医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

ディオバンという高血圧の薬の有効性

2006年10月18日 | 循環器
以前、高血圧の薬の1つであるブロプレスというアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の有用性をお伝えしましたが、ARBに関して日本で行われた大規模臨床試験(JIKEI Heart Study)の結果が発表されましたのでお伝えします。

使用したARBはディオバンという薬で、高血圧症、心不全、冠動脈疾患のいずれかがある患者3,081人がディオバン投与群(1,541人)(40mg/日から最高160mg/日)と非投与群(1,540人)に無作為に割り当てられ調査されました。

この研究の特徴は、調査開始まで内服していたそれまでの血圧の薬はそのまま継続して、ディオバンを追加して内服するかどうかで投与群と非投与群を設定していることで、より現実に近い状況で調査されたということです。

心筋梗塞、脳卒中あるいは一過性脳虚血発作、心不全あるいは狭心症による入院、大動脈解離(血圧が高いために動脈にヒビがはいる)、下肢動脈閉塞、腎機能の悪化(クレアチニン値の倍増)、人工透析への移行について発症率が調査されました。

有効であった項目は、脳卒中の発症が非投与群で48人であったのが29人に抑制されたこと(危険率0.60)、心不全による入院が非投与群で36人であったのが19人に抑制されたこ(危険率0.54)、狭心症による入院が非投与群で53人であったのが19人に抑制されたこと(危険率0.35)でした。

両群の差が予想より大きかったので、倫理的な問題(非投与群の方が予後が悪いことが明らかになり、それを知りつつ調査を進めることが非投与群の患者さんの不利益になる)から調査は3年で打ち切られました。

何人に一人がその薬で利益を得ているかを表すNNTは、脳卒中の発症で77人、心不全による入院で91人、狭心症による入院で45人です。その数字からコストを計算すると、この研究での平均投与量は75mg/日で、ディオバン80mgが151円ですから、脳卒中の発症を一人予防するのに1,273万円、心不全による入院を一人予防するのに1,505万円、狭心症による入院を一人予防するのに744万円かかることになります。


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最近の研修医(その2)

2006年10月15日 | 雑感
今日は当直明けです。
当直明けだとどうしても研修医に対する愚痴になってしまいます。

夜の11時ごろ、重症の心不全の患者さんがどうしても自宅に帰りたいと言いだしました。強心剤の点滴を中止して自宅に帰ることは生命の危険があるとの説得に応じてしただけませんでした。死んでもいいから自宅に帰るということであれば、その要求を拒否するかどうかは別の問題として、ご家族の方も呼んでほしいと言われるのでお呼びし説得を続けました。

私と精神科の医者で対応はできましたが、「帰れないなら、飛び降りる」とも言われましたので、さすがに担当の研修医にも状況を把握してもらっていた方がいいと、担当の研修医に電話しました。

研修医は病院から車で3時間ほど離れているところに遊びに来ているので、すぐには戻れないとのことでした。

幸い、その患者さんは担当医に来てほしいとは言っていませんでしたので、研修医に病院に来てほしいとは私からは言いませんでした。土曜日でもあるし、私が当直医ですから私の仕事です。

2時間ほど説得を続け、精神科の医者との相談の結果、鎮静剤の注射で患者さんは休まれました。

この件はともかくとして、研修医として「研修」の身にある医者が、強心剤の点滴を続けている重症の心不全の患者さんを担当していながら、車で3時間ほど離れているところに遊びに行っているのは、私が研修医の時代からは考えられないことです。

今回は病状に変化がある事態ではなかったのでよかったのですが、この患者さんの状態が急変した場合は、どうすればいいのか。遊びに行ってはいけないと言うのではなく、そういう患者さんを担当している時は、常識として(私の常識がずれているのかもしれませんが)、もう少し近くに遊びに行く方がいいと感じた次第です。

これぐらいの「志」を研修医に要求することは、労働基準監督署や研修医を過労で亡くした知人の方々からお叱りをうけてしまうことかもしれません。

しかし、この研修医たちはあと10年すると日本の医療を支える重要な影響力を持っていきます。医者も3時間離れたところに遊びにいきたいでしょう。交通の不便な所よりも便利な所に住みたいでしょう。田舎より都会に住みたいかもしれません。

田舎の病院の今の医者不足を解消するために、世間はそういった利便性を度外視した、「志」を持った医者を捜しています。今、研修医を今回のように育ててしまうことは、10年後にはそれぐらいの「志」で国民の健康が支えられるということになってしまいます。

