医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

エパデールの効果、二次予防に対するJELISサブ解析

2015年02月17日 | 循環器
7編同時に投稿していた論文は3編が受理、2編は修正が必要な段階、残りの2編は受理されず、医学ジャーナルのレベルを落として再投稿に挑戦、となりました。なかなか一筋縄には行かないです。そうしている間に、さらに2編の論文を執筆したので投稿する論文が減っていかない状況です。ブログの更新が滞っておりまして申し訳ありません。

さて、以前、
エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

という記事を書いたら、
二次予防に対するJELISサブ解析で、スタチン単独群と比較してEPA追加群で(ハードエンドポイントの)心血管イベントを減少させたという報告があることはご存知と思います。
上記URLに載せておきますが、それに触れずに一方的に貶すのも大人げないかと存じます。

というコメントをいただきました。

私も当然その論文を知っています。このコメントを下さった方は誤解をしているし、要旨だけを読んで原文を読んでいないのでないかと思います。以下に、その根拠をお示しいたします。

↓この論文のことですが、
Incremental effects of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease
Circ J 2009; 73: 1283–1290

要旨だけを読むと、エパデールがあたかも心臓死や心筋梗塞を予防したかのように感じてしまいます。

原文を上の図の右側に示してあります。それを訳すと、
エパデール内服により不安定狭心症(不安定狭心症による入院のことです)が統計学的に有意に30%減少した。心臓死、心筋梗塞は30%少なかったが、統計学的な有意差ではなかった(まるで差があったかのように読者に誤解を与える書き方です。これは差がなかったという意味です。通常、差がなかった場合このように書きません。「差はなかった」と書きます。)加えて、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞は30%少なかったが、統計学的な有意差ではなかった(これもまるで差があったかのような書き方です。)しかし、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、ステント治療が必要となった事、バイパス手術が必要になった事を合わせると、統計学的に有意に21%減少した。

つまり、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症による入院、ステント治療が必要となった事、バイパス手術が必要になった事の「総数」を比べると、エパデール内服で統計学的に有意に減少したが、その内訳をみると、不安定狭心症による入院の「数」だけが統計学的に有意に減少したということです。

上の図の左側以前紹介した論文の原文です。書き方が異なっているのがわかります。

以前、
エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

で書いたように、オープンラベル試験(被験者がどちらの群に割り付けられたか医者や患者が知っている試験)では「不安定狭心症による入院」、「ステント治療が必要となった事」のような、人為的に操作できるエンドポイントを使用するとその研究そのものの信頼性が下がるのに、それを使用し、事実、その項目だけに差が出ているのです。

統計学的有意差とはどういうことかというと、例えば3年1組の中学生の平均身長が160cm、3年2組の平均身長が158cmだとすると、「2組の子は1組の子に比べて栄養をしっかり摂っていないのではないか」とは思いませんね。「偶然、平均が違っただけ」でしょう。この比較を統計解析すると、有意差は出ないでしょう。つまり統計学的有意差でないというのは、このように中学生のクラスの平均身長が偶然違うのと同じ事なのです。

これを論文に書くときエパデールの論文風に書けば「2組の平均身長は1組より2cm低かった。しかし、統計学的有意差ではなかった」となりますが、統計学的には「2組の平均身長は1組と差がなかった」と書くのが一般的です。なぜなら、この結果で「2組の子はもっと栄養を摂った方がよい」とならないからです。

↓先日、この本の著者に、このエパデールの臨床試験に関する意見を質問させていただいたら、前回と今回のブログの記事を含め、私と同様の意見をおっしゃっていました。
ドキドキワクワク論文☆吟味。医学統計ライブスタイル

私のこの記事には、pwdhang様から以下のコメントもいただきました。
ISIS試験のサブ解析で天秤座と双子座の患者はアスピリンの効果がないという結果になったのは有名な話で、サブ解析の結果をただちに信じるというのはどうか...
STEMIのdoor to balloon時間に対する評価はNEJMとLancetで違ったことで、上記HPではLancetはデータが信用できない施設のを削除することでLancetの結論が評価できるとしています。が、こういう恣意的な操作は気に入らないデータを排除することで危険と思うのですが、先生の評価はどうですか?

今回の記事がコメントでの質問に対する返答です。この論文はご指摘のように恣意的な書き方がされています。pwdhang様、コメントありがとうございました。

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コメント (1)
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