医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

医療費の行方

2008年09月24日 | 雑感
今日、私の母に薬を処方した。症状はなくなったし、もう内服しなくてもいいかもしれないと色々考えながら、その事をカルテに記載し処方箋を発行した。時間にして5分ぐらいだろうか。

病院の会計に行き支払った金額は、410円。領収書には、再診料700円と処方料680円の合計1,380円の3割と書いてある。

処方箋を院外の薬局に持って行った。待合室に置いてあった新聞の1面と2面の見出しを見ている間に薬はまとまったので、時間にして5分ぐらいである。いや2~3分だったかもしれない。支払った金額は、4,820円。領収書には調剤技術料2,990円、薬剤管理料300円、そして薬代12,790円の合計16,080円の3割と書いてある。

自分がいろいろ考えて処方した料金が1,380円、調剤技術料と薬剤管理料を合わせて薬局に支払った料金が3,290円。

これでは開業医の先生方が、採算ギリギリなのがよく分かる。昔は新規開業といえば鉄筋コンクリートの立派なビルが建っていた。それが今は住宅を改造したようなたたずまいだ。それに対して株式会社の調剤薬局はタケノコがニョキニョキ生えるようにどんどん増えている。

医者である自分が実際に体験してみると愕然としてしまった。医療費は今、なにか得体の知れないものに飲み込まれようとしているのではないか。

医療費の一部が、それもかなりの額が売上高を棒グラフにしているこういう株式会社の利益になり、役員の報酬になり、社員の給与になり(もはや薬剤師ではなく社員である)株主に配当されているのは、たとえ資本主義の原則に則っているとはいえ、何か間違っている気がするのは私だけだろうか?

株式会社という立場であるならば、できるだけ利益を上げなければならないから、「お変わりありませんか?」「はい」という会話だけで、以前お伝えした「特別指導加算」がなされてしまうのは目に見えている。

個人で経営している薬局であれば、そういう会話だけで特別指導加算をするのはためらわれると、薬剤師個人の良心に照らして判断する事も可能だろう。

結局、株式会社の調剤薬局というのは程度の差はあるものの、あのホリエモンのベクトルの方向と変わりはない。


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割りばし事故で医師に無罪 「気付いても救えず」

2008年09月07日 | 総合
大野病院の件に関連して、もう一度「わりばし死亡事故」の記事をアップしました。


園児割りばし死亡事故
1999年7月10日、高校教諭の三男の保育園児が、盆踊り会場で転倒し綿菓子の割りばしがのどに突き刺ささり、病院で医師から消毒薬の塗布などの治療を受けたが、帰宅後に容体が変わり、翌日死亡。司法解剖で頭蓋内に残った7.6cmの割りばしが見つかった。警視庁は2000年7月、不十分な診察だったとして業務上過失致死容疑で診察した医師を書類送検、東京地検は2002年8月に在宅起訴し、検察側が被告に禁固1年を求刑していた。公判で被告側は、「前例のない事故で、頭蓋内に割りばしが刺さっているとは想定できなかった」と、過失はなかったとして無罪を主張。両親は被告ら病院側に約9,000万円の損害賠償を求める民事訴訟も起こした。

(以下、引用)
東京都杉並区で1999年、割りばしがのどに刺さった保育園児が病院を受診した後に死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われた当時の担当医被告に対し、東京地裁は3月28日、無罪(求刑禁固1年)の判決を言い渡した。

判決理由で裁判長は、頭の中まで割りばしが刺さっていることを想定せず、十分な診察や検査をしなかった過失を認定したが「気付いて直ちに脳神経外科医に引き継いだとしても、救えた可能性は極めて低かった」と述べ、過失と死亡との因果関係を否定した。さらにカルテの中の「髄膜炎の可能性もある」などの記載について「急逝を知った被告が落ち度を自覚し、取り繕おうとして、後から書き加えた」と、検察側も被告側も主張していない認定をし、診察当時は深刻な事態に気付いていなかったとした。

一方で裁判長は、被告に向けて「基本的かつ初歩的な作業を怠ったとの批判に謙虚に耳を傾けるべきだ」と述べた上で「本件が残したものは、医師には専門性にとらわれることなく、患者に適切な治療の機会を提供することが求められている、という基本的なことだ」と異例の付言をした。
(共同通信社)

これを「薬物療法」と「風船療法」の件、日本のブレイキングニュースで思うこと、にあてはめると、「重症でない」狭心症患者さんが薬物のみで経過をみている間に死亡し、患者さんの家族が風船治療をしてくれていたら死ななかったとして、医師を訴えた場合、裁判所は「風船療法でも救えた可能性は薬物療法と同じであった」と無罪判決をするのが正しいという事です。しかし、裁判官が「患者に適切な治療の機会を提供することが求められている」と付言するのであれば、医師は、たとえ死亡率が同じでお金がかかっても「風船療法」の方を選ばざるをえないという事です。医師は最近、医学における正しい情報に基づいて治療する事よりも、訴訟問題に基づいて治療せざるをえない事にストレスと失望を抱えていると思います。