一方で、世間は研修医の労働条件の改善をめざしています。そうすると、今の世の間は医者に対して矛盾した2つのことを要求しているのではないかと思えるのです。

難しい問題です。


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イソフラボンの女性ホルモン作用

2006年10月12日 | 生活習慣病

イソフラボンは大豆などのマメ科の植物に多く含まれており、エストロゲン(女性ホルモン)様の作用があるため、骨粗鬆症、更年期障害の改善に効果があるといわれています。大豆イソフラボンを売りにした健康食品も多いのですが、穏やかながらエストロゲン様の作用があることから過量摂取すると人体に悪影響の出る恐れがあるともいわれています。

イソフラボンが本当に骨粗鬆症や更年期障害の改善に効果があるのかを、ランダマイズ試験で調べた論文があります。

Effect of soy protein containing isoflavones on cognitive function, bone mineral density, and plasma lipids in postmenopausal women: a randomized controlled trial.
JAMA. 2004;292:65.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

60歳から75歳までの閉経後の女性202人を対象に、99mgのイソフラボンを含む25.6gの大豆タンパクを摂取する群と、粉末の牛乳タンパクを摂取する群にわけ、摂取開始1年後にアンケートによりうつ状態、精神状態の評価、試験により記憶能力、聞き取り能力、認識能力、レントゲン検査により臀部、脊椎の骨密度、血液検査により血中コレステロール値が調査されました。

202人のうち175人が1年間の摂取を完遂でき、genisteinというイソフラボンの血中濃度は、イソフラボン摂取群で615.1nmol/L、牛乳タンパク摂取群で17.2nmol/Lでしたが、上記の調査項目すべてに関して両群で差がありませんでした

この研究の調査期間は1年間ですから、長期間での結果は不明ですが、少なくとも1年間ではイソフラボンは効果がないということです。

さらに、食品安全委員会では、生殖機能が未発達な乳幼児及び小児に対して、特定保健用食品として大豆イソフラボンを日常的な食生活に上乗せして摂取することは、安全性が明確でないかぎり、推奨できないとしています。

健康食品って、あまり良いデータがないですね。


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ヘリコバクター・ピロリの保菌と胃ガンの発症率

2006年10月11日 | 消化器
胃の中はとても強い酸性なので、菌は短時間しか生きられないのではないかと考えられてきましたが、15年ほど前に酸の影響が及ばない粘液の下にヘリコバクター・ピロリとよばれる細菌が生息していることが明らかになりました。ヘリコバクター・ピロリは潰瘍や胃ガンと関連があるとされ、日本人の4割は保菌者であるといわれています.

ピロリ菌がどれぐらい胃ガンの発症と関係があるかを調べた日本で調査された有名な論文があります。
Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer.
Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, Matsumura N, et al.
New England Journal of Medicine. 2001;345:784.

(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃過形成ポリープ、潰瘍はないけれど「もたれ」「不快」「胸焼け」などの消化障害を認める(non-ulcer dyspepsia) 1,526人を対象に7.8年間追跡して、胃カメラで調査されました。1,246人(82%)がヘリコバクター・ピロリを保菌していると確認されました。

ヘリコバクター・ピロリ保菌者のうち36人(2.9%)が胃ガンを発症しましたが、非保菌者からは胃ガンは発症しませんでした。

胃ガンの発症は、潰瘍はないけれど「もたれ」「不快」「胸焼け」などの消化障害を認める445人のうち21人(4.7%)、胃潰瘍を認める297人のうち10人(3.4%)、胃過形成ポリープを認める229人のうち5人(2.2%)に認められましたが、十二指腸潰瘍を認める275人から認められませんでした。

日本人は、ヘリコバクター・ピロリを保菌していると2.9%もの胃ガンのリスクに曝されるというショッキングなデータでした。

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Body Mass Indexでは死亡のリスクと動脈硬化性心臓病のリスクを評価できない

2006年10月08日 | 生活習慣病
木曽駒ヶ岳周辺では紅葉はまだまだでした。
高速を降りるのに1時間の渋滞、駐車場に入るのに1時間待ちと、日本の行楽地は混みますね。アメリカではこんなことなかったので、少しカルチャーショックでした。日本には良いところが沢山あるのに、国土が狭いのが残念です。



Body Mass Index (BMI)とは、体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出した、ヒトの肥満度を表す指数です。日本肥満学会によると、BMIが22の場合が標準体重で、BMIが25以上の場合を肥満、BMIが18以下である場合をやせとしています。

太っている人(BMIが大きい人)は動脈硬化性心臓病になりやすく、死亡率も高いというのが通説でしたが、ちゃんと調べてみたらそうではなかったという論文が発表されました。

