医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

健康食品が変わる 規制改革の波紋

2014年06月30日 | 生活習慣病
↑(NHKのホームページより引用)

7編の論文を並行して提出しているのと、英文の総説を3編依頼され、全く首の回らない状態です。睡眠時間を削ってなんとかやり繰りしています。ブログの更新が滞ってしまい申し訳ありません。


さて、来年度から、これまであいまいにしか書けなかった健康食品の宣伝文句が、企業の責任で体にどう機能するか明確に表示できるようになる見通しです。この制度は消費者が商品を選びやすくすることで、市場を拡大させるのがねらいです。しかし新たな制度によって、問題のある商品がこれまで以上に増えるのではないかという指摘もあります。

先日もNHKのクローズアップ現代でこの問題が取り扱われていました。視聴率が9.1%だそうですから、視聴した方も多かったと思います。

↓今でもNHKのサイトに載っていますので、まず動画をご覧下さい。
健康食品が変わる 規制改革の波紋


この制度は20年以上前から米国で導入されていて、企業がみずからの判断で効果を表示できるため、逆に科学的根拠がない商品が続出しているという弊害が出ています。

番組では、その健康食品が良いという(何に良いのかは非常に微妙な問題です)医学的根拠が多く出ているという製品を作っている会社の意見が紹介されていました。

上の写真にあるように、食品メーカーニッスイ研究所長の辻智子氏は自社製品について、「有効性をヒトで試験するという論文は2500以上発表されています」と述べ、他の研究者も「世界中でお金をかけて科学的根拠を照明しているはずなのに、(これまではそれが表示できなかった)」と、来年度から施行される新たな制度に賛成を表明していました。

そして、番組ではこのニッスイの製品に関する論文を2つ映していました。2500以上の論文のうちこの2編を映すのですから、よほど自信があるのだと思い、私はそれらの論文を調べてみました。

ところが、そのうちの一編(写真右上)は私が前回のブログで紹介した論文で、「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」のはEPA内服群で低かったけれど、「突然死、致死性心筋梗塞」では差がないのに、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」全体で効果があると誤解を招きかねない論文です。

しかも、オープンラベルの研究であり、上島教授が指摘しているように「李下に冠を正さず」ではない論文です。

詳しくは前回のブログをご覧下さい。

もう一つの論文(写真左上)は
Long-chain omega-3 Fatty acids eicosapentaenoic Acid and docosahexaenoic Acid and blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials.
Am J Hypertens. 2014 Jul;27(7):885-96

(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

魚の脂製剤EPAを内服すると血圧が下がるというものなんですが、原文を読んでみると
In the overall meta-analysis model of 93 data points from 70 RCTs, SBP decreased by 1.52 mm Hg (95% CI = −2.25 to −0.79) compared with placebo, after EPA+DHA provision. In the meta analysis of hypertensive subjects, significant reductions in SBP (−4.51 mm Hg; 95% CI = −6.12 to −2.83) were observed.

全体では血圧は1.52 mmHg低下して、高血圧症患者に限ってみると4.51 mmHg低下した、と書かれています。

通常血圧が低下して改善するといったら、消費者は最低でも10 mmHgぐらいは低下するイメージを持つのではないのでしょうか。それがたった1.52 mmHgでは、動脈硬化性疾患を予防するのにビクともしないレベルです。

何が言いたいかというと、新しい制度で健康食品の宣伝文句が体にどう機能するか明確に表示できるようになるのは良いけれど、例えばこの製品の場合、この2つの論文を根拠として、もしも「動脈硬化性疾患を減少させます。血圧を下げます」と表示したならば、それは半分は偽りではないだろうかと感じるわけです。

明確に「5年間内服すると、動脈硬化性疾患の一部、不安定狭心症を0.9%だけ減少させます。血圧は1.52 mmHだけ減少します」と表示しなければいけません。

そんな程度なら、自己判断で健康食品を内服するより、病院を受診した方が安全です。

↓さて、来年度からこの製品は、そのように表示してくれるのでしょうか?
http://www.nissui.co.jp/product/cm/cm_epa03.html今でも、「ラストに驚きのパフォーマンスを!」EPAの持つスポーツへの機能を中心に開発されたサプリメントシリーズです」って何?と思えてしまいますが・・

これからは消費者がそれらの論文を自分で調べろということですから大変です。私も今後も消費者の立場でできるだけ多くの論文を分析していきます。

国民に不利益になる(効果のない薬を買わされる)事実(真実性)が間違って公言されることがあれば、それは大問題だと思いますし(公共性)(公益性)、しっかりと検証しなければいけません。


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エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

