医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

子供にバイアグラを飲ませたら

2005年07月30日 | 循環器
これはけっしてふざけた研究ではありません。Circulation. 2005;111:3274(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★☆☆☆☆)からの報告です。

通常、私たちが測定している血圧というのは全身にある動脈内の圧力の事で、高血圧症でなければ120 mmHgぐらいです。それとは別に、全身から帰ってきた血液が心臓を経て肺に送られる血管(肺動脈)の圧力は肺動脈圧と呼ばれます。これはその場所にカテーテルをもっていかないかぎり体の外からは測定できません。肺高血圧症という病気では、肺動脈から肺の血管の血圧が高くなります。多くはそれらの血管が何らかの原因で硬くなってしまう事によって発症します。正常値は20 mmHgぐらいと、動脈の圧力の6~7分の1なのですが、肺高血圧症では100 mmHgにまで達する事があり、そのために肺が酸素を能率よく取り入れる事ができないために労作時の息切れや重症の場合は呼吸困難で死亡してしまいます。

一方、バイアグラですが、これは血管を拡張させる薬で、元々は心臓の薬として開発されたものです。体の中を巡る血液の量に変化がない場合にそれを入れている血管の容量を少し広げてやればその中の血圧が下がるという原理を利用して、血管拡張薬は高血圧に対する降圧や心不全に対する圧力負荷の軽減などに広く用いられています。肺高血圧症に従来の血管拡張薬を用いると肺動脈圧は下がるのですが、必要以上に体の血圧まで下げてしまいふらつきや立ちくらみで歩けないという副作用がありました。ところがバイアグラには体の血圧をあまり下げないで肺動脈圧を下げるという作用があるという事が分かってきました。そこで、小児に発症する原因不明の肺高血圧症にバイアグラを飲ませたらいいのではないかという発想が生まれました。

5歳から18歳までの肺高血圧症の子供14人(平均年齢9.8歳)に毎日適量のバイアグラを内服してもらい半年、1年後の改善を調べたところ、6分間歩行の距離は278mから432mに改善し、カテーテルで測定する14人の肺動脈圧は、50 mmHgから105 mmHgであったのが38 mmHgから84 mmHgに改善されました(中央値は60 mmHgから50 mmHg)。バイアグラは原発性肺高血圧症という難病の特効薬になる可能性を秘めています。
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朝寝坊は夜更かしよりも日内リズムに有意に大きな位相変位を起こさせる

2005年07月29日 | 総合
週末の休みの後、月曜日の出勤が辛いと感じていらっしゃる方は意外に多いのではないでしょうか。これに関して面白い報告がなされました。論文からではありませんが、今年の米国睡眠関連連合学会で発表された内容です。

被験者は健常成人14人(女性4例、男性10例;平均年齢29±5歳)で、まず始めに被験者の平日の平均起床時刻を基準として研究時の標準起床時間、就寝時間、睡眠時間を決めました。被験者を、標準の睡眠サイクルから3時間起床時間を遅くする群と、3時間就寝時間を遅くする群に分け2週間過ごしてもらい、その後に唾液からメラトニン(睡眠のリズムを司る物質です)量測定を行った後、睡眠サイクルを標準に戻して6日間後に両群の睡眠サイクル変化を逆にして同様に検査を行いました。もちろん部屋の明るさなどの条件は同じにしました。

その結果、起床・就寝時刻の変更により体内時計のリズムは変化しましたが、その変化は就寝時刻よりも起床時刻を変更した場合にずっと大きくなりました。すなわち、就寝時刻を3時間遅らせても体内時計のリズムは30分遅れただけでしたが、起床時間を3時間遅らせると体内時計のリズムは3時間遅れてしまいました。

これが週末の朝寝坊が体内時計のリズムを有意に遅らせ、月曜日に通常の起床時刻に戻るのを困難にする原因だったのです。本研究では、体内時計のリズムの後退は、明るい朝の光の欠如による可能性が最も高いと結論づけています。その他のコメントとして、「睡眠不足はますます増加している。この原因は一つには勤務時間の延長にあり、勤務時間は長くなるが余暇を断念したくないので就寝時刻を遅らせる」と示唆しています。夜型の私の場合などはまさにその典型です。

要は、どんなに夜更かしをしても起床時間を一定に保っていれば、体内時計のリズムの後退はある程度防げるという事と、大切なのはやはり早起きだという事ですね。
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クランベリージュースに心疾患予防効果

2005年07月24日 | 循環器
Journal of Agricultual and Food Chemistory. 2001;49:5315での報告です。
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★☆☆☆☆)

この研究ではコレステロールが高い方19人について、クランベリージュースを飲む群と飲まない群で、開始前とその後の1カ月ごとの空腹時コレステロール値が測定されました。10人にはシロップ抜きの人口甘味料添加クランベリージュースを、最初の1カ月は1日1杯、2カ月目は1日2杯、3カ月目は1日3杯飲んでもらいました。なお、運動、食事、アルコール消費量については検討対象としませんでした。

