医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

病気腎移植、「Science & Technology」

2011年11月17日 | 
学会で発表するために米国オーランドに来ています。「Science & Technology」↑いい響きですねぇ。

ところで皆さんは、先日以下の報道があったのを覚えていますか?

病気腎移植:宇和島徳洲会病院が先進医療に申請
徳洲会グループの宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)などは10月31日、治療のため摘出した腎臓を修復して別の患者に移植する第三者間病気腎(修復腎)移植について、医療保険が一部に適用される「先進医療」として厚生労働省に申請した。会見した同グループの能宗(のうそう)克行事務総長は「修復腎を使えば、救える患者は増える。今後、(全額)保険医療になることを期待している」と述べた。同グループによると、1例400万~500万円(これまでは全額病院側負担)の移植費用が、先進医療に承認されれば、患者負担は約80万円で済むという。同病院は09年12月、慢性的なドナー不足の解消を目指して臨床研究として病気腎移植の1例目を実施し、これまでに第三者間で9例を重ねてきた。先進医療申請は今夏を予定していたが、今年6月に発覚し東京の医師らが逮捕された臓器売買事件で同病院が舞台になったこともあり、申請が遅れていた。会見には移植を受けた宇和島市の主婦、田中早苗さん(64)も出席し、「手術後は一般の人と同じ生活を送れてうれしい。苦しんでいる多くの人が助かってほしい」と訴えた。病気腎移植については、日本移植学会が、移植する腎臓のがん再発について長期的な安全性が確立されていない、などと批判している。
(毎日新聞より引用)

病気腎移植を先進医療に申請 徳洲会「保険適用に」
医療法人「徳洲会」(本部・東京)は10月31日、腎臓がん患者から摘出した腎臓を修復して別の患者に移植する第三者間の病気腎移植について、治療の一部に保険が適用される先進医療として認めるよう、厚生労働省に申請した。徳洲会によると、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)では2009年12月以降、万波誠医師らの執刀で、国の指針に基づく臨床研究として、親族間でない第三者間の病気腎移植を9例実施。いずれの患者でも、がんの転移は確認されていないという。同会の能宗克行事務総長は「この移植で生活の質が大きく改善し、通常とほとんど変わりなく暮らせるようになった方がいる。一刻も早く保険適用にこぎつけたい」と話した。
(朝日新聞より引用)

私も以前、厚生労働省に先進医療申請をしたことがあるのですが(以前は高度先進医療と称されていました)、なぜそれが先進医療に適するのかという根拠から、価格の設定のために人件費、薬剤費、電気代等、徹底的に調べないといけないなど、とても面倒です。面倒なのは別に構わないのですが、最終的に書類は国会議員が代表を務める個別の委員会にかけられ、その是非が審議されます。ハードルは高いです。

そこで感じるのは、はたして本当に現時点で病気腎移植が、先進医療として認められるのだろうかということです。

病気腎移植は現在、安全性と有効性が臨床研究で調査中のはずです。まだ安全性と有効性が証明されていない段階で(真実性)、先進医療の申請をしているのは、認可されないと知りつつ申請している「確信犯」的「売名行為」ではないかと感じるのです。これは国民の利益・不利益にかかわることなので、とても重要なことです(公共性、公益性)。

朝日新聞の記事を毎日新聞の記事と比べてみると、無作為の前向き試験で安全性や有効性が明らかになっていないのに、「この移植で生活の質が大きく改善し、通常とほとんど変わりなく暮らせるようになった方がいる。一刻も早く保険適用にこぎつけたい」と、まるで、まだ「保険適応」になっていないのが悪いかのような印象を読者が持つように誘導されています。

その点毎日新聞は、「日本移植学会が、移植する腎臓のがん再発について長期的な安全性が確立されていない、などと批判している。」と数行、反対意見を加えていますが、それでも読者の受ける印象は朝日新聞と同じです。

先進医療と認められることはそれほど易しい事ではありません。この過程は私自身も経験している事です。病気腎移植は今の段階では決して「Science & Technology」に値することではありません。こういうことは、認可された時点で報道するべきことです。

また、却下されたら、「徳洲会、病気腎移植、先進医療申請は却下される。未だ安全性と有効性が不明」と必ずそれを記事にする必要があります。

新聞報道というのは、当たり前のことですが、「仮説」だけというか「私的意見」だけというか、私が今置かれている環境(アメリカの学会に参加してScienceにドップリ漬かっている環境)からみれば、まったく「Science & Technology」でもない、「言った者勝ち」の「稚拙」な世界だと感じます。

繰り返しますが、マスゴミの皆さん、こういう大々的な報道は、先進医療を認可された段階で行ってください。申請をしただけの段階では2~3行の記事でいいです。こういうことは医学論文でいうと、「仮説」を書いたイントロダクションだけで10ページぐらいあるようなもので、論文の審査員から笑われてしまいますよ。

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欧米人では悪玉コレステロールを70から62に下げても効果は同じ

2011年11月16日 | 循環器
学会で発表するために米国オーランドに来ています。今日は先ほど発表されたばかりのレイト・ブレイキング・クリニカル・トライアルの結果をお伝えします。

先日、製薬会社は悪玉コレステロールは下げれば下げるほどよいと言っているけれど、日本人では「悪玉コレステロールは80まで下げる必要はない」ことをお伝えしました。

今日発表された研究は欧米人で、リピトール80mg/日を使って、悪玉コレステロールを70.2まで下げた519人と、クレストール40mg/日を使って悪玉コレステロールを62.6まで下げた520人を2年間観察して、2年後の心臓の動脈の動脈硬化(プラーク)の量が投与前と比較してどれだけ減ったかを両群で比較したものです。

善玉コレステロールは、リピトール80mg/日群では48.6、クレストール40mg/日群では50.4でした。

結果は、両群で2年後の心臓の動脈の動脈硬化(プラーク)の量の減少量は同じでした。これらの研究を企画した製薬会社は、以前から、心臓の動脈の動脈硬化(プラーク)の量が減るほど心筋梗塞の発症率を減らすことができると主張していましたから、この研究の結果からは、欧米人では悪玉コレステロールを70.2からさらに62.6まで下げても、効果はないということです。

これは、欧米人の場合です。日本人では先日お伝えしたように、90を80に下げても効果は同じですから医療費を余分に費やして80まで下げる必要はありません。

今日発表された研究を企画した製薬会社はリピトール80mg/日よりもクレストール40mg/日で悪玉コレステロールをもっと下げれば効果があることを予想していたはずですが、それに反する結果がでたと言えます。

明日、アストロゼネカの株価は下がります。

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誤っている「日本チェルノブイリ連帯基金」の見解

2011年11月14日 | 
最近、以前以下の事件がありました。

(J CASTニュースより引用)
長野県松本市のNPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」(JCF、鎌田実理事長)がウェブサイト上に公表している資料によると、長野県茅野市などが2011年7月から8月にかけて、福島の子ども達290組813人を招待。事前アンケートで頭痛や腹痛、鼻血を訴える子どもがいたことから、73家族130人が信大病院の診察を受けた。検査項目は問診、尿検査、血液検査。それ以外にも、甲状腺障害も懸念されていたことから、甲状腺ホルモン検査も行った。

この結果、(1)1人の甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン)が基準値を下回った(2)7人の甲状腺刺激ホルモンが基準値を上回った(3)2人は、甲状腺ホルモンの合成に必要なタンパク質「サイログロブリン」が基準値を上回った、ことが明らかになった。

JCFでは、10月初旬になって、この結果を公表。発表では、「原発との関係は分からない」とされたが、JCFの鎌田実理事長(諏訪中央病院名誉院長)が報道陣に「色々意見はあるが、被ばくの可能性は捨てきれないと思う」などと発言したこともあって、各紙は「甲状腺機能に変化」などと見出しに付けて報じた。このことから、あたかも原発が原因で甲状腺に異常が生じたかのような不安が広がっていただが、甲状腺の病気を専門とする医師でつくる日本小児内分泌学会は、10月11日になって、この報道内容に反論する声明を発表した。学会では、信州大学から検査の実際のデータを受け取って検討。その結果、今回の検査結果で基準値から外れた幅は、いずれもわずかなものであり、
「一般的な小児の検査値でもときにみられる範囲」、「これらの検査結果を放射線被ばくと結びつけて考慮すべき積極的な理由はない」
と結論づけている。

個別に見ていくと、甲状腺ホルモンについては(1)基準範囲をわずかに下回っているに過ぎない(2)甲状腺刺激ホルモンには異常がないことから、「臨床的に問題すべき(基準値からの)逸脱として扱うことは適切でない」と判断。甲状腺刺激ホルモンについては、甲状腺に病気を持たない子どもにも見られる程度の逸脱なので「再検査し、他の検査とも合わせて総合的に判断」すべきだとした。サイログロブリンについては、基準値から外れた数値が出た2人は、甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンについては基準値に収まっていることから、「甲状腺機能異常とは言えない」と判断。その上で、「時間をあけて再検査するなどをしないと病的なものかどうかの判断はできない」とした。
(引用ここまで)

NPO法人「日本チェルノブイリ連帯基金」のコメントは、科学的(それは明らかであるという点に関して)に誤りです。

そのように結論づけるなら、例えば西日本の被ばくしていない頭痛や腹痛、鼻血を訴える子どもたちも同人数だけ血液検査をして、それと比較しなければいけません。

今ごろはきっとそうしていると思いますが、公表前の段階でそれを行わず誤った解釈で国民を混乱させてしまったのは「日本チェルノブイリ連帯基金」の科学的リテラシーの欠如だといえます。