2014年06月19日 | 循環器
前回、前々回と「狭心症による入院というエンドポイントはバイアスが入る」ということをお伝えしてきました。

魚の油 EPAの製剤エパデールが、本当に動脈硬化の病気に効果があるかという論文を検証してみましょう。私はこのデータが発表された9年前に感想を書いています。

もう一つのブレイキング・ニュース
現在はこの薬も少し安くなって、心筋梗塞・狭心症で治療した患者では、もう少し安く次の心筋梗塞を予防できるそうです。(ただし、この研究結果が真実である場合です)

Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis.
Lancet. 2007 Mar 31;369(9567):1090-8.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)


この研究では、悪玉コレステロールが高くスタチンという悪玉コレステロール低下薬で治療されている患者18645人が、スタチン単独の内服と、スタチン+エパデール内服群に分けられ、その後約4.6年間の「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」数が比較されました。

結果は、上の図にあるように、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」は、スタチン単独の内服群では3.5%であったのに対して、スタチン+エパデール内服群では2.8%と効果があったと結論づけています。

しかし、論文を詳しく読んでみますと、原文では「The occurrence of coronary death or myocardial infarction was not significantly lower in the EPA group than in controls. The frequency of fetal or non-fatal myocardial infarction was not significantly reduced. In the EPA group, however, that of non-fatal coronary events (including non-fatal myocardial infarction, unstable angina, and events of angioplasty, stenting, or coronary artery bypass grafting) was significantly lower in the EPA group than in controls.」と書かれています。

すなわち、「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」のはスタチン+エパデール内服群で低かったが、「突然死、致死性心筋梗塞」では差がなかったということです。

ところが、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」全体で効果があったごとくに宣伝されています。

前回以下のようにお伝えしました。
「今回のディオバン問題に関連して発言したのは、滋賀医科大学公衆衛生学教授の上島弘嗣氏。Kyoto Heart StudyやJikei Heart Study(JHS)などで用いられたProbe法に言及、これらの論文の共著者でもあるスウェーデンの医師、ビヨン・ダーロフ氏が「Probe法について、メリットを強調するなど、誤った見解を広めたのではないか」と問題視。例えば、Probe法では、RCTとは異なり、あらかじめ投与する薬剤が分かるため、医師と患者の協力が得られやすいものの、症例を分析する委員会への報告内容に「情報バイアス」がかかりやすいなどの指摘がある。特に、狭心症や心不全による「入院」というソフトエンドポイントを用いた場合、医師の主観で判定が揺らぎかねないとした。上島氏は、2006年の国際高血圧学会でJHSが発表された時点で、自身が「(ディオバン投与群が)非致死性のイベントのみ有効である点は、二重盲検でないことによる情報のバイアスの可能性がある」と指摘していたことも紹介。」

上島先生が指摘しているように、狭心症や心不全による「入院」というソフトエンドポイントを用いた場合、医師の主観で判定が揺らぎかねないのです。非致死性のイベントのみ有効である点は、二重盲検でないことによる情報のバイアスの可能性があるのです。

この研究では「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」にしか差が認められていません。しかもこの研究はオープンラベル、すなわち研究に携わる医者が、対象となる患者がどちらのグループであるかを知っている研究です。オープンラベル、ここが重要です。スタチン+エパデール内服群の方が効果があると信じている医者が無意識のうちに、スタチン+エパデール内服群で「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」を少なくしてしまった可能性を否定できません。

不安定狭心症の定義は厳密に存在しても、その適応方法は非常にあいまいです。表現方法はいろいろありますが、「6か月以上発作がなかった場合の再発や初めての狭心症発作が3週間以内に始まり,1週以内にも発作があるが、新しい梗塞を示す心電図所見や血中酵素値上昇のないもの」です。Brounwaldの分類では、2ヶ月以内、1ヶ月以内、48時間以内に区切りがあります。

極端な話、前者の定義では、患者に「症状はいつからですか?」と尋ね、「だいたい3週間ぐらい前からです」と言われても、もう少し前から症状はありませんでしたか?」と聞き直して、患者が「はい、そうかもしれません」と言えば、不安定狭心症ではなく安定狭心症にすることができます。

「いつから症状があったのか」という、患者の記憶が頼りの診断定義なのです。

当たり前の事ですが、「突然死、心筋梗塞で死亡してしまった」は人為的に操作できません。それに対して「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」は、ある程度人為的に操作できます。

私は日頃から感じています。オープンラベルの研究では「不安定狭心症、風船治療やステント治療が必要となった」というような人為的に操作できる調査項目を使用するのは、「李下に冠を正さず」エチケットとして避けるべきで、その結果を疑われても仕方がないと。


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