医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

女性は男性より自動車の運転が上手か?

2009年08月28日 | 総合
(日産自動車 自動車交通白書より)       (厚生労働省 人口動態統計より)

女性ドライバーの交通事故

女性運転者による交通事故

これは走行距離がわからないですけど。

自動車交通白書を見ると、どの年齢層をみても女性の自動車事故率は男性よりも少ないというグラフが載っています。(スペースの関係でこの記事には載せられませんでした)事故率というのはある年齢層の女性が起こした自動車事故の件数をその年齢層の女性の人数で割った数字でしょう。

ということは、女性の方が男性より自動車の運転が上手なのでしょうか?
これもまた、算数の得意な小学生(中学生でないと無理か?)ならすぐにわかることです。

免許を持っていて車を運転しなければ獲得できるゴールド免許を持っている人が、運転が上手とは限らない例を挙げるまでもなく、ここにはどれだけ(時間や距離)車を運転したかという情報が含まれていません。

(左図)をみると、どの年齢層でも、女性の運転する走行距離は男性の約3分の1であることがわかります。走行距離が少なければ事故が発生する確率は少なくなるのはあたりまえです。従って、運転が上手かどうかを判定するためには、事故の件数を走行距離で割り算しなくてはならないのです。

その結果が、(図中央)で、走行距離あたりの事故の件数(1億kmあたり)は、女性は男性の約1.5倍になっています。つまり男性の方が事故を起こしにくいといえます。

私はこの記事を、男性は女性より運転が上手ということが言いたくて書いているのではありません。これと同じ過ちをしている教授たちを研究会でよくみかけるのです。

悪玉コレステロールを下げる薬を販売する製薬会社の研究会に参加すると、「日本人の食事の欧米化にともなって、心筋梗塞や狭心症が増えています。今後ますます増えるでしょう。だから、悪玉コレステロールを下げる薬を飲みましょう」などと恐怖心を煽っています。

確かに、心筋梗塞や狭心症の発症件数を時代の経過とともにグラフにすると、右方上がりとなり、発症件数は増えています。

しかし、この統計処理は意味をなしていません。上記の例のように何かが足りないのです。

もうお気づきかと思いますが、それは、調査した母集団の数で割ることです。しかも大切な条件があります。赤ちゃんは絶対心筋梗塞や狭心症を起こしませんね。10歳以下の子どもも起こしません。20歳以下の青年も起こしません。つまり年齢層別に母集団数で割って補正することが大切です。

その結果が、(右図)です。スペースがないので男性だけ示しましたが、年齢別の人口で調整すると心筋梗塞や狭心症(グラフの中では虚血性心疾患)の死亡率は減っているのです。スペースの関係でグラフをお示しできませんが、発症率も同じです。

そりゃそうでしょう。これだけ世間でメタボ撲滅、生活習慣の改善とキャンペーンがはられているのですから、これで発症率が増えたら、逆に医者は何をしているんだとお叱りを受けることとなります。

つまり、心筋梗塞や狭心症の発症件数が時代とともに増えているのは、心筋梗塞や狭心症の好発年齢である高齢者の数が増えているからで、日本人が昔と比べて心筋梗塞や狭心症を発症しやすい体質になっているわけではないのです。
(厳密にいうと、福岡県の久山町研究では80歳以上の男性だけは心筋梗塞や狭心症を発症しやすい体質になっているそうです)
(日本内科学会雑誌 2009;98:234)

まだわかりにくいかもしれないので付け加えると、例えば政府の少子化対策が功を奏して、ある年に赤ちゃんの数が1.5倍になったとします。特発性発疹(知恵熱)という疾患は、ほとんどの赤ちゃんが1歳までに罹患して、しかも10歳以上で罹患することはありません。

この年か翌年には特発性発疹の発症は1.5倍になるのは当たり前のことですね。

このように原因→結果の順で考えると、とても簡単な論理なのですが、結果→原因の順で考えようとすると、上記の教授たちの間違いに騙されてしまうのです。

市民公開講座などで、「日本人の食事の欧米化にともなって、心筋梗塞や狭心症が増えています。今後ますます増えるでしょう。だから、悪玉コレステロールを下げる薬を飲みましょう」という教授はたくさんいます。要注意です。


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研究会って、誰のため?