その結果、コレステロール値全体に変化は認められなかったものの、3カ月後に善玉コレステロールであるHDLコレステロール値が有意に10%上昇しました。この善玉コレステロールの上昇は心疾患に関するこれまでの疫学的データに基づくと、心疾患リスクの約40%低下に相当する量です。40%低下というのは、例えば、1,000人中5人が心疾患になる確率が、5人の40%に相当する2人分の罹患が減り、1,000人中3人が心疾患になる確率に改善されるという意味です。

クランベリージュースは一般に消費されている果物のどれよりも抗酸化フェノールを多く含んでいるらしいです。

この研究では、運動、食事、アルコール消費量について検討されていないのが玉に瑕ですが、これまでこのブログで紹介した情報をまとめると、1日に30分以上歩き、クランベリージュースを3杯飲み、さらに牛乳を473ml以上飲めば(現実には難しそうですが)、薬の内服に匹敵する心疾患の予防ができる事になりそうです。時々週刊誌を賑わせる何の根拠もない怪しげな健康食品にすがるより、このような身近な食品を摂取するほうが確実ですね。これが科学というものです。
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睡眠時間6時間以下の人に糖尿病が多い

2005年07月17日 | 生活習慣病
Archives of Internal Medicine, 2005;165:836からの報告です。
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★☆)

対象は53歳から93歳までの722名の男性と764名の女性です。睡眠時間や糖尿病の状態などはアンケートで調査されました。調査した睡眠時間の中央値は7時間で、27.1%の人は睡眠時間が6時間以下でした。肥満、睡眠時無呼吸、性別、年齢、人種による潜在的な影響を除外したあとの分析では、睡眠時間が7~8時間の人と比較して、糖尿病である確率は6時間の人で1.66倍、5時間以下の人で2.51倍でした。糖尿病の前段階である耐糖能異常である率は、7~8時間の人と比較して、6時間の人で1.33倍、5時間以下の人で1.58倍でした。

反対に長時間眠ればいいかというとそういうわけでもなく、9時間以上の睡眠時間の人は同様に糖尿病である確率が79%増加しました。この知見は、毎晩7-8時間の睡眠を推奨してきた長年にわたる医師のアドバイスを支持するものであると著者は示唆しています。
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ベータブロッカーの内服は虚血性心不全の予後を改善する

2005年07月11日 | 循環器
それではLancet. 1997;349:375からベータブロッカーについての報告です。
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★☆☆)

心筋梗塞などで心臓全体に十分な血液と栄養が行き渡らないと、心臓の動きが悪くなり心不全という状態が起きます。心不全では全身や肺から心臓に戻ってきた血液がその先に送り込めないので全身や肺に血液がうっ血します。肺にうっ血すれば酸素を十分に取り入れる事ができなくなり死亡してしまいます。この報告はカルベディロール(商品名アーチスト)というベータブロッカーが心筋梗塞などの虚血性(血液不足)で発症した心不全にどれだけ効果的かを調べたものです。

対象となったのは415人の患者で、カルベディロールを内服する群(207人)と内服しない群(208人)とに分けられました。全体の90%の患者さんは以前に心筋梗塞の既往があり、42%が心不全により過去に入院していました。内服から12カ月後に心臓の大きさと駆出率(心臓が血液を送り出す能率の指標)と運動能力(坂道をどれだけ走ることができるか)が調べられました。

その結果、心臓の大きさは非内服群がほとんど変わらなかったのに対して内服群で1.7mm減少しましたが(小さくなる事は良いことです)統計学的に差はありませんでした。駆出率は非内服群がほとんど変わらなかったのに対して内服群で5.3%改善しました。内服群で運動能力の改善は認められませんでしたが、19カ月間の追跡調査で、非内服群で131人の方が心不全で入院あるいは死亡したのに対して、内服群ではその数は104人と有意に少なくなりました。

以前スタチンのところでお話したように、カルベディロールを内服していても104人の方が入院あるいは死亡したという観点ではそれほど劇的な改善という訳ではありませんが、割合を計算してみると、非内服群131/208=63%、内服群104/207=50%と13%の患者さんがこの薬で助かっている事になります(スタチンの場合はこの割合は数%です)。さらに本研究でわかるのは、虚血性心不全の場合では運動能力とその患者の予後はあまり関連がないという事です。
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小児の便秘

2005年07月09日 | 小児科
仕事が忙しく、ご無沙汰してしまいました。
Pediatrics. 2005;115:873からの報告です。(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★☆☆)

小児科を訪れる患者さんの3%は便秘です。そして小児消化器科を訪れる患者さんの30%に及びます。この研究の対象は、便秘で26箇所の小児科を訪れた2歳から7歳までの119人です。

調査は小児の親が日記をつける事で行われました。2カ月の治療の後の調査では、ほとんどのケースに下剤が処方されていて、内訳は塩類下剤の酸化マグネシウムが77%、大腸刺激性下剤であるセンノサイド が23%、小腸刺激性下剤であるひまし油が 8%、糖類下剤であるラクツロースが8%でした。半分のケースで摘便などが医師から勧められましたが、詳細については指示されていませんでした。治療の有効性は親がどれくらい治療に積極的であったかに依存しました。一番良いのは、浣腸や摘便で腸管内の便を取り除き経口の下剤を投与することでした。経口剤は症状によって調節する方が良いようです。

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