三千騎   三草山の西で陣を取る。
義経は侍大将の土肥次郎実平と夜討ちにするか明朝にするかを詮議したところ、田代冠者信綱の言により夜討ちと決定。山に火をつけて松明の代わりにして三草の山を越えた。平家は夜討ちに驚いて遁走し五百余人が討たれた。新三位中将資盛、少将有盛、丹後侍従忠房は讃岐の屋島に逃げ、備中守師盛、平内兵衛清家、海老次郎盛方は一の矢へ合流した。

自作漢詩 「送春迎夏」

2008年05月30日 | 漢詩・自由詩


迎夏緑陰花影     夏を迎へ緑陰に 花影稀なり

送春清昼雨霏     春を送って清昼 雨霏霏たり

一聲滴血林中閙     一聲血を滴らせ 林中に閙しく
   
永遂悲風天際     永く悲風を遂って 天際に飛ぶ

○●●○○●◎
●○○●●○◎
●○●●○○●
●●○○○●◎
(赤い字は韻:五微 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)

CD 今日の一枚 オルランド・デ・ラッスス「5声のミサ曲」

2008年05月30日 | 音楽
オルランド・デ・ラッスス「5声のミサ曲」
ジェレミー・サマーリ指揮オックスフォードカメラータ合唱団 
DDD 1993 NAXOS

オルランド・デ・ラッスス(1532-1594)は16世紀末のフランドル楽派の音楽家 ローマカトリック体制派に属する彼は帰るべき故郷を持たない放浪の音楽家で、イタリア・フランス・ドイツで活躍した。ラッススは南ドイツのミュンヘンでババリア公宮廷楽長となり、その地で没した。2千曲あまりの作品を残し、世俗音楽ではフランスのシャンソン、ドイツのリート、イタリアのマドリガーレというその国特有の音楽を作り上げた。ミサ・モテトゥスではルネッサンス的ポリフォニー(多声合唱)の特色ある音楽と評価されている。本CDには5声のミサ曲などを収録する。