医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

妊娠中の勧告以上の魚介類摂取量は小児の精神発達を阻害しない

2007年08月20日 | 小児科
以前、妊娠中のビタミンDの摂取の有用性についてお伝えしたことがあります。

今回は、以前厚生労働省が勧告した「妊娠中の魚介類の摂取は胎児に有害」というのは本当だろうかという研究の結果が今年の2月に発表されていますのでお伝えします。魚介類は適切な精神発達に必須のω3脂肪酸の主要供給源です。


Maternal seafood consumption in pregnancy and neurodevelopmental outcomes in childhood (ALSPAC study): an observational cohort study.
Lancet. 2007;369:578
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

アメリカでは魚介類中のメチル水銀中毒を避けるため、妊娠中の魚介類の摂取量は週340g以下に制限されています。

魚介類摂取量に関するアンケートに回答した妊娠32週目の女性11,875人を対象に、社会的立場、日頃の食事内容、妊娠の状態など交絡因子など28項目を調査して、魚介類非摂取群、勧告内の量の摂取群(340g/週未満)、勧告された量以上の摂取群(340g/週以上)の3群に分け、生まれた児の6カ月から8歳時における発達、行動、認知能力に関する評価値と比較しました。

魚介類を週340g以上摂取した妊婦から生まれた児と比較して、全く摂取しなかった妊婦、週340g以下摂取した妊婦から生まれた児は統計学的に有意に言語性知能指数(IQ)が低く、他の神経・認知・運動などのスコアも低値でした。

また、魚介類を週340g以下摂取した妊婦から生まれた児は、社会的行動、細かい運動機能、意思疎通能力、社会的発達スコアに関して最適な発達を遂げられませんでした。


日本人はアメリカ人よりも、メチル水銀の含有量が多いタイやマグロを多く摂取しますし、摂取する遠洋魚や近海魚の割合(食物連鎖や生物濃縮の差)も違うかもしれません。

こういう研究では国の特色が反映されるので、この結果をそのまま日本に当てはめることはできませんが、厚生労働省の勧告を鵜呑みにして妊娠中に極端に魚介類の摂取を避けると、生まれる児に重要な影響をもたらすことは間違いのない事実だと思います。

日本でもこういう調査がなされるといいのですが、国の勧告を無視してそれ以上に摂取している妊婦さんを対象に集めるのって、理論的にも難しいと思いますし、倫理的にも大丈夫なのだろうかと思います。アメリカのように「おおらか」な国だからこそできた研究ですね。


皆さん!ここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!


↓こちらもぽちっとよろしく

なかのひと


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

横暴患者に大学病院苦悩、昨年は暴力430件暴言990件

2007年08月19日 | 雑感
全国の大学病院で、昨年1年間に医師、看護師が患者や家族から暴力を受けたケースは、少なくとも約430件あることが、読売新聞の調査で明らかになった。

 理不尽なクレームや暴言も約990件確認された。病気によるストレスや不安が引き金となったケースも含まれているが、待ち時間に不満を募らせて暴力に及ぶなど、患者側のモラルが問われる事例が多い。

 回答した病院の約7割が警察OBの配置などの対策に乗り出しており、「院内暴力」の深刻さが浮かび上がった。

 調査は、先月から今月にかけ、47都道府県にある79の大学病院を対象に行い、59病院から回答があった。このうち、何らかの暴力あるいは暴言があったと回答した病院は54にのぼる。暴力の件数は約430件、暴言・クレームは約990件。暴力が10件以上確認されたのは6病院、暴言・クレームが50件以上あったのは5病院だった。

 「クレームはここ2年間で倍増した」(大阪大医学部付属病院)など、暴力や暴言・クレームが増加しているという回答は、33病院に達した。ただ、こうした件数や事例を記録に残していない病院もあり、今回の調査結果は、「氷山の一角」の可能性が高い。

