医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

中国で邦人108人臓器移植 死刑囚から提供

2005年12月31日 | 総合
(時事通信)
中国の遼寧省瀋陽市と上海市の病院で2004、05年の2年間に、計108人の日本人が腎臓や肝臓の移植手術を受けていたことが30日分かった。背景には日本国内の深刻なドナー(臓器提供者)不足があり、重症患者らが移植を待ち切れず、ひそかに中国へ渡っている。日本人の患者にとって、中国が海外最大のドナー国となっているのが実態だ。

中国では最近1年間に腎臓移植約6500件、肝臓移植約3000件が実施され、移植医療技術が急速に向上。ただ、ドナーの約9割を死刑囚が占めるほか、公平な臓器配分制度が確立されておらず、人権・法整備面の不透明さも大きい。中国での臓器移植は、今後議論を呼びそうだ。



(中日新聞)(東京新聞)
中国で日本人の臓器移植手術を仲介する中国国際移植支援ネットワークセンター(遼寧省瀋陽市)は30日、今年末までの2年間に、日本人計108人が腎臓、肝臓の移植手術を受けていたことを明らかにした。

日本国内のドナー(臓器提供者)不足が深刻なため、多くの重症患者が中国に渡航し、移植手術を受けている。同センターによると、移植手術は北京、上海、瀋陽の有名病院で実施され、これまでに腎臓が97人、肝臓が9人、腎臓・肝臓が2人の計108人が手術を受けた。諸費用は腎移植が600万円台、肝移植が1,300万円ほどで、米国などと比較するとはるかに安い費用で済むという。

ただ、中国人ドナーの95%は死刑囚とされ、倫理問題を指摘する専門家も多い。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは中国で昨年、約3,400人の死刑が執行されたと発表。これら死刑囚の臓器は移植手術に使われたとみられる。中国では年間6,000件の腎移植が実施されるが、移植が必要な患者は約5万人いるとされる。金銭的に恵まれた日本など外国人患者の増加は、中国人患者の手術の妨げになるとの指摘もある。

同センター代表は「死刑囚から臓器提供を受けていることは分かっている。だが、自分の身内や子どもが重症患者だったら、倫理問題を言ってはいられない。中国の医療技術は高く、今後も臓器移植をサポートしたい」と話している。

以上引用



同じ出来事でもこの二社で報道のニュアンスがかなり違う事に気が付きます。中日新聞・東京新聞は「倫理問題を言ってはいられない」という意見を本気で支持しているのでしょうか。実際、日本の医師は日本ほどの技術を持たない中国で移植した患者さんの術後管理で苦労していて、倫理的問題も含め日本の移植学会でもかなり問題になっています。

死刑囚からの臓器提供が可能なのは、それを仲介する日本の病院が実際に存在するからで、このような肯定的な記事は、病院名は言えませんが、それらの病院との癒着があるからです。

私は脳死・臓器移植に関しては肯定派でも否定派でもないのですが、死刑囚からの臓器提供には倫理的問題を強く感じます。こうした人体の徹底利用は、最後はどこに行きつくのだろうかと考える時、徳山大学教授・粟屋剛 氏の指摘が意味深いです。

「最後に残るのは肉である。その肉をそのまま食べればカニバリズムとして批判されるにちがいない。しかし、アミノ酸に加工し、錠剤になったものだったらどうだろうか。飢餓に苦しんでいる時に、口にする人も出てくるかもしれない」。

死刑囚からの臓器提供のみならず脳死・臓器移植は、「いわゆるソフィスケートされたネオ・カニバリズムへの一里塚」であると指摘しています。


ヒト組織を利用する医療行為の倫理的問題に関するガイドライン
http://www.asas.or.jp/jst/reports/guideline/ethicalguideline.html
ここにはこんなことが書かれてあります。
「ヒト組織の提供は、ドナー側の善意に基づいた社会全体に対して行われる公共性を持った崇高な行為である。提供を受けた組織バンク及び移植施設等は、ドナーの尊厳を確保し、ドナー側の意思と社会に対する善意を尊重して組織を取り扱わなければならない。」



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過去10年で2番目の早さでインフルエンザ流行期になりました

2005年12月30日 | 感染症
国立感染症研究所のホームページを見たら、今年のインフルエンザの流行は、ここ10年では1996-97年の冬に次ぎ2番目に早く、昨シーズンより6週ほど早いと報告されていました。

