とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

芸能人画家

2012-10-20 23:37:19 | 日記
芸能人画家




ピカソ「腕を組んですわるサルタンバンク」(1923年)

 ピカソ作品の中に芸人を描いたものがいくつかある。この作品もそうである。がっしりした体躯の男性像が赤の衣装をまとっている。表情からして人なれがしている感じがする。いかにもスターだという雰囲気が漂っている。


 古賀所長から夜電話があった。妻が最初に出た。古賀さんです、何か慌てていらしゃるみたい、と妻は言いました。すぐに私は電話の子機を取りました。

 ああ、畝本さん、夜分ごめんなさい。実はこの前の美術館の件、独断で企画書を市に出したところ大変好意的な返事が貰えたんですよ。

 へえー、そりゃよかったですね。

 ええ、それでね、あの学芸員の話、坂本龍太郎さんの話、OKでしたよ。私が電話したんです。市から予算がつくと言っても微々たるものだと思います。ですから、専任の学芸員を置くというとご破算でしょう。私の考えでは坂本さんへの手当は別の方法で考えようと思っていました。ところが今日ある方から多額の寄付が私のところへ送ってきました。

 ある方、ですか。

 そうです。名前を貴方に知らせていいかどうか・・・。

 その方、・・・中村さん、中村仙女さんではないですか。

 えっ、ご存知でしたか。

 いや、何だかそういう気がしただけです。

 中村さんとはどういう・・・。

 いや、何にも関係はありません。著名な舞台俳優ですから、ただお名前だけはよく知っていました。・・・絵を描いておられますね。

 そうです。私もその方の絵は何度も拝見したことがあります。芸能人の趣味というレベルではなく、一流ですね。しっかりした画風を持っておられる。人気も相当あるようですね。個展ではすぐ完売だそうです。それから坂本さんは画商ですが、芸能人に幅広い人脈があります。芸能人の作品のほとんどを手掛けていらっしゃると言ってもいいです。ですから、美術館としてはあるカラーを出しやすいと思います。合同の会議でもその点を強調します。

 そうすると、中村仙女美術館ということになりますね。

 いや、私はご縁美術館の方がいいと思います。できるだけ肩の凝らない雰囲気を作りたいと思います。ですから、入場料はできる限り安くしたいと思っています。会議で決まればいろいろな手続きを進めたいと思います。改装の費用、作品の収集等、まだまだ解決しないといけない問題が山積していますが、頂いた浄財を生かしてできるだけ早く実現させて、出雲の大きなブランドにしたいと思います。

 私からも坂本さんに電話していいでしょうか。

 えっ、何と仰るんですか。 

 いや、お願いです。

 ええ、どうぞ、どうぞ。私は古賀さんにそう言われましたが、その実、何をどう話していいのか言葉が浮かんできませんでした。

  
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