一方、日本小児内分泌学会の見解は、科学的であり正しいと言えます。

↓こちらもどうぞ
http://blog.goo.ne.jp/secondopinion/e/63ca20cbfc0193f287c686d437a3751c

http://blog.goo.ne.jp/secondopinion/e/82a60ae8683827e33109490b6376edf2

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被ばく1mSv/年以下でなければならない あいまいな根拠(その2)

2011年11月11日 | 
以前、被ばく量が1mSv/年以下でなければならない根拠が、とてもあいまいだということをお伝えしました。

今回はその根拠の2つめです。これもとてもあいまい、というか私には理解できません。感情論的な「原発・放射能 子どもが危ない」に書かれてあることですが、国民の利益(公益性と公共性)と、真実は一体なにか(真実性)ということに関わることですから、あえてそのまま引用いたします。


「このグラフは、同じだけの放射能を浴びたときに癌で死ぬ人数を年齢別に表したものです。ひと目見ただけでわかっていただけると思うのですが、たとえば0歳児は、全年齢の平均の3~4倍、大人だけとくらべれば4~5倍も危険性が高いわけです。10歳の子供でもかなり高い。15歳を超えると、ようやく平均値に近づいてきます。逆に、45歳、50歳以上の人は子どもにくらべれば影響はとても少なくてすみます。また「1万人・Sv」というのは、もしも1万人が1Svずつ被曝したらということですが、全員で1万人なのにグラフの中にそれを超える人数があるのはおかしい、と思うかもしれません。これは多くの人が被曝した場合の影響を表すための方法で、人数 x 被曝量の合計が1万シーベルトであれば10万人が100ミリシーベルトずつ被曝した場合でも、100万人が10ミリシーベルトずつ被曝した場合でも結果は同じになるということです。また、1万人が1シーベルト被曝すると癌で死ぬ人の数が3731人、ということから、1万人が1ミリシーベルトずつ被曝した場合も計算することができます。1ミリシーベルト=1000分の1シーベルトですから、約4人ということになります。もちろん被曝をしなくても癌で死ぬことは大勢います。しかし、この4人は、本来なら死ななくても良かった人たちなのです。文部科学省は福島県の子どもたちを年間20ミリシーベルトまでなら被曝させてもいいと、言い続けました。福島県の人口は約200万人ですから、そこで、もし全員が20ミリシーベルトずつ被曝したとするとグラフの数字は4倍になります。本来であれば年齢構成比を計算に入れなければなりませんが、単純に全年齢の平均値で計算すると、3731x4=1万5000人が癌で亡くなることになり、中でも赤ちゃんや小さい子どもの犠牲者が最も高くなるのです。」

この内容が論文にされたとして、私がこの論文の審査員だったらコメントすることをまとめたいと思います。

「もしも1万人が1Svずつ被曝したらということですが、全員で1万人なのにグラフの中にそれを超える人数があるのはおかしい、と思うかもしれません」
→はい、そのとおりおかしいです。全員で1万人なのにそれを超える人数があるのは机上の空論だからです。

「1万人が1シーベルト被曝すると癌で死ぬ人の数が3731人、ということから、1万人が1ミリシーベルトずつ被曝した場合も計算することができます。1ミリシーベルト=1000分の1シーベルトですから、約4人ということになります」
→おいおい、ちょっと待ってくれ、これはGoffmanの仮説だけれど、それでは1万人がユンケル黄帝液を30mL飲んで1000人が元気になったら、10万人が3mL飲んでも1000人が元気になるのか?100万人がユンケル黄帝液を0.3mL飲んだら同じように1000人が元気になるのか?1000万人が0.03mL飲んだら1000人が元気になるのか?あくまでもユンケル黄帝液は30mL飲んでナンボ。まったく科学でない。

「1万人が1シーベルト被曝すると癌で死ぬ人の数が3731人」
→アホか!まず、被曝していない1万人では癌で死ぬ人は何人か調べ、それと比べる必要がある。

「1万人が1シーベルト被曝すると癌で死ぬ人の数が3731人、ということから、1万人が1ミリシーベルトずつ被曝した場合も計算することができます。1ミリシーベルト=1000分の1シーベルトですから、約4人ということになります」
→でました、1000倍の点とゼロ点を結んで、1倍の時を推測する馬鹿げた理論。

長年私のブログをご覧頂いている方には、その下のセンテンスも、つっこみ所満載であることがお分かりいただけると思います。

こんな理論で、「被ばく量は1mSv/年以下でなければならない」と言われているのなら、まったく話になりません。

それに、これはまだ「仮説」です。「仮説」は「科学」ではありません。それを「信じる」という段階はまだ「科学」ではありません。「科学」は真実なのですから「信じる」必要はなく「事実」だからです。この場合、この「仮説」を「信じて」話をしているわけですから、まったく「科学」ではないわけです。


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