医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

糖尿病に対する運動療法

2005年10月31日 | 生活習慣病
糖尿病の予備軍や糖尿病患者は運動した方がいい事は知られていますが、これまでどれくらい運動すればいいのかという根拠がありませんでした。Diabetes Care. 2005;28:1295.からの報告です。(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★☆☆☆)

179人の糖尿病患者が1週間の運動量に応じて6つの群に分けられ、2年間調査されました。結果は、糖尿病の程度の改善には1日約5kmの歩行が必要で、1日38分の有酸素運動を加えることにより体重減少が認められない場合でも糖尿病の指標であるHbA1cが0.4%、総コレステロールが10mg/dl、中性脂肪が48mg/dl、収縮期血圧が6mmHg、拡張期血圧が3mmHg低下し、冠動脈性心臓病のリスクが2.6%抑制されました。

1日約8.5kmの歩行により健康や医療コストの改善が最大に達し、 HbA1cが1.1%、悪玉のコレステロールであるLDLコレステロールが10mg/dl、中性脂肪が57mg/dl、収縮期血圧が7mmHg、拡張期血圧が5mmHg低下し、冠動脈性心臓病のリスクが4.8%抑制されました。さらに善玉のコレステロールであるHDLコレステロールが10mg/dl上昇しました。1日約8.5kmの歩行ってちょっと辛いですが、改善するパラメーターをみると、薬の内服に匹敵するぐらいのレベルです。

歩く速さは4~5km/時ですから、みなさん1日1時間歩きましょう。そしてこの記事を見てくださったお医者さんも「1日1時間歩きましょう」と患者さんに伝えて下さい。ひょっとすると薬を投与するよりも効果的な事かもしれません。この論文のタイトルは「Make your diabetic patient walk. 自分の患者さんを歩かせましょう」なんです。

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ビタミン摂取は肺ガンを予防しない

2005年10月28日 | 
今回もビタミン摂取に関する最新の話題です。International J of Cancer. 2005(Epub ahead of print) (インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)からの報告です。

この報告もメタアナリシスといって過去の多くの論文をまとめたものです。北米とヨーロッパで行われた8つの調査がまとめられました。合計430,281人のビタミンA、ビタミンC、ビタミンEおよび葉酸の摂取量が6年から16年調査されました。

結果ですが、年齢を補正しただけの解析ではビタミンの摂取は肺ガンの発症を抑制していましたが、喫煙の有無でも補正すると肺ガンの発症を抑制してはいませんでした。

補正の違いでどうしてこういう逆転が起きたかというと、喫煙をしていない人は元々健康に気を付けていてビタミンを多く摂っていたからです。つまり、ビタミンを多く摂ろうと心がけ実際に多く摂っている人は喫煙をしていないから、ビタミンが肺ガンを予防していたように見えたのです。話はそれますが、この補正という過程は疫学調査ではとても重要な処理です。このような補正をいかに施すかというのが研究者の手腕であり、正しい補正がなされていないために反対の結論を導いてしまう事を避けなければなりません。

話を戻しますが、この報告では、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEおよび葉酸の摂取は肺ガンを全く予防していないと結論づけています。

ビタミンには、例えば発熱などの消耗性疾患で失ったビタミンを補ったり、貧血に葉酸を内服したりという場合には短期的な効果はあるのでしょうが、長期的な有用性はなかなか見あたりません。

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ビタミンCは心筋梗塞のリスクを高める

2005年10月27日 | 生活習慣病
前回はビタミンEの話でした。今回はビタミンCに関するショッキングな報告です。American J of Clinical Nutrition. 2004;80:1194. (インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)からの報告です。

閉経後の女性で糖尿病の方1,923人がビタミンCの摂取に関して15年間調査されました。この期間に281人が心筋梗塞などの心血管疾患を発症し、57人が脳卒中を発症しました。ビタミンC の摂取を食事からとサプリメントからに分け、ビタミンEやベータカロチンの内服量を補正して解析した結果、サプリメントから多くのビタミンCを摂取している群は、なんと1.84倍心血管疾患の発症率が高く、脳卒中の発症率は2.57倍高かったそうです。

