医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

パラシュートは高所からの下降時に死亡を防止するのに有用か

2006年08月19日 | 総合
前回、深夜の運転時にカフェイン入りのコーヒーを飲めば安全運転の割合が増えるという結論を導き出したフランスの研究チームに、パラシュートの有用性を証明する無作為試験をしてもらいたいと書きました。

その理由は、実際にBMJ Journalという有名な雑誌にパラシュートの有用性を証明するパロディー論文が掲載されているからです。この論文ではEvidence based madicine至上主義に問題が提起されています。今回はその論文をご紹介します。

Parachute use to prevent death and major trauma related to gravitational challenge: systematic review of randomised controlled trials.
BMJ Journal. 2003;327:1459.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数?????)

インターネットでパラシュートが高所からの下降時に死亡を防止するのに有用かどうかを調査した無作為比較試験を検索し、高所からの下降時においてパラシュート使用群と非使用群を比較し、死亡と重篤な外傷の割合を比較することが目的とされました。

結果では、パラシュートの有効性をランダム化比較試験を用いて評価した適切な研究を見いだすことは出来ませんでした。ほかの多くの研究と同様に、パラシュートの有用性はランダム化比較試験を用いて厳密に評価されていないのです。

結論では、Evidence based madicine至上主義の立場から試験介入の有効性を観察的研究の結果のみから判定するには問題があり、治療の有効性はランダム化比較試験によってのみ判定されるという立場に立つ人々は、パラシュートの有用性を評価する二重盲検ランダム化比較試験をデザインして積極的に参加するべきであると述べられています。

つまり、パラシュートの有用性はランダム化比較試験を行わなくとも、人間の経験と想像力でわかっていることであり、医学の分野でもそういうことは多く存在するのではないか、と訴えているのです。

でも、例のフランスの研究チームであればこのランダム化比較試験をやってくれそうです。応援していますよDr. Philip!

さて、私は明日から夏休みです。時間があれば更新したいと思います。


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コーヒーと仮眠は運転中に反対車線に飛びだす確率を減らす

2006年08月17日 | 総合
最近、車を運転中に居眠りかなにかで反対車線に飛び出し、対向車と正面衝突して死亡したというニュースが多いですね。そこでこんなフランスからの論文を調べてみました。

The effects of coffee and napping on nighttime highway driving: a randomized trial.
Ann Intern Med. 2006;144:785.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★☆☆☆☆)

対象は平均年齢21歳のボランティア男性12人で、片道100kmの高速道路を90分間(平均130km/h)で往復する(オイオイ、スピードの出し過ぎじゃない)トライアルをそれぞれが4回ずつ行いました。

それぞれが午後6時から7時30分の夕方と、午前2時から3時30分の深夜に運転をしました。

その際、運転の30分前に、仮眠を30分とる群と、カフェイン200mg入りのコーヒーを飲む群と、カフェイン15mgのみが入ったプラセボ用のコーヒー(飲む人はカフェインが普通に入っていると思っている)を飲む群に無作為に分けて、さらに対象者ごとに群の順番をランダムに変えました。

車内にビデオカメラを設置して運転中にセンターラインを越えて反対車線に飛び出す回数を調べました。(さすがフランス!やることが過激です)

結果は、反対車線への飛び出しが1回以下の安全運転?(1回でも飛び出したら安全運転じゃないのでは?)の割合は、夕方の運転では12人中12人の100%でした。

これに対して深夜では安全運転の割合はカフェイン15mgでは25%だったのに対して、仮眠群では66%、カフェイン200mg入りのコーヒーを飲む群では75%と安全運転の割合が高くなりました。

著者らはこれまで運転シミュレーターを使った研究はあったが、実際の道路で行ったのは世界で初めてだと強調しています。(こんな研究、本当に許されたの?)対象人数12人でインパクトファクター4つ星です。