両親、御遺族の痛みには心から哀悼の意を表したいのですが、少し疑問なのは、親の責任は問われないのかという問題です。もしも死亡した園児が他人の子供であったら、綿菓子の割りばしを口にくわえさせたまま事故に遭わせた親の監督責任が問われるでしょう。それは自分の子供であっても同じはずです。

そして、たとえ無罪判決をうけたとはいえ、何度も裁判所に足を運ぶ時間的な損失に加え、この医師が精神的に被った損失はどうなるのでしょう。

アメリカでは「不健康な食品で太った」などとして大手ファストフードチェーンが訴訟されたりしていますが、最近下院はやっとこのような馬鹿げた訴訟を禁じる通称「チーズバーガー法案」を可決しました。提案者の一人、リック・ケラー議員は「我々は個人の責任、良識といった昔ながらの考え方に立ち戻る必要がある。すべての人が犠牲者のごとく振る舞い、自分の責任を他人に押しつける今の風潮から脱しなければならない」と強調しました。


この事故について法律の専門家「みそしる」様からトラックバックをいただきました。とても参考になります。もともと刑事法というのは、「わざと」やったことを処罰するための決まりごとであって、そうでないことを処罰する法律ではないそうです。
割りばし事故 【医師無罪】を、ちょびっと分析

長政の呟き


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出産はかつてないほど安全になっているが、産科医であることはかつてないほど危険になっている

2008年09月04日 | 総合
大野病院の件で、原告側は控訴を断念し主治医の無罪が確定しました。
おめでとうございます。


アメリカの弁護士数は約90万人で、日本の弁護士数が約2万人ですから、その数は日本の45倍です。医師数が75万人ですから医者よりも多いわけです。約90万人ということは人口が2億8千万人とすれば約310人に1人が弁護士ということになります。アメリカでは、司法試験の合格率は90%以上で、310人に1人が弁護士になれる割に初任給が約1,000万円ですから、大学進学者は、一度は弁護士を夢見るといっても過言ではありません。


アメリカにはこんな論文があります。

Journal of American Medical Association. 2005;294:1688.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

Who Will Deliver Our Grandchildren?

米国では76%の産科医が訴訟を経験しており、その大部分は新生児に脳性麻痺を来したとの申し立てであったそうです。この傾向はオーストラリアでも同様で、医師全体の2%でしかない産科医で、医療訴訟の申し立て賠償額の18%を占めています。米国での新生児に関する賠償額の平均は2億8,000万円で、米国の産科医のうち15%が医療訴訟を理由に廃業し、22%が開業規模を縮小しました。最近では、最高年額2,000万円の医療訴訟保険の掛け金を支払う産科医も出現しはじめました。

アメリカの産科医の年収は約3,000万円(NEWSWEEK 2000 Sep 25)ですから、訴訟のためにそのうちの3分の2を使うことになっているのです。

電子的な胎児モニタリングが確立した前後で、脳性麻痺の発生率がいずれも500例に1回と変わっていないことを根拠に、著者は「脳性麻痺の原因は医師の過誤であるという考えは、おもに間違った仮説と時代遅れの科学に基づいている」と主張すると同時に、「出産はかつてないほど安全になっているが、産科医であることはかつてないほど危険になっている」と言っています。

論文のタイトルどおり「だれが孫を取り上げてくれるのか?」という問題を解決するために、以下の事項をあげています。

1,研究者が脳性麻痺発生の原因を明確にする。
2,医学知識を持つ裁判官の養成を進める。
3,政府が小児麻痺に対して社会的補償をする。
4,新生児に脳障害の兆候が見られれば、病院はいつでも調査を行い、親の相談に応じる体制を作る。
5,先天異常の中には避けられないものがあり、医学の進歩にかかわらず、米国では新生児の0.7%が生後まもなく死亡し、3%に重大な異常が認められ、0.2%が脳性麻痺を発症することを伝えるキャンペーンを行う。


日本でも弁護士の数を増やす政策がとられていますが、本来改革が必要な刑事訴訟が利益にならないからと、民事訴訟がターゲットになるのは目に見えています。著者が今回示した解決策はどれも示唆に富んだものであり、日本も是非参考にするべきだと思います。産科医や小児科医が減少しているからと、政府は産科と小児科の診療報酬を数%だけ上げ、それを努力の証としている場合ではないのです。

日本でも「だれが孫を取り上げてくれるのか?」「だれが子供を診てくれるのか?」とならないよう祈りたいと思います。



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