2009年08月23日 | 雑感
研究会に行ってきました。研究会といっても、製薬会社が自社の薬を宣伝するための講演を聴く会です。

こういう講演会で講演したり司会をしたりしている医者はだいたい決まっています。

製薬会社は、自社の製品のいいところだけを上手に話し、不都合なことは言わない医者たちを宣伝塔として繰り返し採用しているのです。私などは不器用でそんなことはできませんから、依頼のあった製薬会社の製品の不都合なことも正直に言ってしまうと、それから依頼はなくなっていきます。

こういう講演会にあまり出演しない教授陣は、製薬会社の不都合なことは言わないという方針に賛同できないということであり、決してカリスマ性がないわけではないのです。

今回も、悪玉コレステロールを低下させる薬を売る製薬会社の研究会で、

「私の施設で、急性心筋梗塞になって搬送された患者の悪玉コレステロールの平均値は110 mg/dl*ですから、110 mg/dl*ではまだ下げ足りないということなんです」

と、悪玉コレステロールを低下させる薬を使うように煽っている医者がいました。
*正確な数字を書くと施設が特定できてしまうかもしれないので、実際の値ではありません。

でも、
「心筋梗塞になって搬送された患者の悪玉コレステロールの平均値は110 mg/dl*だ」

「だから、110 mg/dl*ではまだ下げ足りない」

という前提と結論は、小学生でも算数が得意ならすぐに間違いとわかることです。

さっそく、自分の娘に聞いてみました。
(父)「ニンテンドーDSを持っている子のお小遣いの平均は、月3,000円なんだって。お小遣いをたくさんもらっている子しか買えないんだね」

(娘)「そんなこと、ニンテンドーDSを持っていない子のお小遣いと比べないとわからない」

そうですね、前述の医者が言ったことは、心筋梗塞になっていない人の悪玉コレステロールの平均値と比較しないと言えないことです。

実際、心筋梗塞になっていない人の悪玉コレステロールの平均値も、110 mg/dl* なんです。

つまり、悪玉コレステロールを110 mg/dlより高い低いで分けることは、心筋梗塞の発症の予測因子にはならないということです。

こんな論理回路で、よく医者をやっているなぁという感じです しかも製薬会社の都合のいいことだけ言っていれば研究会で講演できるのですから、誰のための研究会なのかよくわかりません。


LDLコレステロール値は140mg/dlでも大丈夫

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インフルエンザは空気感染ではない!

2009年08月20日 | インフルエンザ
新型インフルエンザは飛沫感染だから、原則的に予防のためのマスクは必要ない。(満員電車のように感染者と1m以内になる人は例外)

それなのに、相変わらずNHKは執拗にマスクが有効のような報道をしている。

マスクの会社(例えば、写真のようにユニチャーム。NHKなのに社名が出ている)から賄賂を受け取っているとしか思えないほど、偏向した報道だ。こんな放送局に受信料など払う義務はない!早速、抗議のメールを送っておいた。

国民を恣意的にだましているとしか思えない!

きっと、例えばNHKの幹部とユニチャームの幹部は東京大学の同級生だったとか。そうでもなければ、NHKにこんな嘘を報道するメリットなど考えられない。

奴らにとって、国民をだますことなどたやすいことなのだ。

世の中はこういう陰謀があふれているから気をつけたほうがいい。

↓それに、2003年の1年間に季節性インフルエンザで死亡した人は概数で1,171人(毎年それぐらい)いることを忘れて大騒ぎしてはいけない。
インフルエンザワクチンの副作用による死亡率

皆さんも、NHKに抗議のメールを送ろう


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NHKの正体―情報統制で国民に銃を向ける、報道テロリズム(OAK MOOK 293 撃論ムック)


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総論 vs 各論では議論ができない

2009年08月16日 | 雑感
今日はひめゆりの塔(ひめゆり平和祈念資料館)を訪れ、平和への祈りを捧げてきました。

昨日は終戦記念日でした。
毎年この時期には多くの水掛け論が起きます。

核武装の是非を議論するのに、「日本がアメリカよりも先に核を持っていたなら、広島や長崎のようなことは起きなかった」というのは総論(残念ながら結果論でもあります)ですし、「私の祖母は原爆投下による被爆でひどい目にあった」というのは各論です。少し考えればわかるのですが、総論と各論はどうしても水掛け論になってしまうのです。双方とも平和を祈念する気持ちは同じにもかかわらずです。

さて、裁判官が医者に慎重な診察を要求した例の割りばし事故訴訟のあと、私が外来患者に施行するCTの件数は不本意にも増加しました。以前、以下のように1回のCTスキャンが1,000~500分の1で肺ガンや乳ガンやその他のガンを誘発することをお伝えしたにもかかわらずです。

CTスキャンの急激な増加はガンの増加をもたらす可能性
心臓の血管に対するCT検査のX線被ばくによるガンの発生率


しかし、子どもには上記のリスクよりも多いだろうと推測される(推測されるというのは、そもそも子どもにCTスキャンをしてどれくらいガンのリスクが増えたかなどという医学研究がないからです)ガンのリスクがあるCTスキャンを施行することが、CTスキャンを施行しても命は救えなかった状況の中で、慎重な診察なのかそうでないかは誰にもわからないのです。

すさまじく進歩している医学のことですから、将来、発見されたガンがCTスキャンなどの放射線画像診断が原因で発生したかそうでないか鑑別できるようになったとします。そうなれば、益々事態は複雑になります。

