とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

母親として・・・③

2012-10-10 23:55:49 | 日記
母親として・・・③



 小磯良平(1903~88)「日本髪の娘」

 小磯良平を言う時どうしてもこの作品を挙げねばならない。それほど端正な作品で完成度が非常に高い。色彩のバランスも素晴らしく、緊張感が溢れていて、これぞ小磯だという感じがする。


 中村さんは私たちとは初対面にもかかわらず、すっかり心を許して話していて、私は郁子さんに対する責任をひしひしと感じていました。

 ・・・ああ、そうでした。・・・お願いがあるんです。

 どういう・・・、と私。

 何も難しいことではありません。・・・郁子は今の仕事に生きがいを感じています。みなさんの活動に望みを繋いでいます。過去にあの子もいろいろありました。でも、すっかり元気を取り戻しました。ですから、今の仕事が続くように・・・、いや、こんなことを私が言うのはおかしいですね、ですから、絶えずとは申しません、遠くから見守ってやっていただきたいのです。

 分かりました、お母さん。私は素直な気持ちでそう返事しました。長柄さんも、ご心配はいりません、努めて・・・、と答えました。

 ありがとうございます。冴子さんや京子さんが近くにいらしゃるので不安はないのですが、気が強いのでこれから何をしでかすか分かりません。何か不都合なことをすれば厳しく叱ってやってほしいのです。

 え、心がけます。私はそう言いながら胸が熱くなっていました。郁子さんが娘のように思えてきました。

 私にできることが何かありませんでしようか。改まった調子で中村さんは言いました。私はどう答えていいかとまどっていました。すると、突然長柄さんが言いました。

 お母さん、絵を描いていただけませんか。

 絵ですか、どういう・・・。

 貴女の舞台姿です。

 ええっ、・・・突然で答えにくいのですが・・・、私も仕事に加わらせていただくという意味を込めて、・・・そうですね、少し時間をいただければ・・・。

 そりゃありがたいです。長柄さんがぱっと明るい表情になりました。

 私も嬉しいです、ぜひ・・・。私もお願いしました。

 ええ承知しました。

 ありがとうございます。

 も一つ最後にお願いがございます。・・・今日お話ししましたことは、ぜひ内密に・・・。中村さんは、そう言うと、ほっとしたような和らいだ表情になりました。

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