医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

緊急事態宣言は効果があるという論文の結果

2021年05月20日 | 感染症
国際政治学者の三浦瑠麗は緊急事態宣言についてこんな発言をして批判されています。

最近も、緊急事態宣言の重要性を主張する尾身茂会長に対して、「尾身さんの発言は宗教指導者のようなもので、解釈のしようがない」と批判し、東京都知事の元秘書で都議会議員の尾島紘平氏に「尾身会長は医学者であり、科学者。少なくとも感染症に関して素人である三浦瑠麗さんが揶揄できるような対象ではない」「三浦さんこそ「コロナはただのかぜ」教の宗教指導者ではないか」と批判されました。

三浦は「もうみんな実態が分かってきてしまっているので。『頑張ってマスクをつけて生活はするけど、(感染者を)ゼロにはできないよね』って分かっている。そうすると、『2週間とりあえず延長してみたけれど何も変わらなかったね』となっておしまいになるので、政治的にも得策ではないっていうのが私の意見ですね」と持論を述べていました。

そこで、三浦瑠麗の主張は間違いであるという根拠を、私がお示しいたします。

新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言の効果と経済的な影響について、東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師のグループが「Covid-19 and Output in Japan」という論文で研究結果を公表しました。

日本でのCovid-19と経済活動 | Covid-19と経済活動 (covid19outputjapan.github.io)

このグループは過去の緊急事態宣言の発出と発症者数の関係を分析し、シミュレーションしました。

上の図にあるように、SIRDモデルという手法で解析しています。書かれているように、Stは疑いの数、Itは確定の数、Rtは回復した人数、Vtはtからt+1の間に新たにワクチン接種した人数、などと説明されています。

左の図の黒の縦線は緊急事態宣言の期間を表しています。緊急事態宣言により発症者数が減少しているのが分かります。

赤線は、先日緊急事態宣言を延長しなかった際の発症者数です。発症者は急減期に上昇し再度緊急事態宣言を発出しなければならなくなることを示したものです。

青線は緊急事態宣言を延長した場合(実際は既に延長されています)です、発症者の増加は緩やかになり、再度緊急事態宣言を発出しなければならない時期が来るかもしれませんが、ワクチンの効果も相まって発症数を抑制することができています。

黒線は緊急事態宣言を延長し、ワクチン接種が国民にすみやかに広がった場合です。ワクチン接種のスピードにも依りますが、この場合は次の緊急事態宣言の発出は免れることになります。

そして右の図は経済的損失を表したものです。単位は100 x ミリオン、つまり1億円です。緊急事態宣言を延長した青色や黒色のいずれの場合も、延長しなかった場合より損失は少なくなっています。

とにかく、緊急事態宣言でもなんでもいいですが、「人の流れを抑制する」ことが重要なのです。

三浦瑠麗は昔から緊急事態宣言は効果がないと主張していますが、いいかげん自身の考えは誤りであったと認めてほしいです。東大卒は幼少児から優等生で、間違いを犯し謝った経験に乏しいので、間違いを認めたら先生、お父さん、お母さんに叱られてしまうと思ってしまうのです。「ゴメンナサイ、誤りでした」と謝ってもそんなに怖いことにはならないと思いますよ、東大卒さん。

こちらが論文の原盤です。

Covid-19 and Output in Japan
三浦さん、学者のくせにその論文も読まずに批判するなんてひどいです。

三浦さん、最初は応援していたのに、最近は思想が歪曲してきて残念です。

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75歳以上の窓口負担が1割から2割へ増えても健康状態は悪化しない

2021年05月16日 | 雑感
先日こんな報道がありました。

以下、共同通信より引用
衆院厚生労働委員会は2021年5月7日、一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案について、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党の賛成多数で可決した。立憲民主、共産両党は、窓口での支払いが増えると高齢者が受診を控え体調を損ねるとして反対した。
制度改革の目的は、団塊の世代が2022年から75歳以上になり始め膨張する医療費を賄うため。収入のある高齢者に窓口での支払い増を求めることで、医療費を保険料で支える現役世代の負担増を抑える狙い。
自民は同日午前の委員会理事会で採決を提案したが、立民が難色を示し折り合わなかった。自民は十分な審議時間を確保できたとして、午後の質疑終了後に採決に踏み切った。立民、共産両党の議員が「強行採決だ」と渡嘉敷奈緒美委員長(自民)に詰め寄り、怒号が飛び交う中で可決された。立民は、1割負担を維持する代わりに、75歳以上の高所得者の保険料上限を引き上げる対案を提出している。
以上、共同通信より引用


以前、70~74歳の窓口負担が1割から2割へ増えても健康状態は悪化しない研究を紹介しました。

以下は日本経済新聞からの引用です。
窓口負担増の影響を明らかにするには、窓口負担「のみ」が異なるグループを見つけて、受診行動などを比較する必要がある。分析手法については、重岡仁・カナダ・サイモンフレーザー大准教授の論文などを参考にしている。

まず70~74歳の窓口負担の軽減措置見直しで、44年4月以降に生まれた人は2割負担となったのに対し、同年3月以前に生まれた人は1割負担に据え置かれている。このため両グループの窓口負担割合は異なる。次に両グループは、年齢がほぼ一緒であるため、健康状態や就業状態が平均的にはほぼ変わらないとみられる。つまり両グループでは窓口負担「のみ」が異なると考えてよさそうだ。従って、もし両グループを比較して受診行動や健康状態が異なっていれば、それは窓口負担が1割から2割に引き上げられた影響であると結論付けられる。

図1は、人口当たりの外来患者数の対数(縦軸)を1947年3月生まれから41年4月生まれまでの生年月(横軸)に対してプロットしたものだ。生年月が早い、すなわち年齢が高いと外来患者数が増えるという右上がりの関係になるのは自然なことだ。だが点線の前後、すなわち1割負担の44年3月生まれに比べて、2割負担の同年4月生まれの外来患者数が急に減っていることがみてとれる。この減少分が、窓口負担の1割から2割への引き上げの影響を表している。

次に健康状態への影響はどうだろうか。分析には主に厚労省の2016年「国民生活基礎調査」と17年「人口動態調査」を用いた。窓口負担増からそれぞれ約2年2カ月後、最大約3年8カ月後の影響をみている。死亡率や現在の健康状態に関する自己評価など、できるだけ幅広い健康状態に関連する指標を用いて分析した結果、いずれの指標でも影響は確認されなかった。
以上、日本経済新聞より引用

窓口の負担の増加額が適切であると、高齢者はそれだけ健康に留意するためか、もともと健康維持には関係がない受診が多かったのか、理由は色々とあるだろうが、医療機関の窓口での患者の負担額が増加して受診数が減少しても、健康状態は悪化しないのです。

科学的に分析すると立憲民主、共産両党の主張は誤りです。

私は個人的には、日本の医療の持続可能性のためにも、将来の日本を担う若者のために財源を少しでも残す意味でも、70歳~74歳の医療費の負担は3割に引き上げて欲しいです。またそれは、医療機関の過剰な医療を抑制する意味でもあります。

受診数では相関の切片と傾きを比較し、健康状態では相関関係を二次関数でフィットさせるという手法でした。
別所俊一郎先生(東京大学准教授)、古村典洋先生(京都大学特定准教授)、素晴らしい分析をありがとうございました。

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