医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

論理学検定

2012年05月31日 | 雑感
以前、英語検定で小学生でも1級がいることや、私が留学していたころ選択していたクラスの1つである「Logical Thinking」のことを書きました。「Logical Thinking」では、「感情論」や「道徳観」「社会通念」など、客観性を担保できないことを根拠とすることが戒められ、徹底的に正当性のある事柄で論理を組み立てることが求められました。宿題も多く、かなり厳しかったのを覚えています。

オバマ大統領の医療保険改革について、英検5級の小学生と英検1級の小学生が同じテーブルにつき英語でディスカッションすることなどありえません。普通の感覚なら、なるべくレベルを揃えてディスカッションするはずです。私は論理技術にもそのレベルを担保する検定があり、なるべくそのレベルが同じ者同士で議論するのがいいのではないかと思うことがよくあります。

普天間基地についての国会での論戦、鳩山政権に関する市民の意見など、意見の食い違いというよりも論理回路のレベルの違いと思えることがよくあります。以前お伝えしたように、総論と各論のぶつかり合いでは最初から議論にならないこともあります。

さて、意見・主張は次の3つに分けることができます。
1、パトス いわゆる感情論。情や感覚で訴えること

2、エトス 道徳観や倫理観で物事を訴えること

3、ロゴス 正当な理由を述べ論理性で物事を訴えること

日本人は概して、「感情中心」あるいは「倫理中心」的に話を勧め、客観的な根拠に基づいて話すということが苦手のようですが、国際コミュニケーションにおいては、これが相互理解や説得の障害となっています。


一つの例を紹介します。そのクラスには、A新聞社から留学していた日本人がいました。その日本人はなにかにつけ日本のことを「small country (小さな国)」と言っていました。しかし、日本の国土はその面積では世界中の国々を広い順に並べると上から3分の1ですし、人口で考えてもしかりです。ましてや技術力、経済力という意味でsmallと言っているはずもありません。私は彼に「あなたは日本のことを小さいと言っているが、日本の国土は世界の上から3分の1である等・・、誤りである」と反論した記憶があります。彼はこの時、パトスで主張しようとしているわけです。(どうもA新聞社は日本人でありながら日本が嫌いな人たちが集まっているのだと、私はこの時感じていました)

世界中から集まっている優秀な人たちも、私の意見に賛成でした。特に欧米では、このような優秀な人たちの間ではロゴス遵守が広く浸透しています。その日本人留学生が、しどろもどろに返答していると、アメリカの学生から「あなたは私の質問に答えていない」と言われてしまいました。(お世辞ではないですが、私はこの時、いや留学中ずっと、日本は世界中からある程度尊敬されているのを感じていました。日本人はもう少し日本に自信を持っていいと思います)

私たちが使用していたこのクラスの推薦書の1つです。お勧めです。このクラスでは、将来、大統領補佐官などになる可能性のある者達もたくさんいますので、感情論そのものである「パトス」や、個人的にばらつきのある既成の概念にとらわれた「エトス」で論じることが厳しく禁じられていました。国の運営が、感情や既存の概念にとらわれた先入観でなされると困るからです。
The Pyramid Principle: Logic in Writing & Thinking
翻訳版もでています。
考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
私も以前Amazonでレビューを書きました。


話が少し逸れてしまいましたが、それでは私が独断で作った論理学検定試験を紹介します。紙と鉛筆を用意して、時間をかけて考えるといいと思います。

問題
次のやりとり、あるいは前提と結論は「正しい」か「誤り」か、またその理由も述べなさい。

(5級)「イーオンを選んだ理由は何ですか?」→「小学生の英会話の先生になりたかったからです」

(4級)「魚は泳げる」→「金魚は泳げる」→「従って、金魚は魚である」

(3級)「彼の理論は誠実で、しかも的を射ているとはいえない」→「彼の理論は誠実でもないし、的を射ているとはいえない」

(準2級)「この湾内でとれた魚を食べた人だけがひどい痛みを訴えた。この症状と魚の摂取との因果関係は不明である」→「従って、魚を食べたことを症状の原因と見なすことはできない」

(2級)「最良の政治体制は、国民主権を基礎にした政治体制である」→「なぜなら、民主主義こそ、まさしく最良の政治体制だからである」

(準1級)「新生児と誕生直前の胎児との間には、ほとんど違いがない。また、誕生直前の胎児とその数日前の胎児とも、ほとんど違いはない。このようにして受精したばかりの受精卵から新生児に至るまで、一連の成長過程を目の当たりにするのである」→「従って、新生児を殺すのが殺人ならば、受精卵を殺すのも殺人である」

(1級)「進化論とは、要するに、人間がサルの子孫だというアイデアにすぎない」








答え
(5級)「誤り」「小学生の英会話の先生になりたかったからです」は「英会話教室に通っている理由」にはなりますが、どうして他の教室ではなくてイーオンを選んだのかの答えにはなっていません。

(4級)「誤り」典型的な三段論法の手法ですが、「金魚」を「人間」に変えると誤りだとわかりやすいです。

(3級)「誤り」有名なドモルガンの法則です。AかつBでない=Aでない、あるいは、Bでないです。正解は「彼の理論は誠実で、しかも的を射ているとはいえない」→「彼の理論は誠実でないか、あるいは的を射ているとはいえないかのどちらかである」です。「彼の理論は誠実であるが、的を射ているとはいえない」場合、「彼の理論は誠実で、しかも的を射ているとはいえない」のですが、「彼の理論は誠実でもないし、かつ的を射ているとはいえない」とは言えないです。国会議員もこれを間違えて、無茶苦茶な議論をしていることがよくあります。


(準2級)「誤り」議論によって主張を確立するには、その主張を積極的に支える前提を必要とします。ところがある主張を「否定する」理由や証拠が存在しないことを、その主張を肯定的に評価してよい状況とすることはできません。「神が存在しないことは証明されていない」→「従って神は存在する」と単純化するとわかりやすいです。

(2級)「誤り」「民主主義」が意味するのは、まさしく「国民主権を基礎にした政治体制」のことだから、前提と結論はまったく同じ主張を言い換えたものにすぎない。これは「循環論法」と呼ばれており誤り「虚偽」です。これを知っていれば、中国の「私はその排他的経済水域を認めない、従ってそこに調査船を派遣してもよい」という主張も「循環論法」であり「誤り」だとすぐに指摘できます。

(準1級)胎児成長のどの段階をとっても、そこには生物学的・医学的にさまざまな区別をすることができる。中絶に賛成ないしは反対の意見に共感を覚えるかどうかは別問題で、前提と結論の関係が適切ではない。この論法は論理学では「滑りやすい坂道の虚偽」と呼ばれており、誤りです。呼気中アルコール濃度が0.15mg/L以上が飲酒運転と定義されるのにもかかわらず、運転前に1滴でも飲酒するのはいけないという意見は、まさしくこの「滑りやすい坂道の虚偽」であり、「エトス」「パトス」以外の何ものでもありません。こういうことを言う人が「魔女狩り」などを起こしてしまいやすいと「Logical Thinking」の講師は言っていました。

(1級)相手の主張を実際とは違う形に比喩化してから、それを批判することにより、相手の手中が間違っているような印象を与えようするのは「わら人形の虚偽」と呼ばれる誤りです。「進化論」を論議するのに、それが「人間がサルの子孫だ」ということが進化論の全てのように議論をすり替えています。


どうでしたか、皆さんは何級までできましたか?ちゃんと正しく議論する技術はとても大切ですね。

議論を客観的根拠に基づき行う能力を身につけることによって、私たちは力による「ごり押」ではなく、合理的な説得をつねに心がける優しさと、不当な権威に頼らずにすべての意見を比較考量できる公平さを身につけることができるのです。


