医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

糖尿病治療薬アクトスの有効性

2006年02月28日 | 生活習慣病
血糖は膵臓から分泌されるインスリンで調節されていますが、インスリンの分泌量が不足したり働きが悪くなることで血糖が上がってしまう病気が糖尿病です。糖尿病の薬の中に、インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾン(商品名アクトス)という薬があります。この薬はインスリンの分泌を促す薬と異なり、インスリンに対する体の感受性を高め糖尿病を改善させます。

この薬がどれだけ効くかという論文(PROactive試験)が昨年発表されています。
Secondary prevention of macrovascular events in patients with type 2 diabetes in the PROactive Study (PROspective pioglitAzone Clinical Trial In macroVascular Events): a randomised controlled trial.
Lancet. 2005;366:1279.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

2型糖尿病(簡単にいえば先天的な理由などでインスリンの量が足りないのが1型、食べ過ぎで、食べた量に相当するインスリンを分泌できないのが2型です。従って、体重増加、過食により発生するのは2型です)の患者さん5,238人を対象として、アクトス(15mg~45mg:これは日本で推奨されている量と同じです))投与群2,605人と非投与群2,633人に無作為に分け3年間調査しました。

調査項目は、すべての理由による死亡、非致死性の心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、心臓の血管に対する手術、足の血管に対する手術、くるぶしより上での足の切断です。

結果を示します。
                 投与群       非投与群
すべての理由による死亡  110人(4.2%)、   122人(4.7%)
非致死性の心筋梗塞    85人(3.2%)、    95人(3.7%)
脳卒中             76人(2.9%)、   96人(3.7%) 
不安定狭心症        42人(1.6%)、    63人(2.4%)
心臓の血管に対する手術 101人(3.9%)、   101人(3.9%)
足の血管に対する手術   71人(2.7%)、    57人(2.2%)
くるぶしより上での足の切断 9人(0.3%)、   15人(0.5%)

合計              514人(19.8%)、  572人(22.0%)

合計で22.0% - 19.8% = 2.2%の人がこれらの事態に陥ることを免れたということですが、これは統計学的に有意な差ではありませんでした(P=0.095)。差がなかったので、二次的評価項目というもので、すべての理由による死亡と非致死性の心筋梗塞と脳卒中をまとめて、301人対358人と差があった(P=0.027)と無理な結論を出しています。

それでは例のごとく、医療経済学的な効果をみてみましょう。調査ではアクトスが15mg~45mg投与されていますので、中間をとって30mgとします。アクトス30mgは202円ですから、3年間で22万円、1,000人あたり22人がこれらの事態に陥ることを免れるわけですから、これらの事態1件を予防するのにかかる金額は1,005万円です。

論文の結論とは裏腹に、これらの事象に限ってみればアクトスはほとんど効いていません。ただし、インスリン注射の開始が必要になった人の割合は投与群で11%、非投与群で21%と、アクトスはインスリン注射導入の回避には有効でした(P<0.0001)。



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コーヒーは糖尿病の発症を減らす

2006年02月26日 | 生活習慣病
Coffee, caffeine, and risk of type 2 diabetes: a prospective cohort study in younger and middle-aged U.S. women.
Diabetes Care. 2006;29:398.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

多量のコーヒーの消費が中年以下の糖尿病の発現リスクを低下させることは以前から知られていましたが、、コーヒーの種類の違いと糖尿病リスクとの関連に関するデータはありませんでした。それらに関する研究が今月報告されました。

対象は26歳から46歳の米国女性88,259人で、1991年、1995年および1999年にコーヒーおよび他のカフェイン含有食品および飲料の摂取量を調査するとともに、1991年から2001年に糖尿病が確認された1,263人について調査をおこないました。

糖尿病に関する潜在的な危険因子、すなわち体重や摂取カロリー量、運動量などで調整した後の糖尿病の相対危険度は、コーヒーを飲まない人と比較して、コーヒー摂取量が1日当たり1カップの人で0.87倍、1日当たり2から3カップの人で0.58倍、および1日当たり4カップ以上の人で0.53倍でした。