 暴力の具体例では、入院手続きの時間外に訪れた軽いけがの男性に、医師が「ベッドの空きがないので明日来てほしい」と告げたところ、缶コーヒーを投げつけられ、注意すると顔を殴られて、顔面を骨折したケースがあった。入院患者から「言葉遣いが気に入らない」という理由で足に花瓶を投げられた看護師もいた。

 けがを負う病院職員は少なくないが、「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」という意識から、警察に届け出ない場合も多いという。

 暴言・クレームでは、複数の患者がいたために、すぐに診療を受けられなかった患者の家族が、「待ち時間が長い」と腹を立てて壁をけったり、暴言を吐いたりした。検査後に異常がなかったことがわかると、患者から検査費用の支払いを拒まれた病院もあった。

 精神疾患や重い病気で心理的に追い詰められた患者が、暴力や暴言に走ってしまった事例もある。しかし、多くの病院は、それ以外の患者や家族による理不尽な行為に悩んでおり、「(一部の患者から)ホテル並みのサービスを要求され、苦慮している」(慶応大病院)との声が上がっている。

 具体的な対策をとっている病院は44にのぼり、警察OBを職員に雇い、患者への応対に当たらせている病院は21、暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院は10あった。院内暴力を早期に発見・通報するため、監視カメラや非常警報ベルを病棟に設置する病院もあった。
(読売新聞より引用)


そういえば、うちもこの前、外来で患者が椅子を振り回して暴れていました。


「病気を抱えて弱い立場にいる患者と争うことはできるだけ避けたい」・・・
だから、「医者が詳しく伝えられない情報」です。

ところで、医療訴訟は一生懸命記事にしている毎日新聞はこういうことは記事にしないでしょうね。

皆さん!ここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

免疫学的な定量的便潜血検査は高リスク群の大腸ガン検出に有用

2007年08月05日 | 消化器
仕事が忙しく、ブログの更新が遅れまして申し訳ありません。
医者って、シベリアンハスキーと同じで、カッコはいいけど所詮は労働犬なんです。
これを書き終わったら病棟に行ってきます。



さて、大腸ガンの検診に便潜血検査が行われますが、陽性であっても大腸ガンである可能性は低く、スクリーニング法としての効率は決してよくありません。

そこで、便潜血が陽性か陰性かではなく、便の中にヒトのヘモグロビンがどれだけ含まれているかという定量的な方法で効率を上げようという論文が発表されました。

A quantitative immunochemical fecal occult blood test for colorectal neoplasia.
Ann Intern Med. 2007;146::244.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)



大腸ファイバー検査を受ける予定があり、ヒトのヘモグロビン量を調べる免疫学的便潜血検査に同意した連続する外来患者1,000人が対象とされました。

3回の排便で得た便検体のヘモグロビン量を測定し、もっとも高い値を大腸ファイバー検査の結果と比較しました。

1,000人のうち91人に大腸ガン(17人)と進行腺腫(74人)が発見されました。ヘモグロビン量の閾値を75ng/mLに設定した場合、大腸ガンを発見できる感度は94.1%、特異度(ガンではない場合にヘモグロビン量75ng/mL以下である確率)は87.5%%でした。大腸ガンや進行腺腫(を含めた全ての悪性新生物を発見できる感度は67%、特異度は91.4%%でした。

研究の限界として、便検体の採取法は統一されているものの、検体量は便の性状に依存すること、研究対象者が大腸ファイバー検査を受ける予定があるという、大腸ガンのリスクが高い人であることが挙げられています。


研究の限界に示されているように、1,000人のうち91人に大腸ガンと進行腺腫が見つかるというのは、研究の対象が非常に高リスクな群であったことは間違いないでしょう。大腸ガンを発見できる感度は94.1%、、特異度は87.5%%というのはすばらしいのですが、高リスク群でない場合の結果が必要だと思います。



皆さん!ここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!


↓こちらは便利なツールです。ご協力お願いいたします。

なかのひと

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする