医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

悪玉コレステロールは160mg/dl以下、善玉コレステロールは高いほど良い

2007年04月24日 | 生活習慣病
以前、日本動脈硬化学会は動脈硬化の進行に影響を与えるコレステロール値の判断基準を「総コレステロール」から「善玉コレステロール」と「悪玉コレステロール」に分けて判断する基準に変更したことをお伝えしました。


この時、値が変化したときに心筋梗塞を発症する危険率に一番影響を与えるのは「悪玉コレステロール」よりも「善玉コレステロール」であることをアメリカの論文を引用してお伝えしました。

それらの結論が日本人でも同様であることが先月発表されましたのでお伝えします。

Risk of coronary events in Japanese patients with both hypercholesterolemia and type 2 diabetes mellitus on low-dose simvastatin therapy: Implication from Japan Lipid Intervention Trial (J-LIT)
Atherosclerosis. 2007;191:440.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

対象はリポバスという高コレステロール血症改善剤(スタチン)を1日5mg内服し始めた人と限定されていますが、35歳から70歳までの調査開始時の総コレステロールが220mg/dl以上で、過去に心筋梗塞や狭心症に罹患していない41,801人が平均5.4年間、調査されました。

上の図は期間中のコレステロールレベルと心筋梗塞と心筋梗塞による死亡の発症率の関連です。

上段は悪玉コレステロールが120mg/dl以下、120~140mg/dl、140~160mg/dl、160mg/dl以上で階層化されたもので、右が非糖尿病、左は糖尿病患者です。

これを見ると、糖尿病であってもなくても悪玉コレステロールが120mg/dl以下を1倍とした時の発症率は、160mg/dlまではそれほど変化せず、160mg/dl以上になって初めて発症率が増えていることがわかります。

下段は善玉コレステロールが40mg/dl以下、40~50mg/dl、50~60mg/dl、60mg/dl以上で階層化されたもので、右が非糖尿病、左は糖尿病患者です。

これを見ると、糖尿病であってもなくても善玉コレステロールが40mg/dl以下を1倍とした時の発症率は、善玉コレステロールが増えるのに比例して減っていることがわかります。

過去に心筋梗塞や狭心症に罹患していない人にとっては、悪玉コレステロールは160mg/dl以下であればそれ以上さげても心筋梗塞と心筋梗塞による死亡の発症率はそれほど下がらず、逆に善玉コレステロールは高ければ高いほど発症率は下がることがわかります。

また、心筋梗塞と心筋梗塞による死亡の発症率は平均5.4年間で、糖尿病患者(1.8%)、非糖尿病患者(0.76%)と2.38倍になることも示されています。


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ビタミンB6、B12、葉酸のサプリメントは動脈硬化性の心臓病を予防しない

2007年04月21日 | 循環器
以前「葉酸とビタミンB6とB12の併用は血中のホモシステイン濃度を低下させる」という研究と「血中のホモシステイン濃度が低いほど冠動脈性心疾患および脳卒中の発現率が低くなる」という研究の結果が発表されました。

そこで、それでは「葉酸とビタミンB6とB12の併用は冠動脈性心疾患および脳卒中の発現率を低下させる」のかという研究の結果が発表されました。

Homocysteine lowering with folic acid and B vitamins in vascular disease.
New England Jounal Medicine. 2006;354:1567.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

この研究では、血管疾患または糖尿病を有する55歳以上の5,522人が、葉酸2.5 mgとビタミンB6 50 mgとビタミンB12 1 mgの併用またはプラセボ薬の1日1回投与にランダム割付けされ平均5年間観察されました。

平均血漿中ホモシステイン濃度は、実薬投与群では0.3 mg/L低下し、プラセボ群では0.1mg/L上昇しました。心血管死、心筋梗塞、または脳卒中は、実薬投与群では519例(18.8%)、プラセボ群では547例(19.8%)に発生し、両者で差がありませんでした。

脳卒中の発生数が冠動脈性心疾患の発生数よりはるかに少なく、脳卒中の統計学的解析に信頼性が低かったという解析上の限界がありましたが、実薬投与群で、プラセボ群より実薬群の方が脳卒中を来たした患者が少なかったそうです(0.75倍)。半面、実薬群の患者の方が不安定狭心症により入院した者が多く(1.24倍)、心血管に起因する死亡と心筋梗塞のリスクを有意に低下させることはありませんでした。

