医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

高齢者に対するインフルエンザワクチンの有効性

2007年11月24日 | インフルエンザ
これからしばらくインフルエンザ特集にします。65歳以上の普通に生活している(老人ホームや介護センターで暮らしていないという意味です)高齢者に対してインフルエンザワクチンがどれだけ有効かというLancet. 2005;366:1165.からの最新の報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

Efficacy and effectiveness of influenza vaccines in elderly people: a systematic review.

この研究はメタアナリシスといって過去の多くの研究をまとめたものです。全部で64の研究が検討されてましたが、方法が適切でないものなどを除外して、インフルエンザワクチンを接種した群16,357人と、接種しなかった群15,822人が比較されました。

結果は、接種群でインフルエンザや肺炎による死亡が121人(0.7%)に対して非接種群で180人(1.1%)と、接種群の方が有意に死亡率は少なかったようです。非接種群でも98.9%の方は死なないのですから(あたりまえです。今の高度な医療レベルのもと、そんなに簡単に亡くなってはいけないです)と、スタチンと同じように差が小さいと考えるのは早急です。ワクチンは保険が利かないので保険償還薬価というものはないのですが、窓口で自己負担を1,000円と仮定して、5,000円と高く見積もっても、16,357人に接種して59人の死亡を減らしているわけですから、なんと133万円で一人の命を救っている事になります。

死亡率の差が小さいことに関してはこの論文でも言及されていて「効果はmodest(地味・ほどほど)」だと表現されていますが、死亡以外にもインフルエンザや肺炎による入院を23%減らし、呼吸器感染症を22%減らし、心臓病を24%減らし、全ての理由による死亡を47%減らしたと報告しています。

まとめると、65歳以上の高齢者に対するインフルエンザワクチンの効果は「ほどほど」で、過度の期待は禁物だが、各種疾患や死亡を有意に減らしているということです。

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小児に対するインフルエンザワクチンの有効性

2007年11月20日 | インフルエンザ
インフルエンザ 早くも流行の兆し
全国的にインフルエンザの患者数が増加していることが国立感染症研究所のまとめで分かった。10月下旬に全国の定点医療機関から報告された患者数は、同時期としては過去10年で最多。早くも12月並みの水準になっており、同研究所などは「今年は流行のスタートが早い」と注意を呼びかけている。
 
同研究所の感染症発生動向調査によると、10月22~28日の1週間で報告のあったインフルエンザ患者数は、過去10年で最多となる1医療機関当たり0・2人。同29日~今月4日の1週間も0・26人と上昇している。
 
大阪府内では10月18日に大阪市西淀川区の民間保育所の園児から、府内における今シーズン初のインフルエンザを検出。府感染症情報センターの調査によると、今月10日までに府内のインフルエンザによる学級・学年閉鎖は、大阪市北区や泉南市などの4校・園で実施された。
 
岡山県では今月5~11日の1医療機関当たりの患者数は0・65人。昨年同時期の報告はゼロだった。同県では10月16日に、岡山市立東(ひがし)畦(うね)小学校で3年生1クラスが学級閉鎖となったのを皮切りに、同市や倉敷市を中心に、これまで延べ6校・園が学級・学年閉鎖に追い込まれている。
 
同県健康対策課は「例年に比べ、流行のはじまりが早い。急に寒くなれば、さらに患者が増える恐れもある。規則正しい日常生活を送り、ウイルスへの抵抗をつけるとともに、インフルエンザワクチンも活用してほしい」と語った。
 
一方、沖縄県は様相が異なる。同県では5年ほど前から、冬に加えて夏場にもインフルエンザが流行している。同県健康増進課によると、今年7月9~15日の1医療機関当たりの患者数は13・5人で、同県が定める注意報レベルを超えた。9、10月も高い水準で流行が続いたという。今月に入ってからも、一医療機関あたりの患者数は全都道府県で最多となっている。
(産経新聞より引用)


そこで、

小児ではインフルエンザワクチンの有効性はどうかというVaccine.2005;23:285. からの報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

