医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

医学分野の原稿

2015年09月28日 | 雑感
今年の3月から8月までの半年間、私は多くの原稿の執筆のためにこのブログの更新を休んでいました。医学分野の原稿には多くの種類があります。私はこの半年間に、和文共著3編、英文共著1編、和文原著1編、和文総説1編、英文原著7編、英文総説2編、英文editorial comment1編を執筆しました。臨床の仕事の合間に執筆していましたので、睡眠時間を削って執筆することが多くありました。逆の立場で、掲載の採否を判断するレフリーの依頼も5編ありました。

今回は、なかなか分かりにくいそれぞれの原稿の種類について説明いたします。
まずは、和文共著です。
和文共著は、日本語の書籍を執筆するもので、ある編者のもとに多くの著者が協力して1冊の著書を作成するものです。例えば医学書院などの商業的な編集社が「誰にでもわかる病気」という書籍を作成する時、ある編者を依頼し、その編者は第1章の頭部はこの人に依頼しよう、第2章の胸部はこの人に依頼しようなどと決定し、依頼された方はその章や分野について執筆し、それらを集めて1冊の書籍にします。こういう場合は依頼されたのですから、原稿の掲載の採否を決めるレフリーはいません。時々編者から、この言葉は書籍の最初から最後までこの言葉に統一したいので変更して下さいなどとリクエストがあるぐらいです。和文共著はいわゆる商業的行為ですが、医師としての業績になります。30時間費やして執筆しても原稿料は3~6万円です。

和文著書
これが和文共著と異なるのは、一人で1冊の書籍を完成させることです。養老先生の「バカの壁」などというのは、これに相当します。大変な労力が必要です。もちろん掲載の採否を決定するレフリーはいませんので、極端な話、どんな内容でも書けますので、学問的業績はそれほど高いわけではありません。一人で執筆していますから印税は売れた書籍の部数によって決まります。

英文著書
英文の書籍1冊を一人で執筆するもので、日本に在住して研究している者にはほとんど関係がありません。もちろん膨大な時間と労力がかかります。ゴーストライターを雇えば可能かもしれません。あるいは日本語で執筆した原稿を業者に頼んで英文にしてもらえば時間の節約になるかもしれませんが、おそらく翻訳代が*00万円かかるでしょう。それ以上の印税が入ってくるなら利益的には考えられなくはないです。

英文共著
これは和文共著の英語版です。たいていの場合、同じ分野で研究している欧米の研究者たちから「今度、こんな書籍を作ろうと思うのだけれど、第4章を書いてもらえますか?」などというように依頼されます。英文ですから世界中の研究者たちに読んでもらえる可能性が高く、やり甲斐のある仕事です。和文共著の場合、3~6万円の原稿料が貰えるのに英文共著では栄誉だけで十分と考えられているのか、私はこれまで一度も原稿料を貰ったことがありません。もちろん出来上がった書籍は無料で1~2冊もらえます。

和文総説
これは一般的には医学分野の月刊商業誌の一部の執筆です。和文共著と形態は同じですが、和文共著が最終的に書籍になるのに対して、和文総説は月刊商業誌になる点が異なります。それと、月刊商業誌にはインパクトファクターがつきません。20時間費やして執筆しても原稿料は3~5万円です。和文総説はいわゆる商業的行為ですが、医師としての業績になります。一方、和文の医学学会雑誌で、新しく発見あるいは発明された内容ではなくて、その研究分野のこれまでの経過や内容を読者にわかりやすいようにまとめたものもこのように呼ばれることがあるので紛らわしいです。こちらも医師としての業績になります。

和文原著
これは医学学会雑誌に自分の研究の成果を載せるものです。掲載する内容は常に新しく発見あるいは発明された内容でなければなりません。和文共著が最終的に書籍(ほとんど商業的)になるのに対して、和文原著は医学学会雑誌になる点が異なり、医学学会雑誌はインパクトファクターが付いていることもあり、学術的に認められています。ただし日本語で書いているので日本語が分かる人にしか読んでもらえず、インパクトファクターはあっても低いです。しかし「医学論文」と呼べるものです。掲載の採否を判断するレフリーがいる場合が多いです。