糖尿病でない方では、ビタミンCの摂取と心血管疾患や脳卒中の発症率に関係はありませんでした。また通常の食事から摂取する程度のビタミンCでは関係は認められませんでした。

この結果には私も驚きました。閉経後の女性で糖尿病の方はサプリメントから多くのビタミンCを摂取してはいけません。ビタミンEやビタミンC、そして9月9日にお伝えしたカルシウム単独といい、コンビニでこんなものが堂々と売られていて良いのでしょうか。

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ビタミンEが動脈硬化に効くというウソ

2005年10月26日 | 生活習慣病
「ユベラ」という薬の名前は誰もが耳にした事があると思います。私は以前からユベラが漫然と投与されているケースに疑問を感じていました。

体内では絶えず活性酸素という毒性のある物質が生まれていて、活性酸素はコレステロールや中性脂肪を酸化して過酸化脂質を作り、それが動脈硬化の原因となっています。ビタミンEはこの酸化を阻害するので、ベータカロチンと並んで抗酸化ビタミンと呼ばれ、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞や、さらには癌を予防すると言われていました。しかしこれらの実験は試験管内や培養細胞での結果であり、実際に人が内服した調査の結果がでたのは最近の事です。

さて、ビタミンEは動脈硬化を予防するので心筋梗塞や脳梗塞の予防に有用だとテレビや新聞は盛んに伝えています。しかし不思議なことに、そんなデータはどこにもありません。Lancet. 2003;361:2017. からの報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)インパクトファクター、研究対象人数ともに申し分ありません。

この報告は、1つの研究で1,000人以上が調査されている7つの報告をまとめたものです。合計81,788人が対象になり、1.4年から12年間調査されました。ビタミンE内服群では非内服群と比較して全ての要因による死亡率(11.3% vs 11.1%, P = 0.42)、心筋梗塞の死亡率(6.0% vs 6.0%, P=0.86)、脳梗塞の発症率(3.6% vs 3.5%, P = 0.31)のいずれも改善されていませんでした。

さらに驚くべき事に、ベータカロチンの内服は若干ながら全ての要因による死亡率を増やし (7.4% vs 7.0%, P = 0.003)、心筋梗塞の死亡率を増やしてしまいました(3.4% vs 3.1%, P = 0.003)。

これらの結果から、この論文ではビタミンEの日常的な使用を支持できないとしています。
今月発表されたばかりの報告でもJ Hypertens. 2005;23:2013. (インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)、5,086人を6.5年調査したがビタミンEの内服は高血圧に全く効果がなかった(相対危険率1.04)とあります。

さてここで「おくすり110番」で「ユベラ」に関する解説を見てみましょう。
「ユベラはニコチン酸とビタミンEを合わせた薬です。ニコチン酸には、血液中の脂肪分を低下させ血行をよくする作用があります。また、ビタミンEには活性酸素をおさえ過酸化脂質を減らす働きがあると言われています。強力な作用はありませんが、副作用の少ないおだやかな薬として、古くから多用されています。この薬は血液中の脂肪分を減らします。動脈硬化をおさえ、将来起こるかもしれない心筋梗塞の予防効果が期待できます。」

ユベラニコチネートは1錠100mgが7円で、1日300mg~600mgを処方する事になっています。1日最低21円、5年で38,325円。心筋梗塞の予防効果が「期待された」だけで、こんな物質が漫然と処方されていてよいのでしょうか。これこそ医療費の無駄使いです。たとえ血液中の脂肪分を減らすとしても、心筋梗塞や脳梗塞を減らすレベルでなければ意味がありません。

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アスピリンは女性の脳梗塞の発症率を下げる

2005年10月25日 | 循環器
前回、薬価が安いことは良いことだとお伝えしました。しかし、薬価が安くて効果があっても、これではどうかという問題を取り上げます。New England Journal of Medicine. 2005;352:1293.からの報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)インパクトファクター、研究対象人数ともに申し分ありません。