Influenza vaccine in healthy children: a meta-analysis

この論文は過去の16の調査がまとめられているメタアナリシスで、とりあげられている調査は全て無作為化試験です。「インフルエンザ様症状」というあいまいなエンドポイントではなく、インフルエンザの診断を血清で確定診断しています。1歳から16歳までの健康な子供でワクチンを接種した群では2701人中61人(2%)がインフルエンザにかかり、接種しなかった群では1705人中256人(15%)がインフルエンザにかかりました。

具体的な数字をお示しします。
発症数/全体(割合)の順で示し、最初の方が接種群であとが非接種群です。

、、、、、接種群、、、非接種群
1990年、10/54(19%)、37/77(48%)
1991年、15/58(26%)、37/77(48%)
1993年、10/79(13%)、13/89(15%)
1996年、2/147(1%)、 37/163(23%)
1996年、10/160(6%)、37/163(23%)
2000年、13/46(28%)、26/51(51%)
2001年、22/311(7%)、96/296(33%)
2003年、35/327(11%)、96/296(33%)

全ての結果がインフルエンザワクチン有効でした。私はワクチン推進派でも否定派でもありません。接種しても2%はインフルエンザにかかり、接種しなくても85%がかからないのですから、この数字をみて個人がそれぞれ考え、利用するかどうかを決めればいいと思います。



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タミフルの有効性

2007年11月16日 | インフルエンザ
インフルエンザの季節になってきました。インフルエンザの治療薬タミフルがいったいどれくらい有効なのかという事はあまり知られていないようです。

タミフルはリン酸オセルタミビルといってヒトA型、B型インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを選択的に阻害し、新しく形成されたインフルエンザウイルスが感染細胞から遊離することを阻害することによりウイルスの増殖を抑制します。

Journal of American Medical Association. 2000;283:1016.からの報告です。
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★☆☆)

18歳から65歳までで発熱性の呼吸器症状があり38℃以上の発熱が36時間以上続いていない629人が対象となりました。タミフル75mgを一日二回内服する群(211人)(日本での通常量です)と、150mgを一日二回内服する群(209人)と、プラセボ群(209人)(タミフルと同じ形の偽薬を処方する群。この研究の調査がアンケートに基づいているために、単に内服しないというだけでは、内服していないから調子が悪いなどという先入観が結果を左右してしまうため)に分けられました。

全体の59.6%がインフルエンザだと確定診断されました。もちろん確定診断されなかった人でもインフルエンザの可能性はあります。

症状のある期間はプラセボ群が97時間、75mg投与群が76時間、150mg投与群が74時間でタミフルが有意に病期を短くしました。

病状は詳しくスコアー化されていているのですが、プラセボ群が686、75mg投与群が629、150mg投与群が887で、タミフル投与群で有意に改善されていました。

副作用として、嘔気と嘔吐がタミフル投与群でそれぞれ18.0%、14.1%認められ、プラセボ群の7.4%、3.4%と比較して有意に多かったようです。

タミフル75mgを一日二回内服すれば、内服しない場合の病期4日を1日短くする事が出来ます。内服しても病期は3日間ですから過剰な期待は禁物です。

ちなみに、タミフル75mgの薬価は363.7円で治療に用いる場合は5日間内服するので合計3,637円で3割負担だと約1,090円。予防に用いる場合は7日間の内服が必要で、保険が効かないので合計5,090円です。




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メタボリック症候群、診断基準検証へ

2007年11月08日 | 生活習慣病
1年以上前、私はブログ上でメタボリック症候群の診断基準は将来必ず改正されるとお伝えしました。その日も近いようです。


(以下、朝日新聞より引用)
生活習慣病を引き起こす原因ともされるメタボリック症候群の診断基準を見直すため、全国24,000人を対象とした大規模調査を厚生労働省の研究班(主任研究者=門脇孝・東京大教授)が始める。

「男性に厳しく、女性に甘い」といわれるウエストの数値を中心に、将来の心筋梗塞(こうそく)や脳卒中のリスクを予測するのに最もふさわしい基準値をつくるのが狙いだ。現在のウエストの基準は、日本肥満学会が中心となってつくった。

男性85センチ、女性90センチ以上。健康障害にかかわる内臓脂肪の面積に対応する値として設定された。だが、心筋梗塞や脳卒中の発症との関係を直接調べているわけではないため、医学的な信頼性を疑う専門家も少なくなかった。また、国際糖尿病連合が今年、「リスクのある人をより正しく見分けられる」として、日本人について「男性90センチ、女性80センチ」とする独自基準を決めた。

日本の基準とは男女が逆転しているが、国内の研究チームからもこれが最適とする報告が出ている。ただ、調査人数は2,500人程度にとどまる。茨城、大阪、福岡など全国7地域では、一般市民を対象にウエストを測り、その後の健康状態を長く追跡して心筋梗塞などとの関係を直接調べている。

厚労省の研究班は、これらの研究をまとめて、ウエストの基準をどの値に設定すれば、心筋梗塞や脳卒中につながりやすい人を最も効率的に見分けられるか、といった点を検討する。基準値を探る調査としては最大規模の研究になる。今のウエスト値は2度にわたって検討されたが、いずれも調べた人数は1,000人ほどだった。班のメンバーには肥満、血圧、血糖、脂質の専門家らが参加。2年後をめどに、新しい基準値をまとめる。健康保険法改正で、来年度から40~74歳の全国民を対象に導入されることになった特定健診は当面、現行の基準でスタートする。

ただ、ウエスト基準に合致しない人を見落としたりしないよう、肥満度をみる別の基準も設けている。門脇教授は「医学的根拠の高い基準値をつくるため、一定の質を保っている研究だけを集めた。日本人の予防医学に役立てられるようにしたい」と話した。

日本肥満学会の松澤佑次・理事長らは10月の記者会見で「当面はウエスト値を変える予定はない」と表明。ただ、信頼性の高いデータが明らかになれば、見直しは否定しないと述べている。

《メタボリック症候群の診断基準》 腹部の内臓脂肪の面積100平方センチに相当するウエストの長さが男性85センチ、女性90センチとされる。これに加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうち二つ以上当てはまる場合。

ウエストの基準は、米国は男性102センチ、女性88センチ、欧州では男性94センチ、女性80センチで、いずれも身長と体重をもとに計算した体格指数(BMI)に対応する値として決めている。
(朝日新聞より引用)


こんな場合アメリカならとっくに改正されています。日本の場合、見栄とか体裁が邪魔をしてなかなか改正されません。


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2007年米国心臓病学会ブレイキング・ニュース(CorE 64)

2007年11月06日 | 循環器
オーランドで開かれている米国心臓病学会に来ています。さて、昨年、一昨年に続き今年もブレイキング・ニュースをお伝えします。
3時間前に発表されたばかりの情報です。その時の写真を撮りました。

以前、マルチディテクターCTといって検出器が複数列(64列が普及)設置されており、一度の管球の回転に対して複数のスライスが撮影できるようになりCT検査は過去にない革命的な進歩を遂げることができたことをお伝えしました。特に最近は拍動している心臓の血管までも映し出す事ができるようになりました。
一方、これまでは心臓の血管のどこに狭いところがあるかは、心臓カテーテル検査といって足の付け根や手首や肘の血管からカテーテルを通して調べる以外にありませんでした。

ところが64列マルチディテクターCTの開発により、造影剤を点滴してCT検査の台の上に横になるだけで心臓の血管のどこに狭いところがあるかがわかるようになってきました。

今回のブレイキング・ニュースで発表された研究は「CorE 64」と名付けられ、64列マルチディテクターCTが心臓カテーテル検査と比較してどれくらい正確かを世界中の病院のデータをまとめて調べたものです。

これによりますと、陽性的中率すなわち64列マルチディテクターCTで狭いと判断されたところが心臓カテーテル検査で実際に狭いと判断される確率は91%と、正確性が高いことが示されました。

日本でも来年には、心臓の血管の検査はまず64列マルチディテクターCTを行い、狭いところがなかった患者には数ヶ月の間は心臓カテーテル検査料が保険で認められなくなるというガイドラインが学会から発表されます。テクノロジーはどんどん変わっていきます。

ブレイキング・ニュースの発表は2,000人以上収容できる会場で毎年派手に行われます。今年も相当派手でした。




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