医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

スワン・ガンツ・カテーテルによる血圧のモニターは患者の予後を改善しない

2008年02月26日 | 循環器
心臓の血液を肺や全身に送り出すポンプとしての機能が低下した状態は心不全と呼ばれます。心不全では心臓が送り出す血液の量が減るため心臓の中の血圧が高くなります。したがって心臓が送り出す血液の量と心臓の中の血圧をモニターすれば心不全の程度がわかります。そのためにスワン・ガンツ・カテーテルとよばれるカテーテルがあります。1970年代に発明され1980年代から米国を中心に盛んに用いられてきました。

このカテーテルでモニターされた数値に基づいて心臓が送り出す血液の量を改善する薬物の量や臓の中の血圧を下げる薬剤の量が適切に決められるため、とても有用なカテーテルだと信じられてきましたが、1996年にスワン・ガンツ・カテーテルを使用しても患者の予後は同じであるという結果が報告され、その有用性は幻であったことが立証されました。

まず、1996年のConnorsらの論文です。
The effectiveness of right heart catheterization in the initial care of critically ill patients. SUPPORT Investigators
JAMA, 1996;276:889.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

集中治療室に入院した5,735人を対象に、入院後24時間以内にスワン・ガンツ・カテーテルを使用された群とそうでない群を重症度で補正して比較したところ、使用された群で30日以内の死亡が有意に高くなりました(1.24倍、1.03-1.49倍)。また、入院費用の合計は使用された群で49,300ドル、使用されなかった群で35,700ドルと、使用群で有意に高くなりました。

この論文の結果はWall Street Journalなどのマスコミに大きく取り上げられ、医学にも大きな影響を与えました。

その後次々に、無作為試験でも同様の結果が報告されることになります。例えば、
Assessment of the clinical effectiveness of pulmonary artery catheters in management of patients in intensive care (PAC-Man): a randomised controlled trial.
Lancet 2005;366:472.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

集中治療室に入院した1,041人を、スワン・ガンツ・カテーテルを使用する群519人とそうでない群522人に無作為に割り当て予後を比較したところ、使用群の死亡率は68%、非使用群の死亡率は66%と差が認められませんでした。

これらの結果をうけて、米国では入院患者へのスワン・ガンツ・カテーテルの使用が大幅に減少しているという論文が最近報告されました。
Trends in the use of the pulmonary artery catheter in the United States, 1993-2004
JAMA 2007;298:423.
(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

1993年から2004年の間にスワン・ガンツ・カテーテルの使用は内科入院1,000人あたり5.66人から1.99人と65%減少し、しかも治療中の重症度には影響を与えませんでした。外科入院でも63%減少しました。スワン・ガンツ・カテーテルの使用が最も減少した対象疾患は心筋梗塞で、81%も減少しました。




重要な数値をモニターしているのに結果が改善されないのはどうしてでしょうか。それには2つの理由があると思います。

1つめは、治療する側が重要な数値と思い込んでいても、対象とするもの(この場合疾患)がそれ以上に複雑な要素の影響を受けているから。

2つめは、胸部レントゲン検査など他の検査の結果が、思い込んでいる以上に重要な情報を治療する側に与えており、それらの情報こそが結果に影響を与えているから。
です。


いまだに、原則的に全例にスワン・ガンツ・カテーテルを使用する医者がいますが、思い込みで医療をしてはいけないという典型的な例だと思います。


そうすると今後スワン・ガンツ・カテーテル検査は保険対象外になってしまうのでしょうか?でもその前に、どういう患者に有用でないのか、サブ解析が必要です。


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アトピー性疾患の発生に影響を及ぼす乳児期の栄養に関するガイドライン

2008年02月12日 | 小児科
先月、米国小児科学会は、これまでのエビデンスの見直しにより乳児期におけるアトピー性疾患(アトピー性の皮膚炎、喘息、食物アレルギー)の発生に関連する食品に関する最新の方針を発表しました。

Effects of early nutritional interventions on the development of atopic disease in infants and children: the role of maternal dietary restriction, breastfeeding, timing of introduction of complementary foods, and hydrolyzed formulas.
Pediatrics. 2008;121:183-191
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)


アトピー性疾患の発生を予防または遅延させる可能性のある栄養介入の有効性が証明されているのは主に、アレルギー発生のリスクが高い乳児、すなわちアレルギー性疾患のある親または兄弟姉妹が1名以上いる乳児に限られています。

現在のところ、妊娠中の母親の食事制限が乳児におけるアトピー性疾患予防に重要な役割を果たしていることを示すエビデンスはない。どうみても得られているデータは乏しいが、おそらくアトピー湿疹を除き、授乳期間中に抗原を避けてもアトピー性疾患は予防できないものとみられる。

授乳期間中における母親の食事制限の大きな役割は裏付けられていない。しかし、無処理の牛乳蛋白から作られた調乳の授乳に比べて、最低4カ月間の母乳の授乳は、生後2年間におけるアトピー性皮膚炎および牛乳アレルギー、喘鳴の発生を予防または遅延させる。しかし、アトピー性疾患を発生するリスクのある乳児では、母乳のみの授乳が6歳以降の小児のアレルギー性喘息を予防することは確認されていない。

アトピーのリスクが高く、かつ4-6カ月の間に与えられたのが母乳のみではない乳児の研究では、加水分解乳は無処理の牛乳蛋白質から作られた調乳に比べてアトピー性疾患の発生を遅延または予防する可能性がある。しかし、比較研究によれば、すべての加水分解乳に同程度の予防効果があるわけではない。

現在、アトピー性疾患の発生について、生後4-6カ月以降の食事介入の予防効果を証明するデータは十分ではなく、補助食品の導入の時期を生後4-6カ月以降に遅らせればアトピー性疾患の発生が予防できるということを示すエビデンスもほとんどない。

現在のところ、妊娠中の母親の食事制限が乳児におけるアトピー性疾患予防に重要な役割を果たしていることを示すエビデンスはない。

固形食は生後4-6カ月以前に導入すべきではない。しかし、乳児に与えられたのが牛乳蛋白調乳か母乳かに関わらず、固形食の導入をこの時期以降に遅らせることがアトピー性疾患発生の予防に有意に役立つということは、現在得られているエビデンスからは確認されない。この勧告は、魚、卵、ピーナッツ蛋白質含有食品などの高アレルギーと考えられる食品にも適用される。


まとめると、
アレルギー性疾患のある親または兄弟姉妹が1名以上いる乳児においては、

1,妊娠中あるいは授乳期間中における母親の食事はアトピー性疾患の発生に関連がない。

2,生後最低4カ月間は母乳を授乳した方がよい。

3,生後4-6カ月にどうしても調乳を与える必要があるなら加水分解乳がよい。

4,しかし、母乳のみの授乳が6歳以降の小児のアレルギー性喘息を予防することは確認されていない。

5,固形食は生後4-6カ月以前に導入すべきではない、

6,しかし固形食の導入の時期を生後4-6カ月以降に遅らせればアトピー性疾患の発生が予防できるということを示すエビデンスもほとんどない。



これからお母さんになる方は、迷信にとらわれずにこれだけを守って下さいね。



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