皆さんもアスピリンという名前を一度は聞いたことがあると思います。100mgで6.4円と安い薬です。アスピリンには血液が固まるのを抑制する働きがあって、最終的に局所で血液が固まって発症する心筋梗塞や脳梗塞を予防することができるかもしれないという事で、これまでもさまざまな研究がなされてきました。

この研究では女性でアスピリン100mgを内服する群19,934人と内服しない群19,942人が10年間前向きに調査され比較されました。どうして女性だけなのかというと男性と女性では効果が違うことが分かっているからです。

結果は、10年後に脳梗塞を発症したのが内服群170人(0.8%)、内服しない群221人(1.1%)で統計学上有意(P = 0.009)に内服群の発症率が減少していました(相対危険度0.81)。

相対危険度とはこの場合、それを発症する危険が81%に減少したという意味ですが、相対危険度だけではその疾患の発症率がわからないので、あまい良い指標にはなりません。例えば、100人のうち2人が発症する疾患を1人に減らすことが出来たのは相対危険率0.5ですが、100人のうち20人が発症する疾患を10人に減らすことが出来るのも相対危険率0.5であり、相対危険率が同じであってもその意義が全く違うからです。

心筋梗塞に関しては内服群198人(0.9%)、内服しない群193人(0.9%)で差は認められませんでした。しかし年齢を65歳以上と限ってみると、心筋梗塞の発症は内服群41人、内服しない群62人で内服群の発症率が減少していました。

この調査とは別に、男性の場合は女性の場合とは逆に、アスピリンの内服は心筋梗塞の発症を減少させるが脳梗塞の発症を減少させない事が明らかになっています。
「アスピリン100mg、女性は脳梗塞、男性は心筋梗塞を予防」です。

さて、ここで例のごとく1人の脳梗塞を予防するのにいくらかかるかを計算しましょう。6.4円の薬を10年間内服すると発症が1.1%から0.8%に減るのですから、6.4 x 365 x 10 x 1000/3=778万円です。6.4円の薬でも効果が表れるまでには意外と費用がかかるという事です。

この調査では約4万人が調べられています。それには訳があって、調査する人数を増やすほど、ごく僅かの差でも統計学上の有意差が出やすいからです。「1人の発症を予防するのにはいくらかかるか」という指標は、これら「調査する人数の問題」や「薬価の問題」などを全て含めて比較する事ができるので、私はとても有用な指標であると考えています。

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薬剤費抑制へ「新薬価」

2005年10月24日 | 薬・総合
厚生労働省は公的医療保険が支払う医薬品の公定価格(薬価)の制度を見直す。先に販売された先発薬より安い後発薬の販売が始まると、先発薬の公定価格も後発薬の値段に連動して下がる新しい方式を導入する。

例えば先発薬の市場価格が100円、後発薬は50円で、それぞれの市場シェアが七割、三割の場合、改訂後の先発薬の公定価格は市場シェアを加味した平均値の85円となる。これまでは、特許の期限が切れ、同じ成分を持つ後発薬が登場しても、その市場価格は反映していなかった。先発薬の値下げを速めることで年間1,500億円の薬剤費削減を見込む。年内に固まる医療制度改革にあわせ、来年度から順次導入する。

新薬価制度は同省が医療制度改革試案に盛り込んだ後発品の普及促進を中心とする薬剤費削減策の柱。中央社会保険医療協議会(中医協)、与党などとの調整を経て年内に大枠を正式に決め、来年度の薬価改定で導入する方向だ。
(日本経済新聞)以上引用

薬価に関しては医者自身も意識しないことが多く、売る側が売る物の価格を知らないなんて医者だけではないだろうかと以前から疑問を感じていました。価格を知らないから、同じ効果の80円の薬があるのに240円の薬を処方していたりする事がよくあります。患者さん側も自己負担が三割なので負担が増える分が圧縮され、意識しにくいのかもしれません。80円の薬は1日1錠1カ月の場合2,400円で自己負担額は800円です。それが240円の薬の場合だと自己負担額は2,400円で、それでもかなりの出費ですが、国全体として医療費を4,800円無駄使いしていることになります。

