とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

小室さんの工房にて

2012-10-27 17:15:44 | 日記
小室さんの工房にて




公益財団法人 滋賀県陶芸の森のHPからの引用画像。

 滋賀県では、Wall light(信楽透器)と呼ばれる光を通す焼き物が作られているという。「自由な組み合わせにより、大きな壁から小さな壁まで、空間をしきることができるパーテーション」だと説明されている。「信楽透器の泥漿を石膏型に流し込み、鋳込み成形」するという。「顔料を練り込むことで、砂糖菓子のような甘くて柔らかい色のあかり」が表現できるメリットがあるとも説明されている。従来の焼き物の概念を打破していて斬新である。



私は相談することがあって、久しぶりに小室新之助さんの窯場に出かけました。数人のお弟子さんと一緒に窯焚きをしておられました。私の姿を見つけると、手を休め、ほかのお弟子さんに仕事の段取りを指示して私のためにしばらく時間を作っていただきました。


 大事なお仕事の最中に押しかけまして申し訳ありません。

 いやいや、私がずっとついていなくても窯は動いてくれます。

 それでは、貴重なお時間ですので、端的に用件を・・・。

 いやいや、そう慌てなくても結構です。

 これから申し上げること、まことに子供じみていて笑われると思いますが・・・。

 何でしょう。

 実は、ご縁市場の新しい商品のことなんです。

 新しい商品。・・・ああ、古賀さんから伺っています。変身なんとかという商品ですか。

 えっ、もうご存知でしたか。

 話を伺って、私は、これはいけると思いました。

 ほんとうですか。

 ええ、貴方の発想は面白いと思いました。私が手がけた観音さんの像は佐山先生のプランがベースになっています。最初は、実のところ作りたくなかったんですよ。しかし、時には冒険も必要だと思って、冴子さんのご主人と協力して作り上げました。ニケに変身する発想は、蓄光パウダーがあったからこそ出来た仕事です。・・・しかしですね。それを商品化することはた易いことではありません。・・・子ども騙しのようなものは作れません。ですから、今、信楽透器を参考にして、その商品のモデルを作っているところです。私の場合はあくまで焼き物自体が発光するという発想です。

 モデルをいくつか作っていらっしゃる・・・。

 そうです。しかし、私には本来の仕事がありますので、ある方に試作品をお願いして、今、工房で作って貰っています。

 ある人とは・・・。

 小仲笙子さんというお方です。

 えっ、笙子さん。

 ご存知ですか。

 ええ、古賀所長から先日そのお方の話を伺いました。ぜひ仕事場を拝見したいです。

 そうですか。では・・・。そう言うと小室さんは、奥の方の工房に私を案内してくれました。その部屋には小さい試作品がたんさん並べてあり、その真ん中でろくろを回している笙子さんがいました。驚いたような顔をして私の顔を見上げました。

 この方が畝本さんです。もうすでに私のことは古賀さんから聞いているような風で、あっ、初めまして・・・、と言いながら頭を軽く下げました。束ねた長い髪が少し揺れました。

 陶芸もなさるんですか。

 絵付けをしているときに、小室さんに教わりました。

 そうですか。

 お父さんには随分お世話になりました。命の恩人です。

 渓川さんですか。

 そうです。私が破門になって陶芸を始めたときに、私の作品に絵付けをして、たくさん売りさばいていただきました。

 そうですか。いや、ほんとに不思議なご縁です。・・・それで、笙子さんはこちらで仕事をなさるとか聞いていますが・・・。

 両親も小室さんが近くにおられるので、むしろ賛成してくれました。出雲でずっと仕事をする積りです。

 京子さんとか郁子さんのこともご存知ですか。

 ええ、何回かお会いしました。

 そうですか。

 畝本さんの発想は大切にしたいと思っています。・・・いいものを作りたいと思います。今、宍道湖の夕焼けの色が出ないものかと思って苦心しています。

 ・・・そのとき、私は、また、諏訪という地名が頭に蘇ってくるのを感じていました。

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