国立感染症研究所は、感染症発生動向調査から、2005年第50週(12月12日~18日)で全国レベルでの定点当たり報告数は1.88となり、インフルエンザの流行期に入ったと考えられると報告しています。

注意報レベルのみを超えている保健所地域は23(15道府県)存在し、警報レベルを超えている保健所地域は2(2県)存在しています。都道府県別では岡山県(定点あたり報告数13.1)、山梨県(8.1)、岩手県(6.5)、山形県(5.8)、宮崎県(5.6)、群馬県(4.2)、熊本県(4.2)、鹿児島県(4.2)が多く、他に北海道、山口県、兵庫県、京都府、大阪府、秋田県、宮城県が含まれています。

第36週以降これまでに、インフルエンザウイルスの検出はAH1(Aソ連)型36件、AH3(A香港)型124件、B型1件の計161件です。

インフルエンザに関する他の情報は、11月30日、12月1日、12月3日の記事をご覧下さい。

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乳ガン患者は他のガンを発生する可能性が高い

2005年12月29日 | 
多くの乳ガン患者は発症後も良好な経過をたどっていますが、中には別のガンが発生する事があり、その確率は乳ガンがなかった人より高いことがわかりました。その程度はどれぐらいなのでしょうか。International Journal of Cancerからの報告です。
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

Risk of second cancer among women with breast cancer.

調査は欧州各国、カナダ、豪州、シンガポールなど13地区で1943年から2000年の間に住民がん登録に登録された乳ガン初回診断患者525,527例を対象として二次ガンの発症につきなされました。

1990年以降の症例で長期の追跡がなされていないことなどの限界はありますが、乳ガン初回診断ののち、対側に乳ガンが再発した患者を除いたすべての二次がんの発生は31,399例(6%)で、乳ガンでない人と比較した危険率は1.25倍でした。また、二次がんの危険率は、乳ガン診断から年数を経てからの方が高くなっており、乳ガン診断年齢が高いほど低くなっていました。

部位別にみると、乳ガンでない人と比較して150例以上の増加が認められたガンとしては、胃ガン(危険率1.35倍)、結腸直腸ガン(1.22倍)、肺ガン(1.24倍)、軟部組織肉腫(2.25倍)、悪性黒色腫(1.29倍)、黒色腫以外の皮膚ガン(1.58倍)、子宮内膜ガン(1.52倍)、卵巣ガン(1.48倍)、腎ガン(1.27倍)、甲状腺ガン(1.62倍)および白血病(1.52倍)があげられました。

乳ガン発症により検査に対する意識の高まりや検査機会の増加があるため他のガンの診断率が上昇したという考え方もありますが、乳ガン治療が影響する合併症としての二次ガン発症の影響や、ガンに共通する遺伝や環境因子が存在するために二次ガンの危険が高いと考えることができると結論づけています。

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ヘリコバクター・ピロリと潰瘍の関係

2005年12月27日 | 消化器
胃の中はとても強い酸性なので、菌は短時間しか生きられないのではないかと考えられてきましたが、15年ほど前に酸の影響が及ばない粘液の下にヘリコバクター・ピロリとよばれる細菌が生息していることが明らかになりました。ヘリコバクター・ピロリは潰瘍や胃ガンと関連があるとされ、日本人の4割は保菌者であるといわれています。

一方、非ステロイド性抗炎症薬の多くは、胃壁の防御作用に関与しているシクロオキシゲナーゼ活性を阻害し、胃潰瘍や消化管出血の原因となります。今回はこのピロリ菌と非ステロイド性抗炎症薬の相互作用がどれくらい潰瘍と関連があるかという研究報告です。

Role of helicobactor pylori infection and non-steroidal anti-inflammatory drugs in peptic-ulcer disease: meta-analysis. Lancet. 2005;359:14.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★☆)

25の研究の結果をまとめたメタアナリシスです。非ステロイド性抗炎症薬は4週間以上の服用を服用群と定義されました。ヘリコバクター・ピロリ保菌者かつ服用群では潰瘍の発生は95/180人(52%)で、保菌者かつ非服用群では43/205人(21%)、非保菌者かつ服用群で23/127人(18%)、非保菌者かつ非服用群で0/149人(0%)でした。保菌者かつ服用群は、非保菌者かつ非服用群と比較して潰瘍になるリスクは61.1倍でした。服用群では、保菌者であることは、潰瘍になるリスクが3.53倍でした。同様に保菌者では、非ステロイド性抗炎症薬を服用することは潰瘍になるリスクが3.55倍でした。