とにかく、薬価が安くなることは良いことです。

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今年もインフルエンザワクチン接種が始まりました

2005年10月23日 | 小児科
今年もインフルエンザワクチン接種が始まりました。
2004~2005年冬季は、日本ではA香港(H3N2)型とB型のインフルエンザの流行が見られました。2006年冬季のWHO(世界保健機関)による北半球世界におけるインフルエンザワクチンの推奨株は、Aソ連(H1N1)型とB型について2004~2005年冬季のWHOによる北半球世界におけるインフルエンザワクチンの推奨株と同一のものとなりました。

今年の株は
Aソ連型は20/99(H1N1) (ニューカレドニア)
A香港型は55/2004(H3N2) (ニューヨーク)
B型は361/2002(上海)
です。

昨年は、Aソ連型は20/99(H1N1) (ニューカレドニア)、A香港型は55/2004(H3N2) (ワイオミング)、B型は361/2002(上海)でしたから、A香港の株が変わりました。ちなみに一昨年は、Aソ連型は20/99(H1N1) (ニューカレドニア)、A香港型は2007/99(H3N2) (パナマ)、B型は7/97(山東)でした。

大部分の成人は今までにAソ連型(H1N1)インフルエンザ、A香港型(H3N2)インフルエンザ、B型インフルエンザに感染したことがあると考えられます。以前に感染したことがあれば弱い基礎的な免疫を持っていると考えられ、インフルエンザワクチンの1回の接種によりその冬を持ちこたえる免疫を獲得すると考えられます。以前にインフルエンザに対する免疫を獲得したことがない小児については、短くとも4週間以上の間隔を空けてのインフルエンザワクチンの2回の接種をするべきだと世界保健機関(WHO)は勧奨しています。

乳幼児にはワクチンの効果は弱いのですが有効であることが報告されており、65歳以上の高齢者と同様インフルエンザ感染に伴うリスクが高いので、アメリカでは2003年5月から小児の定期接種に導入されています(対象者は、6~23ヶ月の乳幼児、同居する18歳以下の兄弟)。

現在、日本でも乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果について臨床試験が進行中ですが、中間報告の段階では有効性が報告されています。

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高血圧の薬は何が一番良いか

2005年10月22日 | 循環器
一概に高血圧の薬といっても以下のようにいろいろな種類があります。

カルシウムチャンネル・ブロッカー(Ca拮抗薬)
利尿剤
アルファー・ブロッカー(α遮断薬)
ベータ・ブロッカー(β遮断薬)
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)
アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

これらの中で何を使うかは医者の裁量となっていますので、各製薬メーカーは凌ぎをけずって大規模臨床試験を試みて、各薬剤の有用性を証明しようとしています。そんな中で最近発表されたCAMELOT(キャメロット)と名付けられた大規模臨床試験を取り上げます。

7月11日の記事でお伝えしたように、アメリカではβ遮断薬の有用性が確立され高血圧患者に処方される6割ほどがβ遮断薬です。日本では人種の違いからアメリカ人よりも心臓の血管の収縮の頻度が高く、その収縮を予防するCa拮抗薬が処方の6割を占めています。逆にアメリカではCa拮抗薬の処方率は2~3割です。従って、アメリカでCa拮抗薬を発売する製薬メーカーはβ遮断薬に負けまいとCa拮抗薬の有用性を証明したかったのです。

Journal of American Medical Association. 2004;292:2217.からの報告です。(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

この試験では高血圧の患者さん以外でも有効である事を証明する目的もあって、対象となったのは平均血圧129mmHgの正常血圧の方でした。合計1,991名が商品名ノルバスクというCa拮抗薬を一日5mg内服する群(663名)と、商品名レニベースというACE阻害剤を一日10mg内服する群(673名)と、それらを内服しない群(それまでα遮断薬やβ遮断薬や利尿剤を内服していた場合はそれらを継続する)(655名)に分けられ、2年間前向き(研究を始めると決定してからその後のデータを調べる)に調査されました。調査された内容は、心臓血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞の発症、心停止、心臓の血管の風船治療などが必要になったか、狭心症による入院、心不全による入院、致死性と非致死性の脳卒中、一過性脳虚血性発作、新規末梢血管疾患です。