この関係は、カフェイン入りコーヒー(0.87倍)、カフェイン抜きコーヒー(0.81倍)、フィルターで淹れたコーヒー(0.86倍)、およびインスタントコーヒー(0.83倍)に関して同等でした。その一方、お茶を1日当たり4カップ以上摂取する人とまったく飲まない人を比較した場合、お茶を1日当たり4カップ以上摂取する人の糖尿病発症率は0.88倍でしたが、統計学的に差があるとは認められませんでした。

つまり、カフェイン入りおよびカフェイン抜きコーヒーは両方とも、適度に摂取することによって中年以下の糖尿病のリスクを低下させる可能性があることが示唆されました。ただ、適正な摂取カロリーや体重の管理の方が糖尿病のリスクを低下させる有効な因子であることはいうまでもありません。

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カルシウムとビタミンDを一緒に摂っても7年間では股関節骨折を減少させることはできない

2006年02月21日 | 整形外科
Calcium plus vitamin D supplementation and the risk of fractures.
New England Journal of Medicine. 2006;354:669.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

Women's Health Initiativeというデータベースに登録している50歳から79歳までの閉経女性36,282名を対象として、毎日、カルシウム1,000 mg分の炭酸カルシウムと400 IUのビタミンD3を投与する群と、プラセボ群に無作為に振り分けました。追跡期間は7年間で骨折の確認と骨密度測定が行われました。

カルシウム+ビタミンD群の股関節の骨密度は、プラセボ群よりも1.06%高く(P<0.01)、股関節骨折の発症率に関しては、投与群は非投与群の0.88倍であり、痛みの症状がある脊椎骨折については0.90倍で、総骨折については0.96倍でしたが、カルシウム+ビタミンDが統計学的にこれらの骨折を減少させたとはいえませんでした。

一方、カルシウム+ビタミンD群では腎結石のリスクが1.17倍と増大しました。

ただ、この研究では決められた内服を順守しなかった被験者が相当数いて、これらのデータを除外すると、股関節骨折の発症率は0.71倍に低下しました。

また、従来から言われている「カルシウムとビタミンDの摂取量が高いと、結腸直腸癌のリスクとポリープ再発率が減少すること」に関して、投与群の結腸直腸癌のリスクは1.08倍と改善は認められませんでした。

この研究の限界として、カルシウム+ビタミンDに加えて他の複合ビタミン剤の使用を特定の量まで両群ともに許したことと7年という短い調査期間があげられています。

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タミフルの有効性(その2)

2006年02月19日 | インフルエンザ
昨年11月21日にインフルエンザ治療薬タミフルの具体的な有効性についてお伝えしました。
タミフルの有効性
もう一編、有効性と安全性を検証した論文があります。これから別の情報も得られますのでご紹介したいと思います。

Efficacy and safety of oseltamivir in treatment of acute influenza: a randomised controlled trial. Neuraminidase Inhibitor Flu Treatment Investigator Group.
Lancet. 2000;355:1845.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

インフルエンザに罹患した726人を対象として、タミフル75mgを一日一回内服する群(243人)と、75mgを一日二回内服する群(日本での通常量です)(245人)と、プラセボ群(238人)(タミフルと同じ形の偽薬)を内服する群に分けられました。

インフルエンザの症状のある期間はプラセボ群で中央値が116時間であったのに対して、75mg/日内服群では87時間、150mg/日内服群では81時間に短縮されました。

つまり内服しないと5日間続くインフルエンザの症状が3日半に短縮されるということです。

症状に対するタミフルの効果は内服から24時間以内に現れました。症状の出現から24時間以内に内服を開始した場合は症状の期間は75mg/日内服群で43時間、150mg/日内服群で47時間短縮されました。

スコアー化された病状や、症状による睡眠の障害や日常生活の質はタミフルの内服で有意に改善しました。

つまり、インフルエンザの罹患後24時間以内にタミフルの内服を開始した場合はとても効果があるということです。

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タミフルの有効性:総括レビュー

2006年02月15日 | インフルエンザ
昨年11月21日にインフルエンザ治療薬タミフルの具体的な有効性についてお伝えしました。
タミフルの有効性
最近53編の論文の結果をまとめて、タミフルも含めたインフルエンザ治療薬の有効性を調べた論文が発表になりましたのでお伝えします。

Antivirals for influenza in healthy adults; systematic review.
Lancet. 2006;367:303.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