また、出血性の潰瘍になるリスクは保菌者で1.79倍、非ステロイド性抗炎症薬服用で4.85倍、両方有する場合で6.13倍でした。

ヘリコバクター・ピロリ保菌と非ステロイド性抗炎症薬服用は潰瘍の独立した危険因子であり、ヘリコバクター・ピロリ保菌者は除菌をしたほうがよいし、非ステロイド性抗炎症薬服用の際は胃薬の併用が必要です。

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肝硬変の予後

2005年12月25日 | 消化器
ウイルス性肝炎による慢性肝炎やアルコール性肝障害などによる肝障害のために肝臓が何度も繰り返してダメージを受けると、組織に線維化が生じて肝臓全体が硬くなり同時に機能しなくなります。この状態を肝硬変といいます。肝硬変は肝臓病の終末期の姿ともいわれ、肝臓がんのほとんどが肝硬変から発生します。肝硬変の原因別の予後の報告です。

Long-term survival and cause-specific mortality in patients with cirrhosis of the liver: a nationwide cohort study in Denmark
Journal of Clinical Epidemiology. 2003;56:88.からの報告です。
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

1977年からデンマークの病院に入院した肝硬変の患者10,154人(平均年齢56.9歳)が調査されました。最初の1年で38%が死亡しました。そのうち56%の死因は肝硬変に関する(肝不全、食道静脈瘤破裂、肝性昏睡)ものでした。

10年生存率は、アルコール性肝硬変で34%、原因不明の肝硬変で32%、原発性胆汁性肝硬変で59%、ウイルス肝炎性で66%と、原因によりかなり異なっていました。

全体で見ると肝硬変患者の死亡率はそうでない患者の5倍で、肝硬変を原因としない死亡(心臓病、肺炎、自殺、事故など)も高かったようです。その死亡率は感染症で5倍から22倍、消化器病で8倍から14倍でした。

欧米ではアルコール性肝硬変が一番多いのですが、日本ではウイルス肝炎性です。ウイルス肝炎性肝硬変の10年生存率が66%というのは、高いともいえるし低いともいえる微妙な結果です。

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ベータ・ブロッカー(β遮断薬)の逆襲

2005年12月23日 | 循環器
前回はACE阻害剤とARBの腎臓保護作用は糖尿病患者さんの腎障害に対しては効果がないという話でした。今回はベータ・ブロッカーの話です。現在、各国の慢性心不全治療ガイドラインでは「ACE阻害剤を使用後、β遮断薬を追加する」事が推奨されています。しかし、β遮断薬よりもACE阻害剤を先行させたほうが有用であるというエビデンスはありません。

Circulation. 2005;112:2426.から「CIBIS III」と呼ばれる最新の報告です。
Effect on survival and hospitalization of initiating treatment for chronic heart failure with bisoprolol followed by enalapril, as compared with the opposite sequence.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

対象は65歳以上(平均年齢72歳)で増悪のない慢性心不全(心臓のポンプとしての働きが正常の約半分)患者1,100人です。レニベースというACE阻害剤20mgを先行投与して26週間後にメインテートというβ遮断薬10mgを追加する群505人と、β遮断薬10mgをを先行投与して26週間後にレニベースというACE阻害剤20mgを追加する群505人に無作為に分けられ、死亡と心不全による入院について18カ月調査されました。

結果は、18カ月後の全ての死因による死亡はACE阻害剤先行群で73人、β遮断薬先行群で65人と差は認められませんでした。心不全の悪化による入院もACE阻害剤先行群で51人、β遮断薬先行群で63人と差は認められませんでした。したがって慢性心不全治療ガイドラインで示されている「ACE阻害剤を使用後、β遮断薬を追加する」は逆であってもいいと結論づけています。

ただし1つ問題点は、慢性心不全に対してβ遮断薬を26週間単独で投与する事は実際はなく、現実に則していない点です。一方、サブ解析では心不全の指標である左室駆出率が28%未満ではメインテート先行が有用で、28%以上ではレニベース先行が有用という興味深いデータも含まれています。

いずれにしても、レニベース(ACE阻害剤)(5mg)97円、メインテート(β遮断薬)(5mg)176円ですから、レニベース20mg+メインテート10mg/日の内服というのは総額一日740円と費用がかさみます。ちなみに日本での常用量はレニベース5~10mg、メインテート5mgです。

