医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

睡眠薬の使用は認知症を誘発しない

2022年11月16日 | 神経
論文の執筆に忙しくブログの更新が遅れて申し訳ありません。でも時間を費やしたおかげて新しい装置に関する素晴らしい論文が執筆できたと自画自賛しています。



さて、先日患者さんから「先生、睡眠薬を飲み過ぎると認知症になりやすくなるのですか?」と久しぶりにそんな質問を受けて、「それを証明することはとても難しいのです。そんなことは証明されていません」と答え、以下のことを説明しました。
以下のことは医者でも十分に理解できている人は少ないです。

動脈硬化性の認知症は原因が異なりますので、ここでは「アルツハイマー型認知症」に限定します。そしてここでは睡眠薬は以前からあるベンゾジアゼピン系とします。非ベンゾジアゼピン系である「マイスリー」に関しては次回お伝えします。

睡眠薬の使用と認知症の発症の関連を証明できない理由は以下の2つです。
(1)不眠症は認知症の前駆症状の1つである。
(2)「不眠症の有無」は「睡眠薬の使用の有無」と強い相関がある。


まず、(1)についてですが、下の論文で証明されています。
Sleep, Cognitive impairment, and Alzheimer's disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
Sleep 2017 Jan 1;40 (1)
.


つまり、もともと認知症になる運命であった人が、その前に不眠症になり、それに対して「睡眠薬」が処方されていたので、あたかも「睡眠薬を飲んでいると認知症になりやすい結果がでてしまう」ということです。

少しわかりやすく例えると、肺癌の患者はそれが判明する前に咳が出たとします。それに対して「咳止め」が処方された場合、「咳止め」を飲んでいると肺癌になりやすいという結果が生まれるということです。

(2)に関しては、皆さん、想像して下さい。よく眠れなくて医療機関を受診し、「睡眠薬」は処方されずに「午前中に明るい光を浴びて下さい。夕方以降カフェインを含んだ飲物を飲まないで下さい。就寝直前には熱い風呂には入らないで下さい」という助言だけで、「睡眠薬」を処方されない場合はどれくらいあるでしょうかということです。

百歩譲って、20%ぐらいはあるとしても、80%のケースは「不眠症の存在」=「睡眠薬の処方」ではないでしょうか。

すなわち「不眠症」の病名と「睡眠薬の内服」には80%以上の相関があるのです。

さて上の図は以下の論文の結論です。
Benzodiazepine use and risk of Alzheimer’s disease: case-control study.
BMJ. 2014 Sep 9;349:g5205. doi: 10.1136/bmj.g5205.


カナダとフランスの医療保険情報を後ろ向きに66歳以上の7,184人が最低6年間、最大10年間調査され、睡眠薬を内服していた人と内服していなかった人が比較されました。

Model 1は高血圧の有無、虚血性心疾患の有無、脳梗塞の有無、血液さらさら薬の内服の有無、高コレステロール血症の有無、糖尿病の有無で補正された多変量解析です。Model 2はそれに不安神経症の有無、うつ病の有無、不眠症の有無を加えて多変量解析されたものですので、Model 2で説明します。

睡眠薬の180日までの内服では認知症は増えていませんでしたが、180日以上内服すると認知症は1.74倍増えていました。

しかし、ここには限界と誤解があります。すなわち「不眠症」の病名と「睡眠薬の内服」には80%以上の相関があるので、「睡眠薬の内服の有無」で結論を出そうと2群分けしているのに、それと80%以上相関がある「不眠症の有無」を多変量解析の「従属因子」に入れてしまうと、「多重共線性」の一種(これは従属因子間での類似性ですが、今回は従属因子と説明因子での類似性です)で結果が不正確になり、証明できないのです。

「先生、睡眠薬を飲み過ぎると認知症になりやすくなるのですか?」という質問には、「それを証明することはとても難しいのです。そんなことは証明されていません」としか答えられないのです。

つまり、「ニワトリが先か、卵が先か」証明できないのです。

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コメント (1)
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