53編のうち34編は「シンメトレル」という今ではほとんど使われていない薬のことですから、「タミフル」と「リレンザ」に関する19編に関してご紹介します。無作為試験だけを抽出し、膨大な数を対象としていますから、とても信頼性が高い結果だと思います。

具体的な数字は示されていないのですが、タミフルが有効であったのは、症状の期間(使用していない群では1.30倍)、通常の生活に戻るまでの期間(使用していない群では1.34倍)、気管支炎の合併(使用していない群と比較して0.40倍)、肺炎の合併(使用していない群と比較して0.15倍)、すべての合併症(使用していない群と比較して0.39倍)でした。

一方、有効性が認められなかった項目はすべての原因による入院(使用していない群と比較して0.40倍)と抗生剤や他の感染症治療薬の使用(使用していない群と比較して1.01倍)でした。

吸入治療薬リレンザに関しても同様でしたが、タミフルと異なったのは、通常の生活に戻るまでの期間(使用していない群では1.28倍)に対して有効と認められなかったことでした。

副作用は嘔気(使用していない群と比較して2.29倍)のみが統計学的に使用群で多かったとされ、嘔吐、下痢、腹痛、消化器症状は使用群で多かったとはいえませんでした。

症状に関しては、タミフルとリレンザは同様に、インフルエンザによる咳、頭痛、下痢、鼻水、咽頭痛を改善させてはいませんでした。

まとめますと、インフルエンザ治療薬タミフルとリレンザはインフルエンザの症状自体を改善しないものの、病期を短くして(具体的には以前お伝えしたように4日を3日に短縮する)肺炎や気管支炎といった合併症の頻度を下げます。

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今シーズンのインフルエンザに関する最新情報

2006年02月12日 | 感染症
まず、現在日本で使用可能な、インフルエンザに対する薬を以下にご紹介します。

「アマンタジン」(商品名シンメトレル)
1錠50mgで38円、1日2錠内服で最長1週間ですから5日間とすれば全部で380円

「ザナミビル」(商品名リレンザ)
5mgで175円、1回10mg吸入、1日2回で5日間ですから全部で3,500円

「オセルタミビル」(商品名タミフル)
1カプセル75mgで363円、1日2カプセル内服で5日間ですから全部で3,630円


初のインフルエンザ治療薬であった「シンメトレル」は、もともと脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善や、脳神経の障害で手足の動きが思うようにならないなどの症状が出るパーキンソン症候群に適応があったものです。この薬は、A型インフルエンザウイルス感染症のみに有効で、小児に対する安全性は確立していないので最近はあまり使用されていません。

「リレンザ」はノイラミニダーゼと呼ばれる酵素によりウイルスが感染細胞表面から遊離することを阻害し、他の細胞への感染と増殖を抑制します。「タミフル」も作用機序は同じです。


さて、今シーズンはインフルエンザの9割がA型です。このインフルエンザウイルスに関する論文が先週発表されましたので、ご紹介いたします。

Adamantane resistance among influenza A viruses isolayed early during the 2005-2006 influenza season in the United States.
JAMA. 2006 (ahead of print)
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

全米26州で2005年10月から12月に発生したインフルエンザが調査されました。209例がA型(H3N2)で、そのうち193例(92%)にシンメトレルに対する耐性(シンメトレルでは効かないという意味)を示すM2蛋白のS31N置換が認められました。A型(H1N1)8例のうち2例にも同様の耐性が認められました。

つまり、最初のインフルエンザ治療薬であったシンメトレルはすでに9割の確率で効かなくなってきており、今回の論文の結果をうけて、そのうち「リレンザ」や「タミフル」も同様の運命をたどるだろうと、米国疾病対策予防センターは次のような見解を発表しました。

「リレンザやタミフルは生命を脅かす可能性がある脳炎などのインフルエンザ関連疾患およびインフルエンザの重篤な合併症のリスクが高い人と深刻な流行時にのみ使用すべきである。日常的には予防接種と他の公衆衛生手段(マスク、白衣、手袋、隔離、手洗い等)を推奨するべきである。」

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肺炎球菌ワクチンの有効性

2006年02月11日 | 呼吸器
肺炎は抗生物質の発達などにより減少していますが、特に高齢者で急速に症状が進んだ場合では、抗生物質などの治療が間に合わず死亡率も高くなっています。このため、事前に予防することの重要性が見直されてきています。