さて、ここまでのエビデンスで、みなさんなら降圧剤の選択をどうしますか?
医療費が全額自己負担(こうしないと費用の事が無視されがちだから)で単剤内服とすると、私は最初、ノルバスク(カルシウム拮抗薬)(5mg)93円、高血圧に伴って腎機能が低下してきたらレニベース(ACE阻害剤)(5mg)97円に換えます。腎機能が低下しないなら、そのままノルバスクで、心機能が悪化してきたらメインテート(5mg)176円に換えます。ACE阻害剤は副作用で咳が出ることがあるので、咳が出たらしかたがなくARBに換えます。200円前後するARBはその価格に見合うだけのエビデンスがまだありません。

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糖尿病による腎障害には薬剤の選択よりも血圧を下げる事の方が重要である

2005年12月21日 | 循環器
前回まで、カルシウム拮抗薬のなかではノルバスクが唯一「心臓の血管の風船治療やバイパス手術を減らす」、「狭心症による入院を減らす」効果を持つことをお伝えしました。

また以前、高血圧症の薬には
カルシウムチャンネル・ブロッカー(カルシウム拮抗薬)
利尿剤
アルファー・ブロッカー(α遮断薬)
ベータ・ブロッカー(β遮断薬)
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)
アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
があり、その選択は医者の裁量にまかされている事もお伝えしました(10月22日)。

最近の新しいタイプの薬としてアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)やアンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)があり、それらの薬には腎臓に対して保護作用があると盛んに宣伝されています。
そこで今月のLancet. 2005;366:2026.からの報告です。

Effect of inhibitors of the renin-angiotensin system and other antihypertensive drugs on renal outcomes: systematic review and meta-analysis.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

この報告は過去の無作為大規模臨床試験の結果をまとめたメタアナリシスです。

他の薬剤との比較試験では、ACE阻害剤やARB投与群がその他の抗高血圧薬投与群に比べて、クレアチニンという腎障害で上昇する物質が2倍になる相対リスクは0.71倍、末期腎不全になる相対リスクは0.87倍で、僅かな有用性がありました。臨床試験の規模が大きくなるほど、ACE阻害剤とARBの有用性は小さくなりました。

ただし、糖尿病による腎障害患者では、ACE阻害剤とARBの有用性はないことが、クレアチニン倍増(相対リスク1.09倍)、末期腎不全(相対リスク0.89)、アルブミン尿、糸球体濾過速度のいずれについても示されました。

また、糖尿病による腎障害患者に対する非投与群との対照比較試験によれば、ACE阻害剤とARBによる有用性はすべての腎転帰項目について認められたのですが、ACE阻害剤およびARBの選択という事よりも血圧の低減の程度のほうが大きく優っていることも示されました。

つまり、糖尿病でない患者さんの腎障害に対してはACE阻害剤とARBの腎臓保護作用は認められますが、糖尿病による腎障害には薬剤を色々と選択するよりも、どんな薬を使ってでもいいから、血圧を出来るだけ下げる事が重要であるという事です。

著者らは最後に「今回の分析を見ると、糖尿病における腎疾患での高血圧の治療方針の選択は、血圧降下作用、経費に基づいて行うべきである」と結論づけています。

ちなみに薬価は
ノルバスク(カルシウム拮抗薬)(5mg:標準一日使用料、以下同様)93円
レニベース(ACE阻害剤)(5mg)97円
エースコール(ACE阻害剤)(2mg)104円

ニューロタン(ARB)(50mg)210円
ブロプレス(ARB)(8mg)205円
ディオバン(ARB)(80mg)175円
ミカルディス(ARB)(40mg)193円
オルメテック(ARB)(20mg)189円

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カルシウム拮抗薬という高血圧の薬はなにが一番いいか(その3)

2005年12月19日 | 循環器
今回はアダラートというカルシウム拮抗薬で大規模臨床試験があるか調べてみました。

Retardation of angiographic progression of coronary artery disease by nifedipine. Results of the International Nifedipine Trial on Antiatherosclerotic Therapy (INTACT). INTACT Group Investigators. Lanct 1990;335:1109.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

過去に心臓の血管に動脈硬化があると診断された348人を、商品名アダラートというカルシウム拮抗薬80mg一日3回(日本の用量は一日40mgです)の投与群(n = 134)と非投与群(n = 148)に無作為に分け、3年間後ろ向き(過去を調査する)に調査しました。

