医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

乳幼児のインフルエンザには生ワクチンが有効

2007年06月24日 | インフルエンザ
日本ではインフルエンザワクチンは不活化ワクチンでそれを皮下に注射しています。その他のワクチンとして弱毒生ワクチンを鼻腔内に投与する方法があります。

これら2つの方法と有効性が比較されました。

Live attenuated versus inactiveted influenza vaccine in infants and young children.
New England J Med. 2007;356:685.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

喘息と喘鳴のエピソードがない6~59カ月の乳幼児を無作為に不活化ワクチン接種群と弱毒生ワクチン接種群に分け、2004年~2005年のインフルエンザ流行期に有効性と安全性が調査され、その結果8,352人のデータが得られました。

弱毒生ワクチンを鼻腔内に投与する方法は不活化ワクチンでそれを皮下に注射する方法に比較して、有意にインフルエンザの累積罹患数を減らしました(3.9% vs 8.6%)。

ワクチン株と流行株が一致した場合も弱毒生ワクチンは有意に累積罹患数を減らしました(0.1% vs 0.7%)。

ワクチン株と流行株が一致しないA型インフルエンザの累積罹患数を減らしました(0.9% vs 4.5%)。

B型インフルエンザの累積罹患数は減らしませんでした(2.9% vs 3.5%)。

弱毒生ワクチンを鼻腔内に投与する方法は不活化ワクチンでそれを皮下に注射する方法に比較して、ワクチン歴のない6カ月以上の乳幼児において初回ワクチン接種後42日以内の喘鳴の出現率が高くなりました(2.3% vs 1.5%)。

6~11カ月の乳幼児では、最終のワクチン接種から180日以内のあらゆる理由による入院率が高くなりました(6.1% vs 2.6%)。

これらの結果から、喘息と喘鳴のエピソードがない12~59カ月の幼児には、弱毒生ワクチンの方が有効性が高いと結論づけています。

さて、医学も危機管理の一つですが、危機を回避する場合次の3つのケースが考えられると思います。



「1」危機回避の方法によって一人でも不利益を被る者がいれば、その危機回避の方法を採用しない。

「2」危機回避の方法によって利益を得る者が不利益を被る者より多ければ、その危機回避の方法を採用する。

「3」1と2の中間



そして、危機管理を考えるのに次のことを理解することも大切です。

自然に発生したリスクによる被害はあきらめるしかありませんが、人為的に発生したリスクによる被害はあきらめる事ができません。なぜなら、人為的に発生したリスクによる被害には責めることができる相手がいるからです。

つまり、インフルエンザというウイルスが原因で亡くなってもあきらめるしかないのですが、それを予防しようとして善意で行われたワクチンの副作用で亡くなった場合は、責める相手を見つけて不利益の原因を他人に求めようとします。あきらめることができないのです。

しかし、インフルエンザワクチンの副作用による死亡率でお伝えした事や、最近のタミフルの問題において、上の「1」の立場をとれば、社会全体として享受することができる大きな利益を失うことにもなります。

日本では多くの場合「1」の立場がとられます。狂牛病問題でもそうでした。アメリカは「3」、ときにイラク戦争のようにアメリカ兵が多少死んでも石油が得られて武器の輸出によって経済が潤えばいいという「2」のストラテジーを取る場合もあります。

さて、日本はいつ「喘息と喘鳴のエピソードがない12~59カ月の幼児に、弱毒生ワクチン」を始めるのか興味がありますが、「1」の立場をとる以上、おそらく始めないでしょう。


皆さん!ここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

救急車:「軽傷お断り」 東京消防庁、あすから“選別制”--全国初試行

2007年06月15日 | 雑感
救急車出動の急増を受け、東京消防庁は6月から、救急隊が現場で明らかに緊急性が低いと判断した患者に対して自分で病院に行くことを勧める「トリアージ」(選別)制度の試行に全国で初めて踏み切る。重症者を優先する措置で、搬送しなかった患者の容体急変を懸念する声もあるが、同庁は「対象を手足のけがなどに限定しており心配ない」としている。札幌市や横浜市などでも導入を検討しており、総務省消防庁は今回の試行が大都市での制度普及への試金石となるとみている。

消防法には救急搬送の対象となる「緊急性のある患者」の明確な定義がなく、東京消防庁は原則的に全通報者を搬送してきた。昨年の出動件数は68万6801件で10年前に比べて約22万件増えた。現場への平均到着時間は6分10秒で10年前より約50秒遅くなった。

