医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

航空会社の乗務員は合計25 mSv以上余分に被ばくしても死亡率も発ガン率も上昇しない

2012年06月25日 | 
以前から、慢性低線量被ばく(100mSv以下)で死亡やガンの発症が上昇するという研究結果はほとんどないことをお伝えしていますが、今月、ドイツの航空会社の乗務員も同様であるという研究報告がなされましたので、お伝えします。


Cosmic radiation and mortality from cancer among male German airline pilots: extended cohort follow-up
Eur J Epidemiol 2012 Jun 8
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

ドイツの航空会社の乗務員は陸上にいる時に受ける自然被ばく以外に、年間平均2.3mSvの被ばくを余分に受けています。この研究では6,000人の乗務員の死亡や原因が1960年から2004年まで調査され、年齢や環境を一致させた一般の人々と比較されました。

調査中に死亡したのは405人で、そのうち127人がガンによるものでした。全体の死亡率は、パイロットなどが厳格な日常生活を強いられているためもあり、一般の人々よりも低下していました。

個々の結果は、上の図のSMR (Standardized Mortality Rate) 標準化死亡率のところに示されています。全ての死亡率は、被ばくしていない職員で0.45倍、すなわち一般の人々よりも55%も低いです。

さて、被ばくしている職員ですが、被ばく量が0~4.9、5~14.9、15~24.9、25mSv以上と上昇しても標準化死亡率は上昇していませんでした。

そればかりか、5~14.9mSvと25mSv以上被ばくしている職員で有意に発ガン率は低下していました。

やはり、慢性低線量被ばくでは発ガン率は上昇しませんね
残念でした、武田邦彦さん!


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2歳未満の子供に対する2回以上の全身麻酔はその後の学習障害を増加させる

2012年06月04日 | 小児科
じゅんさんからコメントをいただきましたので、さらに詳しく調べてみました。

研究・調査は2011年に公表されました。2009年に公表された結果Anesthesiology. 2009;110:703の続報です。

Cognitive and behavioral outcomes after early exposure to anesthesia and surgery
Pediatrics. 2011;128:e1053.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

米国のミネソタ州で、1976年から1982年に生まれた8548人を調査対象として、出生児体重、妊娠期間、母親の学歴などの情報が明らかである5357人が追跡調査されました。

その子供たちの中で、2歳になるまでに全身麻酔を受けた子供は350人いました。その350人と出生時体重、妊娠期間、母親の学歴、正常分娩かどうか、などが一致するように選ばれた全身麻酔を受けなかった子供700人と比較されました。

結果は、上の図にあるように、2歳になるまでの全身麻酔が1回では、全身麻酔を受けなかった子供と学習障害の率は同じでしたが、2歳までに2回以上の全身麻酔を受けた子供は有意にその後の学習障害が増えました。ハザードレシオ(危険上昇率)は2.12倍でした。なお、学習障害かどうかが判明してくるのは少なくとも5歳以降なので、図は5歳からの結果になります。

アメリカ合衆国の学習障害の定義は以下のようにあいまいなのですが、
The term “specific learning disability” means a disorder in one or more of the psychological processes involved in understanding or in using language, spoken or written, which may manifest itself in an imperfect ability to listen, speak, read, write, spell, or to do mathematical calculations. The term does not include children who have LD which are primarily the result of visual, hearing, or motor handicaps, or mental retardation, or emotional disturbance, or of environmental, cultural, or economic disadvantage.
上の図を見ると12歳の学習障害が全身麻酔なし・1回では18%なのに対して、全身麻酔2回以上では34%にも達しています。


その差は歴然としています。コレステロールの薬を飲めば0.3%心筋梗塞が減るとか、そういうレベルの話ではないですね。私自身、調べていて驚きました。

ただ、
The effect of general anesthesia and strabiamus surgery on the intellectual abilities of children: a pilot study.
Am J Ophthalmol 2012:153:609.
には、5歳~10歳の全身麻酔では差はなかったなどという報告もありますので、子供の年齢によるのだと思います。

Pediatrics. 2011;128:e2868.の総説には、「学習障害」の判定に偏りや交絡因子が入り込む限界や、無作為割り付け試験が不可能である限界を認めながらも、小児科医と麻酔科医は常にこの問題を意識する必要性と、後ろ向き試験でもいいから調査・研究を続ける重要性が示されています。

じゅんさん、10ヶ月の息子さんの4ヶ月の間隔で3・4回の全身麻酔という太田母斑の手術は遅らせた方がいいのではないでしょうか。それに男の子だし。
私の息子なら10歳以降まで手術しないと思います。


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