今回の研究では助手席からブレーキなどの操作ができる車を使用し、インストラクターが被験者の運転を関したそうですが、それにしてもいろいろな意味で凄い研究です。

私はこの研究チームに今度、パラシュートの有用性を証明する無作為試験をしてもらいたいです。

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妊婦の血液中ビタミンDは9歳時の子供の骨折と関連がある

2006年08月12日 | 小児科
Maternal vitamin D status during pregnancy and childhood bone mass at age 9 years: a longitudinal studyMaternal vitamin D status during pregnancy and childhood bone mass at age 9 years: a longitudinal study.
Lancet. 2006;367:36.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

妊婦時の血液中のビタミンDの量と生まれた子供の骨の強さについて調べるために、1991年から1992年の間に対象となった妊婦198人とその後に生まれた子供が9歳になるまで調査されました。

ビタミンD量は20μ/L以上が十分、20~11μ/Lが不足、10μ/L以下が欠乏と定義されました。
妊婦の31%が妊娠後期にビタミンDが不足しており、18%では欠乏していました。妊娠後期の血液中のビタミン量が少ないと、9歳時の子供の全身の骨量と腰椎骨量が少ないという関係が認められました。

妊娠後期に浴びた紫外線量が多いと血液中のビタミンD量も増えていました。また、妊娠後期にビタミンDのサプリメントを摂取した妊婦ではビタミンD量も増えていました。

その結果、妊娠後期に浴びた紫外線が多いほど、またビタミンDのサプリメントを摂取するほど
9歳時の子供の骨量も増えるという関連が見いだされました。

このような結果が得られた理由は、妊婦の血液中のビタミンD量は臍帯を介して胎児にもたらされるカルシウムに影響を与えているからだそうです。

妊娠後期に屋内ばかりにいるのは問題がありそうだし、白い肌を維持しようと太陽の光に当たらないのも良くないようです。

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高齢者の男性では女性ホルモンが低いと骨折しやすい

2006年08月08日 | 整形外科
エストラジオールは主に胎盤、卵胞、副腎皮質で合成・分泌されているステロイドホルモンの一種で、女性では多くの重要な役割を果たしている女性ホルモンです。しかし、女性ホルモンだからといって男性にはないわけではありません。

正常値は
男性: 10~60 pg/ml
女性(閉経前): 30~400 pg/ml
女性(閉経後): 5~18 pg/ml (pg/ml = ミリリットル単位当たりピコグラム)

で、閉経後の女性では男性の正常値より低くなる事があります。この女性ホルモンが低いと骨の密度が低いという事は以前からわかっていましたが、骨折、特に罹患すると高齢者ではその後の生活に重大な影響を与える大腿骨頚部骨折の発生頻度との関係はわかっていませんでした。最近、これらの関係に関する研究の結果が発表されました。

Esrtadiol, Testosterone, and the risk for hip fracture in elderly men from the Framingham study.
The American Journal of Medicine. 2006;119:426.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★☆)

研究の対象は1981年から1983年の間に、血液中のエストラジオールを測定した793人の男性(平均年齢71歳)で、血液中のエストラジオールの値により低値群(2.0~18.1 pg/ml)、中間群(18.2~34.2 pg/ml)、高値群(34.3 pg/ml以上)に分けられ、1999年まで重傷の外傷が原因以外の大腿骨頸部骨折の発生率が調査されました。

結果は、1,000人あたり低値群で11人、中間群で3.4人、高値群で3.9人の大腿骨頸部骨折の発生がありました。年齢や喫煙状況、身長、肥満度を考慮して調整した発症率は、低値群では高値群の3.1倍でした。

テストステロンという男性ホルモンの値でも同様な調査を行いましたが、値の違いによる差は認められませんでしたが、エストラジオールとテストステロンが両方とも低い場合はそうでない場合と比べて発症率は6.5倍でした。

この結果は臨床的に非常に有用です。健康保険の適応のことは別にして、高齢者の男性ではエストラジオールとテストステロンを測定して、低い場合には骨密度を上げるような投薬を施しておくことが可能となると思います。