著者らは「われわれの結果から、葉酸とビタミンBのサプリメントを予防治療として使用することは支持されない」と述べています。



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安定狭心症に風船治療・ステント治療を行っても薬物療法だけの場合と成果は同じ

2007年04月18日 | 循環器
これまで、貫壁性あるいは非貫壁性の心筋梗塞の場合の風船治療・ステント治療の成果についてお伝えしました。今回は最近発表された論文から、安定した狭心症に関してです。

まず、どういう例を安定してと定義しているのかを理解するためにカナダ循環器学会の狭心症重症度分類を示します。

【クラスI】日常の身体活動、たとえば通常の歩行や階段上昇では狭心発作を起こさない。仕事にしろ、レクリエーションにしろ、活動が激しいか、急か、または長引いた時には狭心発作を生じる。
【クラスII】
日常の身体活動は僅かながら制限される。急ぎ足の歩行または階段上昇、坂道の登り、あるいは食後や寒冷、強風下、精神緊張下または起床後2時間以内の歩行または階段上昇により発作が起こる。または2ブロック(200m)を超える平地歩行あるいは1階分を超える階段上昇によっても狭心発作を生じる。
【クラスIII】
日常活動は著しく制限される。普通の速さ、状態での1~2ブロック(100~200m)の平地歩行や1階分の階段上昇により狭心発作を起こす。
【クラスIV】
いかなる動作も症状なしにはできない。安静時にも狭心症状をみることがある

この論文の中では、安定した狭心症とはクラスIVが薬の内服でクラスIII以下に改善した狭心症と定義されています。

Optimal medical therapy with or without PCI for stable coronary disease.
New England Journal of Medicine. 2007;356:1-14.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

対象は、大きな冠動脈の中枢部に70%以上の狭窄があり運動負荷心電図などで虚血が証明されているか、大きな冠動脈の中枢部に80%以上の狭窄がある安定した2,287人の狭心症患者で、風船治療・ステント治療群(薬物療法も併用)1,149人と薬物療法群1,138人に無作為に分けられ、平均4.6年調査されました。

両群でカナダ循環器学会の狭心症重症度分類クラスI、クラスII、クラスIIIの割合に差はありませんでした。同様に、糖尿病や高血圧、バイパス手術の既往、心筋梗塞の既往、薬物療法の内容などに差はありませんでした。

全ての原因による死亡と非致死性の心筋梗塞の発症は、4.6年間で風船治療・ステント治療群で19.0%、薬物療法群で18.5%と差は認められませんでした。

また、心筋梗塞や不安定狭心症で入院した割合は風船治療・ステント治療群で12.4%、薬物療法群で11.8%、心筋梗塞の発症は風船治療・ステント治療群で13.2%、薬物療法群で12.3%と差は認められませんでした。

つまり、安定した狭心症では風船治療・ステント治療群をしても、全ての原因による死亡と非致死性の心筋梗塞の発症、心筋梗塞や不安定狭心症での入院の回避効果は薬物療法だけの場合と同じということです。


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貫壁性の心筋梗塞は早期に風船・ステント治療をした方がよい

2007年04月10日 | 循環器
前回は心筋の障害が内側だけに留まり障害が外側に及ばない非貫壁性についてお伝えしましたが、貫壁性となっている急性心筋梗塞の場合はどうかという総説が今年発表されていますのでご紹介したいと思います。

Primary PCI for myocardial infarction with ST-segment elevation.
New England Journal of Medicine 2007;356:47.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

貫壁性の急性心筋梗塞を発症すると、25%~35%が病院に到着する前に不整脈で死亡します。
Sudden cardiac death in the United States, 1989 to 1998.
Circulation. 2001;104:2158.

次のガイドラインでは、「風船治療・ステント治療の専門家が常勤し、心臓外科がいつでも待機しており、病院到着から90分以内に心臓カテーテル検査を施行できる施設」であれば、点滴で血栓を溶解する治療を行うよりも風船治療・ステント治療を行う方が、入院後4~6週間の死亡率は少なく(7% vs. 9%)、死亡には至らない再度の心筋梗塞の発症率、脳出血の発症率は方が少ないと報告しています。
ACC/AHA guidelines for the management of patients with ST-elevation myocardial infarction – executive summary: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 1999 Guidelines for the management of Patients with Acute Myocardial Infarction.
Circulation. 2004;110:588.