近年、肺炎球菌による肺炎などの予防に肺炎球菌ワクチンが開発され、インフルエンザワクチンと同様に接種できるようになっています。肺炎球菌には80種類以上の型があって、それぞれの型に対して免疫をつける必要がありますが、肺炎球菌ワクチンを接種しておけば、そのうちで感染する機会の多い23種類の型に対して免疫をつけることができます。

肺炎球菌ワクチンがどれだけ有効かという論文をご紹介します。
Pneumococcal polysaccharide vaccine efficacy
JAMA 1993;270:1826.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

全米で1978年から1992年の間に肺炎球菌肺炎に罹患した5歳以上の2,837人のの患者が調査されました。これらの患者のうち515人が肺炎球菌ワクチンを接種しており、2,322人は接種していませんでした。同時期に肺炎球菌肺炎に罹患しなかった年齢や性別を合わせた対象者と比較されました。ワクチンを接種していた群の平均年齢は57歳で、接種していなかった群の平均年齢は50歳でした。

罹患した数字は示されていませんが、23種類の型に対して有効なワクチンを接種すれば、接種していない場合と比較して60%罹患率が低下しました。14種類の型に対して有効なワクチンの場合は53%低下しました。

同様に、免疫力の低下していない65歳から74歳までの高齢者に対する有効率(罹患率の低下)は70%で、75歳以上では有効率は78%でした。

疾患別では糖尿病で有効率は84%、心不全では73%、慢性肺疾患では65%でした。アルコール中毒、肝硬変、慢性腎不全、リンパ腫、白血病の患者では有効性はありませんでした。つまりこれらの患者では元来の全身状態が悪いので、ワクチンが肺炎球菌肺炎の予防を手助けするまでには至らないということです。

まとめると、高齢者で糖尿病や心不全や慢性肺疾患がある患者さんには特に有効で推奨されるべきであると考えられます。

アメリカでは65歳以上の高齢者の6割以上が接種していますが、日本では数パーセントにすぎません。肺炎球菌ワクチンは日本では保険適応でない場合8千円ほどで接種できます。その効果は人によって異なりますが、約5年間継続すると言われています。

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シリコンハイドロゲル・ソフトコンタクトレンズは30日間装用しても感染は増えない

2006年02月08日 | 眼科
シリコンハイドロゲル・ソフトコンタクトレンズといって30日間装用できるレンズがありますが、そのレンズを装着していると、1日で取り替え型のレンズに比べて角膜感染が増えるかどうかを調査した論文が最近発表されました。

The incidence of microbial keratitis among wearers of a 30-day silicone hydrogel extended-wear contact lens.
Ophythalmology. 2005;112:2172.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

30日間用のソフトレンズを装着した6,245人が調査の対象になり、そのうち4,999人が12カ月まで調査できました。

結果は30日間用のソフトレンズを装着した群では視力低下を伴う角膜感染の発症率は1年間で1万人に換算して3.6人で、視力低下を伴わない角膜感染の発症率は1年間で1万人に換算して14.4人でした。これは従来報告されている1日で取り替え型のソフトレンズの感染率と同等で、夜間装用日数が増えても感染リスクは増大しないようでした。

しかし、厳密に発症率からみれば、角膜感染リスクがもっとも低いのは、1日装用型の酸素透過性ハードレンズで、次は1日装用型のソフトレンズで、次は30日間装用型のソフトレンズでした。

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睡眠時無呼吸症候群の患者は交通事故を起こす確率が高い

2006年02月06日 | 呼吸器
一晩の睡眠中、無呼吸や低呼吸が1時間に平均何回あるかを示す指数をapnea hypopnea index (AHI)といい、この指標は睡眠時無呼吸症候群の重症度の指標として用いられています。この指数が高い人は交通事故を起こす確率が高いという報告です。

Sleep-disordered breathing and motor vehicle accidents in a population-based sample of employed adults
Sleep. 1997;20:608.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★☆)

睡眠時無呼吸症候群の913人が対象になり、1988年から1993年の全米の交通事故の記録と比較することで調査が行われました。

AHIが5以上の男性は睡眠時無呼吸症候群でない人と比べて、5年間で3.4倍、交通事故を起こしていました。AHIが5から15までの場合は4.2倍、15以上の場合は3.4倍ででした。