結果は、心疾患死は非投与群で2人、投与群8人、心筋梗塞などの発症は非投与群で35人、投与群38人と、動脈硬化性心臓病に対する有効性は認められませんでした。

アダラートには、ノルバスクには認められた「心臓の血管の風船治療やバイパス手術を減らす」と「狭心症による入院を減らす」など動脈硬化性心臓病に対して効果はありません。ペルジピン同様、血圧を下げる事で臓器に対する負担を軽減し、疾患を予防する作用はあります。

参考までにアダラートの後発品の名前も挙げておきます。
エマベリン、カサンミル、キサラート、ケパクル、コリネール、トーワラート、ニフェスロー、ニレーナ、ヘルラート

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カルシウム拮抗薬という高血圧の薬はなにが一番いいか(その2)

2005年12月17日 | 循環器
前回はノルバスクというカルシウム拮抗薬が「風船治療やバイパス手術」や「狭心症による入院」を抑制する事をお伝えしました。そこでこんな疑問が生まれます。それは、他のカルシウム拮抗薬も同様の大規模試験をすれば宣伝になるのに、やっていないだけなのか、やっても効果が証明できなかったのかという疑問です。そこで今回は他のカルシウム拮抗薬でそのような大規模臨床試験の結果があるか調べてみました。

A controlled clinical trial to assess the effect of a calcium channel blocker on the progression of coronary atherosclerosis.Circulation. 1990;82:1940
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★☆☆)

過去に心臓の血管に動脈硬化があると診断された65歳以下383人を、商品名ペルジピンというカルシウム拮抗薬30mg一日3回(日本の用量は20mg一日2回です)の投与群(n = 192)と非投与群(n = 191)に無作為に分け、2年間後ろ向き(過去を調査する)に調査しました。

結果は、心疾患死は非投与群で2人、投与群3人、心筋梗塞の発症は非投与群で8人、投与群14人、狭心症による入院は非投与群で14人、投与群14人と有効性は認められませんでした。

つまりペルジピンには、ノルバスクには認められた「心臓の血管の風船治療やバイパス手術を減らす」と「狭心症による入院を減らす」効果さえないのです。

この論文では、効果があった項目を探そうと努力していますが、それが1つだけあったことを紹介しています。心臓の動脈が少しだけ狭くなっている(狭窄率20%以下)患者でさらにその範囲で狭くなった割合は非投与群で118人中32人(27%)に対して、投与群で99人中15人(15%)と有意(P=0.046)に低かったようです。

しかしそれでも心疾患死や心筋梗塞の発症や狭心症による入院を減らしていないという事は、それらが「心臓の動脈が少しだけ狭くなる」ことと関係がないことを示しています。

もちろん、ペルジピンには血圧を下げる事で臓器に対する負担を軽減し、疾患を予防する作用はありますが、同じように血圧を下げる薬、しかも種類が同じでも効果に違いが認められるという例です。ペルジピンの薬価は一日分で42円とノルバスクの約半額です。効かないから安いのでしょうか。

参考までにペルジピンの後発品の名前も挙げておきます。
ニコデール、アポジピン、イセジピール、カルトラン、サリペックス、サパジピン、ツルセピン、ドローマー、ニカルピン、ニスタジール、パルペジノン、ミタピラ、ラジストミン

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カルシウム拮抗薬という高血圧の薬はなにが一番いいか(その1)

2005年12月15日 | 循環器
以前(10月22日)、CAMELOT(キャメロット)と名付けられた大規模臨床試験を取り上げ、ノルバスクというカルシウム拮抗薬が心筋梗塞の発症や脳梗塞、心臓血管疾患による死亡、心停止に関する発症率の改善は、非投与群と比較して認められなかったが、「心臓の血管の風船治療などが必要になったか」はノルバスク群11.8%、非内服群15.7%、「狭心症による入院」はノルバスク群7.7%、非内服群12%で、効果があったとお伝えしました。

もう一つ、ノルバスクに関するPREVENT(プリベント)と名付けられた大規模臨床試験の結果をお伝えします。Circulation. 2000;102:1503からの報告です。
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★☆)

Effect of Amlodipine on the Progression of Atherosclerosis and the Occurrence of Clinical Events

過去に心臓の血管に動脈硬化があると診断された825人を、ノルバスク投与群(n = 417)と非投与群(n = 408)に無作為に分け3年間前向きに調査しました。

結果はCAMELOT(キャメロット)と同じように、心筋梗塞の発症や脳梗塞、心臓血管疾患による死亡、心停止に関する発症率の改善は、非投与群と比較して認められませんでした。