英文原著
英文の医学学会雑誌に掲載されるものです。これが一般に「医学論文」と呼ばれるものです。掲載する内容は常に新しく発見あるいは発明された内容でなければなりません。小保方さんの件で問題になったのがここに相当します。以前掲載した研究の成果をもう一度新しいものとして載せる「二重投稿」は断じて許されません。有名なものではNatureやNew England Journal of MedicineやScienceなどがあります。最近ではオープン・ジャーナルといってネット上だけで公開され、学会の母体を持たないJournalも増えてきました。ほとんどの場合、論文の内容がそのジャーナルのレベルにふさわしいものかどうかを判断して、掲載の採否を判断するレフリーがいます。私が今回執筆した7編のうち、5編は掲載が認められましたが、1編は修正を要求され修正中、1編は不採用で、ジャーナルのレベルを落として別のジャーナルに再投稿の予定です。この辺に一番時間がかかります。

英文総説
これは英文で書かれた医学雑誌において、新しく発見あるいは発明された内容ではなくて、その研究分野のこれまでの経過や内容を読者にわかりやすいようにまとめたものです。学会から依頼される場合もありますし、応募して掲載の採否の審査を受ける方法もあります。ジャーナルによってインパクトファクターも付いています。

Editorial comment
主に英文の医学雑誌で、その医学雑誌に採用された英文原著に対してコメントを執筆するものです。ほとんどの場合、その医学雑誌のチーフ・エディター(編集長)から依頼されます。Editorial commentに対してもその雑誌に付いているインパクトファクターが付きますので、研究者としては栄誉あることですが、その研究分野である程度の業績がないとなかなか依頼されません。

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睡眠時無呼吸症候群の治療に使用する装置は効果が認められなかった

2015年09月03日 | 循環器
学会で発表するためにロンドンに来ています。膨大な執筆の仕事でしばらくブログの更新を中断していましたが、これを機会に再会したいと思います。

さて、以前もお伝えしていますが、国際学会では世界で最初に大規模な研究の結果が発表されるレイト・ブレイキング・セッションがあります。今回も、昨日世界で初めて明らかになった結果をお伝えします。

睡眠時無呼吸症候群という、寝ている間にいびきがひどくなって喉がつまり息がしばらく止まってしまう疾患があります。睡眠時無呼吸症候群は心不全や心筋梗塞の原因になるので、睡眠時無呼吸症候群を治療するために、睡眠時にマスクを装着して呼吸が止まっている時間がなくなるようにする装置があります。それがAutomated Servo-ventilatorという装置ですが、それではそれを装着すれば心不全による死亡などを減らせるかという研究です。

心臓の駆出率という心臓の動きが正常ではなく(EF<45%)、坂道を登ったときなどの息切れなどの心不全の症状が中等度以上(NYHA IIIとIV)の患者1,325人が、その装置をしようする群と使用しない群にランダムに分けられ、その後5年間の死亡、心不全や心筋梗塞による死亡が比較されました。

結果は、両群で差はありませんでした。心臓の駆出率という心臓の動きが正常ではなく(EF<45%)、坂道を登ったときなどの息切れなどの心不全の症状が中等度以上(NYHA IIIとIV)の人でこの装置を使用している人は一度主治医と相談する必要が出てきました。

例えれば、エンジンのピストンの摩擦を軽減するエンジンオイルがあって、素晴らしいですよといって販売されていたけれど、よく調べてみたら、車の馬力も燃費も向上していなかった、という感じです。

Automated Servo-ventilatorという装置を販売している会社の株はこの発表によって下がりました(そうでなくても、今は経済環境によっても株が下がっていますが)。

この結果はこの論文で発表と同日に掲載されました。興味のある方はこちらをどうぞ。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26323938

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