医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その2)

2016年03月30日 | 循環器
前回、心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)の記事で、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのは、コントロールの仕方がとても下手で、ほとんどワーファリン非投与群に近い群であるということをお伝えしました。

今回はその続きで、それではなぜこれらの臨床試験でのTTRのコントロールはこんなに下手であったのかをお伝えしたいと思います。

Efficacy and Safety of Apixaban Compared With Warfarin at Different Levels of Predicted International Normalized Ratio Control for Stroke Prevention in Atrial Fibrillation
Circulation 2013;127:2166.

(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

上の図はエリキュースの臨床試験アリストテレス試験の内容を詳しく解析したサブ解析のものです。Circulationという信頼性の高い医学雑誌ですので、多くのかたが原版をダウンロードできると思います。

前回お伝えしたように、通常の医者であれば目標のさらさら度である確率TTRという指標(time in therapeutic range)が80%はあると思います。私の診察のTTRは約90%です。

上の図はこの臨床試験に参加した国別の平均のTTRを示したものです。一番左のインドなどはなんとTTRが46%しかありません。その他、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなど、お世辞にも医療先進国とは言えない国まで参加させられています。逆にスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、オーストラリアなどでは上手に治療をコントロールしており、TTRは平均で80%近いのです。平均で80%ということは私のように90%の医者がたくさんいるということです。図を見ていただくと、日本は残念ながら68%ぐらいです。

私は、ここで「あれ、変だなぁ?」と思いました。通常、臨床研究を上手に正しく成功裏に遂行させたいと思えば、医療後進国など臨床研究の参加国に入れないのではないでしょうか?私がこの臨床試験の遂行責任者であれば「絶対に」これらの国など臨床試験に参加させません。(逆の意味なら参加させます)

つまり、トルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどが参加させられたのは、意図的にワーファリン投与群の成績を低くしたかったからだと、かなりこの推測が正しい可能性を持って推理できます。(この辺は私がいつも例えている、刑事コロンボの推理、これから自殺しようとしている人が本を読み終わって明日からまた読み始めるために本に栞をはさむだろうか、というような推理です)

では、なぜこれらの国でのコントロールが悪いのか?その国の民度と国民性もあろうかと思いますし、理由の1つが、ワーファリンの錠剤が1錠2mgで使用されている(これらの国に限ったことではありません)ことです。つまり、血液のさらさら度が足りないと、例えばそれまで1日2mg内服していた患者に2mgが追加されて1日4mgにされるのです。そうすると1か月後に血液検査すれば、さらさらになりすぎていて基準の目標値になりません。目標値を超えてしまいます。

日本でのワーファリンの1錠は1mgと0.5mgです。こまかく調整することができるのです。私は日頃1錠0.5mgの錠剤を半分足して、2mgから2.25mgにするなどして調節しています。

エリキュースのこの臨床試験を計画した医者や製薬会社の人間は、おそらくトルコ、韓国、プエルトリコ、ウクライナ、フィリピン、ロシア、ルーマニア、中国、メキシコ、ブラジルなどでは上手にコントロールできないことを知っていたのでしょう(韓国は意外です。私は上手にできると思っていました)。

プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎるのです。

情報の続きはまだまだありますので、次回お伝えします。

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心房細動に対する新しい抗凝固療薬エリキュースの臨床試験のワーファリン群の脳出血が多すぎる件(その1)

2016年03月28日 | 循環器
5年前に心房細動に対する新しい抗凝固療法についてお伝えしました。5年前はまだ発売されていませんでしたので、今振り返ってみると時の流れは早いものです。

心房細動に対する新しい抗凝固療法プラザキサ

以前からのワーファリンに比べれば「新しい抗凝固療法」ですが、5年経過した今では「新しい」とは言えなくなってきました。

薬は、プラザキサ(日本ベーリンガーインゲルハイム) 、イグザレルト(バイエル)、エリキュース(ファイザー)の3種類と、最近リクシアナ(第一三共)が加わり4種類になりました。

それらの薬はワーファリンを使用するより脳出血のリスクが少ないと宣伝され、多くの医者たちもそれらの宣伝に乗せられてその情報を信じていますが、私にはどうしてもそうは思えないのです。これから数回に分けて、その根拠をお伝えしたいと思います。

Warfarin treatment in patients with atrial fibrillation: Observing outcomes associated with varying levels of INR control
Thrombosis Research 2009;124: 37–41
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

ワーファリンという薬を使う場合、血液検査のPT-INRという血液のサラサラ度を示す値を見ながら錠数を調節します。70歳未満では2.0~3.0、70歳以上では1.6~2.6を目標としています。そして例えば1月に1回測定して、合計10回のうち6回がその目標範囲ならTTRという指標(time in therapeutic range)は60%とされます。

上の図はこの論文に掲載されているものです。TTRが70%以上にワーファリンの量が調節されると、心房細動の患者の脳梗塞+脳出血の発症率は約5年間で5%ぐらい(青色、一番上のライン)ですが、TTRが50%~60%だと灰色のラインのように約5年間の発症率は20%にもなります。そして、ワーファリンを内服しない場合は水色のラインで約5年間の発症率は25%です。

医者でない方には、患者のTTRを70%以上に保つことがどれくらいのことなのかを実感するのは難しいのですが、私の場合、患者全体の治療では90%ぐらいです。決して60%にはなりません。患者全体でTTR60%でしかコントロールできないのであれば、そういう医者こそワーファリンの処方は止めた方がいいということになります。

さて、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験で、それらの薬と比較対象になっているワーファリン群のTTRはというと、驚くべき事に60.6~71.2%なのです。

ワーファリンをTTR約60~70%と下手な調節の仕方で患者に投与すると、上の図に示されているように、まるでワーファリンを投与していないのと似た発症率で、脳卒中が起きてしまいます。

つまり、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースの3種類の臨床試験でのワーファリン投与群というのはほとんどワーファリン非投与群に近い群であるということなのです。

そもそも、同じワーファリン内服でも、コントロールの上手下手で上の図のようにこれだけ発症率が違うのなら、ひとまとめにして「ワーファリン投与群」などとは、全く言えないのではないでしょうか。ワーファリンからの利益が十分に享受できていない群です。


なぜ、これらの臨床試験でのTTRのコントロールはこんなに下手であったのか、続きは次回お伝えしたいと思います。


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