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小児喘息の発症率は都道府県間で異なる

2006年08月05日 | 小児科
気管支ぜんそくの症状を持つ小中学生の割合は都道府県間で異なり、最大で約2倍の差があることが厚生労働省研究班の調査で分かった。全国規模の有症率調査は初めて。地域差の理由は分からなかった。研究班は「その地域の患者にとってより効果の高い対策を考えるためにも、地域差の要因を今後の調査で解明する必要がある」としている。

05年6-7月にかけ、各都道府県の小学1、2年生6万4424人と中学2、3年生7万8人に質問票を送り、気管支ぜんそくの症状の有無や他のアレルギー疾患の症状などを聞いた。回答率は小学生85・3%、中学生73・7%で、このうち6-7歳と13-14歳の回答を分析対象とした。最近1年間にぜんそくの症状があったのは小学生13・9%(男子16・3%、女子11・5%)、中学生8・8%(男子9・0%、女子8・5%)。

都道府県別の有症率では、小学生は北海道が18・4%で最も高かった。最低は京都の9・6%だった。中学生では、長崎が13・2%で最高、最低は富山の6・1%だった。小中学生とも人口密度や気候条件などと有症率との間に明確な相関関係はなく、地域差が生じた理由は不明だった。また、ぜんそく、アレルギー性鼻結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかを持っている割合は小学生33・7%、中学生31・7%で、3人に1人が何らかのアレルギー性疾患を持っていた。

赤沢医長は「寒さが厳しい北海道では気密性の高い住宅が多いなど、その地域に特徴的な室内環境が影響しているかもしれない。疫学調査がまだ不十分で、国民も協力してほしい」と話している。
(以上、毎日新聞より引用)

あまり気密性が高い室内環境は小児には良くないようです。


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高齢者では配偶者の重病で自分の死亡率も増える

2006年08月03日 | 総合
夫や妻が重病にかかったり死亡する事が、本人の健康にどれほど影響を与えているかを調査したユニークな論文が発表されましたのでご紹介します。

Mortality after the hospitalization of a spouse.
New England Journal of Medicine. 2006;354:719.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

全米で1993年に夫婦のどちらかが重病で入院もしくは死亡した65歳以上の518,240組が対象とされ、その後9年間調査されました。

9年間の調査期間で、少なくとも1回以上入院した夫すなわち男性の割合は74%で、妻すなわち女性の割合は67%でした。9年間の調査期間で死亡したのは夫が49%、妻が30%でした。

妻が大腸癌、脳卒中、精神病、痴呆(法改正により認知症と呼ばれています)で入院した後の夫の死亡率はそれぞれ6.4%、6.9%、7.5%、8.6%でした。逆に夫が大腸癌、脳卒中、精神病、痴呆で入院した後の妻の死亡率はそれぞれ3.0%、3.7%、5.7%、5.0%でした。

配偶者が重病にかかったり死亡したりしていないケースと比較したところ、夫の場合、妻が大腸癌で入院や死亡しても死亡率が増加しなかったのに対して、脳卒中、心不全、骨折、精神病、認知症で入院や死亡した場合の死亡率はそれぞれ1.06倍、1.12倍、1.15倍、1.19倍、1.22倍に有意に増加しました。

妻の場合、夫が脳卒中、心不全、骨折、精神病、認知症で入院や死亡した場合の死亡率はそれぞれ1.06倍、1.12倍、1.15倍、1.19倍、1.22倍に有意に増加しました。妻の場合もほぼ同様の増加率でした。

全ての病気を総合して統計処理をすると、妻が重病で入院あるいは死亡した場合の夫の死亡率は22%上昇し、夫が重病で入院あるいは死亡した場合の妻の死亡率は16%上昇しました。

大腸癌では配偶者の死亡率が上昇せず、脳卒中、心不全、骨折、精神病、認知症で上昇するというのは死亡の時期が予想できないからでしょうか。この論文は配偶者に先立たれた場合の残された人の精神的ケアという点で示唆深い結果を示しています。

それはともかく、女性の方が配偶者の死亡には強いようです。


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