重篤患者の搬送遅れが生死を分けることもあるが、現状では「交通手段がなかった」との理由で救急要請する人も少なくない。このため同庁は05年から救急隊が搬送の必要性を判断できる基準づくりを進めてきた。

搬送されない可能性があるのは「手足の切り傷」「鼻血」など7症例。「まひがない」「頭部に外傷はない」などの項目をクリアし、意識、呼吸、脈拍に異常がない場合には、応急処置をして医療機関を紹介したりする。判定にばらつきが出ないよう救急隊は判定シートを持参。軽症でも本人の同意が得られない場合は従来通り搬送する。

同庁は「本当に緊急性の高い人を優先するための措置で、サービス切り捨てではない」と説明する。試算では年間約5000件(全体の約0・7%)の搬送が不要となる見込み。
(毎日新聞より引用)


以前、救急車有料化に関する調査でも問題点をお伝えしましたが、やっとその第一歩が始まります。でもまだまだ甘いです。



皆さん!ここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!



コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

胃カメラの前にガスターを飲んで症状を和らげても食道および胃ガンの発見は遅れない

2007年06月04日 | 消化器
「ガスター10」のコマーシャルに「使用上の注意をよく読んでお使いください」という文句がありますね。

ガスターはH2ブロッカーといって胃酸の分泌を抑える薬で、胃潰瘍の多くは過剰に分泌された胃酸が胃粘膜を攻撃することにより発症しますので、胃潰瘍の治療に用いられています。またプロトンポンプ・インヒビター(PPI)と呼ばれる薬剤はH2ブロッカーよりもさらに強力な胃酸分泌抑制作用があり、同様の目的で使用されています。

さて、「使用上の注意をよく読んでお使いください」というただし書きは、胃の痛みの原因が胃潰瘍ではなく食道ガンや胃ガンの場合、医者にかかって胃カメラをする前にこの薬を個人的に購入して内服し、一時的に痛みがなくなったり表面が治癒したように見えることで食道ガンや胃ガンの発見が遅れる、あるいはガンを見落とすかもしれないという注意でもあります。

本当にそうなのでしょうか。、今回は胃の痛みがある場合、胃カメラを施行する前に胃酸分泌抑制剤で胃痛を治すと食道ガンや胃ガンの発見が遅れて寿命が短くなるのかを大規模な調査で示した論文をご紹介します。

The risk of missed gastroesophageal cancer diagnoses in users and nonusers of antisecretory medication.
Gastroenterology. 2005;129:1179.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

1993年から2002年までデンマークで41,577人(平均年齢56歳)に69,674回の胃カメラが施行され全員が調査対象となりました。

なんらかの症状があり最初に施行された胃カメラで461人が食道ガン(220人)あるいは胃ガン(241人)と診断されました。

ガンと診断されなかった方はその後平均4.1年間(0年~10年)引き続き調査されました。調査期間に52人がさらに食道ガン(26人)あるいは胃ガン(26人)と診断されました。

1年間で食道ガンや胃ガンになる確率は10万人あたり45人で、男性であるほど高齢であるほど確率は高くなりました。年齢別にみると50歳以下では7人、50~69歳では63人、70歳以上では103人、男性57人、女性34人でした。

さて、初回の胃カメラでガンと診断されなかった27,368人のうち9,390人は初回の胃カメラの6カ月前までにH2ブロッカーやプロトンポンプ・インヒビター(PPI)が処方されていました。

これらの群と処方されていなかった群を比較したところ、胃カメラの前に処方されていた群では1年間で食道ガンや胃ガンになる確率は10万人あたり46人、処方されていなかった群で44人と差は認められませんでした。この結果は両群間の年齢や男性の割合の違いを考慮して補正したあとでも同様でした。また、H2ブロッカーとプロトンポンプ・インヒビターを分けて解析しても差は認められませんでした。

つまり、「胃の痛みがある場合など、胃カメラを施行する前に胃酸分泌抑制剤で胃痛を治しても食道ガンや胃ガンの発見が遅れることはない」ということです。

いいかえれば、胃酸分泌抑制剤で治癒したようにみえるガンの表面を胃カメラが見落とすことはないし、潰瘍のように治るものは治り、ガンの場合は胃酸分泌抑制剤を内服しても痛みなどのサインは消えず最終的には診断に至るということです。


皆さん!ここをぽちっと「ブログランキング」応援よろしくお願いいたします!



コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする