医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

沖縄クライシスは誤り、ゼチーアの宣伝の間違い

2011年06月02日 | 生活習慣病
                 ↑沖縄県衛生環境研究所報 第40号 (2006)より


東大の教授が東京電力から巨額の研究費をもらっているので、東京電力に都合のいいことしか言えず、原発事故対策が不利になったことを教訓として、公共の利益が害されることがないように公益目的で、誰がどういう事を言っていたかを証拠として残していくシリーズです。

商品を売ろうとする場合、例えば「あなたの財産運営は大丈夫ですか」とか「あなたの抜け毛、気になりませんか」とか「あなたのおうちの浴槽はカビだらけ」「縁の下のシロアリは恐ろしい」のように、危機感を煽るのが効果的であることはMBA(経営学修士)過程でも教えられることです。私が留学していた時に取っていたクラスでもそういうことを教えられました。


ゼチーアの宣伝では、九州大学 江頭健輔 准教授が、左上の図を紹介して、以下のようにコメントしています。

「われわれ日本人の食卓は、昔の一汁一菜から、ファーストフードに代表される欧米食へ変化し、コレステロール摂取量が増加しています。過去、長寿を誇った沖縄も、一足先にファーストフードが上陸したことで、いまや、そのランキングを下げてしまっています。これは由々しき事態です。」


しかし、私がいろいろと調べたところでは、これは大きな間違いです。

平均寿命というのは0歳時の平均余命のことです。まず、このあたりの認識を間違えています。つまり、例えば沖縄の0歳の子供がなんらかの感染症で大勢が亡くなっても沖縄の平均寿命は低下するので、それが動脈硬化疾患のために中高年層で死亡する人が増えたためとは必ずしも言えないのです。

そこでネットで沖縄の別の年齢の平均余命を調べていました。それが、右上の図です。2008年5月「厚生の指標」に載っていたもので県別の65歳の男性の平均余命ですが、沖縄の65歳の男性の平均余命は全国一位にかわりはありません。女性もしかりです。

それではいったい沖縄県の誰が死亡しているのでしょうか。それも調べてみました。下の図は、2006年の沖縄県衛生環境研究所報に載っていたものです。数字は沖縄県が全国47都道府県で何番目かというものですが(数字が大きい方が悪い)、15~45歳の全死因が最悪であることがわかります。そしてその内訳は、けっして心筋梗塞ではなく肝疾患と自殺であることが分かります。沖縄県は最近の他県の産業構造の改善に取り残されるかたちで失業率が日本で最悪で、若年~中年の自殺者が増えています。

つまり、沖縄県の平均寿命が低下してきたのは、欧米食へ変化しコレステロール摂取量が増加して心筋梗塞が増えたためではなく、肝疾患と自殺が増えたためなのです。那覇空港をハブ空港化するとか政府が取り組んでいる沖縄産業の復興対策や、精神科的な介入により自殺者を減らすことの方が、沖縄県の平均寿命を改善するのに、よほど効果があると考えられます。

このようにちょっと調べればすぐに分かることなのに、ゼチーアは誤った解釈で危機感を煽り宣伝しています。

じつは沖縄の食事が欧米化した件に関して、以下のように2006年9月の沖縄医師会会報に「沖縄クライシス」として記載されています。

「若い世代では高脂肪食に代表される欧米型のライフスタイルが浸透しており、いわゆる生活習慣病の増加が社会問題となっている。 2000 年の都道府県別平均寿命では、女性は1 位を堅持したが、男性は20 年近く守った1 ~ 5 位の座を一気に26 位まで下げてしまった。沖縄県民の食生活は、米軍の統治下、無批判に西欧化を受け入れ、短時間のうちに様変りしてしまった。そして遺伝と環境のギャップにツケを払う羽目になった。これを沖縄クライシスと呼ぶならば、近い将来の日本クライシスを予見しているとも考えられる。」

沖縄県の医師会も、もう少し調べて書いたほうがよかったのではないかと思います。

国民に不利益になる(効果のない薬を買わされる)コメントが間違って公言されることがあれば、それは大問題だと思いますし(公共性)(公益性)、その証拠はしっかりと残したいものです。



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1 コメント

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おもしろい (Tom)
2011-06-14 16:45:07
いつも興味深く拝見しております。今回も大変おもしろいお話で、研究とは断面をみるものであり、その断面を矛盾なく説明することにあると思いました。結果と原因を根拠なく短絡的に結びつけるという手法は、科学のシモベとしては避けなくてはならないことです。ただ、この平均寿命というのはお説の通り0歳児の平均余命である訳ですが、これがなかなか理解されていないというのが現状です。江頭先生も悪気があった訳ではないと思いますが、メーカーから提供されたグラフの解釈を求められてあのようなお話しになったものと思います。メーカーがらみは気をつけなければなりませんね。勉強になりました。
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