医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

18歳時に肥満の女性は若年での死亡率が高い

2007年01月22日 | 生活習慣病
Body Mass Index (BMI)とは、体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出した、ヒトの肥満度を表す指数です。日本肥満学会によると、BMIが22の場合が標準体重で、BMIが25以上の場合を肥満、BMIが18以下である場合をやせとしています。


The relationship between overweight in adolescence and premature death in women.
Annals of Internal Medicine. 2006;145:91.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

思春期における肥満の程度とその後若年での死亡率の関係を明らかにするために、対象は1989年に登録された24歳~44歳のアメリカの看護師で、登録時ガンに罹患していない102,400人で、18歳時の体格指数(BMI)とその後12年間の死亡の有無が調査されました。

喫煙や飲酒や身体活動の程度は死亡率に影響するため、結果はそれらの程度で補正されました。

12年間の追跡期間中に710人が死亡しました。18歳時のBMIが18.5~21.9と標準の体格と比較してBMIが18.5未満、22.0~24.9、25.0~29.9、30.0以上の死亡率はそれぞれ0.98倍、1.18倍、1.66倍、2.79倍であり、BMIが25.0~29.9と30.0以上で統計学的に高いと判断されました。

この関連性は成人期のライフスタイル(喫煙、飲酒、ホルモン療法、身体活動、経口避妊薬)をの影響を除外しても認められました。

疾患別では、18歳時にBMI25.0以上であった女性は、ガン、心臓血管疾患、その他の疾患、外的要因による死亡率がそれぞれ1.40倍、3.24倍、2.13倍、1.83倍と高く、特に外的要因のうち自殺による死亡リスクが2.31倍と高いことが特筆されました。

上のグラフの縦軸は1年間の10万人あたりの死亡数で、横軸がBMIです。標準体型では2,000人に1人死亡している割合が肥満の女性では2~3倍になっています。

ただし、この調査対象の90%は白人女性ですから、この結果がそのまま日本人に当てはまるかは明らかでありません。


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心臓に編みタイツ!

2007年01月11日 | 循環器
心臓が全身に血液を送り出すポンプとしての働きは心臓が収縮する力の程度に比例します。心臓の収縮力が低下した場合、外側から弾力性のあるものでサポートしてやれば収縮力を増やすことができそうなのは誰もが想像できることです。でも、誰もがどうすればそんなことができるのか、そんなことが可能なのかというところで思考が止まってしまい、それ以上進まないのが現実だと思います。

アメリカが凄いのは、こういうことを先入観の排除と柔軟な思考により実現化してしまうことです。

米国Paracor Medical社製のHeartNetTMは弾力性のあるネット(ニッケルとチタンの合金)で、胃カメラの太さほどの管を肋骨の間から挿入することにより心室を写真のようなネットで包むことができます。

有効性の調査では、重症僧帽弁閉鎖不全、冠動脈バイパス術後、最近の虚血性心疾患、最良の治療下での重症心不全を除いた30名(平均年齢53歳、心不全の罹患期間平均7.2年)を対象にして行われました。装着前の左室駆出率は21.5±6.5%、左室拡張期径は7.4±1.0mm、左室収縮期径は6.2±1.0mmで、装着6カ月後のこれらの指標に差は認められませんでしたが、6分間に歩行できる距離は使用前の337±91mから145±150m増え、左室収縮機能障害による心不全患者に対する安全性と有用性が確認されました。現在、さらなる無作為試験が計画されているそうです。

胃カメラほどの穴から心臓にネットを装着するという発想。私は日頃、日本がアメリカから学ぶべきことはほとんどないと思っているのですが、こういう事を聞かされるとまだまだ日本人は先入観にとらわれてこういう発想ができない、こういう点はアメリカから学ばなければいけないと思う次第です。

そして、こういう奇抜な発想につきあってくれるベンチャー企業がアメリカに存在することも驚異に思います。


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医者の俸禄、功名が辻

2007年01月06日 | 雑感
新年明けましておめでとうどざいます。


年末にNHK大河ドラマ「功名が辻」のスペシャル番組を見ていました。

その中で、豊臣秀吉に仕えていた山内一豊が3,800石の俸禄を手にして「親方様にあれだけ尽くしたのに、たったこれだけ・・・」と愕然とするシーンがありました。このシーンを見てふと感じたことです。

このシーズンになりますと、確定申告のための昨年度の源泉徴収が送られてきます。私の勤めている施設ですと、私の立場で1年間勤めて俸禄は800万円です。「医員」という立場ですと1年間の俸禄はたった400万円です。これでは、アルバイトをしないと勤労に見合う報酬が得られない状況です。私は正月休みの6日間毎日欠かさず病棟に顔を出していました。いや、出さなければならない状況でした。

