とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

学芸員

2012-10-17 23:17:44 | 日記
学芸員




高島野十郎「林経秋色」(1961)

 こういう写実は地味だが、作者の心の深さを感じさせて、見ていると素直に画面の内部に吸い込まれていく。作者はよく林を描く。描かれた世界は常に安らかである。


 私は頭の中を整理したくなりました。様々なことが身辺で起こったり、アイディアとか提言したいこと等が渦巻いていたりで、どうにもならなくなっていました。
 そこで、長柄さんに述べたり佐山医師に会って述べたり冴子さんに述べたりして、最後にご縁市場の所長の古賀画伯に相談しました。長柄さんと一緒に行きました。道すがら、長柄さんが、この前諏訪という地名を私が言ったことについてしつこく聞いてきましたが、その点については私は黙秘権を行使していました。画伯の家の裏山に秋の気配が感じられて、私は何か余計に焦りを感じていました。

 ごめんなさい。突然お邪魔しまして。長柄さんと私が先ず画伯のアトリエでそんな挨拶をし、早速本題に入りました。

 地域ブランドの件ですが、出雲ですから岡田さんの農園を生かして出雲そばの出店とか、市場のシンボルに因んだ陶器製の変身キャラとか、出雲神話に因んだ商品とか・・・。

 畝本さん、思いつきではいけませんよ。持続性のある商品でないと・・・。

 そうですか。でも・・・。じゃ、画伯ならどんなものを・・・。

 平凡なものでもいいものはたくさんあります。それから、付加価値の高いものでしょう。

 具体的に仰ってください。

 今までの客層を考えたり、地域性を考えたりして、・・・そうですね、今度の合同会議でアイディアを出していただきましょう。

 そうですか。そりゃ、それがいいと思います。でも、案を持って出ないといけないのでは・・・。

 私はやはり生活に密着しているという観点から食品だと思います。出雲は食材が豊富ですから。長柄さんが意見を述べると、古賀画伯は、そうですね、それが現実的ですね、といたく感心した様子でした。私はそこで話題を変えました。

 それからですね。二階の部屋がほとんど空いてしますが、二階を美術館にしてはいかがでしょう。陶芸も含めて・・・。

 出ましたね。私も考えていました。この市場に関係した画家などがたくさんいます。相当な作品が集まります。

 唐突ですが、美術館と言えば専任の学芸員が・・・。

 そうですね。いずれは必要ですね。

 いるんです。適当なお方が・・・。

 えっ、どなたですか。

 坂本龍太郎さんです。

 さ か も と・・・。どんなお方ですか。

 郁子さんのお父さんです。

 ああ、分かりました。・・・でも資格をお持ちでしょうか。

 ちゃんと調べています。

 でも、東京のお方でしょう。仕事もあちらで・・・。

 いや、こちらで住みたいと仰っています。

 私は反対しませんが、これも会議に・・・。

 所長が強力に推薦してほしいのです。

 でも、まだ美術館を開くこと自体が・・・。

 強力に推し進めてください。お願いします。私はあの親子を一緒に住まわせたい一心で力を込めて訴えました。
 
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