別の論文では、貫壁性となっている急性心筋梗塞の場合、風船治療・ステント治療を受けるべき状態なのに受けなかった場合の死亡率は、受けた場合が5.7%であるのに対して14.8%と悪化することが報告されています。
NRMI and current treatment patterns for ST-elevation myocardial infarction.
American Heart Journal. 2004;148:Suppl:S29-S33.

また、急性心筋梗塞に対する4,366例の風船治療・ステント治療を分析した結果、緊急心臓手術に至ったのは4.3%で、死亡は2.5%でした。
Predictors of success and major complications for primary percutaneous transluminal coronary angioplasty in acute myocardial infarction: an analysis of the 1990 to 1994 Society for Cardiac Angiography and Interventions registries.
Journal of American College of Cardiology. 1997;30:201.

貫壁性となっている急性心筋梗塞の場合は、一刻も早く風船治療・ステント治療を行った方がよいという事です。


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非貫壁性の心筋梗塞は早期に風船・ステント治療をしなくても予後は同じ

2007年04月05日 | 循環器
ふ~ 相変わらず忙しい毎日です。更新が遅れがちで申し訳ありません


心筋梗塞は、心臓の筋肉の厚み分すべてが傷害される貫壁性と、障害が内側だけに留まり障害が外側に及ばない非貫壁性に分けることができます。もちろん非貫壁性の方が障害は軽いわけです。貫壁性か非貫壁性かは心電図で見分けることができます。

日本では心臓の血管が詰まっていたり、極度に狭くなっている場所を見つけた場合には、非貫壁性であっても直ぐに風船・ステント治療をすることが多いのですが、非貫壁性の場合に直ぐに治療することが有益であるのかが、これもやはり日本ではなくアメリカで検証され先月「Lancet」に発表されました。

Long-term outcome after an early invasive versus selective invasive treatment strategy in patients with non-ST-elevation acute coronary symdrome and elevated cardiac troponin T (the ICTUS trial): a follow-up study.
Lancet. 2007;369:827.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

心電図で非貫壁性であると確認され、さらに心筋が傷害された時に心筋から血液中に漏れるトロポニンTという物質が0.03μg/L以上に上昇していることが確認された1,200人が研究対象となりランダムに以下の二群に分けられました。18歳以下、80歳以上は対象から除外されました。

「早期に風船・ステント治療をする群」では診断がついた24~48時間後以内に風船・ステント治療を行い、「早期に風船・ステント治療をしない群」では診断がついても風船・ステント治療を行わず薬物治療を続けて、十分な薬物治療でも頑固な胸痛が残る場合、血圧や脈が不安定な場合、退院前の運動負荷テストで大きな虚血領域が認められる場合に限り48時間以降に風船・ステント治療を行います。

薬物治療の内容は両群で違いはありませんでした。3年間両群の予後を比較した結果、全ての原因による死亡、心臓病による死亡、狭心症による再入院に両群で差は認められず、心筋梗塞の発症はむしろ「早期に風船・ステント治療をする群」で多くなりました(18.3% vs 12.3%、p=0.002)。また、治療を行うことに関連した心筋梗塞の発症(治療用の風船が治療箇所の手前で擦れたためにそこで後に心筋梗塞が発症したなど)は「早期に風船・ステント治療をする群」で2倍多くなりました(12.0% vs 6.1%、p=0.0002)。

つまり、非貫壁性の心筋梗塞の場合には早期に(それが夜中であった場合、あえて緊急に)風船・ステント治療をしなくても、十分な薬物治療でも頑固な胸痛が残る場合、血圧や脈が不安定な場合、退院前の運動負荷テストで大きな虚血領域が認められる場合に風船・ステント治療を48時間以降にしても患者さんの予後は同じということです。

この研究の中で「早期に風船・ステント治療をする群」で詰まっている血管が再開通した割合は76%と日本と比較して悪いのですが(おそらく日本では95%以上でしょう。日本人は風船治療が上手だからです)、一方、この研究の中で「早期に風船・ステント治療をしない群」での再開通はたった40%であり、そういう悪い条件と比較してもこういう結果が出ているのですから、「76%しか再開通していないからこういう結果になった。95%以上の再開通率なら早期に風船・ステント治療をした方がいいだろう」という解釈は推測にすぎず、それを証明するには日本で同じ研究を行い、その結果を待たねばなりません。


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