しかし、「心臓の血管の風船治療やバイパス手術が必要になったか」はノルバスク群21%、非内服群28%、「狭心症による入院」はノルバスク群15%、非内服群22%で、有意な改善が認められました。

NNT(Number Needed to Treat:患者さん1人がメリットを得るために、同様の患者さん何人に投薬を行わなくてはならないのかを示す指数)は「心臓の血管の風船治療やバイパス手術を抑制」で14、です。「狭心症による入院の抑制」でも14です。

ノルバスクは5mgが93円ですから、一人の「風船治療やバイパス手術」や「狭心症による入院」を抑制するのに145万円かかります。CAMELOT(キャメロット)研究より若干安い額です。

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アメリカではバイアグラが肺高血圧症の薬として認められました

2005年12月14日 | 循環器
以前、全身から帰ってきた血液が心臓を経て肺に送られる血管(肺動脈)の圧力が高くなる病期を肺高血圧症といい、バイアグラがその血圧を下げるという事をお伝えしました。先月発表になった論文をうけ、アメリカではバイアグラが正式に肺高血圧症の薬として認められました。

Sidenafil citrate therapy for pulmonary arterial hypertension.

The New England Journal of Medicine. 2005;353:2148.から最新の報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

肺高血圧症の患者さん278人(平均年齢49歳)がプラセボ群、20mg投与群、40mg投与群、80mg投与群に無作為に割り当てられ12週間投与されました。症状の改善度は6分間に歩ける距離で評価されました。投与前の6分間に歩ける距離の平均は各群で違いがなく約340mで、投与12週間後は20mg投与群、40mg投与群、80mg投与群でそれぞれ45m、46m、50m改善されました。投与前の歩行距離が325m以下であった群、男性、若年者では、そうでない群よりさらに改善されました。

アメリカでバイアグラが肺高血圧症の薬として認められた事を受けて、近い将来日本でも肺高血圧症の保険適応として認められると思われます。

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睡眠不足はホルモンを変換させ食欲を増進させる

2005年12月13日 | 総合
Annals of Internal Medicine. 2004;141:846.から最新の報告です。
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★☆☆☆☆)

Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite.

この研究では、健康な男性12例を被験者として、エネルギー摂取量と身体活動量を一定に管理した状況で、2日間の睡眠制限(1晩4時間)と2日間の睡眠延長に被験者をランダムに割り付けました。被験者の平均年齢は22±2歳、平均肥満指数(BMI)は23.6±2.0 kg/m2でした。評価項目は日中における食欲抑制ホルモンである血漿中レプチン濃度および食欲増進因子であるグレリン濃度の推移ならびに空腹感と食欲の自覚的評価点です。

結果は、睡眠制限中に、食欲抑制ホルモンのレプチンは18%減少(P=0.04)、食欲増進因子のグレリンは28%増大(P<0.40)、空腹感は24%増大(P<0.01)、食欲は23%増大(P=0.01)しました。特に炭水化物含有量の多い高エネルギー食に対する食欲が増大しました。(増大幅33-45%、P=0.02)。 つまり睡眠不足では食欲が亢進し太るという事です。減量を勧める時は十分な睡眠も勧めた方がよいようです。

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水痘ワクチンの有効性

2005年12月08日 | 小児科
水痘ワクチンは日本が世界に先駆けて開発したワクチンで、生後12ヶ月から接種可能です。このワクチンは日本では「任意接種」ワクチンで、接種後の抗体陽転率は90%以上です。接種しても水痘にかかることもありますが、多くは軽症ですみます。副反応として発熱(2~3%)発疹(2%)接種局所の発赤腫脹(3%)があります。アメリカでは1995年から全員に推奨されています。1994年まではほぼ全員が発症し、年間約13,000例の入院と100~150件の死亡が報告されていました。

それでは、水痘ワクチンの有用性はどうかというJournal of American Medical Association. 2005;294:797.から最新の報告です。(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

Impact of varicella vaccination on health care utilization.

2002年におけるアメリカでの水痘ワクチンの接種率は81%に達しました。1994年から2002年までに10万人あたりの水痘による入院は2.3人から0.8人に減少しました。水痘に通院も10万人あたり215人から89人に減少しました。入院や通院は全ての年齢で減少し、特に年齢が低いほど効果は大きかったそうです。

接種しないとほぼ全員が発症するのですから、水痘ワクチンは接種した方が良さそうですね。

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