医者として勤める歳月も半分を過ぎかかった私はこれでもいいです。これ以上俸禄が欲しいとは言いません。ただ、問題は後輩たちです。日本の医療のレベルを維持あるいは向上させようと、後輩たちに「こうしてくれるか」と頼んでも、年収400万円や800万円では山内一豊と同じように「親方様にあれだけ尽くして、たったこれだけ・・・」とモチベーションが下がるのは避けられないのです。

俸禄が上がらないと働かないという後輩たちが悪いということではなく、むしろこんな俸禄で理想を実現できるはずがなく、そういう気持ちははるか400年以上前の戦国時代の人たちも同様であり、番組のタイトルが「功名が辻」とうたいながらも、モチベーションがけっして功名心ばかりでなかったということは実に興味深いことです。



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刃のついた風船治療に関して

2007年01月01日 | 循環器
以前、心臓の血管に対して「刃のついた風船」による拡張は結果を良くするというのは「偽り」であることをお伝えしました。

刃のついた風船による治療への思惑

心臓の血管を「刃のついた風船」で拡張したあとにステントを留置した場合と、そうでない場合でどちらがいいかという論文が先日発表されました。


Impact of cutting balloon angioplasty prior to bare metal stenting on restenosis. A prospective randomized multicenter trial comparing CBA with balloon angioplasty before stenting.
Circ J. 2007;71:1-8.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★☆☆)

この研究は多施設で行われました。各治療群は、ステントを留置する前に「刃のついた風船」で拡張した群と「刃のついていない風船」で拡張した群で、それぞれがさらに風船やステントのサイズを超音波を使った断層像を見ながら決定した群とX線造影だけで決めた群に分けられました。従って比較されたのは4群になります。

評価項目は、内腔径、細くなっていない場所と比較した細さの割合、再狭窄率、風船治療の再施行率で、それぞれ治療前、治療直後、7カ月後で測定されました。



結果ですが、
            刃(+)超音波    刃(+)X線     刃(-)超音波  刃(-)X線 
             122人        106人        126人         99人
内腔径(直前)      1.06         1.04        1.02          1.01mm
内腔径(直後)      2.72(大)      2.56        2.58          2.46mm
内腔径(7カ月後)     1.92         1.80       1.79          1.73mm←差がありません
 
細さの割合(直前)    62.4        62.8         63.9           63.8%
細さの割合(直後)    13.1(小)     15.1         16.5           16.0%
細さの割合(7カ月後)  30.1(小)      35.1        35.3           35.5%

再狭窄率(7カ月後)   6.6(小)      17.9         19.8           18.2%
 
風船治療
再施行率(7カ月後)       9.6%(小)                      15.3%←差があります

(大)(小)というのは、その結果が他と比べて統計学的に大きい、小さいという意味で用いました。ついていないのは差がないという意味です。

論文では、これらの結果から刃のついた風船の使用は、その後ステントを留置する治療後の再治療の割合を減らし有用であると結論づけられています。


しかし~


刃のついた風船を使っても使わなくても、7か月後の内腔径自体に差が認められていません。「細さの割合」は刃のついた風船を使った場合で小さくなっていますが、「細さの割合」というのは比較する血管の場所を測定者(医者)が選べるので、どうにでも操作できる数字です。

通常、このように測定者で操作できてしまう項目は信頼できる医学雑誌では尊重されません。再狭窄率や治療再施行率も同様です。

(1)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では再狭窄率を6.6%として、そうでない群では17%以上と判断しているのでしょうか?

(2)どうして7か月後の内腔径に差がないのに、刃のついた風船群では9.6%しか再治療せず、そうでない群では15.3%も再治療しているのでしょうか?


これでは、その患者さんがどちらの群かを知っている医者が、刃のついた風船群で意図的に再治療を少なくしているとしか思えません。

この結果から導き出せるのは、

1、超音波を使うと血管の大きさを詳細に測定することができるため、血管にヒビが入らない程度の風船の径を細かく決定でき治療直後の内腔径を大きくできるということ

2、その際、刃のついた風船を使用すれば刃が作り出す切れ目が血管のヒビができるのを防ぐため治療直後の内腔径を大きくできるという、2点です。

刃のついた風船は、治療した後の将来の結果を良くするということは導き出せません。


信頼できるのは、内腔径といった測定者では操作できない数値であるべきです。再狭窄率や治療再施行率で結論を導きだしてはいけないことは、こういう結論の出し方が多いこれまで日本の論文に対してアメリカが何度も指摘してきたことです。

それなのに、なぜこの研究をデザインする時に再狭窄率や治療再施行率といったあいまいな因子で評価するとしたのでしょうか。



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