Association of bodyweight with total mortality and with cardiovascular events in coronary artery disease: a systematic review of cohort studies.
Lancet. 2006;368:666.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

この研究は、BMIと死亡率の関係を調べた過去の40の論文をまとめて統計処理をしたメタアナリシスです。対象となっているのは約25万人ので、平均調査期間は3.8年です。

BMIが20以下と痩せている人は、20から25までの人に比べて、全ての理由による死亡リスクは1.37倍、動脈硬化性心臓病による死亡のリスクは1.45倍と高くなりました。

BMIが25-29.9と少し太っている人の全ての理由による死亡リスクは20から25までの人に比べて、0.87倍、動脈硬化性心臓病による死亡のリスクは0.88倍と、むしろ低くなりました。

BMIが30-35とさらに太っている人の全ての理由による死亡リスクは0.93倍、動脈硬化性心臓病による死亡のリスクは0.97倍と、20から25までの人と差がありませんでした。

BMIが35を越える人では、動脈硬化性心臓病による死亡のリスクは1.88倍と増加しましたが、全ての理由による死亡リスクは、1.10倍と20から25までの人と差がありませんでした。

以上をまとめると、BMIが35以上(身長170cmで101kg)と極端に太っている人では、動脈硬化性心臓病による死亡のリスクは高くなるけれど、全ての理由による死亡リスクに影響を与えるほどではなく、BMIが25-29.9(身長170cmで72-86kg)と少し太っている場合の死亡率が一番低いということです。

著者らは、「今回の結果は肥満が無害ということを証明したのではなく、BMIという肥満度を表す指数が、筋肉量を維持しているために体重が多い人と、体脂肪が多くて体重が多い人を区別できないということを証明している」と言っています。

全ての群でリスクが同じという結果であれば、この解説で説明がつくと思いますが、BMIが25-29.9と少し太っている人の死亡リスクが、正常のBMIの人と比べて低かったことの説明にはなっていません。

このような結果がでたことの理由の1つを推測してみると、少し太っている場合は比較的筋肉で体重が増えている場合が多く(トレーニングジムに通っているムキムキマンのイメージ)、動脈硬化のリスク因子が少ないのかもしれません。

通常では動脈硬化性心臓病による死亡のリスクを予測する精度は、肥満度を表す指数よりメタボリックシンドロームの診断基準の方が高いようです(男性の糖尿病患者を除く)。


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大腸内視鏡で異常なかった後の大腸ガン発症率

2006年10月02日 | 消化器
週末はキャンプに行ってきました


50歳を越えると年々大腸ガンの発症率が上昇するため、住民検診では便潜血検査が施行され、陽性であった場合には精密検査が勧められます。その中の1つである大腸内視鏡検査を受けて異常なかった後、どれくらいの頻度で施行すればいいのかというデータです。

Risk of Developing Colorectal Cancer Following a Negative Colonoscopy Examination: Evidence for a 10-Year Interval Between Colonoscopies
The Journal of the American Medical Association. 2006:295;2366.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

大腸内視鏡検査で悪性所見の認められなかった35,975人が調査対象となりました。検査前にすでに大腸ガン、炎症性大腸疾患、大腸手術もしくは5年以内に検査を施行された場合は除外され、1989年から2003年まで後ろ向き(既に起きてしまった事を後から振り返って)に調査されました。

大腸内視鏡検査の施行にかかわらない人口全体の大腸ガン発症率は1,000人中6人で、その値と比較した場合、大腸内視鏡検査で悪性所見の認められなかった1年後の発症率は0.66倍(つまり1,000人中4人)、2年後は0.59倍(1,000人中3.5人)、5年後は0.55倍(1,000人中3.3人)、10年後は0.28倍(1,000人中1.7人)でした。

一度の大腸内視鏡検査で悪性所見の認められなければ、その後10年にわたり、大腸ガン発症率は低下していることが確認されました。

この論文が言いたいことはわかりますが、この結果を現実社会でどう利用するかは難しいところです。つまり、たとえ検査によって発症率が半分になることが確認されても、まだ半分の発症率があるのですから検査を受ける必要があるのは変わらないわけです。

ただし、人口全体から計算された大腸ガン発症率は1,000人中6人とそれほど高くはありませんから、一度「大腸内視鏡検査で悪性所見の認められない」と太鼓判を押されれば、その後は2年毎など定期的に大腸内視鏡検査をする必要はなく、便潜血検査で十分だということでもあります。


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