結果は、2年間でこれらの疾患の発症がノルバスク群16.6%、レニベース群20.2%、非内服群23.1%でした。レニベース群は非内服群と比較して統計学的に差はなかったのに対して、ノルバスク群は非内服群と比較して有意に発症が抑えられていました。ただし論文をよく読むと、おもてだって伝えられない問題点を読み取る事ができます。それは、この結果はいくつかの疾患の発症率の総合的評価であり、個別にみてノルバスク群が非内服群と比較して有意に発症が抑えられているのは「心臓の血管の風船治療などが必要になったか」と「狭心症による入院」だけです。非致死性としても重篤な疾患である心筋梗塞の発症や脳梗塞、心臓血管疾患による死亡、心停止に関して有用性は認められませんでした。

「心臓の血管の風船治療などが必要になったか」はノルバスク群11.8%、非内服群15.7%で、「狭心症による入院」はノルバスク群7.7%、非内服群12%です。ノルバスクは5mgが93円ですから、一人の風船治療を抑制するのに174万円かかります。しかし風船治療はそれ以下の費用で可能ですから、該当する患者さんにとっては風船治療が必要なくなるメリットがありますが、医療費はノルバスク投与で上がってしまいます。同様に「狭心症による入院」の場合は154万円で、ノルバスクを投与されるより実際に狭心症で入院する方が医療費的には安くなります。この問題を解決するためにはこの薬代をもっと安くする必要があります。

ノルバスクの薬代が5mgで40円ぐらいであれば問題はないので、是非とも製薬会社には企業努力をお願いしたいところです。

SONYの年間営業利益(売上高から売上原価、販売費用、管理費用などを差し引いたもの)が1,572億円(2005年3月)で、これだけの利益を出すのに7兆1,600億円を売り上げなければならない(利益率=営業利益/売上高=2%)のに対して某製薬会社の利益率はなんと39%(4,421億円/1兆1,200億円)です。会社四季報を見ますと、こんな利益率を持つ会社は上場企業の中では製薬会社と最近話題のインターネット関連企業のほかに決してありません。あのトヨタでさえ9%です。


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近視治療レーシックの合併症の割合

2005年10月20日 | 眼科
レーシックによる合併症の割合を調べてみました。Ophthalmology 1999;106:1461.からの報告です。(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

1996年から1998年に施行された2,142回のレーシックが後ろ向き(過去を調べる)に検討されました。調査期間は6カ月です。この中には両眼を同時に行ったものと、片眼ずつ行った場合が含まれています。合併症は角膜の表面を正確に薄く切る事で少なくなってきますので、使用する機器の性能が大きく結果を左右します。従って、論文には必ず使用した器械が記載されています。ここではエキシマレーザーにはNidek EC-5000、角膜表面を薄く剥がす器械にはChiron Automated Corneal ShaperとBausch & Lomb Hansatomeが使用されました。論文が少し古いので最初の世代の機器だと思われます。

2,142回のうち1,853回は対側の眼球にも施す予定で、まず一側から施行されました。そのうち28回(1.5%)に術中か術後の合併症が認められ11患者が対側の施行はキャンセルしました。一側の治療が終わり、対側に施行した結果は1,842回のうち13回(0.7%)に術中か術後の合併症が認められました。

この報告では合併症の割合は1.5%~0.7%で、安全かつ有用と結論づけています。


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レーシック(エキシマレーザー屈折矯正手術)について

2005年10月19日 | 眼科
レーシック(LASIK)とは、Laser in situ Keratomileusisの略で、特殊な器械で角膜の表面を薄く切ってめくり、レーザーを角膜に照射し一部を蒸散させ、再び角膜の表面を元に戻すというものです。主に近視の治療に使われています。