「CTスキャンの急激な増加はガンの増加をもたらす可能性」の中では「腹痛や慢性的な頭痛で救急治療室を受診したら、医師の診察を受ける前にほぼ間違いなくCTスキャンを受けることになる」現実に警鐘を鳴らしつつも、「症状がある患者にとって、CTスキャンが素晴らしい診断ツールであることは間違いない」ことであり「われわれが推進していることは、CTの使用を本当に必要な状況に制限することであると結論づけられています。

しかし「本当に必要な状況」を誰がどのようにして判断するのでしょうか。今後も水掛け論が続きます。


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患者から摘出された腎臓の移植に関する調査班報告書

2009年08月15日 | 総合
沖縄に来ています。

以前「倫理委員会」について書きました。

先日、論文の審査をしていると、例のごとく、インフォームドコンセントと倫理委員会での承認の記載がありませんでした。インフォームドコンセントと倫理委員会での承認の記載がありませんよとコメントすると、次の変更でインフォームドコンセントの記載は追加されたのですが倫理委員会の記載はありませんでした。

インフォームドコンセントはあるけれど倫理委員会の記載がないということは、正直に倫理委員会からは承認されていないということを言いたいのかなぁと思いつつ、その医学雑誌の投稿規定を調べてみると倫理委員会での承認の記載が必要とはどこにも書いてありませんでした。そこで、チーフ・エディター(編集委員長みたいなものです)にあなたの雑誌は倫理委員会での承認の記載は必要としないのですか、というコメントを送っておきました。倫理委員会での承認の記載を必要とする場合、この論文の採否は微妙になってきます。


インフォームドコンセントといえば、以前、徳州会が病腎移植を行った件について論文が発表されたとお伝えしました。この論文には全ての患者からインフォームドコンセントを得たと書いてあります。

原文ではこう書いてあります。
In all recipients and donors, written consent forms with the patients signature of the operative procedure were obtained.

しかし、↓の臓器移植委員会の報告書の2ページ目をよく見ると、全ての患者からインフォームドコンセントを得ていなかったことが明らかになっています(真実性)。

↓原文はこちらです。
患者から摘出された腎臓の移植に関する調査班報告書

そうであるならば、この論文の著者たちは医学論文に嘘を書いたことになります。通常の論文の投稿規定では、フォームドコンセントと倫理委員会で承認の記載は必須事項ですから、全ての患者からインフォームドコンセントを得ていなかったとするとこの論文は医学雑誌に掲載されるに値しないことになります。

さらに、論文での記載が偽りだとすると、その論文の内容に関しても信頼性に疑問が生じてきます。そうであれば今後、病腎移植の成績が間違ったデータで行われることになり、公共の利益が失われてしまいます(公共性)(公益性)。

著者の皆さま、いかがですか? 


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小児期の全身麻酔で学習障害リスクの可能性がある

2009年08月07日 | 小児科
二編の医学雑誌の原稿書き、二編の医学論文の提出、三編の医学論文の審査のために更新が遅れていました。

ところで、論文の審査をしていると、「よくもこんな論理回路で医者をやっているなぁ」という論文を時々見かけます。セカンドオーサーの先生も同類のことがありますので、ラストオーサーの上司の先生は、ちゃんとチェックしてあげて下さいね。(でも、ラストオーサーは論文の内容をあまり知らないかもしれませんね)




麻酔薬は幼若動物の脳に異常をもたらすことが、複数の研究で示されています。
ヒトではどうかという研究の結果がこのほど発表されました。

Early exposure to anesthesia and learning disabilities in a population-based birth cohort.
Anesthesiology. 2009;110:703
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)


対象は1976年~1982年にミネソタ州で生まれた5,357人で、4歳までの全身麻酔の詳細と学習障害の有無が後ろ向きに調査されました。

593人が4歳までに1回以上全身麻酔を受けていました。母親の出産年齢、小児の性別、出生児体重によって補正した後の解析では、1回の全身麻酔では学習障害に影響はありませんでしたが、2回全身麻酔を受けた小児(100人)では1.59倍の学習障害のリスク、3回以上全身麻酔を受けた小児(44人)では2.60倍の学習障害のリスクが認められました。

また、学習障害のリスクは、麻酔時間の合計とも関連がありました。

使用されていた麻酔薬は、亜酸化窒素とハロタン(商品名:フローセン、武田薬品)でした。

著者らは、麻酔薬そのものが学習障害に影響を与えているのか、手術自体が精神的に影響しているのか、小児期に手術を受けなければならない小児は、もともとなんらかのリスクを抱えているのかは明らかでないが、迅速な徹底解明が必要だと述べています。


科学的な事実の解明は「なんか変だな?」という疑問から始まるのですから、こういう前置き的な研究はとても重要です。

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