医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

脳卒中と心筋梗塞の危険因子はなにか

2012年12月30日 | 循環器
特定健診の膨大なデータを利用して、日本人において脳卒中と心筋梗塞の危険因子を明らかにした素晴らしい研究があり、今年10月に発表されたのでご紹介します。

特定健診(特定健康診査)とは、厚生労働省により公的医療保険加入者全員に実施が義務づけられた、メタボリックシンドロームに着目した健康診査のことです。

特定健診データをもとに脳・心血管疾患発症を予測するツールの開発
Therapeutic Research 2012;33:1541.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

1995年~2000年の40歳~69歳の住民健診受診者のうち脳・心疾患に罹患したことのない8,886人が対象とされ、脳・心疾患の発症と発症した患者の特徴の関係について、平均9.8年調査されました。患者の特徴は多変量解析で解析されました。

上の図が結果です。
発症と関係があった因子は赤色で示してあります。脳出血と脳梗塞をあわせたいわゆる脳卒中を発症する危険因子は年齢、血圧値、高血圧症でした。

数字はそれがあると何倍リスクが増えるかで、例えば血圧は10mmHg上昇すると、脳卒中の発症は1.16倍になります。カッコのなかの数字は95%信頼区間といって、その倍率が95%の確率でその範囲に入っているということで、その数字が例えば0.98―1.05のように1をはさんでいると、リスクが上昇することもあるし低下することもあるということで、その因子は関連がないと判断されます。

心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の発症に関連するのは、男性であること、年齢、血圧値、善玉コレステロール値、喫煙でした。本来、高血圧症も危険因子ですが、血圧値という項目にマスクされ(多重共線性といいます)ています。

心筋梗塞の場合、男性というだけでリスクが4.61倍ということがわかりますし、年齢が10歳高くなるとリスクが1.61倍になることがわかります。善玉コレステロールが10mg/dl上がると、リスクは0.77倍に低下します。

一方、総コレステロールから善玉コレステロールを引いた悪いコレステロールや、中性脂肪は他の因子ほど関連のある危険因子ではないことがわかります。

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グルコサミン摂取は変形性膝関節症の発症に効果がない

2012年12月25日 | 整形外科
11月に開催された米国リウマチ学会で発表された内容です。
この医学研究はグルコサミンに関する初めての無作為化比較試験です。

50歳~60歳の6691人の女性を臨床医50人が診断し、BMIが27以上(割合としては、身長160センチで体重が69キロ以上)(肥満は変形性膝関節症の危険因子です)、臨床的な変形性膝関節症ではない(ACR分類基準を満たさない)、MRI撮影が可能、関節リウマチ疾患がない、最近のグルコサミン摂取がない―というすべての基準を満たした407人(平均年齢は55.7歳、68%は閉経)が対象とされました。407人は、グルコサミン硫酸塩1500mg内服群と偽薬内服群に分けられ、さらにダイエット&運動プログラムをする群としない群の2群に分かれました。

2.5年の観察期間で、副作用の発生は偽薬服用群で合計53人(26%)(偽薬群でも副作用は発生します。病は気からです)、グルコサミン服用群で合計65人(32%)。2群間で有意差はなく、症状は腸不快感、高血圧、疲労、胃痛などでした。

ダイエット&運動プログラムをしない群(204人)とした群(203人)に分けた分析で、

ダイエット&運動プログラムをしない群の変形性膝関節症の発症率はグルコサミン群(102人)13%、偽薬内服群(102人)19%で、両群間に有意差はありませんでした。

ダイエット&運動プログラムをした群の変形性膝関節症の発症率はグルコサミン内服群(102人)20%、偽薬内服群(101人)15%で、やはり両群間に有意差はありませんでした。

ハイリスクとされる肥満の中年女性を対象とした無作為化比較試験を行った結果、2.5年間で変形性膝関節症の発症に対してグルコサミン摂取の有意な効果は見られませんでした。

↓この宣伝どーなの?
サントリー
世田谷自然食品

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コンドロイチンは膝の関節痛に効果なし

2012年12月21日 | 整形外科
コンドロイチン(コンドロイチン硫酸ナトリウム)は軟骨の成分の1つでもあり、コンビニや通信販売でサプリメントとして売られたり、医薬品としても関節痛などに使用されたりしています。

しかし、コンドロイチンは膝関節や股関節の痛みに全く効果がないという結果の総説が発表されています。

Meta-analysis: Chondroitin for osteoarthritis of the knee or hip.
Annals of Internal Medicine. 2007;146:580.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

1990年代の前半頃には、コンドロイチンが関節痛に有効であるという報告がかなりありました。この総説の著者は、それらの論文や最近の論文あわせて20編を注意深く分析しました。

その結果、コンドロイチンが関節痛に有効であると報告した論文では、研究の対象者が多くても100名以下(中には研究の対象が36人や17人という論文もありました)であり、特に大きな問題点として、薬剤の投与が盲検化されていない、すなわち研究に参加した患者自身がコンドロイチンの実薬を投与される群に割り付けられたのか、あるいは偽薬を投与される群に割り付けられたのかを知ることができてしまう研究デザインであることが判明しました。

効果の判定は痛みの程度を数値化することで行われるのですが、痛みの程度というのは患者のみが判断することであり客観性に乏しいため、コンドロイチンの実薬を投与された患者はなんとなく効いた気になっていたのです。

これは、大規模の二重盲検研究(医者も患者もどの患者がどちらの群に割り付けられたか知ることができない研究)で、コンドロイチン投与群と偽薬投与群で、関節痛の改善のスコアーに差がなかったことからも分かります。
Glucosamine, chondroitin sulfate, and the two in combination for painful knee osteoarthritis.
N Engl J Med. 2006;354:795.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★☆)

「痛みの程度のスコアー」などという客観性のない数値を研究に用いる場合、必ず盲検化しなければならないことは科学者として常識です。

さらにコンドロイチンが関節痛に有効であると報告した論文には別の問題点もありました。Intention-to-Treat Analysis、すなわち研究に参加する時点でコンドロイチン投与とされた群の結果は最後までコンドロイチン投与群のものとして最後まで反映しなければいけないということがなされていませんでした。

つまり、ある患者がコンドロイチン投与群に割り付けられ、効果がないために関節痛が改善せず、研究への参加を続けることができなくなり別の鎮痛剤を内服し研究から脱落した場合、脱落としてその結果を解析から除いてしまうと、コンドロイチンの投与でも痛みが改善されないという証拠が結果に反映されなくなるということです。

これも少し考えてみたら当たり前のことです。1980年代の後半までは、解析方法に疑問が残るこのような研究がかなりあり、その結果が今でも正しいとして一人歩きしている場合が多くあります。

この総説の著者は、16ページにも及ぶ論文の最後で、そのような偽りの情報が一人歩きしていることに怒りを行間ににじませる感じで、「大規模で方法的に正しい研究の結果から、コンドロイチンを膝関節や股関節の痛みの改善のために日常的に使用するのは全く勧められない」と結論づけています。

上の図で、丸が下の方にプロットされていればコンドロイチンが有効という意味ですが、正しい方法でなされた研究である右の4つの黒丸は中央の線上、つまりコンドロイチンの有効性は認められないということを示しています。残りの16の研究は正しい方法で行われていませんでした。(黒丸は研究対象者が200人以上、白丸は200人未満の研究)

↓大々的に宣伝しているので参考にさせていただきました。
ゼリア新薬

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