今回この話題を取り上げたのは、最近レーシックに関するブログが増えているからです。どうしてレーシックだけ体験記みたいな形でブログが多いのか。「レーシック体験記ブログ」がこれほどあるなら、「盲腸の手術体験記ブログ」や「骨折治療体験記ブログ」がないのはどうしてだろうか。わざわざ病院名まで出してブログを開設するのは病院がスポンサーになっているか病院そのものが個人を装って開設していると推測できます(すみません私のブログでは推測は禁物でした)。もしも病院がスポンサーになっていたりすると、どうしても病院が有利なように情報が選ばれてしまいがちです。そこで今回はレーシックについて客観的に調べてみました。

2000年に日本眼科学会は「エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン」を出しましたが、それに対する「社団法人 日本眼科医会記者発表会 報道用資料」の一部をご紹介します。(ここから「以上引用」まで全て引用です)

エキシマレーザーによる屈折矯正手術は、費用が一眼で20万~40万円と高額です。しかし、手術が眼科医ではなく、形成外科や内科医などによっても行われており、トラブルが発生しています。トレーニングを積んでいないのでトラブルが発生しても適切な処置をとれないところに問題があります。

屈折矯正手術は、一度手をつけたら元に戻せないのが最大の欠点です。矯正予測値が正確にいかないことがあり、人によっては像のコントラスト感度が低下するのがデメリットです。強度の近視の人ほど勧められますが、医師の説明を十分聞き、納得したうえで手術を受けることが大切です。角膜を(約0.16mm)切開してフラップを作る手術は熟練を要し、手術例の2%はうまくいかないといわれています。角膜を切る刃が角膜を突き抜けて水晶体をキズつけてしまい、白内障の手術をやらなければならなかったケースや角膜が混濁し角膜移植をしなければならなかったケースが報告されています。また、角膜の中央部が突出している円錐角膜の患者さんに手術をしてしまった例もあります。この患者さんは眼圧でさらに突出してしまいました。

屈折矯正手術は、角膜や水晶体に手を加えるものです。一度実施すると元に戻らないことを認識しなければなりません。手術を受けられるのは20~30代の若い人が多いのですが、慎重に判断してもらいたいものです。コンタクトレンズの広告と同じように、屈折矯正手術にも誇大広告が目につきます。「0.01が1.5に回復」「数時間後には別世界」「安心」「快適」……といった表現で矯正手術の効果をうたっています。また、自分の著書の宣伝という体裁で、自分の矯正手術を誇示した内容のパンフレットを配布している例もあります。一般の国民の方々にも、このような広告に惑わされることなく眼科専門医に相談してほしいと思います。体の中でも最も大切な臓器の一つの眼ですから慎重に考えて選んでください。

「屈折矯正手術についての本会の見解」
屈折矯正手術については近年、急速に改良、進歩し、また、エキシマレーザー装置が厚生省から認可され、さらに日本眼科学会がエキシマレーザー屈折矯正手術のガイドラインを作成したこともあり、今後屈折矯正手術は次第に増えてくると思われます。しかし、これらの手術はまだまだ慎重を要する手術であり、手術そのものの危険性や手術した結果が将来、肉体的、精神的にどのように影響するのか、患者さんに十分説明し、理解を得たうえで適切に行われなければなりません。(以上引用)

さらにコンタクトレンズでの問題点を取り上げています。
例えば、内服薬で10人の副作用報告があれば、現状では発売を自粛することになります。物品販売としてコンタクトレンズの購入を促進するあまり、検査・処方が軽視され、年間数万人が眼障害を起こしている実態を見過ごしている実情、眼障害が発生した場合にはユーザー側の「自己責任」とする行政の姿勢には問題があるといわざるを得ません。(以上引用)

私なりにまとめてみると、機材の進歩により合併症の率は年々減少している。しかし、眼障害が発生した場合にはユーザー側の「自己責任」とする行政の姿勢には問題があるといわざるを得ない、という事になります。