男性と女性をまとめると、AHIが15以上の場合、5年間で複数の交通事故を起こした確率は、睡眠時無呼吸症候群でない人と比べて7.3倍でした。

もう一つの報告です。
Habitually sleepy drivers have a high frequency of automobile crashes associated with respiratory disorders during sleep
American Journal of respiratory and critical care medicine. 2000;162:1407.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

4,002人のドライバーがインタビューによって調査されました。そのうち145人(3.6%)が運転中に習慣的に眠くなると答えました。これらの人を、年齢や性別を合わせたコントロール群と比較したところ、交通事故を起こした確率は13.3倍でした。

また、睡眠時無呼吸症候群と診断された人はAHIが15以上で交通事故を起こす確率は6.0倍でした。

運転中に習慣的に眠くなると答えた人の中で、睡眠時無呼吸症候群と診断された人とそうでない人を比べるとAHIが15以上で交通事故を起こす確率は8.5倍でした。

交通事故の一部は睡眠時無呼吸症候群で説明がつき、睡眠時無呼吸症候群を治療することで交通事故を減らせるかもしれないと結論づけています。運転中に習慣的に眠くなり、5年間で2回以上交通事故を起こした方は睡眠時無呼吸症候群について調べたほうがいいかもしれませんね。

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睡眠時無呼吸症候群は動脈硬化性の心臓病を悪化させる

2006年02月01日 | 循環器
近年、「睡眠時無呼吸症候群」はテレビなどでも大きく取り上げられていますので、一度は耳にされたことがあると思います。

睡眠時無呼吸症候群について少し説明します。まず、ここでいう「無呼吸」とは、生理的でない持続時間が明らかに長い呼吸停止を示す状態をいい、成人の場合は10秒以上持続する呼吸停止と定義されています。睡眠時無呼吸症候群は2種類あり、睡眠により弛緩した筋肉の影響で喉のあたりの閉塞で起きる閉塞性と、呼吸を促す中枢神経に問題のある中枢性に分類されています。閉塞性では胸や腹部の呼吸筋の運動が停止することはなく、中枢性ではこれら呼吸筋の運動も停止することから鑑別できます。

さて今回は、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群が動脈硬化性の心臓病を悪化させおり、生命の予後を悪くするという報告です。

Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnea-hypopnea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observation study.
Lancet. 2005;365:1046.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

対象は次の5群です。
(1) 睡眠時無呼吸症候群のない健常者、264人
(2) いびきを指摘されているが、睡眠時無呼吸症候群まで至っていない377人
(3) 未治療の軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群患者、403人
(4) 未治療の重度の睡眠時無呼吸症候群患者、403人
(5) 陽圧呼吸療法という治療を施行している睡眠時無呼吸症候群患者、372人

陽圧呼吸療法とは、睡眠中に強制的に空気を送り出してくれる機械につながるマスクを装着することです。

1992年から10年間の調査で、死には至っていない心筋梗塞や狭心症の発生率と心筋梗塞による死亡率が調査されました。

結果は、Body mass indexという肥満度を表す指標は、(3)群や(4)群より(5)群の方がむしろ高い(太っている)のですが、死には至っていない心筋梗塞や狭心症の発症率は10年間で、(1)で4.5%、(2)で5.8%、(3)で8.9%、(4)で21.3%、(5)で6.4%でした。未治療の重度の睡眠時無呼吸症候群患者の発症率が有意に高かったそうです。

心筋梗塞による死亡率は10年間で、(1)で3.0%、(2)で3.4%、(3)で5.5%、(4)で10.6%、(5)で3.5%でした。ここでも未治療の重度の睡眠時無呼吸症候群患者の発症率が有意に高かったそうです。

つまり、重度の睡眠時無呼吸症候群患者が未治療でいると10年間で21.3%の方に心筋梗塞や狭心症が発生し、10.6%の方が亡くなってしまうという事です。これはかなり高い数字です。軽症から中等度の場合も8.9%が心筋梗塞や狭心症になり、5.5%が亡くなってしまいます。

ただし、睡眠時無呼吸症候群のない健常者でもそれぞれ4.5%、3.0%の発症率があるということも念頭に入れなければいけません。

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