公務員の飲酒運転 「原則懲戒免職」緩和の動き
飲酒運転した公務員を事故の有無にかかわらず「原則懲戒免職」としていた全国29自治体のうち、計10府県市が処分基準を見直すか、見直しを検討していることが毎日新聞の調べで分かった。06年8月に福岡市職員の飲酒運転で幼児3人が死亡した事故をきっかけに処分の厳罰化が広がったが、09年以降、「過酷だ」として免職を取り消した判決が最高裁で相次いで確定。厳罰化の流れに変化が生じている。

基準が厳罰化された後、職員側が免職の取り消しを求めて各地で提訴していた。09年9月に兵庫県加西市の上告が棄却され、自治体敗訴が最高裁で初めて確定。その後、神戸市、佐賀県、三重県の敗訴が確定した。

神戸市は検挙のみの場合などは「停職」とする新たな運用方針を定めた。市人事委員会は一連の司法判断を踏まえ、飲酒運転で横転事故を起こすなどした2人の懲戒免職を停職6カ月に軽減した。
(毎日新聞より引用)

さすが司法はロゴスです。パトス・エトスなのは警察と市民ですね


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「不適切な治療」として医療訴訟が発生する割合が増加した

2012年05月11日 | 総合
1990年代と2000年代の消化器診療が関係した民事訴訟事例における患者側の主張内容について比較検討した結果が学会で発表されました。

資料として、第一法規法情報総合データベースと裁判所ホームページ判例検索が用いられました。1990年代(1990年から1999年)と2000年代(2000年から2009年)の間に判決が出された消化器診療が関係した民事訴訟事例が検索されました。

該当する医療訴訟は、1990年代に26事例、2000年代に73事例認められました。両年代を比較すると、「不適切な治療」の割合が4%から23%と有意に増加していました(p=0.04)。

「不適切な治療」として医療訴訟が発生する割合が増加した理由は以下の3つが考えられるそうです。

1、1990年代に比べて2000年代では、医療の進歩により治療法の選択肢が増加した。

2、治療経過が思わしくなかった時、患者側は他の選択肢の方が良かったのではないかと考え、病院側の責任を問うために訴訟という手段を選ぶようになった。

3、インターネットの普及により、医療情報や専門家の意見が入手可能となり、患者側も該当疾患の診断や治療法などを学び専門的な内容に関して問題が指摘できるようになった。



病院側の敗訴率はここ数年減少傾向にあるそうですが、医者はこれらの結果を肝に銘じて、常に最新の医療情報に耳を傾け、診療ガイドラインを遵守して適切な医療を行うとともに、十分に患者とコミュニケーションをとり、患者が納得する医療を提供する必要があります。

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女性は心筋梗塞で胸痛がないことが多く死亡率が高い

2012年05月06日 | 循環器
急性心筋梗塞の発症は男性の方が多いのですが、一旦発症すれば女性の方が予後が悪いということが分かっています。最近、それらのことを大規模に調査した研究が発表されました。

Association of age and sex with myocardial infarction symptom presentation and in-hospital mortality.
JAMA. 2012;307:813-22.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

1994年から2006年の間に急性心筋梗塞で入院した114万3,513人が調査の対象となりました。男性の発症平均年齢は67歳であるのに女性の平均年齢は74歳と、女性の方が有意に高齢でした。

受診時に胸部痛や不快感のなかった患者は男性が30.7%であるのに対して女性は42.0%で、女性の方が典型的な症状がない割合が有意に高くなりました。

女性が男性と比較して何倍症状のない場合があるかは、年齢に関係していて、45歳未満では男性の1.30倍、45歳~54歳では1.26倍、55歳~64歳では1.24倍、65歳~74歳では1.13倍、75歳以上では1.03倍というように、若い患者ほど症状のない割合が多くなりました。

院内死亡率は男性が10.3%で女性は14.6%と、女性の方が有意に高くなりました。

急性心筋梗塞の予後が女性の方が男性より悪いのは、女性の方が胸部痛や不快感などの症状がない場合が多く、積極的な治療の開始が遅れることが原因ということが証明されました。

急性心筋梗塞は心電図され施行すれば診断できますので、女性の皆さんは心筋梗塞に典型的な症状がなくても心電図を施行してもらいましょう。

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