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医療費の一定額を保険対象外に

2005年10月16日 | 総合
医療費抑制のため厚生労働省が今週公表する医療制度改革試案の全容が明らかになった。高齢者などの患者負担増や生活習慣病対策を実施。もう一段の医療費圧縮の追加策として、通院などの際にかかる医療費のうち、一定額までを保険適用の対象外として患者の自己負担とする「保険免責制度」の導入を盛り込んだ。(日本経済新聞)以上引用

これに対して日本医師会などは「症状が重くなるまで通院を避ける人が増え、かえって医療費が増える」と反論しています。患者が減り自分たちの収入が減る事に対する相変わらずの保身です。それならそう言えばいいのに、「かえって医療費が増える」と反論してしまうのは偽善です。

保険の対象外となるのは1,000円だそうです。よく考えてみて下さい。例えば診療代に5,000円かかったとすると、これまではその3割の1,500円が自己負担でしたが、最初の1,000円が保険の対象外となれば、残りの4,000円の3割の1,200円と最初の免責の1,000円の合計2,200円が自己負担額で差額は700円となります。しかし診療代に五万円かかった場合の差額は700円、十万円の場合も700円です。診療代が高くなるほど制度導入で増える自己負担の割合は少なくなります。診療代が5,000円というのは風邪で受診し抗生剤を処方されたぐらいの病状で、そういう方が通院を避け症状が重くなり国の医療費を押し上げる可能性はほとんどありません。アメリカでは、風邪で病院にかかっても「薬局で薬を買い(自己負担100%という意味も含めて)自宅で安静にしていて下さい」と言われるだけです。

それでは診療代に十万円かかる場合はどうか。この場合は重症の疾患もかなり含まれているかもしれません。しかし結果的に自己負担が約三万円かかるのに700円をケチって通院を止めるでしょうか。そういう方には診療代以外の理由があると考えるのが妥当です。

確かに軽微な症状に重大な疾患が隠れている場合もあります。しかし、それはむしろ予防医学の世界であり、それを主張するなら健康診断も保険でする必要がある事になってしまいます。

日本医師会の主張は、論理学では「二分法」という有名な詭弁法で、すべてを白か黒かに分類して割り切ろうとする論法です。すなわち、二つにきっぱりと分けることなどできない複雑な母集団を二つに分けてしまい(免責制度を採用すると通院を避ける人が増える。採用しないと避ける人は増えない)、話を過度に単純化して都合のいい結論を導こうとする方法です。

日本の借金を減らすため、国民一人一人が国のことを考えないといけない現在、医師会も国民もしっかりと考えてもらいたいものです。

ドキュメント日本医師会―崩落する聖域

論理学がわかる事典

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医者の腕を上げるための能力給制度は有効か

2005年10月15日 | 総合
勤務医の世界では報酬は相変わらずの年功序列制で、病院長など人格・人望といった要素が求められる立場を除いてほとんどが知識や技術よりも医者としての経験年数(すなわち年齢)で報酬が決まっています。従って、技術や知識を身につけても立場を変えることが難しいため、一般の企業ほど上昇思考は生まれないのです。この報告は、医者も一般の企業のように成果を上げた場合にそれに応じた給与があれば(pay-for-performance)、皆が競って腕を磨き合い医療技術が向上するのではないかという仮説に対する1つの回答でもあります。Journal of American Medical Association. 2005;294:1788.からの報告です。(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★☆☆)

疾患の診断率や患者さんの病状が改善したらボーナスが与えられる群(カリフォルニア医師グループ)とそうでない比較対照群(米国北西部医師グループ)で、2001年10月から2004年4月に約300の大規模医師団体に医療の質の改善がみられたかどうかを記載した報告書を配布して調査されました。評価する項目は子宮頸癌の診断率、乳ガンを検診するマンモグラフィーという画像の読影による乳ガンの診断率、患者さんのヘモグロビンA1c検査という糖尿病の指標が改善したかという三つで、それらの改善によって臨床の質が測られました。

臨床の質の改善は、子宮頸癌スクリーニングについてはカリフォルニア医師グループ5.3%対米国北西部医師グループ1.7%、マンモグラフィーについては1.9%対0.2%、ヘモグロビンA1c検査については2.1%対2.1%でした。米国北西部医師グループと比較して、カリフォルニア医師グループで能力給制度導入後に質が改善したのは子宮頸癌検診のみでした。しかも改善の差は3.2%にすぎませんでした(P=0.02)。

診断技術や質の向上には限界があるという本調査の限界はあるものの、三つのすべての評価基準について、もともとボーナスの対象になるような質の高い医療を提供していた医師がもっとも改善の伸び率が低かったが、ボーナスの取り分も一番大きかったようです。つまり「全員が同じパフォーマンス目標の達成ができるよう能力給を導入しても、支出に見合った質の改善をほとんどもたらさない可能性があり、もともと高パフォーマンスの医師が多額の報酬を得ることになる」という結果でした。

医師に能力給制度を導入しても、能力のある医師の取り分が増えるだけで能力を向上させるモチベーションにはならないという報告でした。確かに、能力を向上させるモチベーションとしてボーナス制を取り入れるなら、例えば五段階で1の医者が2になった場合と4の医者が5になった場合のボーナスを同じにする必要があります。しかし、それでは5の医者はどうするのかという問題や、4が5になった医者より1が3になった医者のボーナスが多いという問題も生じます。難しい問題です。

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情動は5歳くらいまでに原型が形成される

2005年10月14日 | 小児科
怒りや喜びなど一過性の感情の動き「情動」について、文部科学省の検討会(座長・有馬朗人元東大学長)は10月12日、「情動は5歳までに原型が形成されるため、乳幼児教育が重要だ」とする報告書をまとめた。

感情をうまく制御できない「キレる子ども」の増加が指摘されていることを受け、検討会では脳科学や医学、教育心理学などの専門家が各分野の研究を発表、教育に応用できる成果を探った。これまでの研究から科学的に判明したものとして
(1)情動は生まれてから5歳くらいまでに原型が形成される
(2)子どもが安定した自己を形成するには他者、特に保護者の役割が重要
(3)子どもの心の成長には、基本的な生活リズムや食育が重要-などを挙げた。

相手と一緒にいることで安心感や満足感を得られる「愛着」の形成の必要性も指摘。乳幼児期から良好な親子関係などを築き、愛着体験を豊かにすることで、対人関係能力や言語能力が伸長するとした。(共同通信)以上引用

就学態度は8歳まで、情動は5歳までだそうです。

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新しい冠動脈ステント

2005年10月01日 | 循環器
前回、狭心症の際に行われるステント留置は風船治療の欠点である40%の再狭窄率を22%まで減少させた事を取り上げました。今回はさらに新しいタイプのステントの話です。

冠動脈という心臓の動脈が風船治療やステント留置のあとに再狭窄するのは、それらの刺激が血管壁を構成する細胞を刺激して増殖を促すからで、その増殖を抑制する薬剤をステントに吸着させ局所に吸収させれば再狭窄が減るのではないかという発想が生まれました。

薬剤にはパクリタクセルという抗ガン剤と、シロリムスという抗生剤かつ免疫抑制剤が選ばれました。それらの薬剤を吸着させたステントは再狭窄率を減少させたかというNew England Journal of Medicine. 2005:353:653.から報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★☆)

対象はパクリタクセルステントとシロリムスステント留置をうけた1,012人の患者のうち、再狭窄があるかを調べるための冠動脈造影を受けた540人です。9カ月後の結果は、再狭窄に対してもう一度治療が必要だった割合はシロリムスで4.8%、パクリタクセルで8.3%でした。死亡率(副作用という意味ではなくて元来の疾患が悪化してという意味での死亡率)はシロリムスで0.6%、パクリタクセルで1.6%でした。同様に、心筋梗塞が起きたのはシロリムスで2.8%、パクリタクセルで3.5%でした。

つまりシロリムスステントの登場によりステント治療後の再狭窄率は22%から約5%にまで減少したことになります。シロリムスステントは2004年4月から日本でも使用が認められています。パクリタクセルステントは現在アメリカでは使用できますが、日本ではまだ認可されていません。

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