医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

メタボ健診(特定健診)は効果がない(動脈硬化性疾患の危険因子改善に)

2020年11月29日 | 循環器
日本では2008年から、40~75歳未満の国民全員を対象として特定健診(いわゆるメタボ健診)が行われています。毎年、特定健診は約2,800万人、特定保健指導は100万人以上が受けています。
これは、日本人の死因の多くを占めている動脈硬化による血管疾患(心筋梗塞・脳梗塞)の主な原因は内臓脂肪の過剰な蓄積であるとの知見に基づき、腹囲を基準に内臓脂肪型肥満をスクリーニングして、男性では腹囲が85cm以上の場合は、生活習慣改善の特定保健指導を実施するという制度です。

これまでの研究では特定保健指導の一定の効果を示していたのですが、健康志向が高い人が特定健診を受ける割合が高く、そういう人は日頃から健康を意識しているという「交絡因子」の存在も考えられます。

そこでこの京都大学の研究では「回帰不連続デザイン」という検証方法が用いられました。

70~74歳の窓口負担が1割から2割へ増えても健康状態は悪化しない
で使用された方法と同様です。

つまり、腹囲が基準値を少し超えて指導対象になった人と、基準値を少し下回り指導対象にならなかった人の測定値の変化が比較されました。この方法により、「保健指導の対象になったかどうか」の違い以外は、「健康志向」など評価の難しい特性の影響を排除して比べることができます。その結果、保健指導を受けたかどうかだけが異なる群の比較ができるようになります。

Association of the National Health Guidance Intervention for Obesity and Cardiovascular Risks with Health Outcomes Among Japanese Men
JAMA Intern Med 2020 Oct 5;e204334. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.433

(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

メタボ健診・特定保健指導制度の課題を提言 -エビデンスに基づく制度改善に期待- — 京都大学 (kyoto-u.ac.jp)

「保健指導を受けた群」と「保健指導を受けなかった群」で調査を始めて1年から4年後までの各測定値が比較されました。1年後まで調査できたのが39161人、2年後まで調査できたのが34293人、3年後まで調査できたのが31400人、4年後まで調査できたのが28975人でした。

結果は、上の図にあるように、糖尿病の数値、悪玉コレステロール値、血圧は「保健指導を受けた群」と「保健指導を受けなかった群」で差がなく、「特定健診やその後の保健指導」の効果は認められませんでした。(縦棒は95%信頼区間です)

体重だけは改善しましたが、これも1年間だけで、その後は差が認められませんでした。

今回の研究で著者らは、「保健指導制度は肥満の軽度改善にはつながったものの、血圧・血糖・脂質の改善は認められず、国民の健康状態を改善させるためには科学的な根拠(エビデンス)に基づき制度を見直し、必要に応じて改善し、より効果的なものにする必要がある」と結論付けています。

「特定健診」には公費が投入されています。効果がないものに費用をかけてほしくありません。
自分の今の数値を知りたいという目的なら仕方がありませんが、私は動脈硬化による血管疾患のリスクを軽減するという意味では患者に特定健診を勧めていません。

東京大学では製薬会社の広告塔になった科学的リテラシーの高くない主張が少なくないのに対して、さすが、京都大学は科学的リテラシーの高い主張が多いです。ディオバン事件を告発したのも京都大学でした。

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